974 / 1,505
第22章 非道
会議
しおりを挟む
北兼台地第三の都市、賀谷市。廃ビルの中で嵯峨は目の前のプロジェクターに映る情報を追っていた。
「ゲリラの方々の協力に感謝と言うところだねえ 」
そう言って暗がりの中で若い抜けたような表情の将校がタバコに火を点す。
「主力は現在、賀谷南部の鉱山地区の警戒に出動中。さらに二時間後には空港で原因不明の爆発が起こる予定になってます 」
楠木のその言葉に、判ったとでも言うように左手を上げるタバコを吸う男、嵯峨。
「各ポイントの制圧状況はどうだ? 」
その言葉を待っていたかのように黒い戦闘服の男がプロジェクターの画面を切り替える。賀谷市中心部の建物をあらわす地図の交差点の近くのすべてのビルに印があった。
「このように現在すべての中佐の指定した地点は制圧完了しています 」
そう報告する黒い服の男の表情は硬い。清掃員やカップルを装い監視している彼の同志達を思いながら複雑な表情で彼のすべてを捧げた悪党の顔を見上げた。
「いつでも準備はできているわけですよ 」
そう言うと賀谷市役所を示す地図を拡大して見せる楠木。だがその言葉に嵯峨は苦虫を噛み潰したような表情を変えることは無かった。
「バレンシア機関の動きはどうなんだ? 」
嵯峨の言葉に楠木と黒い戦闘服の男は顔を見合わせた。
「制服着た兵隊が市役所20名ほど確認されています。その他、直接市役所を攻撃可能なビルに私服の連中が張り付いてますよ 」
楠木のその言葉を聞きながら、嵯峨は頭を掻いた。
「あまりに教科書どおり過ぎるねえ。下水や手前の川にもまず間違いなく戦力を割いてきているはずだ。それに…… 」
「そちらも計算に入ってますよ。祭りが始まると同時にガスを使う予定です 」
楠木の言葉に一瞬表情を曇らせた嵯峨だが、すぐにいつものようなせせら笑うような表情を浮かべた。
「マスタードガスか。俺達には似合いの汚い作戦だな 」
そう言うと再びタバコを口にくわえた。マスタードガス。非人道兵器として20世紀後半には禁止された毒ガスだが、嵯峨は先の大戦では何度と無く使用した経験のある毒ガスだった。浮ついたような笑みを一度浮かべたあと、嵯峨の表情が決意を秘めたものへと変わる。それまでの彼と今の彼のつながりを見つけること。長く彼の副官を勤めてきた楠木にもそれは出来ない話だった。
「それじゃあ各隊員に伝達しろ、状況を開始する 」
嵯峨はそう言うと腰に下げていた朱塗りの太刀を握り締める。黒い戦闘服を着た男はそのまま出て行った。
「楠木。これ以上お前が悪名を背負う必要は無いんだぜ 」
くわえたタバコをくゆらせる嵯峨に、笑顔で答えたのは楠木だった。
「今更善人になんてなれませんよ。それにこう言う戦い方をあなたに教えたのは俺ですからねえ 」
楠木の笑みに嵯峨はさめたように詰めたい表情に変わる。
「そうだな。お互いあの世では極楽には行けそうには無いな 」
「まったく…… 」
楠木の含み笑いでようやく納得したように嵯峨は刀を手に部下達について歩き始めた。
「ゲリラの方々の協力に感謝と言うところだねえ 」
そう言って暗がりの中で若い抜けたような表情の将校がタバコに火を点す。
「主力は現在、賀谷南部の鉱山地区の警戒に出動中。さらに二時間後には空港で原因不明の爆発が起こる予定になってます 」
楠木のその言葉に、判ったとでも言うように左手を上げるタバコを吸う男、嵯峨。
「各ポイントの制圧状況はどうだ? 」
その言葉を待っていたかのように黒い戦闘服の男がプロジェクターの画面を切り替える。賀谷市中心部の建物をあらわす地図の交差点の近くのすべてのビルに印があった。
「このように現在すべての中佐の指定した地点は制圧完了しています 」
そう報告する黒い服の男の表情は硬い。清掃員やカップルを装い監視している彼の同志達を思いながら複雑な表情で彼のすべてを捧げた悪党の顔を見上げた。
「いつでも準備はできているわけですよ 」
そう言うと賀谷市役所を示す地図を拡大して見せる楠木。だがその言葉に嵯峨は苦虫を噛み潰したような表情を変えることは無かった。
「バレンシア機関の動きはどうなんだ? 」
嵯峨の言葉に楠木と黒い戦闘服の男は顔を見合わせた。
「制服着た兵隊が市役所20名ほど確認されています。その他、直接市役所を攻撃可能なビルに私服の連中が張り付いてますよ 」
楠木のその言葉を聞きながら、嵯峨は頭を掻いた。
「あまりに教科書どおり過ぎるねえ。下水や手前の川にもまず間違いなく戦力を割いてきているはずだ。それに…… 」
「そちらも計算に入ってますよ。祭りが始まると同時にガスを使う予定です 」
楠木の言葉に一瞬表情を曇らせた嵯峨だが、すぐにいつものようなせせら笑うような表情を浮かべた。
「マスタードガスか。俺達には似合いの汚い作戦だな 」
そう言うと再びタバコを口にくわえた。マスタードガス。非人道兵器として20世紀後半には禁止された毒ガスだが、嵯峨は先の大戦では何度と無く使用した経験のある毒ガスだった。浮ついたような笑みを一度浮かべたあと、嵯峨の表情が決意を秘めたものへと変わる。それまでの彼と今の彼のつながりを見つけること。長く彼の副官を勤めてきた楠木にもそれは出来ない話だった。
