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第17章 『特殊な部隊』の真実
『特殊な部隊』の『特殊部隊』的性格
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「僕は……全然、西園寺さんのことをわかってなかったんですね」
立ち上がりながら誠はかなめに笑いかけた。
「アタシが教えなかったからな。それとアタシはあの『駄目人間』を叔父貴と呼んでる。恥ずかしい話だが、アレはアタシの『叔父』だから」
かなめは安心したように胸のポケットからタバコを取り出して一本くわえた。
「オジキ?おじさん?あの『駄目人間』が?」
次から次へと訪れるかなめの隠された過去に誠は驚き続ける。そして、耳には近づく銃撃戦の銃声が響いてくる。
「残念ながら本当。アタシが生まれる前からあの『駄目人間』が家にいたんだと。アタシが外から帰ると、たいがいあの『駄目人間』がちゃぶ台で冷や飯にお茶をかけてを食ってた。親父の戸籍上の弟だから『叔父貴』。血縁的には『お袋』の血族らしいから……親戚なんだよ、あの『脳ピンク』とはな」
かなめは胸のポケットからタバコにジッポで火をつける。そして誠を見上げて、少し恥ずかしそうに笑った。
誠は状況が把握できないで銃を握って震えていた。
「行くぞ、神前。アタシが『鉄火場の後始末』の方法を教育してやる!」
そう言うとかなめは銃をもう一度、確実に握りなおした。
『やっぱりこの人は楽しんでる……』
相変わらず残忍な笑いを浮かべているかなめを見て誠はそう確信した。
誠はかなめに視線をやりながらも、下での話し声に耳をすませていた。先ほどからもめている若いチンピラの声に混じって下から駆けつけたらしい低い男の声が聞こえる。
「どうするんですか?西園寺さん。三人はいますよ」
誠は銃を拾い上げながら、通路越しにかなめに話しかけた。
かなめは一瞬下を向いた後、誠に向き直った。
「お前、囮になれ。偉大なる先輩様に忠誠を見せろ」
そう言うとかなめは飛び切り嬉しそうな顔をする。まるで何事も無いようにその言葉は誠の耳に響いた。
「そんなあ……」
誠はかなめに渡されたチンピラの銃を手に握って泣きそうな顔でかなめを見つめる。
「あんなチンピラにとっ捕まるようじゃあ、先が知れてらあ。これがアタシ等の日常だ。嫌ならさっさとおっ死んだ方が楽だぜ?」
かなめは階下を覗き見てそう言い放った。下のチンピラ達はとりあえず弾を込め直したようですぐにサブマシンガンの掃射が降り注いでくる。
「どうしてもですか?」
誠の浮かない表情を見てかなめは正面から誠を見つめた。
「根性見せろよ!男の子だろ?」
かなめはそう言うと左手で誠にハンドサインを送る。突入指示だった。
「うわーっ」
そう叫んで誠はそのまま踊り場に飛び出すと、拳銃を乱射しながら階段を駆け下りた。
「馬鹿野郎!それじゃあ自殺だ!」
かなめは慌ててそう叫ぶと、すぐさま後に続いて立ち上がり、次々と棒立ちの三人の男の額を撃ち抜いた。
「うわあ、ううぇぃ……」
三人の死体の間に誠はそのまま力なく崩れ落ちる。
「冗談もわからねえとは……所詮、正規教育の兵隊さんだってことか?ったく。それにしても……下手な射撃だなあ」
誠の撃った弾丸が全て天井に当たっているのを確認すると、かなめは静かにタバコの吸い殻を廊下に投げた。
肩で息をしていた誠の耳に思いもかけない足音が響いて誠は銃を向けた。誠の拳銃はすでに全弾撃ち尽くしてスライドが開いていた。震える銃口の先にはアサルトライフルを構えているカウラの姿があった。
「神前、貴様は無事なようだな、西園寺!」
銃口を下げて中腰で進んでくるカウラが叫んだ。
その後ろからは子供用かと思うような、ちっちゃい拳銃を手にしたランが階段を上ってきた。
「神前、生きてたな。会ったらすぐに西園寺が邪魔だから殺すんじゃねーかとおもったけどな」
