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第28章 予定された演習
誠のトラウマ
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「そう言えば……誠ちゃんはなんで野球をやめたの?」
ビールを飲みながらアメリアは突如何気ない調子で誠に語り掛けた。
「肩を壊したからに決まってるじゃないか。軟式だからあれだけ投げられるんだ」
そう言ってカウラは微笑みを浮かべる。
カウラの視線の先で誠はうなだれつつ話始めた。
「実は……僕……キャッチャーを殴ったんです……試合中に……それで公式の試合には出場できなくなったんです」
誠の突然の告白にカウラとアメリアの表情が曇った。
「うちの高校……都立の進学実験校だったんで……ほとんどの生徒が帰宅部なんですよ」
ビールのジョッキを手に誠は語り始めた。
「僕の居た野球部も3年が僕とキャッチャーで主将だった奴と二人っきり。2年と1年生を合わせても12人しか部員が居ないんです……しかも1年からほとんどの生徒が予備校に通ってるんでほとんど練習には出れないんです……練習試合もできない有様でしたから」
暗い誠の表情に聞いてきたアメリアさえ少し寂しげな表情を浮かべていた。
「3回戦の日なんですけど……相手は……坂東一高って言う学校でして……」
「坂東一高!その年の全国大会優勝校じゃないの!」
さすがに野球をやっているだけあってアメリアは全国大会出場確実な学校名ぐらいは知っていた。
「うちのキャプテンだったキャッチャーの奴がその日、大学の推薦入試の面接の日だったんです」
誠はそう言って遠い昔のことのようにその光景を思い出していた。
「ずいぶんと悪趣味な日に面接の予定を入れるわね」
「そいつは海外留学経験があって夏季入試の日程に合わせて受験したからその日になったそうです。……その医大も9月入学のための入試が7月にあるんです」
「そう言えば……4月入学の国って同盟では東和と甲武くらいだものね」
アメリアは納得したというようにシシトウを口に運んだ。
「知ってるよ。2番手キャッチャーのその日のパスボールが8個。他にも内外野のエラーが合わせて22個……5回コールド負けの試合で240球も投げたら肩もぶっ壊れるわな」
かなめはラムを飲みながらそうつぶやいた。
「知ってたんですか?」
少し驚いたような誠の顔を見てかなめはやさしく笑いかけた。
「一回戦は完全試合、二回戦は3安打失点0の『都立の星』の最期にしちゃあずいぶん間の抜けた話だってんで調べたんだ。あれだろ?キャッチャーの奴はその後、医科大学に進んで今じゃあ母校の監督をしてるって話じゃねえか……」
「ええ、アイツは……大学なんてどうでもいいって言ったんです。実際、その推薦入試は落ちて、その冬に都立医科大に受かってそっちに行きましたから。けど……僕には言えませよ、お前が居ないとゲームにならないなんて……アイツは医者になるつもりで高校に来てたんですから。野球をやりに来てたわけじゃありませんから」
誠はうつむきながらジョッキに口を近づける。そんな仕草の中に少し感傷的になっている自分を感じていた。
「でも殴るなんて……」
「僕も自分で殴るなんて思っていなかったんです。パスボールを詫びに来た後輩を気が付いたら殴ってたんです。生まれて初めて人を殴ったのがそれです。でも、暴力はいけませんよね。即座に僕は退場になりました……それ以来野球はやっていないんです」
アメリアに言われるまでも無い。それに誠はそれ以降も人を殴ったことは無かった。
「オメエが来るって聞かされて実は当時の映像を見たが……全国大会優勝チーム相手に外野まで飛んだ当たりがほとんど無かったのは事実だしな……キャッチャーがまともなら勝ちはしねえがいい試合になったろ」
そう言うかなめの慰めの言葉も今の誠にはあまり意味は無かった。
「でも三振もほとんど取れませんでしたよ。やっぱり全国レベルの選手は違いますよね。ボールになるスライダーやフォークは見向きもしないし、カウントを取りに行ったストレートはセンター返しで、カーブは……いい勉強になりました。僕にはやっぱり勉強とプラモしかないのかなって……」
そう言って誠はジョッキのビールを飲み干した。
「今回の演習……無事で済むといいな。秋には貴様のピッチングが見られるんだ」
烏龍茶を飲みながらカウラがつぶやくのに合わせるようにアメリアがうなづいた。
「死なせねえよ……誰もな」
