レジェンド・オブ・ダーク 遼州司法局異聞

橋本 直

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第19章 戦士達

戦闘用人造人間

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「班長! どうですか? 二式は 」 

 キーラの言葉に明華はただ手を振るだけだった。それを見ると少し微笑んだキーラはそのまま奥のコーヒーメーカーに手を伸ばした。

「飲んじゃったんですか? 」 

「あ、一応空になったら次のを作る決まりだったわね。ごめんね 」 

 明華がそう言うとキーラに軽く頭を下げた。コーヒーメーカーを開けたキーラは使い古しの粉を隣の流しに置いた。

「ホプキンスさん。とりあえずかけていてください 」 

 キーラの言葉に甘えてクリスは空いていたパイプ椅子に腰掛ける。天井を見上げてぼんやりとしている御子神。コーヒーをすすりながら何も無い空間を考え事をしながら見つめているジェナン。借りてきた猫とでも言うようにそのジェナンを見つめているライラ。

「そう言えばミルクは無かったんでしたっけ? 」 

「そうね、しばらくはどたばたが続くでしょうから、手が空いたところで発注しておいてね 」

 相変わらず上の空と言うように明華が答えた。

「許中尉 」 

 クリスの呼びかけにだるそうに顔だけ向ける明華。

「確か君は15歳……」 

「16歳ですよ」 

 強気そうな明華だが、さすがに疲れていると言うように語気に力が無い。

「私の年で出撃は人道的じゃないと言うつもりなんでしょ? 別にいいですよ 」 

 そう言いながら微笑んだ明華が惰性で目の前のマグカップに手を出した。

「すっかりぬるくなっちゃったわね。キーラ、私のもお願い 」 

 そう言うと明華はマグカップをキーラに渡す。

「それと、シャムはいつまでそこでじっとしてるの? 」 

 明華の視線をたどった先、詰め所の入り口で行ったり来たりしているシャムがクリスの目に入った。シャムは照れながら熊太郎に外で待つようにと頭を撫でた後、おっかなびっくり詰め所に入ってきた。

「ココア! 」 

 シャムの叫び声が響く。どたばたが気になったのか奥の仮眠室からレムが顔を出した。

「レム! 」 

 シャムが抱きつこうとするのを片手で額を押さえて押しとどめる。

「お嬢さん、私に触れるとやけどしますぜ! 」 

「何かっこつけてんのよ、バーカ 」 

 明華の一言に頭を掻くレム。さすがにシャムの大声を聞きつけてルーラが出てきた。

「何? 何かあったの? 」 

「何も無いわよ。コーヒー飲む? 」 

 コーヒーメーカーをセットしたキーラが二人を眺める。

「私はもらおうかしら 」 

「それじゃあ私はブルマン 」 

「レム。そんなのあるわけ無いでしょ、と言うかどこでそんなの覚えたの? 」 

 呆れる明華。

「いやあ隊長が時々言うんでつい 」 

「あの人にも困ったものよね 」 

 そう言いながら明華は手にしていた二式の整備班が提出したらしいチェックシートを眺めていた。

「なんだか軍隊とは思えないですね 」 

 クリスがそう言うと明華は頭を抱えた。
「確かにそうかもしれないわね。周同志もそのことは気にかけてらっしゃるみたいだけど 」 

 苦笑いを浮かべながら明華がコーヒーメーカーに手を伸ばす。まだお湯が出来たばかりのようで暑い湯気に手をかざしてすぐにその手を引っ込める。その様子をニヤニヤしながら見つめるレム。

「ああ、あの紅茶おばさんの言うことは聞かないことにしてますんで 」 

「レム! 」 

 口を滑らせたレムを咎めるキーラ。レムは舌を出しておどけて見せる。

「紅茶おばさん? 」 

「ああ、周少将のイギリス趣味は有名だから。紅茶はすべてインド直送。趣味がクリケットと乗馬と狐狩り。まあ遼北の教条派が粛清に動いたのもその辺の趣味が災いしたんでしょうね 」