ランはそう言いながら、ちっちゃい拳銃を腰のホルスターにしまった。彼女は誠の肩を叩いた。誠はしゃがみこんで改造拳銃を構えたまま固まっていた。
「ヒデエな姐御。アタシは戦場の流儀って奴を懇切・丁寧に教えてやったんだよ!なあ!神前!」
かなめの言葉を聞きながらランとカウラが手を伸ばすが誠は足がすくんで立ち上がれない。
誠には周りの言葉が他人事のように感じられていた。緊張の糸が切れてただ視界の中で動き回るフル武装の『特殊な部隊』の隊員達を呆然と見つめていた。
「まー、神前が無事だったのが一番だ。肩を貸すのが必要な程度には、消耗しているように見えっけどな」
隊員達に指示を出していたランが誠に手を伸ばす。その声で誠はようやく意識を自分の手に取り戻した。顔の周りの筋肉が硬直して口元が不自然に曲がっていることが気になった。
誠の手にはまだ粗末な改造拳銃が握られている。
その手をランの一回り小さな手がつかんで指の力を抜かせて拳銃を引き剥がした。
「大丈夫か?コイツ」
誠の背後でかなめの声が聞こえる。次第にはっきりとしていく意識の中、誠はようやくランの伸ばした手を握って立ち上がろうと震える足に力を込めた。
「それにしても、ずいぶんと早ええんじゃねえか?この役立たずの『素性』がばれるには、少しくらい時間がかかると思ったが」
かなめは箱から出したタバコに手をかけながらそう言って見せた。誠は何のことだか分からず、ただ呆然と渡されたジッポでかなめのタバコに火を点す。
「どうせ、あの『駄目人間』がリークしたんだろ、神前の『素性』を。知りたがってる『関係各所』に」
あっさりとランは可愛らしい声でそう言った。
「叔父貴の奴……密入国した地球圏の『マフィア』がこいつ等を仕切ってること知ってたな。連中を狩りだす『餌』するつもりだろ、神前を。普通そんなことするか?自分の部下を『マフィアを釣り上げる餌』に」
かなめは吐き捨てるようにそう言うとタバコの煙をわざと誠に向けて吐き出した。誠はその煙を吸い込んで咳き込む。
「あのー、僕の『素性』って?何度も聞きますけど、『法術師』ってなんですか?」
誠はたまらず上層部の意向を一番知っていそうなランにそう尋ねた。
「ノーコメント。これまでそれっぽい『ヒント』は言ったぞアタシは。テメーの『脳味噌』で考えろ!」
ランは生存者がいない散らかった雑居ビルの壁の割れ目などをのぞきながら、わざと誠から眼を逸らすようにしてそう答えた。
「アタシもノーコメント」
そう言うとかなめはタバコを口にくわえて誠から目を反らした。階下から自動小銃を手にしたカウラが階段を昇ってくる。
「私も言う事は無い。今は言うべきではないからな」
カウラは自動小銃を手に、乱雑に置かれたテーブルやごみの後ろの物影を探りながらそう言った。
「まあ、お前さんの知らないお前さんの『素性』はそのうち嫌でも分かるわな。『時』が来れば。それより、肝心の叔父貴はどうしてるんだ?姐御」
かなめはそう言いながら苦笑いをした。その視線は担架に乗せて運ばれる、瀕死の組織構成員に注がれた。
一方、ランはかわいらしい姿には似合わない冷静沈着な態度でかなめを見上げた。
「あー、隊長ならアメリアと運行部の『女芸人』の連中を連れて、こいつ等のクライアントのところにご挨拶に行ってわ。まあ『正国』抱えて出かけてったからな。もしかしたら今ぐれーの時間には、そいつの首でも挙げてるんじゃねえのか?」
ランは無関心を装うようにかなめにそう言うと階段を昇ってきた東都警察の幹部警察官の挨拶を受けていた。
「『同田貫・正国』か……あんな『美術品』でなにする気だよ……叔父貴。まあ機能としては『人切り包丁』だから、斬るんだろうな、誰かを」
誠はその日本刀『同田貫・正国』の名を知っていた。
誠の実家の道場主である母の前で、嵯峨はその『同田貫・正国』を誠の母、薫に見せていたのを思い出した。
「まあ、『マフィア連中』も多分、馬鹿じゃないだろうな。『正国』を持っている隊長に、『無駄な喧嘩』を売るような酔狂な人間なら組織に抹殺されているはずだ。遼州に来る前にな」
