レジェンド・オブ・ダーク 遼州司法局異聞

橋本 直

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第34章 陸上輸送

馬鹿に説教されて

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 演習の予定が入ってから、実働部隊屯所は大騒ぎとなった。

 裏の倉庫から次々とコンテナが運び出される。

 誠は倉庫の裏でうんこ座りでタバコを吸っていた島田の前にぼんやりと立っていた。目の前をコンテナを積んだトレーラーが走っていく。

「島田先輩……このコンテナは『運用艦』の港まで運ぶんですか?」

 タバコを吸う島田の目の前で『マックスコーヒー』を飲む笑顔のサラの視線を浴びながら誠はそう言った。

「神前、やっぱりオメエは『高学歴馬鹿』だ」

 島田は誠を見上げるとそう言い放った。そういう間にもトレーラーは、巨大な屯所の倉庫からコンテナや、大型の『アサルト・モジュール用兵器』などを搬出している。

「こいつは『菱川重工業豊川工場』の裏の『貨物ターミナル駅』まで運ぶわけ」

「『貨物ターミナル駅』?」

 初めて聞く言葉に誠は首をひねった。

「そうだよ、東和共和国国有鉄道の貨物線が隣の工場の裏まで通ってるの。そこで、うちの手持ちのトレーラーから『貨物列車』に積み替えて、運用艦『ふさ』のところまで運ぶの」

 島田は頭の悪い高校生を教えるいい加減な教師のようにそう言った。

「荷物を積み替えるんですか?面倒じゃないですか」

 荷役作業をするつなぎの技術部員の一人が手渡した『マックスコーヒー』を受け取りながら誠はそう言った。立ち上がった島田は完全に見下すような目で誠を見つめる。

「そっちの方がコストが安いんだよ。運用艦『ふさ』は『常陸県』の『多賀港』に停泊している」

 誠はぼんやりと偉そうな顔の『ヤンキー』である島田の説明を聞いていた。

「そこまでは、トレーラーだと高速道路に乗って5時間かけて『多賀港』まで行くわけ。途中で料金所とかのゲートが通れない資材もあるから、そっちは一般道に降りる……めちゃくちゃ手間がかかるんだよ!」

 自分で馬鹿な誠に説明していて腹が立つ、島田の顔はそんな気持ちを表していた。

「じゃあ『鉄道輸送』だと、そんな問題ないんですか?」

 社会を知らない自分を理解し始めた誠は素直に島田にそう尋ねた。

「あのなあ、兵器は元々『船舶輸送』か『鉄道輸送』を前提に設計するわけなんだ。『空輸』なんて制空権が取れなきゃ話になんねえだろ?海や宇宙なら、大きさ制限がほとんどない『船舶輸送』が考えられるが、『陸上戦力』になることを前提にした『アサルト・モジュール』の機材は『鉄道輸送』ができるようにできてるの!それ、軍事の『常識』!神前、おめえさんは『幹部候補生』だろ?そんなことも知らねえのか?」

 隊内の噂では割り算ができないはずの島田から、『理路整然』とした言葉が出てくるのに誠はただ感心するしかなかった。

「でも……もう05式が無いですけど……どうしたんですか?」

 誠は思いついた疑問を先輩にぶつけた。その隣ではサラが島田に愛の視線を送っている。

「一番先に専用トレーラーで搬出済み。あれは、さすがに分解しないと『鉄道輸送』は無理だからな。今朝一番でバラして朝一の臨時便に乗っけた」

 島田はサラから『マックスコーヒー』の空き缶を受け取ると、吸い終えたタバコをねじ込んだ。

「そこ!じゃま!島田君!」

 コンテナ車を誘導していたヘルメットの女性士官、パーラ・ラビロフが振り向いた。

「神前はどうなんだよ!」

 島田とサラはそう叫んで逃げさった。

「神前君はパイロットだからいいの!島田君は技術部の責任者でしょ!まったく」

「パーラさん……お仕事大変ですね」

 誠はそう言ってパーラをねぎらう。

「そんな……それより、神前君。島田君の相手、大変よね……あの人……馬鹿だから」

 あっさりと島田をぶった斬るパーラに誠は苦笑いを浮かべた。

「でも悪い人じゃないですよ」

「犯罪者一歩手前でも悪い人じゃないの?」

「犯罪者一歩手前……確かに」

 誠は先日の島田によるバイク窃盗事件を思い出して苦笑いを浮かべた。

「島田君の真似はしないでね……じゃあ、仕事に戻らないと」

 そう言ってパーラは次のトレーラーの荷物の積み込みが始まったのを見て走り去った。

「犯罪者……一歩手前って……あの人ほとんど犯罪者ですけど」

 取り残された誠は呆然と立ち尽くしていた。
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