 明華はそう言うと再びチェックリストに集中し始めた。

「なんかにぎやかだな 」 

 そう言いながら入ってきたのはセニアだった。

「コーヒーなら予約は一杯よ 」 

 キーラの言葉にセニアは淡い笑みを浮かべる。

「シャムも飲むのか? 」 

「アタシはココア! 」 

「だからココアはもう無いの! 」 

 やけになって叫ぶキーラの声にシャムは困ったような顔をしてクリスを見上げた。

「あのー静かにしてくれないかな? 」 

 そう言ったのは一人二式の仕様書を読み続けていた御子神だった。ジェナンとライラと言えば、呆然と人造人間と明華、シャムのやり取りを見つめていた。

「はい! 入ったわよ 」 

 そう言うとキーラは明華、クリス、レム、ルーラ、御子神、ジェナン、ライラそして自分のカップを並べた。

「私のココアは? 」 

「だから無いんだって! 」 

 しょんぼりと下を向くシャム。

「すみませんねえ 」 

 ジェナンはそう言うとコーヒーをすすった。

「あの…… 」 

 ライラはカップを握ったまま不思議そうにキーラを見つめた。

「そう言えば東モスレムにはあまり私達みたいなのはいないらしいわね 」 

 キーラのその言葉にレム、ルーラ、そしてセニアがライラに視線をあわせる。

「確かにあまり見ないですし、もっと感情に起伏が無いとか言われていて…… 」 

「酷いわねえライラちゃん。私達だって人間なのよ。うれしいことがあれば喜ぶし、悲しいことがあれば泣くし、まずいコーヒーを飲めば入れた人間に文句を言うし…… 」 

「レム。文句があるならもう入れないわよ 」 

 カップを置いてキーラがレムをにらみつける。

「レムさんの言うとおりだ。ライラ。偏見で人を見るのはいけないな 」 

 ジェナンはそう言うと静かにコーヒーをすする。

「いいこと言うじゃないの、ジェナン君。それに良く見ると結構かっこいいし…… 」 

「色目を使うなレム! 」 

「なに? ルーラちゃんも目をつけてたの? 」 

「そう言う問題じゃない! 」 

「あのーもう少し静かにしてもらえませんか? 」 

 レムとルーラのやり取りとそれにかみつくタイミングを計っているライラの間に挟まれた御子神が懇願するように言った。

「無駄じゃないの。こんなことはいつものことじゃないの 」 

 平然と機体の整備状況のチェックシートをめくりながら明華はコーヒーをすすっていた。

 そこにドスンと引き戸が叩きつけられる音が響く。

「ぶったるんでるぞ! 貴様等! 」 

 そう叫んで入ってきたのは飯岡だった。ランニング姿のまま机の上のタオルで汗を拭う。

「あ! それ私の! 」 

 レムの言葉にタオルを眺める飯岡。

「別にいいだろうが! ランニングから帰ってきたところだ。汗をかくのが普通だろう! 」 

「それじゃあ雑巾にしましょう 」 

「リボンズ! 俺に喧嘩売ってるのか! 」 

 怒鳴りつけた飯岡だが、彼を見つめる視線の冷たさに手にしたタオルを戻した。

「それじゃあシャワーでも浴びるかな…… 」 

「ここにもシャワーあるよ 」 

 シャムの一言に口元を引きつらせる飯岡。

「うるせえ! 俺は本部のシャワーを浴びたくなったんだ! 」 

 そう言うとそのまま飯岡は出て行った。

「全く何しにきたんだか…… 」 

 コーヒーをすすりながらチェックリストの整理が終わった明華が立ち上がる。

「すいません、ちょっと聞きたいんですけど……皆さんは何で戦ってるんですか? 」 

 突然のジェナンの言葉に明華は視線を彼に向けた。

「私は任務だからよ 」 

 そう言うと明華はチェックリストを手に出て行く。

「私は何かな…… 」 

 言われた言葉の意味を図りかねて天井を見上げるレム。ルーラも答えに窮してとりあえずコーヒーを啜っている。
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