レジェンド・オブ・ダーク 遼州司法局異聞

橋本 直

文字の大きさ
上 下
1,022 / 1,503
第11章 お姉さん達と飲み会

こだわりの車中

しおりを挟む
 アメリアと誠は雑談をしていた。誠はその中で自分の口にした発言を反芻はんすうしながら、これからしばらくお世話になることになる本部の入口の車止めの前にアメリアと並んで立っていた。

 好きなアニメ(30代の女性が好きなものジャンルでアニメが出てくるところからして異常なことだとは自覚した)。好きなゲーム(ここでも違和感を感じた。普通に人気ゲームを挙げたとき、『そう言って実は……』とエロゲームの趣味に誘導尋問したのはどうやらそちらを言わない限り許さないらしい)のことについて話した。

 誠は明らかに警戒して口をつぐんだ。結果、分かったことはアメリアの方が誠より多趣味だということだけだった。

「来たみたいね」

 そう言ってアメリアは誠背後の誰かに向けて手を振る。誠はアメリアの視線の先を確認しようと振り向いた。

 アスファルト舗装された道を銀色の車が近づいてきていた。恐らくはかなめかカウラが運転している。

「初めて見る車ですね……なんだかレトロな車」

 その銀色のセダン。運転席にはカウラ、隣の助手席にはかなめが座っている。

「そうよね。うちでフルスクラッチした車だからね。まあ、本物は地球の日本だっけ。この東和の元ネタの国で博物館にでもあるんじゃない。東和共和国の環境基準が20世紀の地球並みにユルユルだからこうして走れるけど、地球じゃ排ガス規制で絶対走れないわね、公道は」

 アメリアの言葉の意味を考えながら悩んでいる誠の目の前で車は停まった。

 運転席の窓を開けたカウラが口を開く。

「乗れ……あと、アメリア……余計なことは言わなかったろうな?」

 そのカウラの目は殺意が篭っていた。

「言ってないって!誠ちゃんのゲームや映像の趣味に引っかかるものがあったら……その時はその時で考えるわよ」

 アメリアはそう言って後部座席のドアを開けた。

「じゃあ、王子様。どうぞ」

 そう言ってアメリアは開けたドアの前で手招きする。仕方なく誠はそう広くはない後部座席に体をねじ込んだ。180cm以上なのはわかるアメリアがその隣に座る。当然後部座席は大柄の二人が座るのには狭すぎるという事だけは誠にもわかった。

「出すぞ」

 そう言うとカウラは自動車を発進させた。

「エンジン音……ガソリンエンジン車。フルスクラッチって誰が作ったんですか?」

 誠は変わった車に乗っている以上、それについては普通の反応が期待できると思ってそう言った。。

「島田の趣味なんだと。有名な旧車で気に入ったの作ってやるって奴が言ったらこれが候補の中に入ってた。そして部品とかの都合がついて、島田が作れると言ってきた中のうち、この緑髪の選んだのがこの『ハコスカ』だ」

 かなめは進行方向を向いてそう言った。

「島田先輩が作ったんですか?って一人で?」

 誠は島田が自動車を作れるという技術を持っていることに驚きつつそう言った。

「なんでも、暇なんで兵隊の技術維持のために毎回そんな趣味的な車を作るんだよ、島田は。こいつがその三台目。一台目はマニアしか知らないような日本車で運用艦の操舵手の常にマスクをしている姉ちゃんが乗ってる。二台目はアメ車で、オークションに出したら、地球の大金持ちがとんでもない金額で落札して大変な騒ぎになった。その後がこれ。通称『ハコスカ』」

 そう言うかなめは一切誠には目を向けず、誠に見えるのはかなめのおかっぱ頭だった。

 車はゲートを抜け、工場内を出口に向かう道路を進んだ。

「『ハコスカ』正式名称ですか」

 ちょっと話題が盛り上がりそうなので、誠はそう言ってみた。

「正式名称は『日産スカイラインC10』。まあ内装とかは最新型だ、エンジンも設計図を元に最高のスペックが出せるように島田がチューンした特別製。当然、ブレーキ、ハンドリングもそれに合わせての島田カスタム。まあ、兵隊が島田が満足するものができるまで、不眠不休で作り上げた血と汗と涙が篭っているものだ。私はそれにふさわしいように大事に乗っている」

