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第12章 卑怯者の挽歌
たどり着いた結論
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目の前のモニターの電源が落ちてコックピットが開く。嵯峨は満足げにその様を見つめていた。クリスが降り立つとすばやく青いつなぎの集団がそれを取り巻いた。
「嵯峨中佐。機体の感触は…… 」
「遊びが多すぎるよ。あれじゃあ機体の制御に誤差が出る。もう少し調整してくれないと次乗る気無くすよ 」
「ですが、あれでもかなり…… 」
技術主任を問い詰めている嵯峨。その周りの菱川の技術者は機体を固定して装甲板の排除にかかった。
「あれでは話は聞けませんね 」
降り立ったクリスの前にシンが立っていた。彼は静かにタバコをくゆらせながら周りの光景を眺めていた。
「さすがに北兼王殿下の御威光という奴ですね。正直これほどにゲリラの支援を受けられるとは…… 」
本部のビルの前にはまちまちの民族衣装を着た山岳ゲリラ達が並んでいる軍服の支給を受ける列が出来ていた。
「私が出るときはこんな風になるとは…… 」
「おそらく嵯峨中佐はすべてを計算に入れて情報を流していたのでしょう。山岳民族にとって右派民兵組織とそれを指導するアメリカ陸軍特殊部隊は恐怖の対象でしたから。それに悲劇の北兼王、ムジャンタ・ラスコーは彼らにとっては今でも彼らを導く若き指導者と言うことなのでしょうね 」
そう言いながらシンはそのまま軍服の支給を行っている伊藤のところに近づいていった。だがゲリラ達があちらこちらで立ったまま雑談をしているのでまっすぐ歩くことは出来なかった。
「それであなたはどうするつもりですか 」
クリスの目の前を歩く髭を蓄えた青年将校シンに尋ねていた。
「おそらくこの状況は、ゴンザレス政権になびいた背教者達の弾丸が発射された瞬間から仕組まれていた。そして我々には共和軍と背教者が闊歩する状況を受け入れることはできない 」
「それは西部戦線を突破しての帰還を果たすということですか? 」
クリスの言葉に、シンはタバコをもみ消すという言葉で応じた。
「それは上層部の指示があればそう動くつもりですが、私個人としては嵯峨と言う人物に興味があります。この状況を作り出した男が何を狙っているのか、それを知らなければ次の手をこちらも打つことができないですよ 」
シンの言葉にクリスはハンガーの方を振り向いた。カネミツの前部装甲板は剥がされ、駆動系部品が取り外されて冷却コンテナに収容されている。その様を見つめる嵯峨には技術者が張り付いて各部位の調整に関する説明でもしているのだろう。
「ようこそ、人民軍西部軍管区へ! 」
シンに向けて言葉をかけたのは伊藤だった。シンは人民軍の政治将校の制服を着た伊藤を棘のある視線で迎えた。
「やはりその目は見たくも無いものを見たという目ですか? 」
「私は無神論者とは関わりたくないんだ 」
シンはそう言うと再びタバコを口にくわえる。そしてくわえた紙タバコの先に火が灯った。クリスは目を疑った。ライターを使ったわけでは無かった。それ以前にタバコにシンは触れてもいない。典型的な発火能力『パイロキネシス 』
「そんなに簡単に法術を見せてもいいんですかねえ 」
「なあに、この程度の芸当なら地球の手品師だってやることですよ 」
伊藤の言葉に笑みで答えるシン。クリスは二人がぐるになって自分をからかっているような妄想に取り付かれていた。
「こんな力、遼州ではそれほど珍しい能力ではありませんから。ひところの自爆テロではよく使われた能力ですよ。まあこのくらいに制御できるってのは私の自慢ではありますがね 」
シンは大きくタバコの煙を吸い込んだ。
「それもまた遼州人の法術の特性、『空間干渉能力 』の成せる技なんだよねえ 」
クリスが振り向いた先にはいつの間にか嵯峨が立っていた。
「機体のほうは? 」
「ああ、やっぱり技術屋さんが乗って調整した方が早いらしいんで。それでホプキンスさん。次の出撃の時はシャムの後ろに乗ってもらいますよ 」
