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第7章 気のいいアンちゃん
整備班
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廊下に出た誠を待っていたのは、人影は全く無いまま続く廊下だった。
「どこだ?入口があっち」
そこまで言って軽く周りを見回す。右に顔を向けると、この建物に入ってきた時に使った自動ドアが見えた。
「つまり、逆に行けばいいんだな」
独り言を言いながら、誠は入口の反対側に進んだ。突然行き止まりになったが、そこには物々しいドアがあった。
「なんか、秘密基地っぽいな。こういう時は右側に……」
そう言いながら誠は扉の右側に大きな緑色のボタンを発見した。その下には赤いボタンがある。緑のボタンが出っ張り、赤いボタンはへこんでいる。
「こういう時は出っ張ってる方を!」
誠は勢いよく緑色のボタンを叩いた。緑のボタンがへこみ、赤いボタンが出っ張る。それを合図にゆっくりとその鉄の扉が開き始めた。
「こういう時はドライアイスで煙が出ると雰囲気出るんだけどな」
ここがすでにどこかおかしいところであることを確信した誠は、そう言う風に変な思考をすることでなんとか自分のどうかしている運命に立ち向かうことに決めていた。
扉が開いた向こうから音楽が聞こえてきた。不良が好きそうなロックンロールである。うんこ座りのヤンキーがタバコを吸いながら車座になって、隣のスピーカーから流れているあれである。
「まさに不良のたまり場」
誠はおどおどしながら足を踏み入れた。
すぐにガソリンエンジン向けのエンジンオイルの匂いが鼻を突いた。そして、ガソリンをはじめとする揮発油の匂いが混じった刺激臭が鼻を突く。
『匂いが……』
理系大学なので自動車部があり、大学に入った時に新入生歓迎レースでその匂いを嗅いだが、これほどその匂いが染みついている場所に行ったことが無い。三十メートルぐらいの奥行き、幅は相当あるとしか誠にはわからない。車、いわゆるガソリンで走る『旧車』が並んでいた。
「すいませーん」
人影がまるでないので、誠は叫んでみた。
誰も来ない。相変わらずロックンロールが流れている。
「誰かいますかー」
今度は少し大声で叫んでみた。
「うるせーな、いい曲聞いてんだよ。雑音混ぜんな……」
ジャッキアップした白と黒のツートンカラーのガソリンエンジンの旧車の下から声が聞こえた。
「あのー島田さんですか?」
車の下から出てきた185㎝の誠よりさらに大きな恰幅の良い男がはい出してきた。水色のつなぎは整備班の指定のものだろう。右胸に『実働部隊』の刺繍がある。
空調が無いのでむっとした空気の中、顔中油だらけの男は立ち上がった。
「ちげーよ。班長は駐車場。またバイクでもいじってんだろ」
そう言うと大男は再び車の下に潜ろうとする。
「ったく、邪魔しやがっって。班長が『こいつはこれまでの青瓢箪と違って、見どころがある』って言ってたけど、身長だけじゃねーか。他よりましなところは……」
そうぶつぶつ言いながら男は車の下に潜ろうとする。
「あのー駐車場は……」
仰向けになって車の下に入ろうとする大男に声を掛ける。
「あっち」
右手の方を指さすと男はそのまま車の下に潜りこむ。
「こういう時、何を言っても無駄ですよね……」
誠は遠慮がちにそう言った。
「わかってんなら行けよ!ガソリン車の旧車のバイクの前で座って、タバコ吸ってる上半身裸の兄ちゃん。そんな馬鹿他にいねーから。格納庫の入り口からすぐわかる!さっさと行け!俺は忙しいの!」
顔だけ出したオイルだらけの男はそう吐き捨てるように言うと、誠を無視して車の下に潜ってしまった。
「なんだかなあ……」
とりあえず上半身裸の馬鹿そうな男を見つけたら声を掛けようと決めて、誠は歩き出した。
「どこだ?入口があっち」
そこまで言って軽く周りを見回す。右に顔を向けると、この建物に入ってきた時に使った自動ドアが見えた。
「つまり、逆に行けばいいんだな」
独り言を言いながら、誠は入口の反対側に進んだ。突然行き止まりになったが、そこには物々しいドアがあった。
「なんか、秘密基地っぽいな。こういう時は右側に……」
そう言いながら誠は扉の右側に大きな緑色のボタンを発見した。その下には赤いボタンがある。緑のボタンが出っ張り、赤いボタンはへこんでいる。
「こういう時は出っ張ってる方を!」
誠は勢いよく緑色のボタンを叩いた。緑のボタンがへこみ、赤いボタンが出っ張る。それを合図にゆっくりとその鉄の扉が開き始めた。
「こういう時はドライアイスで煙が出ると雰囲気出るんだけどな」
ここがすでにどこかおかしいところであることを確信した誠は、そう言う風に変な思考をすることでなんとか自分のどうかしている運命に立ち向かうことに決めていた。
扉が開いた向こうから音楽が聞こえてきた。不良が好きそうなロックンロールである。うんこ座りのヤンキーがタバコを吸いながら車座になって、隣のスピーカーから流れているあれである。
「まさに不良のたまり場」
誠はおどおどしながら足を踏み入れた。
すぐにガソリンエンジン向けのエンジンオイルの匂いが鼻を突いた。そして、ガソリンをはじめとする揮発油の匂いが混じった刺激臭が鼻を突く。
『匂いが……』
理系大学なので自動車部があり、大学に入った時に新入生歓迎レースでその匂いを嗅いだが、これほどその匂いが染みついている場所に行ったことが無い。三十メートルぐらいの奥行き、幅は相当あるとしか誠にはわからない。車、いわゆるガソリンで走る『旧車』が並んでいた。
「すいませーん」
人影がまるでないので、誠は叫んでみた。
誰も来ない。相変わらずロックンロールが流れている。
「誰かいますかー」
今度は少し大声で叫んでみた。
「うるせーな、いい曲聞いてんだよ。雑音混ぜんな……」
ジャッキアップした白と黒のツートンカラーのガソリンエンジンの旧車の下から声が聞こえた。
「あのー島田さんですか?」
車の下から出てきた185㎝の誠よりさらに大きな恰幅の良い男がはい出してきた。水色のつなぎは整備班の指定のものだろう。右胸に『実働部隊』の刺繍がある。
空調が無いのでむっとした空気の中、顔中油だらけの男は立ち上がった。
「ちげーよ。班長は駐車場。またバイクでもいじってんだろ」
そう言うと大男は再び車の下に潜ろうとする。
「ったく、邪魔しやがっって。班長が『こいつはこれまでの青瓢箪と違って、見どころがある』って言ってたけど、身長だけじゃねーか。他よりましなところは……」
そうぶつぶつ言いながら男は車の下に潜ろうとする。
「あのー駐車場は……」
仰向けになって車の下に入ろうとする大男に声を掛ける。
「あっち」
右手の方を指さすと男はそのまま車の下に潜りこむ。
「こういう時、何を言っても無駄ですよね……」
誠は遠慮がちにそう言った。
「わかってんなら行けよ!ガソリン車の旧車のバイクの前で座って、タバコ吸ってる上半身裸の兄ちゃん。そんな馬鹿他にいねーから。格納庫の入り口からすぐわかる!さっさと行け!俺は忙しいの!」
顔だけ出したオイルだらけの男はそう吐き捨てるように言うと、誠を無視して車の下に潜ってしまった。
「なんだかなあ……」
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