 カウラは上手な運転の見本のような運転をしながらそう言った。

「そうですか……こだわってますね……」

 どうやらこの三人の女性は何かに『こだわる』ところがあるらしい。誠はカウラの運転とこの車への島田の真っ直ぐな思いに感心しながら黙って車に揺られていた。

 車は工場のゲートを抜けた。

「寮の近くなんだわ、その店……ていうか、基本的にオメエはこれまでの連中とは違う扱いをしろって叔父貴に言われてね」

 かなめはそう言って自分の後ろに座る誠を見てニヤリと笑う。

「僕と他の人と何が違うんです?他の人でもあそこに座れば……」

 誠は戸惑いの色を浮かべながらかなめを見つめた。

「とりあえず誠ちゃんは特別なの」

 そう言ってアメリアは笑った。

「でも、禿的要素があったら?」

 カウラは運転しながら前を向いてそう言う。どうやらアメリアは徹底的に禿的要素は嫌いらしい。

「そんなもの、つるっぱげにするか、禿が似合うメガネの部長になるか、育毛剤だってかつらだってあるじゃない。要するに……禿が似合わない禿が嫌いなの。禿げてても……仕方なく禿げてるのが大嫌い!禿がしっくりする人はOK。だから禿の上に禿ヅラを掛けてメガネをかける。それだけでOK。職業軍人で中途半端な禿。これ、大嫌い」

 アメリアは軍人に若禿は禁物らしい。それだけは分かった。

「アメリア。それぐらいにしろ。カウラ、いつもの」

 そうかなめが言うとカウラは仕方なく横の時代物のオーディオを操作する。

「なんですか……それ見たことないですよ。その四角い穴……そんな四角くてかまぼこの板でもいれるんですか……」

 誠がそう言うと腹に届くようなドラムの響きが車内に響いた。

「なんですか?この曲」

 誠の問いを三人の女性士官は無視する。

 女性アーティストの歌いだしはほぼ女性の独唱ばかり。ただドラムのリズムだけ、音程はひたすら歌手の語り掛けるような歌声だけでひたすら語りがゆっくりと続く。

「これがこの歌手の歌だ……フォークギターだけがフォークじゃねえんだよ」

 かなめはそう言って目を閉じる。

「かなめちゃんが言うにはなんでも昭和と言う時代にデビューして生涯歌い続けた……特に『人として生きるのに疲れた女性の戦いの姿』をテーマにしているわよ……その女性アーティスト……あくまでかなめちゃんの受け売りだけど」

 アメリアは誠の耳元でそうささやいた。

「そうだよ、別に具体的に戦いのテーマがあるが、それは戦闘中にアタシが流すからな……それが流れてないと命中精度が下がるんだ」

 そう言ってかなめは静かに銃の入った革製のホルスターを叩いた。
しおりを挟む
感想 7

あなたにおすすめの小説

特殊装甲隊 ダグフェロン 『廃帝と永遠の世紀末』 第三部 『暗黒大陸』

橋本 直
SF
遼州司法局も法術特捜の発足とともに実働部隊、機動隊、法術特捜の三部体制が確立することとなった。 それまで東和陸軍教導隊を兼務していた小さな隊長、クバルカ・ラン中佐が実働部隊副隊長として本異動になることが決まった。 彼女の本拠地である東和陸軍教導隊を訪ねた神前誠に法術兵器の実験に任務が課せられた。それは広域にわたり兵士の意識を奪ってしまうという新しい発想の非破壊兵器だった。 実験は成功するがチャージの時間等、運用の難しい兵器と判明する。 一方実働部隊部隊長嵯峨惟基は自分が領邦領主を務めている貴族制国家甲武国へ飛んだ。そこでは彼の両方を西園寺かなめの妹、日野かえでに継がせることに関する会議が行われる予定だった。 一方、南の『魔窟』と呼ばれる大陸ベルルカンの大国、バルキスタンにて総選挙が予定されており、実働部隊も支援部隊を派遣していた。だが選挙に不満を持つ政府軍、反政府軍の駆け引きが続いていた。 嵯峨は万が一の両軍衝突の際アメリカの介入を要請しようとする兄である西園寺義基のシンパである甲武軍部穏健派を牽制しつつ貴族の群れる会議へと向かった。 そしてそんな中、バルキスタンで反政府軍が機動兵器を手に入れ政府軍との全面衝突が発生する。 誠は試験が済んだばかりの非破壊兵器を手に戦線の拡大を防ぐべく出撃するのだった。