嵯峨はそう言うとタバコを口にくわえる。彼のタバコもシンが目を合わせたときには自然に火が付いて煙を上げ始めていた。
「秘術の安売りは命を縮めますよ 」
シンにそう言いながら嵯峨は満足そうにタバコを吸った。
「嵯峨中佐。機体の感触は…… 」
「遊びが多すぎるよ。あれじゃあ機体の制御に誤差が出る。もう少し調整してくれないと次乗る気無くすよ 」
「ですが、あれでもかなり…… 」
技術主任を問い詰めている嵯峨。その周りの菱川の技術者は機体を固定して装甲板の排除にかかった。
「あれでは話は聞けませんね 」
降り立ったクリスの前にシンが立っていた。彼は静かにタバコをくゆらせながら周りの光景を眺めていた。
「さすがに北兼王殿下の御威光という奴ですね。正直これほどにゲリラの支援を受けられるとは…… 」
本部のビルの前にはまちまちの民族衣装を着た山岳ゲリラ達が並んでいる軍服の支給を受ける列が出来ていた。
「私が出るときはこんな風になるとは…… 」
「おそらく嵯峨中佐はすべてを計算に入れて情報を流していたのでしょう。山岳民族にとって右派民兵組織とそれを指導するアメリカ陸軍特殊部隊は恐怖の対象でしたから。それに悲劇の北兼王、ムジャンタ・ラスコーは彼らにとっては今でも彼らを導く若き指導者と言うことなのでしょうね 」
そう言いながらシンはそのまま軍服の支給を行っている伊藤のところに近づいていった。だがゲリラ達があちらこちらで立ったまま雑談をしているのでまっすぐ歩くことは出来なかった。
「それであなたはどうするつもりですか 」
クリスの目の前を歩く髭を蓄えた青年将校シンに尋ねていた。
「おそらくこの状況は、ゴンザレス政権になびいた背教者達の弾丸が発射された瞬間から仕組まれていた。そして我々には共和軍と背教者が闊歩する状況を受け入れることはできない 」
「それは西部戦線を突破しての帰還を果たすということですか? 」
クリスの言葉に、シンはタバコをもみ消すという言葉で応じた。
「それは上層部の指示があればそう動くつもりですが、私個人としては嵯峨と言う人物に興味があります。この状況を作り出した男が何を狙っているのか、それを知らなければ次の手をこちらも打つことができないですよ 」
シンの言葉にクリスはハンガーの方を振り向いた。カネミツの前部装甲板は剥がされ、駆動系部品が取り外されて冷却コンテナに収容されている。その様を見つめる嵯峨には技術者が張り付いて各部位の調整に関する説明でもしているのだろう。
「ようこそ、人民軍西部軍管区へ! 」
シンに向けて言葉をかけたのは伊藤だった。シンは人民軍の政治将校の制服を着た伊藤を棘のある視線で迎えた。
「やはりその目は見たくも無いものを見たという目ですか? 」
「私は無神論者とは関わりたくないんだ 」
シンはそう言うと再びタバコを口にくわえる。そしてくわえた紙タバコの先に火が灯った。クリスは目を疑った。ライターを使ったわけでは無かった。それ以前にタバコにシンは触れてもいない。典型的な発火能力『パイロキネシス 』
「そんなに簡単に法術を見せてもいいんですかねえ 」
「なあに、この程度の芸当なら地球の手品師だってやることですよ 」
伊藤の言葉に笑みで答えるシン。クリスは二人がぐるになって自分をからかっているような妄想に取り付かれていた。
「こんな力、遼州ではそれほど珍しい能力ではありませんから。ひところの自爆テロではよく使われた能力ですよ。まあこのくらいに制御できるってのは私の自慢ではありますがね 」
シンは大きくタバコの煙を吸い込んだ。
「それもまた遼州人の法術の特性、『空間干渉能力 』の成せる技なんだよねえ 」
クリスが振り向いた先にはいつの間にか嵯峨が立っていた。
「機体のほうは? 」
「ああ、やっぱり技術屋さんが乗って調整した方が早いらしいんで。それでホプキンスさん。次の出撃の時はシャムの後ろに乗ってもらいますよ 」
嵯峨はそう言うとタバコを口にくわえる。彼のタバコもシンが目を合わせたときには自然に火が付いて煙を上げ始めていた。
「秘術の安売りは命を縮めますよ 」
シンにそう言いながら嵯峨は満足そうにタバコを吸った。
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