レジェンド・オブ・ダーク 遼州司法局異聞

橋本 直

文字の大きさ
上 下
1,084 / 1,503
第34章 陸上輸送

馬鹿に説教されて

しおりを挟む
 演習の予定が入ってから、実働部隊屯所は大騒ぎとなった。

 裏の倉庫から次々とコンテナが運び出される。

 誠は倉庫の裏でうんこ座りでタバコを吸っていた島田の前にぼんやりと立っていた。目の前をコンテナを積んだトレーラーが走っていく。

「島田先輩……このコンテナは『運用艦』の港まで運ぶんですか?」

 タバコを吸う島田の目の前で『マックスコーヒー』を飲む笑顔のサラの視線を浴びながら誠はそう言った。

「神前、やっぱりオメエは『高学歴馬鹿』だ」

 島田は誠を見上げるとそう言い放った。そういう間にもトレーラーは、巨大な屯所の倉庫からコンテナや、大型の『アサルト・モジュール用兵器』などを搬出している。

「こいつは『菱川重工業豊川工場』の裏の『貨物ターミナル駅』まで運ぶわけ」

「『貨物ターミナル駅』?」

 初めて聞く言葉に誠は首をひねった。

「そうだよ、東和共和国国有鉄道の貨物線が隣の工場の裏まで通ってるの。そこで、うちの手持ちのトレーラーから『貨物列車』に積み替えて、運用艦『ふさ』のところまで運ぶの」

 島田は頭の悪い高校生を教えるいい加減な教師のようにそう言った。

「荷物を積み替えるんですか?面倒じゃないですか」

 荷役作業をするつなぎの技術部員の一人が手渡した『マックスコーヒー』を受け取りながら誠はそう言った。立ち上がった島田は完全に見下すような目で誠を見つめる。

「そっちの方がコストが安いんだよ。運用艦『ふさ』は『常陸県』の『多賀港』に停泊している」

 誠はぼんやりと偉そうな顔の『ヤンキー』である島田の説明を聞いていた。

「そこまでは、トレーラーだと高速道路に乗って5時間かけて『多賀港』まで行くわけ。途中で料金所とかのゲートが通れない資材もあるから、そっちは一般道に降りる……めちゃくちゃ手間がかかるんだよ!」

 自分で馬鹿な誠に説明していて腹が立つ、島田の顔はそんな気持ちを表していた。

「じゃあ『鉄道輸送』だと、そんな問題ないんですか?」

 社会を知らない自分を理解し始めた誠は素直に島田にそう尋ねた。

「あのなあ、兵器は元々『船舶輸送』か『鉄道輸送』を前提に設計するわけなんだ。『空輸』なんて制空権が取れなきゃ話になんねえだろ?海や宇宙なら、大きさ制限がほとんどない『船舶輸送』が考えられるが、『陸上戦力』になることを前提にした『アサルト・モジュール』の機材は『鉄道輸送』ができるようにできてるの!それ、軍事の『常識』!神前、おめえさんは『幹部候補生』だろ?そんなことも知らねえのか?」