かなめの力の入った言葉を聞きながら誠は静かにネギまを口にした。誠はそんなかなめに頼もしさを感じながら彼女が避けたレバーに手を伸ばした。
ビールを飲みながらアメリアは突如何気ない調子で誠に語り掛けた。
「肩を壊したからに決まってるじゃないか。軟式だからあれだけ投げられるんだ」
そう言ってカウラは微笑みを浮かべる。
カウラの視線の先で誠はうなだれつつ話始めた。
「実は……僕……キャッチャーを殴ったんです……試合中に……それで公式の試合には出場できなくなったんです」
誠の突然の告白にカウラとアメリアの表情が曇った。
「うちの高校……都立の進学実験校だったんで……ほとんどの生徒が帰宅部なんですよ」
ビールのジョッキを手に誠は語り始めた。
「僕の居た野球部も3年が僕とキャッチャーで主将だった奴と二人っきり。2年と1年生を合わせても12人しか部員が居ないんです……しかも1年からほとんどの生徒が予備校に通ってるんでほとんど練習には出れないんです……練習試合もできない有様でしたから」
暗い誠の表情に聞いてきたアメリアさえ少し寂しげな表情を浮かべていた。
「3回戦の日なんですけど……相手は……坂東一高って言う学校でして……」
「坂東一高!その年の全国大会優勝校じゃないの!」
さすがに野球をやっているだけあってアメリアは全国大会出場確実な学校名ぐらいは知っていた。
「うちのキャプテンだったキャッチャーの奴がその日、大学の推薦入試の面接の日だったんです」
誠はそう言って遠い昔のことのようにその光景を思い出していた。
「ずいぶんと悪趣味な日に面接の予定を入れるわね」
「そいつは海外留学経験があって夏季入試の日程に合わせて受験したからその日になったそうです。……その医大も9月入学のための入試が7月にあるんです」
「そう言えば……4月入学の国って同盟では東和と甲武くらいだものね」
アメリアは納得したというようにシシトウを口に運んだ。
「知ってるよ。2番手キャッチャーのその日のパスボールが8個。他にも内外野のエラーが合わせて22個……5回コールド負けの試合で240球も投げたら肩もぶっ壊れるわな」
かなめはラムを飲みながらそうつぶやいた。
「知ってたんですか?」
少し驚いたような誠の顔を見てかなめはやさしく笑いかけた。
「一回戦は完全試合、二回戦は3安打失点0の『都立の星』の最期にしちゃあずいぶん間の抜けた話だってんで調べたんだ。あれだろ?キャッチャーの奴はその後、医科大学に進んで今じゃあ母校の監督をしてるって話じゃねえか……」
「ええ、アイツは……大学なんてどうでもいいって言ったんです。実際、その推薦入試は落ちて、その冬に都立医科大に受かってそっちに行きましたから。けど……僕には言えませよ、お前が居ないとゲームにならないなんて……アイツは医者になるつもりで高校に来てたんですから。野球をやりに来てたわけじゃありませんから」
誠はうつむきながらジョッキに口を近づける。そんな仕草の中に少し感傷的になっている自分を感じていた。
「でも殴るなんて……」
「僕も自分で殴るなんて思っていなかったんです。パスボールを詫びに来た後輩を気が付いたら殴ってたんです。生まれて初めて人を殴ったのがそれです。でも、暴力はいけませんよね。即座に僕は退場になりました……それ以来野球はやっていないんです」
アメリアに言われるまでも無い。それに誠はそれ以降も人を殴ったことは無かった。
「オメエが来るって聞かされて実は当時の映像を見たが……全国大会優勝チーム相手に外野まで飛んだ当たりがほとんど無かったのは事実だしな……キャッチャーがまともなら勝ちはしねえがいい試合になったろ」
そう言うかなめの慰めの言葉も今の誠にはあまり意味は無かった。
「でも三振もほとんど取れませんでしたよ。やっぱり全国レベルの選手は違いますよね。ボールになるスライダーやフォークは見向きもしないし、カウントを取りに行ったストレートはセンター返しで、カーブは……いい勉強になりました。僕にはやっぱり勉強とプラモしかないのかなって……」
そう言って誠はジョッキのビールを飲み干した。
「今回の演習……無事で済むといいな。秋には貴様のピッチングが見られるんだ」
烏龍茶を飲みながらカウラがつぶやくのに合わせるようにアメリアがうなづいた。
「死なせねえよ……誰もな」
かなめの力の入った言葉を聞きながら誠は静かにネギまを口にした。誠はそんなかなめに頼もしさを感じながら彼女が避けたレバーに手を伸ばした。
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