レジェンド・オブ・ダーク 遼州司法局異聞

橋本 直

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第9章 銃とかなめと模擬戦と

偶然と勝利

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 誠は全速力をかけて前進した。

「遅い……」

 先ほどかなめが指摘した通り、この機体05式の巡航速度はこれまで乗ってきた練習用アサルト・モジュールのどの機体より遅かった。

「運動性は……」

 とりあえずすぐに撃墜されることはないだろうということで、誠は軽く機体を振り回してみた。

 サブエンジンの快調な吹きあがりで、機体は一気に回転する。

『05式は運動性は高いからな。うまく使え!』

 カウラがエメラルドグリーンの瞳でじっと見つめていた。

 距離が500に近づいた。

「どこから攻める……」

 かなめ機のどこに回り込むか。誠は頭をフル回転させて考え始めた。

 正面から切り結べるような簡単な相手とは思えない。当然背後に回れるほど05式の機動性は高くはない。

 そうなるとどの角度で切り込むかになる。誠は周りの宇宙空間に目をやった。

 戦艦の残骸が一つ浮かんでいるのが見えた。そこへの距離は誠の機体の方が近い。

『あそこに隠れよう』

 誠はそう思ってそのままその残骸の陰に機体を向けた。

『まあ、常識的な判断だな』

 操縦を見守っていたランはそう言って静かにうなづいた。

「でも、こうすると西園寺さんの機体の様子が……よくわからないな」

 誠はここで身を隠すことの不利益を理解することになった。

『さて、ここからだ。西園寺への距離は200。その間に障害物は無い。どのタイミングで西園寺が斬りこんでくると思う?』

 ランの問いに誠はじりじりと機体を残骸の板の上から顔を出しつつ考えた。

「西園寺さんは……西園寺さんは……西園寺さんは……」

 誠の考えはまとまらなかった。とりあえずかなめが近づいてきている。そして飛び道具は無い。この二つの条件以外がすべて誠の頭から消えていた。

『神前!』

 誠はカウラの叫びを聞いて背後を振り向いた。

 そこにはすでにかなめが大型軍刀を抜いて誠機に斬りかかってくる様が見えた。

「なんで!まだ距離があるはず!」

 誠は何とか上段から斬り下ろしてくるかなめの一撃を避けてそのまま残骸の背後に逃げ延びた。

『手足を振って機動を制御すれば若干の距離は稼げるんだ。そんくらいアサルト・モジュール乗りなら常識だぞ』

 ランは冷たくそう言い放つ。誠は必死になってかなめと遭遇した地点から逃げ出そうとした。

 また正面に真っ赤なかなめ機が現れた。

『残骸を蹴って距離を稼ぐ。これも常識』

 ランの解説を聞きながら誠はさらに機体を反転させて逃げ始める。

『逃げてるだけじゃ勝てないわよ』

 少し呆れた調子のアメリアの声を聴きながら、誠は冷や汗を流しつつかなめ機におびえて残骸の中を進んだ。

「逃げてるだけじゃ……逃げてるだけじゃ……」

 誠は仕方なくサーベルを抜いて行き止まりの地点で機体を反転させた。

『あらら……行き止まり』

『終わったな』

 アメリアとカウラは完全に勝負がついたというようにため息をついた。

「一応……僕にも意地があります!」

 誠はそう叫ぶとそのまま機体を前進させた。

「うわー!」

 むなしく叫ぶ誠。そこにかなめが狙いすましたような一撃を誠機の腹に放った。

 その刃先が腹に付き立つと思った瞬間、急にその接触面が光り始めた。

「なんだ!」

 誠は目の前に突き立てられようとするサーベルが黒い空間に弾き飛ばされる光景を見て叫び声をあげた。

『これは!』

 カウラも驚いたようにそれを見て目を見開いて驚いてみせる。

 しかし、アメリアとランはまるでそうなるのが分かっていたかのように黙ってその様子を眺めている。

 誠が我に返ると、必殺の一撃を防がれて棒立ちのかなめ機が目に入った。

「そこだ!」

 剣を振り上げた誠機の存在にかなめが気付いた時にはすでに勝負がついていた。シミュレーターの中で頭部を斬り落とされて火を噴くかなめ機の腹部に一撃を食らわせて勝負がついた。
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