 隊内の噂では割り算ができないはずの島田から、『理路整然』とした言葉が出てくるのに誠はただ感心するしかなかった。

「でも……もう05式が無いですけど……どうしたんですか?」

 誠は思いついた疑問を先輩にぶつけた。その隣ではサラが島田に愛の視線を送っている。

「一番先に専用トレーラーで搬出済み。あれは、さすがに分解しないと『鉄道輸送』は無理だからな。今朝一番でバラして朝一の臨時便に乗っけた」

 島田はサラから『マックスコーヒー』の空き缶を受け取ると、吸い終えたタバコをねじ込んだ。

「そこ!じゃま!島田君!」

 コンテナ車を誘導していたヘルメットの女性士官、パーラ・ラビロフが振り向いた。

「神前はどうなんだよ!」

 島田とサラはそう叫んで逃げさった。

「神前君はパイロットだからいいの!島田君は技術部の責任者でしょ!まったく」

「パーラさん……お仕事大変ですね」

 誠はそう言ってパーラをねぎらう。

「そんな……それより、神前君。島田君の相手、大変よね……あの人……馬鹿だから」

 あっさりと島田をぶった斬るパーラに誠は苦笑いを浮かべた。

「でも悪い人じゃないですよ」

「犯罪者一歩手前でも悪い人じゃないの?」

「犯罪者一歩手前……確かに」

 誠は先日の島田によるバイク窃盗事件を思い出して苦笑いを浮かべた。

「島田君の真似はしないでね……じゃあ、仕事に戻らないと」

 そう言ってパーラは次のトレーラーの荷物の積み込みが始まったのを見て走り去った。

「犯罪者……一歩手前って……あの人ほとんど犯罪者ですけど」

 取り残された誠は呆然と立ち尽くしていた。
しおりを挟む
感想 7

あなたにおすすめの小説

特殊装甲隊 ダグフェロン 『廃帝と永遠の世紀末』 第三部 『暗黒大陸』

橋本 直
SF
遼州司法局も法術特捜の発足とともに実働部隊、機動隊、法術特捜の三部体制が確立することとなった。 それまで東和陸軍教導隊を兼務していた小さな隊長、クバルカ・ラン中佐が実働部隊副隊長として本異動になることが決まった。 彼女の本拠地である東和陸軍教導隊を訪ねた神前誠に法術兵器の実験に任務が課せられた。それは広域にわたり兵士の意識を奪ってしまうという新しい発想の非破壊兵器だった。 実験は成功するがチャージの時間等、運用の難しい兵器と判明する。 一方実働部隊部隊長嵯峨惟基は自分が領邦領主を務めている貴族制国家甲武国へ飛んだ。そこでは彼の両方を西園寺かなめの妹、日野かえでに継がせることに関する会議が行われる予定だった。 一方、南の『魔窟』と呼ばれる大陸ベルルカンの大国、バルキスタンにて総選挙が予定されており、実働部隊も支援部隊を派遣していた。だが選挙に不満を持つ政府軍、反政府軍の駆け引きが続いていた。 嵯峨は万が一の両軍衝突の際アメリカの介入を要請しようとする兄である西園寺義基のシンパである甲武軍部穏健派を牽制しつつ貴族の群れる会議へと向かった。 そしてそんな中、バルキスタンで反政府軍が機動兵器を手に入れ政府軍との全面衝突が発生する。 誠は試験が済んだばかりの非破壊兵器を手に戦線の拡大を防ぐべく出撃するのだった。

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

法術装甲隊ダグフェロン 永遠に続く世紀末の国で 野球と海と『革命家』

橋本 直
SF
その文明は出会うべきではなかった その人との出会いは歓迎すべきものではなかった これは悲しい『出会い』の物語 『特殊な部隊』と出会うことで青年にはある『宿命』がせおわされることになる 法術装甲隊ダグフェロン 第二部  遼州人の青年『神前誠(しんぜんまこと)』が発動した『干渉空間』と『光の剣(つるぎ)により貴族主義者のクーデターを未然に防止することが出来た『近藤事件』が終わってから1か月がたった。 宇宙は誠をはじめとする『法術師』の存在を公表することで混乱に陥っていたが、誠の所属する司法局実働部隊、通称『特殊な部隊』は相変わらずおバカな生活を送っていた。 そんな『特殊な部隊』の運用艦『ふさ』艦長アメリア・クラウゼ中佐と誠の所属するシュツルム・パンツァーパイロット部隊『機動部隊第一小隊』のパイロットでサイボーグの西園寺かなめは『特殊な部隊』の野球部の夏合宿を企画した。 どうせろくな事が起こらないと思いながら仕事をさぼって参加する誠。 そこではかなめがいかに自分とはかけ離れたお嬢様で、貴族主義の国『甲武国』がどれほど自分の暮らす永遠に続く20世紀末の東和共和国と違うのかを誠は知ることになった。 しかし、彼を待っていたのは『法術』を持つ遼州人を地球人から解放しようとする『革命家』の襲撃だった。 この事件をきっかけに誠の身辺警護の必要性から誠の警護にアメリア、かなめ、そして無表情な人造人間『ラスト・バタリオン』の第一小隊小隊長カウラ・ベルガー大尉がつくことになる。 これにより誠の暮らす『男子下士官寮』は有名無実化することになった。 そんなおバカな連中を『駄目人間』嵯峨惟基特務大佐と機動部隊隊長クバルカ・ラン中佐は生暖かい目で見守っていた。 そんな『特殊な部隊』の意図とは関係なく着々と『力ある者の支配する宇宙』の実現を目指す『廃帝ハド』の野望はゆっくりと動き出しつつあった。 SFお仕事ギャグロマン小説。

悪意のパーティー《完結》

アーエル
ファンタジー
私が目を覚ましたのは王城で行われたパーティーで毒を盛られてから1年になろうかという時期でした。 ある意味でダークな内容です ‪☆他社でも公開

【完結】そして、誰もいなくなった

杜野秋人
ファンタジー
「そなたは私の妻として、侯爵夫人として相応しくない!よって婚約を破棄する!」 愛する令嬢を傍らに声高にそう叫ぶ婚約者イグナシオに伯爵家令嬢セリアは誤解だと訴えるが、イグナシオは聞く耳を持たない。それどころか明らかに犯してもいない罪を挙げられ糾弾され、彼女は思わず彼に手を伸ばして取り縋ろうとした。 「触るな!」 だがその手をイグナシオは大きく振り払った。振り払われよろめいたセリアは、受け身も取れないまま仰向けに倒れ、頭を打って昏倒した。 「突き飛ばしたぞ」 「彼が手を上げた」 「誰か衛兵を呼べ!」 騒然となるパーティー会場。すぐさま会場警護の騎士たちに取り囲まれ、彼は「違うんだ、話を聞いてくれ!」と叫びながら愛人の令嬢とともに連行されていった。 そして倒れたセリアもすぐさま人が集められ運び出されていった。 そして誰もいなくなった。 彼女と彼と愛人と、果たして誰が悪かったのか。 これはとある悲しい、婚約破棄の物語である。 ◆小説家になろう様でも公開しています。話数の関係上あちらの方が進みが早いです。 3/27、なろう版完結。あちらは全8話です。 3/30、小説家になろうヒューマンドラマランキング日間1位になりました! 4/1、完結しました。全14話。

無能なので辞めさせていただきます!

サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。 マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。 えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって? 残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、 無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって? はいはいわかりました。 辞めますよ。 退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。 自分無能なんで、なんにもわかりませんから。 カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。

冷遇妻に家を売り払われていた男の裁判

七辻ゆゆ
ファンタジー
婚姻後すぐに妻を放置した男が二年ぶりに帰ると、家はなくなっていた。 「では開廷いたします」 家には10億の価値があったと主張し、妻に離縁と損害賠償を求める男。妻の口からは二年の事実が語られていく。

【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる

三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。 こんなはずじゃなかった! 異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。 珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に! やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活! 右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり! アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。

処理中です...