レジェンド・オブ・ダーク 遼州司法局異聞

橋本 直

文字の大きさ
上 下
990 / 1,503
第28章 終戦と別れ

戦死報告

しおりを挟む
 散発的な銃声が響く北兼台地南部基地にクリスとシャムは降り立った。ムッとした南からの暖かく湿った風が二人の頬を撫でる。

「まだ続いているんだね、戦いは 」 

 コックピットを開いて流れ込んでくる熱風に黒い民族衣装を翻すシャム。クリスは基地の中央で両手を頭の後ろに当ててひれ伏し、東モスレム三派の兵士に銃を向けられている共和軍の兵士達を眺めていた。

「手でも貸しましょうか? 」 

 クロームナイトの足元で、タバコをくわえた嵯峨と、書類に目を通している隼の姿を見つけたクリスは首を振ってそのままシャムの後ろをついて機体を降りようとした。

「危ない! 」 

 白い機体の腕から落ちそうになったシャムを書類を投げ捨てて支える伊藤。

「慌てても何にもならないぜ 」 

 そう言って笑う嵯峨。

「まもなく我々の陸上部隊も到着します。今のところ組織的な抵抗は受けていませんよ 」 

 伊藤はそう言うと散らかした書類を拾い始める。その姿を見て、三派の兵士達も飛んできた書類に集まってきた。

「エスコバルの旦那が死んだんだ。奴等も抵抗が無意味なことぐらいわかっているだろうにな 」 

 タバコを投げ捨ててもみ消した嵯峨。その視線の先には炎上する町並みが見えた。ただ漫然と見つめる嵯峨。それをいぶかしむように伊藤は悲しげな表情でそれを見つめていた。

「そう簡単に戦争は終わるものじゃありませんよ。戦争は簡単に始まるが、終えるのにはそれなりの努力が必要になる 」 

 クリスの言葉に振り返る嵯峨。一瞬、威圧的な色がその瞳に浮かんだが、すぐにそれはいつもの濁った瞳に変わった。

「確かにそうですねえ。あいつ等は三派に降伏したらイスラム教徒以外は殺されると吹き込まれているみたいですしね。そして俺達は単なる無頼の輩で人殺しを楽しみにしていると思ってるんだから…… 」 

 そう言いながら伊藤の方に目を向ける嵯峨。伊藤は自分の腕の政治将校を示すエンブレムを見て首をすくめた。

「隊長! 」 

 ようやくたどり着いた二式を降りたセニアと御子神が駆けつけてきた。後ろからうなだれてくるレムとその肩を叩きながら声をかけるルーラ。

「飯岡は? 」 

 その嵯峨の言葉に視線を落とすセニア。

「戦死しました。コックピットに直撃弾を受けましたから即死でしょう 」 

 御子神の言葉に、嵯峨はそのままタバコを手に取った。

「何度聞いても慣れないな、戦死報告って奴は 」 

 クリスはそのままうつむいて本部の建物に向かう指揮官に声をかけることができなかった。

 そのまま伊藤に案内されて嵯峨は基地の司令室に向かった。そんな三人を襲う死臭。クリスにもその原因はわかっていた。基地の一角を掘り起こしている三派の兵士は疫病予防のためにガスマスクを装着していた。

「ゲリラ狩りの被害者ですか 」 

 思わずハンカチで口を押さえながらクリスが先を急ぐ嵯峨に尋ねた。

「まあそんなところでしょう。私も昔やりましたから 」 

 そう言う嵯峨の目は笑ってはいなかった。クリスも笑えなかった。胡州軍の組織的ゲリラ討伐戦のプロ『人斬り新三 』 。嵯峨がその異名を持つことになったこともクリスは知っていた。階下から匂う死臭にハンカチで手を押さえながらそのまま司令部のドアを開いた。
しおりを挟む
感想 7

あなたにおすすめの小説

潜水艦艦長 深海調査手記

ただのA
SF
深海探査潜水艦ネプトゥヌスの艦長ロバート・L・グレイ が深海で発見した生物、現象、景観などを書き残した手記。 皆さんも艦長の手記を通して深海の神秘に触れてみませんか?

