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第13章 外交交渉
父親の顔
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「人民軍の北兼軍閥に対する…… 」
「嫌だね! 」
別所の言葉を聞くまでも無く嵯峨は吐き捨てていた。
「どうせあれだろ? 人民軍に圧力かけて講和のテーブルを用意しろってことだろ? 兄貴らしいや。言いだしっぺは南都のブルゴーニュ辺りか? あいつもゴンザレスの後釜狙うんだったらもう少し自分で手を汚せってんだ! 」
クリスはそこまで聞いて別所の意図、そして西園寺義基の考えがわかってきていた。アンリ・ブルゴーニュ。フランス貴族の血を引く遼南の名門に生まれた彼がゴンザレス政権へのアメリカ軍の支援を取り付けた本人だった。彼の地盤の南都にはアメリカ海軍の基地があり、ゴンザレス政権支援の為、遼南に上陸したアメリカ軍十五万の兵力は南都から運ばれる物資で支えられていた。だが次第に旗色の悪くなる共和軍との関係の見直しを図り始めたブルゴーニュ候は米軍とともに手の引きどころを考えていると言う噂もまことしやかにささやかれていたのは事実だった。
「しかし、人民政府の…… 」
「だからさあ。ダワイラ・マケイとアンリ・ブルゴーニュ。二人のどちらかを信じろといわれたら俺の回答は決まってんだよ 」
それが嵯峨の答え。クリスには興味深い嵯峨の本音だった。遼北の社会主義政権の支援を受ける人民軍に嵯峨が参加することに不自然さを感じていたクリスだが、思いも寄らない嵯峨の本音がその領袖への信頼感であることを知ってなぜか好感を覚えた。
『この男も人間なんだな 』
目の前で困ったように黙り込む別所をにらみつけるのもそう言う嵯峨の人間的な付き合いを優先する人柄と言うことを考えてみれば理解できるところだった。取り付く島の無い嵯峨の態度に、別所はとりあえず姿勢をただし嵯峨の目を見据えることにした。
「まあ仕事の話はこれくらいにしてと…… 」
嵯峨は立ち上がると部屋に備え付けの冷蔵庫を漁った。手にしたのは日本酒の四合瓶。ラベルは無かった。
「ホプキンスさんは日本酒大丈夫ですか? 」
「ええ、好きですよ 」
そんな言葉を確認すると湯飲みを三つ嵯峨は取り出して並べる。
「まあ、遠いところ無駄足となるとわかって来てもらったんだ 」
嵯峨はそう言いながら湯飲みに酒を注ぐ。
「話は変わるが、東和経由かい? 」
そのまま安物の湯飲みになみなみと日本酒が注がれた湯飲みを別所に差し出す。
「ええ、茜様にも…… 」
「おいおい、様はねえだろ。あんな餓鬼 」
そう言いながら酒を舐める嵯峨。
「それより、兄貴のところのかえではどうだ? お前が鍛えてんだろ? 」
そう言って別所の目の前にも湯飲みを置いて酒を注ぐ。
「かえで様は非常に筋が良いですね。この前も特戦の模擬戦で苦杯を舐めましたよ 」
「へえ、あいつがねえ。道理で俺も年を取るわけだ 」
嵯峨はそう言いながら再び立ち上がる。そして戸棚から醤油につけられた山菜の瓶を取り出した。
「とりあえずここいらの名産のつまみだ。酒も兼州のそれなりに知られた酒蔵なんだぜ、胡州や東和の酒蔵にも負けてないだろ? 」
嵯峨はニヤニヤと笑いながら別所が酒を飲む様を見つめていた。
「それと康子様から…… 」
嵯峨はその言葉を聞くと電流が走ったように硬直した。クリスは驚いた。恐怖する嵯峨を想像していなかった自分に。
「どうしたんだ? 姉上が……? 」
西園寺義基の妻、康子。戸籍上は義理の姉だが、血縁としては康子は嵯峨の母エニカの妹に当たる。胡州王族の有力氏族カグラーヌバ家の娘でもあった
「康子様はおっしゃられました…… 」
「信じたようにやれ。か? 」
「はい 」
嵯峨はとりあえず肩をなでおろして静かに湯飲みの酒を舐めた。
