レジェンド・オブ・ダーク 遼州司法局異聞

橋本 直

文字の大きさ
上 下
983 / 1,503
第27章 電子の神

騎士の目覚め

しおりを挟む
「ここでしばらく様子を見るんだ。あの基地には波状攻撃をかけるほどの戦力は無い。今までのは基地の初期戦力だ。吉田少佐が指揮を取っているからには、彼直属のアサルト・モジュールを投入してくる。それを待ち伏せる。わかったね? 」 

 クリスの言葉にシャムは頷いた。確かに彼の命がシャムの双肩にかかっていると言うことでかけた言葉ではあるが、それ以上にこの少女の死を恐れている自分がいることに気付いてクリスは思わず笑みを漏らした。それを嬉しそうに覗き見て、再びシャムは尾根伝いに南下を続けた。

 突然、シャムは機体を伏せさせた。その真上を火線が走る。

「見つかった! 」 

 そう言うクリスにあわせるようにシャムはモニターを望遠に切り替えていた。重装甲ホバー車の長いレールガンの銃身が尾根の反対側に消えていく。

「待ち伏せ? 」 

 シャムはそう言うと機体を立て直す。

「当然だろう。ここは共和軍の勢力圏だ。それなりの戦力を用意しているはずだから注意……! 」 

 今度は川の方からの火線がクロームナイトの肩を掠める。しかし、クリスにはそれが敵の砲手が引き金を引く前にシャムの機動によって避けられたものであることがわかっていた。

『この娘は読んでいるのか? それとも瞬時に反応している? 』 

 クリスは目を凝らす。さらに三発の火線が四方からクロームナイトを狙うが、すべて紙一重で外れる。

「避けているのかい? 」 

 恐る恐る尋ねるクリスにシャムは軽く頷いた。おそらくはシャムもなぜそう機体を動かしていたのかの説明は出来ないことだろう。

「大丈夫いけるよ! 」 

 クリスの問いに答えずにそう言ってシャムは機体をジャンプさせた。クリスは止めようと手を伸ばしたが、シャムの頭に手が届くこともなかった。シャムのクロームナイトのレールガンは、正確に重装甲ホバーの上面装甲を撃ち抜いていく。

「まだいるよ。今度はおっきいの! 」 

 着地してすぐにシャムは機体を崖の下に進めた。すぐさま彼女が着地した地点に火砲が集中しているのが見える。

「見つけた! 」 

 シャムはかすかに光る森の中の一群に地対地ミサイルを撃ち込んだ。そしてすぐに移動を開始する。崖に沿って続く舗装の壊れかけた道を進んでいたかと思うと、次の瞬間には河原に機体を着地させる。今度は移動する敵からの掃射を浴びるが、そのことは想定しているように対岸の森に機体を進めている。

「アサルト・モジュールだ! 」 

 クリスの声を受けて振り向くシャムは大きく頷いた。

「こっちだってやられてばかりじゃないんだ! 」 

 そう言うとM5の改良型と思われる機体にレールガンを撃ち込む。しかし、敵の動きは早くむなしく火線は森の中に消えていく。

「動きが早い、吉田の手持ち部隊か? 」 

 クリスの言葉を待つまでもなく、シャムは相手の機体の速度に合わせて森の中を抜け、河原を越えて対岸の道路にたどり着く。敵のパイロットもそれを読んでいたようにレールガンを放つが、シャムが微妙に速度を先ほどよりも上げていたのでそれは渓谷の街道の路肩をえぐるだけだった。

「もう一機の気配がするんだけど…… 」 

 シャムは周りを見渡す。夜間対応のコックピットのモニターが緑色に染まった周囲の森を浮かび上がらせる。彼女をつけまわしていた機体は河原に降りてシャムを誘っているように見える。シャムはそれに乗せられず、そのままそれを無視して再び対岸を目指した。

「そこ! 」 

 誘いをかけている機体の火線軸上に隠れていたM5の上半身が、シャムの抜き切りのサーベルの一撃で両断された。そのまま炎に包まれる敵から、誘いをかけていた敵機に目を向けるシャム。その姿に怯えたように後退する敵機にシャムはパルスエンジンをふかして急接近した。

「これで終わり! 」 

 そう叫んだシャムの言葉の通り、クロームナイトのサーベルがM5のコックピットに突きたてられた。
しおりを挟む
感想 7

あなたにおすすめの小説

特殊装甲隊 ダグフェロン 『廃帝と永遠の世紀末』 第三部 『暗黒大陸』

橋本 直
SF
遼州司法局も法術特捜の発足とともに実働部隊、機動隊、法術特捜の三部体制が確立することとなった。 それまで東和陸軍教導隊を兼務していた小さな隊長、クバルカ・ラン中佐が実働部隊副隊長として本異動になることが決まった。 彼女の本拠地である東和陸軍教導隊を訪ねた神前誠に法術兵器の実験に任務が課せられた。それは広域にわたり兵士の意識を奪ってしまうという新しい発想の非破壊兵器だった。 実験は成功するがチャージの時間等、運用の難しい兵器と判明する。 一方実働部隊部隊長嵯峨惟基は自分が領邦領主を務めている貴族制国家甲武国へ飛んだ。そこでは彼の両方を西園寺かなめの妹、日野かえでに継がせることに関する会議が行われる予定だった。 一方、南の『魔窟』と呼ばれる大陸ベルルカンの大国、バルキスタンにて総選挙が予定されており、実働部隊も支援部隊を派遣していた。だが選挙に不満を持つ政府軍、反政府軍の駆け引きが続いていた。 嵯峨は万が一の両軍衝突の際アメリカの介入を要請しようとする兄である西園寺義基のシンパである甲武軍部穏健派を牽制しつつ貴族の群れる会議へと向かった。 そしてそんな中、バルキスタンで反政府軍が機動兵器を手に入れ政府軍との全面衝突が発生する。 誠は試験が済んだばかりの非破壊兵器を手に戦線の拡大を防ぐべく出撃するのだった。

潜水艦艦長 深海調査手記

ただのA
SF
深海探査潜水艦ネプトゥヌスの艦長ロバート・L・グレイ が深海で発見した生物、現象、景観などを書き残した手記。 皆さんも艦長の手記を通して深海の神秘に触れてみませんか?