特殊装甲隊 ダグフェロン 『廃帝と永遠の世紀末』 第三部 『暗黒大陸』

橋本 直
SF
遼州司法局も法術特捜の発足とともに実働部隊、機動隊、法術特捜の三部体制が確立することとなった。 それまで東和陸軍教導隊を兼務していた小さな隊長、クバルカ・ラン中佐が実働部隊副隊長として本異動になることが決まった。 彼女の本拠地である東和陸軍教導隊を訪ねた神前誠に法術兵器の実験に任務が課せられた。それは広域にわたり兵士の意識を奪ってしまうという新しい発想の非破壊兵器だった。 実験は成功するがチャージの時間等、運用の難しい兵器と判明する。 一方実働部隊部隊長嵯峨惟基は自分が領邦領主を務めている貴族制国家甲武国へ飛んだ。そこでは彼の両方を西園寺かなめの妹、日野かえでに継がせることに関する会議が行われる予定だった。 一方、南の『魔窟』と呼ばれる大陸ベルルカンの大国、バルキスタンにて総選挙が予定されており、実働部隊も支援部隊を派遣していた。だが選挙に不満を持つ政府軍、反政府軍の駆け引きが続いていた。 嵯峨は万が一の両軍衝突の際アメリカの介入を要請しようとする兄である西園寺義基のシンパである甲武軍部穏健派を牽制しつつ貴族の群れる会議へと向かった。 そしてそんな中、バルキスタンで反政府軍が機動兵器を手に入れ政府軍との全面衝突が発生する。 誠は試験が済んだばかりの非破壊兵器を手に戦線の拡大を防ぐべく出撃するのだった。

魅了だったら良かったのに

豆狸
ファンタジー
「だったらなにか変わるんですか?」

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

法術装甲隊ダグフェロン 永遠に続く世紀末の国で 野球と海と『革命家』

橋本 直
SF
その文明は出会うべきではなかった その人との出会いは歓迎すべきものではなかった これは悲しい『出会い』の物語 『特殊な部隊』と出会うことで青年にはある『宿命』がせおわされることになる 法術装甲隊ダグフェロン 第二部  遼州人の青年『神前誠(しんぜんまこと)』が発動した『干渉空間』と『光の剣(つるぎ)により貴族主義者のクーデターを未然に防止することが出来た『近藤事件』が終わってから1か月がたった。 宇宙は誠をはじめとする『法術師』の存在を公表することで混乱に陥っていたが、誠の所属する司法局実働部隊、通称『特殊な部隊』は相変わらずおバカな生活を送っていた。 そんな『特殊な部隊』の運用艦『ふさ』艦長アメリア・クラウゼ中佐と誠の所属するシュツルム・パンツァーパイロット部隊『機動部隊第一小隊』のパイロットでサイボーグの西園寺かなめは『特殊な部隊』の野球部の夏合宿を企画した。 どうせろくな事が起こらないと思いながら仕事をさぼって参加する誠。 そこではかなめがいかに自分とはかけ離れたお嬢様で、貴族主義の国『甲武国』がどれほど自分の暮らす永遠に続く20世紀末の東和共和国と違うのかを誠は知ることになった。 しかし、彼を待っていたのは『法術』を持つ遼州人を地球人から解放しようとする『革命家』の襲撃だった。 この事件をきっかけに誠の身辺警護の必要性から誠の警護にアメリア、かなめ、そして無表情な人造人間『ラスト・バタリオン』の第一小隊小隊長カウラ・ベルガー大尉がつくことになる。 これにより誠の暮らす『男子下士官寮』は有名無実化することになった。 そんなおバカな連中を『駄目人間』嵯峨惟基特務大佐と機動部隊隊長クバルカ・ラン中佐は生暖かい目で見守っていた。 そんな『特殊な部隊』の意図とは関係なく着々と『力ある者の支配する宇宙』の実現を目指す『廃帝ハド』の野望はゆっくりと動き出しつつあった。 SFお仕事ギャグロマン小説。

悪意のパーティー《完結》

アーエル
ファンタジー
私が目を覚ましたのは王城で行われたパーティーで毒を盛られてから1年になろうかという時期でした。 ある意味でダークな内容です ‪☆他社でも公開

【完結】そして、誰もいなくなった

杜野秋人
ファンタジー
「そなたは私の妻として、侯爵夫人として相応しくない!よって婚約を破棄する!」 愛する令嬢を傍らに声高にそう叫ぶ婚約者イグナシオに伯爵家令嬢セリアは誤解だと訴えるが、イグナシオは聞く耳を持たない。それどころか明らかに犯してもいない罪を挙げられ糾弾され、彼女は思わず彼に手を伸ばして取り縋ろうとした。 「触るな!」 だがその手をイグナシオは大きく振り払った。振り払われよろめいたセリアは、受け身も取れないまま仰向けに倒れ、頭を打って昏倒した。 「突き飛ばしたぞ」 「彼が手を上げた」 「誰か衛兵を呼べ!」 騒然となるパーティー会場。すぐさま会場警護の騎士たちに取り囲まれ、彼は「違うんだ、話を聞いてくれ!」と叫びながら愛人の令嬢とともに連行されていった。 そして倒れたセリアもすぐさま人が集められ運び出されていった。 そして誰もいなくなった。 彼女と彼と愛人と、果たして誰が悪かったのか。 これはとある悲しい、婚約破棄の物語である。 ◆小説家になろう様でも公開しています。話数の関係上あちらの方が進みが早いです。 3/27、なろう版完結。あちらは全8話です。 3/30、小説家になろうヒューマンドラマランキング日間1位になりました! 4/1、完結しました。全14話。

【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く

ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。 5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。 夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…

処理中です...