自動小銃のマガジンを抜きながらカウラはそう言った。
『同田貫・正国』の剣先の鋭さを見たとき、誠はまだ小学生にも行っていない子供だった。
社会や歴史に興味はない誠だったが、戦国時代とか言う時代に作られて、加藤清正とか言う武将の愛刀だったと聞くその剣の重たい刀身を見て、それが『人を叩き斬る』ための刀であることはすぐに直感した。
その時の刀を手にした嵯峨の殺気のこもった目を思い出して誠の体が自然とこわばる。
誠はその恐怖から自分の手の中の改造拳銃を見た。そして周りの警察の鑑識職員に囲まれたチンピラの死体を見て思わず意識が薄くなっていく。そして思わず銃を取り落とした。
「神前少尉。そう簡単に銃は落とすな、安物の改造拳銃だからな。暴発の危険がある」
カウラが優しい調子で落ちた拳銃を拾い上げて誠に渡す。
「申し訳ありません」
ようやく体が動くようになった誠は立ち上がった。
「とりあえず下に降りるか」
カウラの言葉にかなめもシャムもランも納得したように狭い雑居ビルの階段を降り始めた。
誠もその後に続いて階段を下りる。
先ほどまで恐怖と混乱で動かなかった体が、思いもかけないほど自由に動くのを感じて誠はほっとした。
「なんだ、泣いたカラスがもう笑ってやがる」
タバコを投げ捨ててもみ消したかなめがそう言って笑った。
「これがはじめての命のやり取りだ。正気でいられるのは私のように『そのために作られた人間』くらいだ」
カウラはそう言うと踊り場に倒れている死体をよけながら一階に向かう階段を降りる。そんなカウラの態度が気に入らないと言うようにかなめは目を反らした。
「助かったんですね……」
誠は大きなため息をつくと自分に言い聞かせるように改めてそう言った。
「そうだな。礼が欲しいな」
かなめは再びタバコを取り出しながらそのタレ目で誠をにらんだ。
「何が……」
「オメエにゃ期待してねえよ。まあ、得意の『ゲロ』を吐かなかったのは褒めてやるがな。さすがアタシの後輩ってところかな」
皮肉を込めたかなめの言葉に誠はただ黙り込むばかりだった。
立ち込める『死』のもたらす臭いに誠は恐怖から『吐く』ことすらできなかった。
立ち上がりながら誠はかなめに笑いかけた。
「アタシが教えなかったからな。それとアタシはあの『駄目人間』を叔父貴と呼んでる。恥ずかしい話だが、アレはアタシの『叔父』だから」
かなめは安心したように胸のポケットからタバコを取り出して一本くわえた。
「オジキ?おじさん?あの『駄目人間』が?」
次から次へと訪れるかなめの隠された過去に誠は驚き続ける。そして、耳には近づく銃撃戦の銃声が響いてくる。
「残念ながら本当。アタシが生まれる前からあの『駄目人間』が家にいたんだと。アタシが外から帰ると、たいがいあの『駄目人間』がちゃぶ台で冷や飯にお茶をかけてを食ってた。親父の戸籍上の弟だから『叔父貴』。血縁的には『お袋』の血族らしいから……親戚なんだよ、あの『脳ピンク』とはな」
かなめは胸のポケットからタバコにジッポで火をつける。そして誠を見上げて、少し恥ずかしそうに笑った。
誠は状況が把握できないで銃を握って震えていた。
「行くぞ、神前。アタシが『鉄火場の後始末』の方法を教育してやる!」
そう言うとかなめは銃をもう一度、確実に握りなおした。
『やっぱりこの人は楽しんでる……』
相変わらず残忍な笑いを浮かべているかなめを見て誠はそう確信した。
誠はかなめに視線をやりながらも、下での話し声に耳をすませていた。先ほどからもめている若いチンピラの声に混じって下から駆けつけたらしい低い男の声が聞こえる。
「どうするんですか?西園寺さん。三人はいますよ」
誠は銃を拾い上げながら、通路越しにかなめに話しかけた。
かなめは一瞬下を向いた後、誠に向き直った。
「お前、囮になれ。偉大なる先輩様に忠誠を見せろ」
そう言うとかなめは飛び切り嬉しそうな顔をする。まるで何事も無いようにその言葉は誠の耳に響いた。
「そんなあ……」