魅了だったら良かったのに

豆狸
ファンタジー
「だったらなにか変わるんですか?」

法術装甲隊ダグフェロン 永遠に続く世紀末の国で 野球と海と『革命家』

橋本 直
SF
その文明は出会うべきではなかった その人との出会いは歓迎すべきものではなかった これは悲しい『出会い』の物語 『特殊な部隊』と出会うことで青年にはある『宿命』がせおわされることになる 法術装甲隊ダグフェロン 第二部  遼州人の青年『神前誠(しんぜんまこと)』が発動した『干渉空間』と『光の剣(つるぎ)により貴族主義者のクーデターを未然に防止することが出来た『近藤事件』が終わってから1か月がたった。 宇宙は誠をはじめとする『法術師』の存在を公表することで混乱に陥っていたが、誠の所属する司法局実働部隊、通称『特殊な部隊』は相変わらずおバカな生活を送っていた。 そんな『特殊な部隊』の運用艦『ふさ』艦長アメリア・クラウゼ中佐と誠の所属するシュツルム・パンツァーパイロット部隊『機動部隊第一小隊』のパイロットでサイボーグの西園寺かなめは『特殊な部隊』の野球部の夏合宿を企画した。 どうせろくな事が起こらないと思いながら仕事をさぼって参加する誠。 そこではかなめがいかに自分とはかけ離れたお嬢様で、貴族主義の国『甲武国』がどれほど自分の暮らす永遠に続く20世紀末の東和共和国と違うのかを誠は知ることになった。 しかし、彼を待っていたのは『法術』を持つ遼州人を地球人から解放しようとする『革命家』の襲撃だった。 この事件をきっかけに誠の身辺警護の必要性から誠の警護にアメリア、かなめ、そして無表情な人造人間『ラスト・バタリオン』の第一小隊小隊長カウラ・ベルガー大尉がつくことになる。 これにより誠の暮らす『男子下士官寮』は有名無実化することになった。 そんなおバカな連中を『駄目人間』嵯峨惟基特務大佐と機動部隊隊長クバルカ・ラン中佐は生暖かい目で見守っていた。 そんな『特殊な部隊』の意図とは関係なく着々と『力ある者の支配する宇宙』の実現を目指す『廃帝ハド』の野望はゆっくりと動き出しつつあった。 SFお仕事ギャグロマン小説。

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

悪意のパーティー《完結》

アーエル
ファンタジー
私が目を覚ましたのは王城で行われたパーティーで毒を盛られてから1年になろうかという時期でした。 ある意味でダークな内容です ‪☆他社でも公開

【完結】そして、誰もいなくなった

杜野秋人
ファンタジー
「そなたは私の妻として、侯爵夫人として相応しくない!よって婚約を破棄する!」 愛する令嬢を傍らに声高にそう叫ぶ婚約者イグナシオに伯爵家令嬢セリアは誤解だと訴えるが、イグナシオは聞く耳を持たない。それどころか明らかに犯してもいない罪を挙げられ糾弾され、彼女は思わず彼に手を伸ばして取り縋ろうとした。 「触るな!」 だがその手をイグナシオは大きく振り払った。振り払われよろめいたセリアは、受け身も取れないまま仰向けに倒れ、頭を打って昏倒した。 「突き飛ばしたぞ」 「彼が手を上げた」 「誰か衛兵を呼べ!」 騒然となるパーティー会場。すぐさま会場警護の騎士たちに取り囲まれ、彼は「違うんだ、話を聞いてくれ!」と叫びながら愛人の令嬢とともに連行されていった。 そして倒れたセリアもすぐさま人が集められ運び出されていった。 そして誰もいなくなった。 彼女と彼と愛人と、果たして誰が悪かったのか。 これはとある悲しい、婚約破棄の物語である。 ◆小説家になろう様でも公開しています。話数の関係上あちらの方が進みが早いです。 3/27、なろう版完結。あちらは全8話です。 3/30、小説家になろうヒューマンドラマランキング日間1位になりました! 4/1、完結しました。全14話。

レジェンド・オブ・ダーク遼州司法局異聞 2 「新たな敵」

橋本 直
SF
「近藤事件」の決着がついて「法術」の存在が世界に明らかにされた。 そんな緊張にも当事者でありながら相変わらずアバウトに受け流す遼州司法局実働部隊の面々はちょっとした神前誠(しんぜんまこと)とカウラ・ベルガーとの約束を口実に海に出かけることになった。 西園寺かなめの意外なもてなしや海での意外な事件に誠は戸惑う。 ふたりの窮地を救う部隊長嵯峨惟基(さがこれもと)の娘と言う嵯峨茜(さがあかね)警視正。 また、新編成された第四小隊の面々であるアメリカ海軍出身のロナルド・スミスJr特務大尉、ジョージ・岡部中尉、フェデロ・マルケス中尉や、技術士官レベッカ・シンプソン中尉の4名の新入隊員の配属が決まる。 新たなメンバーを加えても相変わらずの司法局実働部隊メンバーだったが嵯峨の気まぐれから西園寺かなめ、カウラ・ベルガー、アイシャ・クラウゼの三人に特殊なミッションが与えられる。 誠はただ振り回されるだけだった。

処理中です...