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第17章 『特殊な部隊』の真実
拉致(らち)
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誠は本部の出口においてある『原付』にまたがり、『生協』に向かった。
途中、何台もの車とすれ違ったが、菱川重工の『私有地』である路上でノーヘルの誠を咎めるものはいなかった。
誠の『理系脳』は道を覚えることには自信があったので、すんなりとロードローラーのラインが入っている巨大な建物を抜け、エンジンの積み込みのため通路を横断する戦闘機を乗せた荷台をやり過ごした。そのまま圧延板を満載したトレーラーを追い抜いて、ちょっとしたスーパーくらいの大きさのある工場の生協にたどり着く。
ラインの夜勤明けの従業員で、食料品売り場は比較的混雑していた。若い独身寮の住人と思われる作業服の一群が、寝ぼけた目をこすりながら朝食の材料などを漁っている。それを避けるようにして誠は冷凍食品のコーナーに足を向けた。そしてその片隅に並んでいるアイスの棚の前で足を止める。
「ベルガー大尉はメロン……ってとりあえずシャーベットがあるな、西園寺大尉はイチゴのカキ氷でいいかな?」
誠は自分自身に言い聞かせるようにして独り言を口にしながらアイスを漁っていた。
アイスを漁りながら腰をかがめていた誠がいったん背筋を伸ばして目を正面のロックアイスに向けた時、後ろに気配がした。
振り向く前に、硬く冷たい感触を背中に感じた。誠の頭の中が白くぼやけた。
「声を出すな。仲間がすでに出入り口は抑えている。もし騒げばこのビルは血の海になるぞ」
低い男の声が誠の耳元に届く。
誠は手にしていたアイスを静かに置くと、手を挙げて無抵抗の意思を示した。
寝ぼけたライン工達が、営業マン風の背広を着た男のことを不審に思わないことは明らかだった。さらに自分はあの実働部隊の夏服を着ている。誠は司法局実働部隊隊員の、はちゃめちゃな武勇伝はこの数日で散々聞かされていた。誠達を見つけたところで、工場の従業員達はいつもの実働部隊員の『馬鹿騒ぎ』だと思って、気にもかけないだろう。もう一人の懐に手を入れた背広の男が誠についてくるように促す。誠は黙ったまま静かに彼の後ろに着いて行った。
生協の正面にはこんな工場の中には、この場に似つかわしくない黒塗りの高級車が止まっていた。誠はその中に、突き飛ばされるようにして放り込まれた。すでに運転席にはサングラスの若い男が待機していた。
三人が乗り込むと車は急発進した。挟み込むようにして座っていた銃を突きつけている男は、素早く布でできたシートを誠に頭からかぶせた。相変わらず硬い拳銃の銃口の感触を感じながら、割と自分が落ち着いていることを不思議に感じながら誠はじっと息を潜めていた。
右耳の嵯峨に渡された『補聴器』に彼らが気づいていないことだけが、誠の唯一の心の支えだった。
「あんちゃんよう。別に俺等はあんたに恨みがあるわけでもなんでもないんだ。クライアントからあんたを連れて来いって言われてね。まあ俺等のことは恨まないでくれよ。騒がずにクライアントに届けることが出来れば、ウチの組織の仕事はおしまいと言うわけだ。それまでの間、仲良くしようじゃないか」
視界をふさがれている誠の隣で背広を着ていた男が穏やかな調子でそう話した。誠から見ても慣れた段取りは彼等が『東都戦争』と呼ばれた暴力団同士の抗争劇を生き抜いてきた猛者達であることを証明していた。
この『補聴器』が何かを語ってくれる。それだけを信じて誠は身動きもせずにシートに体を預けていた。
途中、何台もの車とすれ違ったが、菱川重工の『私有地』である路上でノーヘルの誠を咎めるものはいなかった。
誠の『理系脳』は道を覚えることには自信があったので、すんなりとロードローラーのラインが入っている巨大な建物を抜け、エンジンの積み込みのため通路を横断する戦闘機を乗せた荷台をやり過ごした。そのまま圧延板を満載したトレーラーを追い抜いて、ちょっとしたスーパーくらいの大きさのある工場の生協にたどり着く。
ラインの夜勤明けの従業員で、食料品売り場は比較的混雑していた。若い独身寮の住人と思われる作業服の一群が、寝ぼけた目をこすりながら朝食の材料などを漁っている。それを避けるようにして誠は冷凍食品のコーナーに足を向けた。そしてその片隅に並んでいるアイスの棚の前で足を止める。
「ベルガー大尉はメロン……ってとりあえずシャーベットがあるな、西園寺大尉はイチゴのカキ氷でいいかな?」
誠は自分自身に言い聞かせるようにして独り言を口にしながらアイスを漁っていた。
アイスを漁りながら腰をかがめていた誠がいったん背筋を伸ばして目を正面のロックアイスに向けた時、後ろに気配がした。
振り向く前に、硬く冷たい感触を背中に感じた。誠の頭の中が白くぼやけた。
「声を出すな。仲間がすでに出入り口は抑えている。もし騒げばこのビルは血の海になるぞ」
低い男の声が誠の耳元に届く。
誠は手にしていたアイスを静かに置くと、手を挙げて無抵抗の意思を示した。
寝ぼけたライン工達が、営業マン風の背広を着た男のことを不審に思わないことは明らかだった。さらに自分はあの実働部隊の夏服を着ている。誠は司法局実働部隊隊員の、はちゃめちゃな武勇伝はこの数日で散々聞かされていた。誠達を見つけたところで、工場の従業員達はいつもの実働部隊員の『馬鹿騒ぎ』だと思って、気にもかけないだろう。もう一人の懐に手を入れた背広の男が誠についてくるように促す。誠は黙ったまま静かに彼の後ろに着いて行った。
生協の正面にはこんな工場の中には、この場に似つかわしくない黒塗りの高級車が止まっていた。誠はその中に、突き飛ばされるようにして放り込まれた。すでに運転席にはサングラスの若い男が待機していた。
三人が乗り込むと車は急発進した。挟み込むようにして座っていた銃を突きつけている男は、素早く布でできたシートを誠に頭からかぶせた。相変わらず硬い拳銃の銃口の感触を感じながら、割と自分が落ち着いていることを不思議に感じながら誠はじっと息を潜めていた。
右耳の嵯峨に渡された『補聴器』に彼らが気づいていないことだけが、誠の唯一の心の支えだった。
「あんちゃんよう。別に俺等はあんたに恨みがあるわけでもなんでもないんだ。クライアントからあんたを連れて来いって言われてね。まあ俺等のことは恨まないでくれよ。騒がずにクライアントに届けることが出来れば、ウチの組織の仕事はおしまいと言うわけだ。それまでの間、仲良くしようじゃないか」
視界をふさがれている誠の隣で背広を着ていた男が穏やかな調子でそう話した。誠から見ても慣れた段取りは彼等が『東都戦争』と呼ばれた暴力団同士の抗争劇を生き抜いてきた猛者達であることを証明していた。
この『補聴器』が何かを語ってくれる。それだけを信じて誠は身動きもせずにシートに体を預けていた。
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