誠はかなめに渡されたチンピラの銃を手に握って泣きそうな顔でかなめを見つめる。
「あんなチンピラにとっ捕まるようじゃあ、先が知れてらあ。これがアタシ等の日常だ。嫌ならさっさとおっ死んだ方が楽だぜ?」
かなめは階下を覗き見てそう言い放った。下のチンピラ達はとりあえず弾を込め直したようですぐにサブマシンガンの掃射が降り注いでくる。
「どうしてもですか?」
誠の浮かない表情を見てかなめは正面から誠を見つめた。
「根性見せろよ!男の子だろ?」
かなめはそう言うと左手で誠にハンドサインを送る。突入指示だった。
「うわーっ」
そう叫んで誠はそのまま踊り場に飛び出すと、拳銃を乱射しながら階段を駆け下りた。
「馬鹿野郎!それじゃあ自殺だ!」
かなめは慌ててそう叫ぶと、すぐさま後に続いて立ち上がり、次々と棒立ちの三人の男の額を撃ち抜いた。
「うわあ、ううぇぃ……」
三人の死体の間に誠はそのまま力なく崩れ落ちる。
「冗談もわからねえとは……所詮、正規教育の兵隊さんだってことか?ったく。それにしても……下手な射撃だなあ」
誠の撃った弾丸が全て天井に当たっているのを確認すると、かなめは静かにタバコの吸い殻を廊下に投げた。
肩で息をしていた誠の耳に思いもかけない足音が響いて誠は銃を向けた。誠の拳銃はすでに全弾撃ち尽くしてスライドが開いていた。震える銃口の先にはアサルトライフルを構えているカウラの姿があった。
「神前、貴様は無事なようだな、西園寺!」
銃口を下げて中腰で進んでくるカウラが叫んだ。
その後ろからは子供用かと思うような、ちっちゃい拳銃を手にしたランが階段を上ってきた。
「神前、生きてたな。会ったらすぐに西園寺が邪魔だから殺すんじゃねーかとおもったけどな」
ランはそう言いながら、ちっちゃい拳銃を腰のホルスターにしまった。彼女は誠の肩を叩いた。誠はしゃがみこんで改造拳銃を構えたまま固まっていた。
「ヒデエな姐御。アタシは戦場の流儀って奴を懇切・丁寧に教えてやったんだよ!なあ!神前!」
かなめの言葉を聞きながらランとカウラが手を伸ばすが誠は足がすくんで立ち上がれない。
誠には周りの言葉が他人事のように感じられていた。緊張の糸が切れてただ視界の中で動き回るフル武装の『特殊な部隊』の隊員達を呆然と見つめていた。
「まー、神前が無事だったのが一番だ。肩を貸すのが必要な程度には、消耗しているように見えっけどな」
隊員達に指示を出していたランが誠に手を伸ばす。その声で誠はようやく意識を自分の手に取り戻した。顔の周りの筋肉が硬直して口元が不自然に曲がっていることが気になった。
誠の手にはまだ粗末な改造拳銃が握られている。
その手をランの一回り小さな手がつかんで指の力を抜かせて拳銃を引き剥がした。
「大丈夫か?コイツ」
誠の背後でかなめの声が聞こえる。次第にはっきりとしていく意識の中、誠はようやくランの伸ばした手を握って立ち上がろうと震える足に力を込めた。
「それにしても、ずいぶんと早ええんじゃねえか?この役立たずの『素性』がばれるには、少しくらい時間がかかると思ったが」
かなめは箱から出したタバコに手をかけながらそう言って見せた。誠は何のことだか分からず、ただ呆然と渡されたジッポでかなめのタバコに火を点す。
「どうせ、あの『駄目人間』がリークしたんだろ、神前の『素性』を。知りたがってる『関係各所』に」
あっさりとランは可愛らしい声でそう言った。
「叔父貴の奴……密入国した地球圏の『マフィア』がこいつ等を仕切ってること知ってたな。連中を狩りだす『餌』するつもりだろ、神前を。普通そんなことするか?自分の部下を『マフィアを釣り上げる餌』に」
かなめは吐き捨てるようにそう言うとタバコの煙をわざと誠に向けて吐き出した。誠はその煙を吸い込んで咳き込む。
「あのー、僕の『素性』って?何度も聞きますけど、『法術師』ってなんですか?」
誠はたまらず上層部の意向を一番知っていそうなランにそう尋ねた。
「ノーコメント。これまでそれっぽい『ヒント』は言ったぞアタシは。テメーの『脳味噌』で考えろ!」
ランは生存者がいない散らかった雑居ビルの壁の割れ目などをのぞきながら、わざと誠から眼を逸らすようにしてそう答えた。
「アタシもノーコメント」
そう言うとかなめはタバコを口にくわえて誠から目を反らした。階下から自動小銃を手にしたカウラが階段を昇ってくる。
「私も言う事は無い。今は言うべきではないからな」
カウラは自動小銃を手に、乱雑に置かれたテーブルやごみの後ろの物影を探りながらそう言った。
「まあ、お前さんの知らないお前さんの『素性』はそのうち嫌でも分かるわな。『時』が来れば。それより、肝心の叔父貴はどうしてるんだ?姐御」
かなめはそう言いながら苦笑いをした。その視線は担架に乗せて運ばれる、瀕死の組織構成員に注がれた。
一方、ランはかわいらしい姿には似合わない冷静沈着な態度でかなめを見上げた。
「あー、隊長ならアメリアと運行部の『女芸人』の連中を連れて、こいつ等のクライアントのところにご挨拶に行ってわ。まあ『正国』抱えて出かけてったからな。もしかしたら今ぐれーの時間には、そいつの首でも挙げてるんじゃねえのか?」
ランは無関心を装うようにかなめにそう言うと階段を昇ってきた東都警察の幹部警察官の挨拶を受けていた。
「『同田貫・正国』か……あんな『美術品』でなにする気だよ……叔父貴。まあ機能としては『人切り包丁』だから、斬るんだろうな、誰かを」
誠はその日本刀『同田貫・正国』の名を知っていた。
誠の実家の道場主である母の前で、嵯峨はその『同田貫・正国』を誠の母、薫に見せていたのを思い出した。
「まあ、『マフィア連中』も多分、馬鹿じゃないだろうな。『正国』を持っている隊長に、『無駄な喧嘩』を売るような酔狂な人間なら組織に抹殺されているはずだ。遼州に来る前にな」
自動小銃のマガジンを抜きながらカウラはそう言った。
『同田貫・正国』の剣先の鋭さを見たとき、誠はまだ小学生にも行っていない子供だった。
社会や歴史に興味はない誠だったが、戦国時代とか言う時代に作られて、加藤清正とか言う武将の愛刀だったと聞くその剣の重たい刀身を見て、それが『人を叩き斬る』ための刀であることはすぐに直感した。
その時の刀を手にした嵯峨の殺気のこもった目を思い出して誠の体が自然とこわばる。
誠はその恐怖から自分の手の中の改造拳銃を見た。そして周りの警察の鑑識職員に囲まれたチンピラの死体を見て思わず意識が薄くなっていく。そして思わず銃を取り落とした。
「神前少尉。そう簡単に銃は落とすな、安物の改造拳銃だからな。暴発の危険がある」
カウラが優しい調子で落ちた拳銃を拾い上げて誠に渡す。
「申し訳ありません」
ようやく体が動くようになった誠は立ち上がった。
「とりあえず下に降りるか」
カウラの言葉にかなめもシャムもランも納得したように狭い雑居ビルの階段を降り始めた。
誠もその後に続いて階段を下りる。
先ほどまで恐怖と混乱で動かなかった体が、思いもかけないほど自由に動くのを感じて誠はほっとした。
「なんだ、泣いたカラスがもう笑ってやがる」
タバコを投げ捨ててもみ消したかなめがそう言って笑った。
「これがはじめての命のやり取りだ。正気でいられるのは私のように『そのために作られた人間』くらいだ」
カウラはそう言うと踊り場に倒れている死体をよけながら一階に向かう階段を降りる。そんなカウラの態度が気に入らないと言うようにかなめは目を反らした。
「助かったんですね……」
誠は大きなため息をつくと自分に言い聞かせるように改めてそう言った。
「そうだな。礼が欲しいな」
かなめは再びタバコを取り出しながらそのタレ目で誠をにらんだ。
「何が……」
「オメエにゃ期待してねえよ。まあ、得意の『ゲロ』を吐かなかったのは褒めてやるがな。さすがアタシの後輩ってところかな」
皮肉を込めたかなめの言葉に誠はただ黙り込むばかりだった。
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