法術装甲隊ダグフェロン 永遠に続く世紀末の国で 野球と海と『革命家』

橋本 直
SF
その文明は出会うべきではなかった その人との出会いは歓迎すべきものではなかった これは悲しい『出会い』の物語 『特殊な部隊』と出会うことで青年にはある『宿命』がせおわされることになる 法術装甲隊ダグフェロン 第二部  遼州人の青年『神前誠(しんぜんまこと)』が発動した『干渉空間』と『光の剣(つるぎ)により貴族主義者のクーデターを未然に防止することが出来た『近藤事件』が終わってから1か月がたった。 宇宙は誠をはじめとする『法術師』の存在を公表することで混乱に陥っていたが、誠の所属する司法局実働部隊、通称『特殊な部隊』は相変わらずおバカな生活を送っていた。 そんな『特殊な部隊』の運用艦『ふさ』艦長アメリア・クラウゼ中佐と誠の所属するシュツルム・パンツァーパイロット部隊『機動部隊第一小隊』のパイロットでサイボーグの西園寺かなめは『特殊な部隊』の野球部の夏合宿を企画した。 どうせろくな事が起こらないと思いながら仕事をさぼって参加する誠。 そこではかなめがいかに自分とはかけ離れたお嬢様で、貴族主義の国『甲武国』がどれほど自分の暮らす永遠に続く20世紀末の東和共和国と違うのかを誠は知ることになった。 しかし、彼を待っていたのは『法術』を持つ遼州人を地球人から解放しようとする『革命家』の襲撃だった。 この事件をきっかけに誠の身辺警護の必要性から誠の警護にアメリア、かなめ、そして無表情な人造人間『ラスト・バタリオン』の第一小隊小隊長カウラ・ベルガー大尉がつくことになる。 これにより誠の暮らす『男子下士官寮』は有名無実化することになった。 そんなおバカな連中を『駄目人間』嵯峨惟基特務大佐と機動部隊隊長クバルカ・ラン中佐は生暖かい目で見守っていた。 そんな『特殊な部隊』の意図とは関係なく着々と『力ある者の支配する宇宙』の実現を目指す『廃帝ハド』の野望はゆっくりと動き出しつつあった。 SFお仕事ギャグロマン小説。

「おまえを愛することはない!」と言ってやったのに、なぜ無視するんだ!

七辻ゆゆ
ファンタジー
俺を見ない、俺の言葉を聞かない、そして触れられない。すり抜ける……なぜだ? 俺はいったい、どうなっているんだ。 真実の愛を取り戻したいだけなのに。

無能なので辞めさせていただきます!

サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。 マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。 えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって? 残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、 無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって? はいはいわかりました。 辞めますよ。 退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。 自分無能なんで、なんにもわかりませんから。 カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。

てめぇの所為だよ

章槻雅希
ファンタジー
王太子ウルリコは政略によって結ばれた婚約が気に食わなかった。それを隠そうともせずに臨んだ婚約者エウフェミアとの茶会で彼は自分ばかりが貧乏くじを引いたと彼女を責める。しかし、見事に返り討ちに遭うのだった。 『小説家になろう』様・『アルファポリス』様の重複投稿、自サイトにも掲載。

学園長からのお話です

ラララキヲ
ファンタジー
 学園長の声が学園に響く。 『昨日、平民の女生徒の食べていたお菓子を高位貴族の令息5人が取り囲んで奪うという事がありました』  昨日ピンク髪の女生徒からクッキーを貰った自覚のある王太子とその側近4人は項垂れながらその声を聴いていた。  学園長の話はまだまだ続く…… ◇テンプレ乙女ゲームになりそうな登場人物(しかし出てこない) ◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。 ◇なろうにも上げています。

【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる

三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。 こんなはずじゃなかった! 異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。 珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に! やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活! 右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり! アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。

ウィリアム・アーガイルの憂心 ~脇役貴族は生き残りたい~

エノキスルメ
ファンタジー
国王が崩御した! 大国の崩壊が始まった! 王族たちは次の王位を巡って争い始め、王家に隙ありと見た各地の大貴族たちは独立に乗り出す。 彼ら歴史の主役たちが各々の思惑を抱えて蠢く一方で――脇役である中小の貴族たちも、時代に翻弄されざるを得ない。 アーガイル伯爵家も、そんな翻弄される貴族家のひとつ。 家格は中の上程度。日和見を許されるほどには弱くないが、情勢の主導権を握れるほどには強くない。ある意味では最も危うくて損な立場。 「死にたくないよぉ~。穏やかに幸せに暮らしたいだけなのにぃ~」 ちょっと臆病で悲観的な若き当主ウィリアム・アーガイルは、嘆き、狼狽え、たまに半泣きになりながら、それでも生き残るためにがんばる。 ※小説家になろう様、カクヨム様にも掲載させていただいてます。

処理中です...