「それが一番難しいんだがねえ 」
そう言うと瓶から木の芽を取り出して口にほうりこんだ。
「嫌だね! 」
別所の言葉を聞くまでも無く嵯峨は吐き捨てていた。
「どうせあれだろ? 人民軍に圧力かけて講和のテーブルを用意しろってことだろ? 兄貴らしいや。言いだしっぺは南都のブルゴーニュ辺りか? あいつもゴンザレスの後釜狙うんだったらもう少し自分で手を汚せってんだ! 」
クリスはそこまで聞いて別所の意図、そして西園寺義基の考えがわかってきていた。アンリ・ブルゴーニュ。フランス貴族の血を引く遼南の名門に生まれた彼がゴンザレス政権へのアメリカ軍の支援を取り付けた本人だった。彼の地盤の南都にはアメリカ海軍の基地があり、ゴンザレス政権支援の為、遼南に上陸したアメリカ軍十五万の兵力は南都から運ばれる物資で支えられていた。だが次第に旗色の悪くなる共和軍との関係の見直しを図り始めたブルゴーニュ候は米軍とともに手の引きどころを考えていると言う噂もまことしやかにささやかれていたのは事実だった。
「しかし、人民政府の…… 」
「だからさあ。ダワイラ・マケイとアンリ・ブルゴーニュ。二人のどちらかを信じろといわれたら俺の回答は決まってんだよ 」
それが嵯峨の答え。クリスには興味深い嵯峨の本音だった。遼北の社会主義政権の支援を受ける人民軍に嵯峨が参加することに不自然さを感じていたクリスだが、思いも寄らない嵯峨の本音がその領袖への信頼感であることを知ってなぜか好感を覚えた。
『この男も人間なんだな 』
目の前で困ったように黙り込む別所をにらみつけるのもそう言う嵯峨の人間的な付き合いを優先する人柄と言うことを考えてみれば理解できるところだった。取り付く島の無い嵯峨の態度に、別所はとりあえず姿勢をただし嵯峨の目を見据えることにした。
「まあ仕事の話はこれくらいにしてと…… 」
嵯峨は立ち上がると部屋に備え付けの冷蔵庫を漁った。手にしたのは日本酒の四合瓶。ラベルは無かった。
「ホプキンスさんは日本酒大丈夫ですか? 」
「ええ、好きですよ 」
そんな言葉を確認すると湯飲みを三つ嵯峨は取り出して並べる。
「まあ、遠いところ無駄足となるとわかって来てもらったんだ 」
嵯峨はそう言いながら湯飲みに酒を注ぐ。
「話は変わるが、東和経由かい? 」
そのまま安物の湯飲みになみなみと日本酒が注がれた湯飲みを別所に差し出す。
「ええ、茜様にも…… 」
「おいおい、様はねえだろ。あんな餓鬼 」
そう言いながら酒を舐める嵯峨。
「それより、兄貴のところのかえではどうだ? お前が鍛えてんだろ? 」
そう言って別所の目の前にも湯飲みを置いて酒を注ぐ。
「かえで様は非常に筋が良いですね。この前も特戦の模擬戦で苦杯を舐めましたよ 」
「へえ、あいつがねえ。道理で俺も年を取るわけだ 」
嵯峨はそう言いながら再び立ち上がる。そして戸棚から醤油につけられた山菜の瓶を取り出した。
「とりあえずここいらの名産のつまみだ。酒も兼州のそれなりに知られた酒蔵なんだぜ、胡州や東和の酒蔵にも負けてないだろ? 」
嵯峨はニヤニヤと笑いながら別所が酒を飲む様を見つめていた。
「それと康子様から…… 」
嵯峨はその言葉を聞くと電流が走ったように硬直した。クリスは驚いた。恐怖する嵯峨を想像していなかった自分に。
「どうしたんだ? 姉上が……? 」
西園寺義基の妻、康子。戸籍上は義理の姉だが、血縁としては康子は嵯峨の母エニカの妹に当たる。胡州王族の有力氏族カグラーヌバ家の娘でもあった
「康子様はおっしゃられました…… 」
「信じたようにやれ。か? 」
「はい 」
嵯峨はとりあえず肩をなでおろして静かに湯飲みの酒を舐めた。
「それが一番難しいんだがねえ 」
そう言うと瓶から木の芽を取り出して口にほうりこんだ。
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