「それじゃあ各隊員に伝達しろ、状況を開始する 」
嵯峨はそう言うと腰に下げていた朱塗りの太刀を握り締める。黒い戦闘服を着た男はそのまま出て行った。
「楠木。これ以上お前が悪名を背負う必要は無いんだぜ 」
くわえたタバコをくゆらせる嵯峨に、笑顔で答えたのは楠木だった。
「今更善人になんてなれませんよ。それにこう言う戦い方をあなたに教えたのは俺ですからねえ 」
楠木の笑みに嵯峨はさめたように詰めたい表情に変わる。
「そうだな。お互いあの世では極楽には行けそうには無いな 」
「まったく…… 」
楠木の含み笑いでようやく納得したように嵯峨は刀を手に部下達について歩き始めた。
0
お気に入りに追加
57
あなたにおすすめの小説
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く
ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。
5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。
夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
婚約破棄の後始末 ~息子よ、貴様何をしてくれってんだ!
タヌキ汁
ファンタジー
国一番の権勢を誇る公爵家の令嬢と政略結婚が決められていた王子。だが政略結婚を嫌がり、自分の好き相手と結婚する為に取り巻き達と共に、公爵令嬢に冤罪をかけ婚約破棄をしてしまう、それが国を揺るがすことになるとも思わずに。
これは馬鹿なことをやらかした息子を持つ父親達の嘆きの物語である。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
あなたがそう望んだから
まる
ファンタジー
「ちょっとアンタ!アンタよ!!アデライス・オールテア!」
思わず不快さに顔が歪みそうになり、慌てて扇で顔を隠す。
確か彼女は…最近編入してきたという男爵家の庶子の娘だったかしら。
喚き散らす娘が望んだのでその通りにしてあげましたわ。
○○○○○○○○○○
誤字脱字ご容赦下さい。もし電波な転生者に貴族の令嬢が絡まれたら。攻略対象と思われてる男性もガッチリ貴族思考だったらと考えて書いてみました。ゆっくりペースになりそうですがよろしければ是非。
閲覧、しおり、お気に入りの登録ありがとうございました(*´ω`*)
何となくねっとりじわじわな感じになっていたらいいのにと思ったのですがどうなんでしょうね?
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
【完結】そして、誰もいなくなった
杜野秋人
ファンタジー
「そなたは私の妻として、侯爵夫人として相応しくない!よって婚約を破棄する!」
愛する令嬢を傍らに声高にそう叫ぶ婚約者イグナシオに伯爵家令嬢セリアは誤解だと訴えるが、イグナシオは聞く耳を持たない。それどころか明らかに犯してもいない罪を挙げられ糾弾され、彼女は思わず彼に手を伸ばして取り縋ろうとした。
「触るな!」
だがその手をイグナシオは大きく振り払った。振り払われよろめいたセリアは、受け身も取れないまま仰向けに倒れ、頭を打って昏倒した。
「突き飛ばしたぞ」
「彼が手を上げた」
「誰か衛兵を呼べ!」
騒然となるパーティー会場。すぐさま会場警護の騎士たちに取り囲まれ、彼は「違うんだ、話を聞いてくれ!」と叫びながら愛人の令嬢とともに連行されていった。
そして倒れたセリアもすぐさま人が集められ運び出されていった。
そして誰もいなくなった。
彼女と彼と愛人と、果たして誰が悪かったのか。
これはとある悲しい、婚約破棄の物語である。
◆小説家になろう様でも公開しています。話数の関係上あちらの方が進みが早いです。
3/27、なろう版完結。あちらは全8話です。
3/30、小説家になろうヒューマンドラマランキング日間1位になりました!
4/1、完結しました。全14話。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」
音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。
本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。
しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。
*6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
仰っている意味が分かりません
水姫
ファンタジー
お兄様が何故か王位を継ぐ気満々なのですけれど、何を仰っているのでしょうか?
常識知らずの迷惑な兄と次代の王のやり取りです。
※過去に投稿したものを手直し後再度投稿しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる