レジェンド・オブ・ダーク 遼州司法局異聞

橋本 直

文字の大きさ
上 下
1,014 / 1,505
第9章 銃とかなめと模擬戦と

05式特戦(まるごしきとくせん)

しおりを挟む
「することねえのかよ」

 かなめは喫煙所の椅子に座ってタバコを吸いながら、そばに立っている誠に声をかけた。

「どうもすみません」

「謝るようなことじゃねえだろ?まったく」

 そう言ってかなめはタバコを灰皿に押し付けて立ち上がる。

「そうだ。機体を見ずに出ていくのもなんだから、うちのアサルト・モジュールを見てくか?」

 かなめは振り返りながらそんなことを口にしていた。

「いいんですか?」

「良いも何も、うちの機材だもんな。仮住まいとはいえうちの隊員に見せて何が悪いんだ」

 そのままかなめは階段に向かい歩き始める。誠も速足でその後に続いた。

 階段を降り、倉庫に向かう扉を過ぎて、二人は整備班の領域である倉庫にたどり着いた。

 相変わらず倉庫内にはロックンロールが大音量で流れている。

「西園寺さーんなんですか?」

 先ほど誠を冷たくあしらった大柄の整備班員が打って変わって穏やかな表情でかなめに声をかけてきた。

「こいつに05式まるごしきを見せようと思ってさ」

「新入りに見せるんですか?こいつもまたすぐにいなくなりますよ」

「別に軍事機密じゃねえんだからいいだろ?」

 困った表情の整備班員を置き去りにしてかなめはそのまままっすぐ倉庫の中を進んだ。

 倉庫の中で所在投げにたむろしていた整備班員達は、好奇心からくる笑顔を浮かべながら誠達の後ろをついてくる。

「この扉の向こうだ」

 かなめがそう言うと、仕方がないというように先ほどの大柄の整備班員が脇にあったスイッチを押した。

 巨大な扉がゆっくりと開かれ、人一人が通れる程度に開いて止まった。

「省エネかよ」

 開いた場所の狭さに愚痴りながらかなめはそのまま中に入った。誠も仕方なくその後に続く。

 中には大型のアサルト・モジュールが三機そびえたっていた。

「三機ってことは……」

「おめえの機体はまだ来てねえんだ。何と言ってもパイロットがすぐ逃げ出すからな。あっても仕方のねえ機体を配備するほど予算があるわけじゃねえからな」

 かなめはそう言いながら一番手前の紅い機体の前に立った。

 全高は9メートル前後。アサルト・モジュールとしては大型の機体である。

「こいつが05式特戦先行試作型まるごしきとくせんせんこうしさくがた。ランの姐御の専用機だ……姐御は『紅兎・弱×54』って呼んでる」

 あかく塗装された機体は圧倒的な迫力があり、さすがに遼南内戦のエースの機体の風格を放っていた。

「弱……なんでわざわざ弱いって言うんです?」

 誠はランのネーミングセンスに思わずツッコんでいた。

「姐御が本気を出したら壊れるくらい弱いからだと……どんだけ強い機体だと弱が取れるんだよ……ったく」

 かなめは呆れた調子でそう言った。よく見ると頭部に兎のような模様が白く描かれ、肩には将棋の角が成った時の馬将の駒が描かれている姿に誠は迫力を感じた。

「さすがに『エース』の機体ってところなんですね。専用機ってことは……特別なチューンが施されていたりとか……」

 初めて見る機体の存在感にワクワクが抑えきれない誠をかなめが冷たい視線で眺めていた。

「あのなあ。予算の都合で演習もままならないうちの部隊にそんなチューンをする予算があると思うか?姐御はちっちゃいから普通の機体は乗れねえんだよ!」

 かなめの言葉で誠は我に返った。

 確かにランはどう見ても8歳児で身長は120㎝あるかどうかである。普通の機体に乗れないのは当たり前で、当然専用機になるわけである。

「確かに……でも『先行試作』型ってことは、これをベースに量産がされるんですか?」

 誠はそう言いながら隣の赤い機体と緑色の東和陸軍一般職の機体に目をやった。
しおりを挟む
感想 7

あなたにおすすめの小説

お爺様の贈り物

豆狸
ファンタジー
お爺様、素晴らしい贈り物を本当にありがとうございました。

【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く

ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。 5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。 夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…

婚約破棄の後始末 ~息子よ、貴様何をしてくれってんだ! 

タヌキ汁
ファンタジー
 国一番の権勢を誇る公爵家の令嬢と政略結婚が決められていた王子。だが政略結婚を嫌がり、自分の好き相手と結婚する為に取り巻き達と共に、公爵令嬢に冤罪をかけ婚約破棄をしてしまう、それが国を揺るがすことになるとも思わずに。  これは馬鹿なことをやらかした息子を持つ父親達の嘆きの物語である。

悪意のパーティー《完結》

アーエル
ファンタジー
私が目を覚ましたのは王城で行われたパーティーで毒を盛られてから1年になろうかという時期でした。 ある意味でダークな内容です ‪☆他社でも公開

あなたがそう望んだから

まる
ファンタジー
「ちょっとアンタ!アンタよ!!アデライス・オールテア!」 思わず不快さに顔が歪みそうになり、慌てて扇で顔を隠す。 確か彼女は…最近編入してきたという男爵家の庶子の娘だったかしら。 喚き散らす娘が望んだのでその通りにしてあげましたわ。 ○○○○○○○○○○ 誤字脱字ご容赦下さい。もし電波な転生者に貴族の令嬢が絡まれたら。攻略対象と思われてる男性もガッチリ貴族思考だったらと考えて書いてみました。ゆっくりペースになりそうですがよろしければ是非。 閲覧、しおり、お気に入りの登録ありがとうございました(*´ω`*) 何となくねっとりじわじわな感じになっていたらいいのにと思ったのですがどうなんでしょうね?

【完結】そして、誰もいなくなった

杜野秋人
ファンタジー
「そなたは私の妻として、侯爵夫人として相応しくない!よって婚約を破棄する!」 愛する令嬢を傍らに声高にそう叫ぶ婚約者イグナシオに伯爵家令嬢セリアは誤解だと訴えるが、イグナシオは聞く耳を持たない。それどころか明らかに犯してもいない罪を挙げられ糾弾され、彼女は思わず彼に手を伸ばして取り縋ろうとした。 「触るな!」 だがその手をイグナシオは大きく振り払った。振り払われよろめいたセリアは、受け身も取れないまま仰向けに倒れ、頭を打って昏倒した。 「突き飛ばしたぞ」 「彼が手を上げた」 「誰か衛兵を呼べ!」 騒然となるパーティー会場。すぐさま会場警護の騎士たちに取り囲まれ、彼は「違うんだ、話を聞いてくれ!」と叫びながら愛人の令嬢とともに連行されていった。 そして倒れたセリアもすぐさま人が集められ運び出されていった。 そして誰もいなくなった。 彼女と彼と愛人と、果たして誰が悪かったのか。 これはとある悲しい、婚約破棄の物語である。 ◆小説家になろう様でも公開しています。話数の関係上あちらの方が進みが早いです。 3/27、なろう版完結。あちらは全8話です。 3/30、小説家になろうヒューマンドラマランキング日間1位になりました! 4/1、完結しました。全14話。

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

仰っている意味が分かりません

水姫
ファンタジー
お兄様が何故か王位を継ぐ気満々なのですけれど、何を仰っているのでしょうか? 常識知らずの迷惑な兄と次代の王のやり取りです。 ※過去に投稿したものを手直し後再度投稿しています。

処理中です...