レジェンド・オブ・ダーク 遼州司法局異聞

橋本 直

文字の大きさ
上 下
944 / 1,503
第12章 卑怯者の挽歌

たどり着いた結論

しおりを挟む
 目の前のモニターの電源が落ちてコックピットが開く。嵯峨は満足げにその様を見つめていた。クリスが降り立つとすばやく青いつなぎの集団がそれを取り巻いた。

「嵯峨中佐。機体の感触は…… 」 

「遊びが多すぎるよ。あれじゃあ機体の制御に誤差が出る。もう少し調整してくれないと次乗る気無くすよ 」 

「ですが、あれでもかなり…… 」 

 技術主任を問い詰めている嵯峨。その周りの菱川の技術者は機体を固定して装甲板の排除にかかった。

「あれでは話は聞けませんね 」 

 降り立ったクリスの前にシンが立っていた。彼は静かにタバコをくゆらせながら周りの光景を眺めていた。

「さすがに北兼王殿下の御威光という奴ですね。正直これほどにゲリラの支援を受けられるとは…… 」 

 本部のビルの前にはまちまちの民族衣装を着た山岳ゲリラ達が並んでいる軍服の支給を受ける列が出来ていた。

「私が出るときはこんな風になるとは…… 」 

「おそらく嵯峨中佐はすべてを計算に入れて情報を流していたのでしょう。山岳民族にとって右派民兵組織とそれを指導するアメリカ陸軍特殊部隊は恐怖の対象でしたから。それに悲劇の北兼王、ムジャンタ・ラスコーは彼らにとっては今でも彼らを導く若き指導者と言うことなのでしょうね 」 

 そう言いながらシンはそのまま軍服の支給を行っている伊藤のところに近づいていった。だがゲリラ達があちらこちらで立ったまま雑談をしているのでまっすぐ歩くことは出来なかった。

「それであなたはどうするつもりですか 」 

 クリスの目の前を歩く髭を蓄えた青年将校シンに尋ねていた。

「おそらくこの状況は、ゴンザレス政権になびいた背教者達の弾丸が発射された瞬間から仕組まれていた。そして我々には共和軍と背教者が闊歩する状況を受け入れることはできない 」 

「それは西部戦線を突破しての帰還を果たすということですか? 」 

 クリスの言葉に、シンはタバコをもみ消すという言葉で応じた。

「それは上層部の指示があればそう動くつもりですが、私個人としては嵯峨と言う人物に興味があります。この状況を作り出した男が何を狙っているのか、それを知らなければ次の手をこちらも打つことができないですよ 」 

 シンの言葉にクリスはハンガーの方を振り向いた。カネミツの前部装甲板は剥がされ、駆動系部品が取り外されて冷却コンテナに収容されている。その様を見つめる嵯峨には技術者が張り付いて各部位の調整に関する説明でもしているのだろう。

「ようこそ、人民軍西部軍管区へ! 」 

 シンに向けて言葉をかけたのは伊藤だった。シンは人民軍の政治将校の制服を着た伊藤を棘のある視線で迎えた。

「やはりその目は見たくも無いものを見たという目ですか? 」 

「私は無神論者とは関わりたくないんだ 」 

 シンはそう言うと再びタバコを口にくわえる。そしてくわえた紙タバコの先に火が灯った。クリスは目を疑った。ライターを使ったわけでは無かった。それ以前にタバコにシンは触れてもいない。典型的な発火能力『パイロキネシス 』

「そんなに簡単に法術を見せてもいいんですかねえ 」 

「なあに、この程度の芸当なら地球の手品師だってやることですよ 」 

 伊藤の言葉に笑みで答えるシン。クリスは二人がぐるになって自分をからかっているような妄想に取り付かれていた。

「こんな力、遼州ではそれほど珍しい能力ではありませんから。ひところの自爆テロではよく使われた能力ですよ。まあこのくらいに制御できるってのは私の自慢ではありますがね 」 

 シンは大きくタバコの煙を吸い込んだ。

「それもまた遼州人の法術の特性、『空間干渉能力 』の成せる技なんだよねえ 」 

 クリスが振り向いた先にはいつの間にか嵯峨が立っていた。

「機体のほうは? 」 

「ああ、やっぱり技術屋さんが乗って調整した方が早いらしいんで。それでホプキンスさん。次の出撃の時はシャムの後ろに乗ってもらいますよ 」 

 嵯峨はそう言うとタバコを口にくわえる。彼のタバコもシンが目を合わせたときには自然に火が付いて煙を上げ始めていた。

「秘術の安売りは命を縮めますよ 」 

 シンにそう言いながら嵯峨は満足そうにタバコを吸った。
しおりを挟む
感想 7

あなたにおすすめの小説

特殊装甲隊 ダグフェロン 『廃帝と永遠の世紀末』 第三部 『暗黒大陸』

橋本 直
SF
遼州司法局も法術特捜の発足とともに実働部隊、機動隊、法術特捜の三部体制が確立することとなった。 それまで東和陸軍教導隊を兼務していた小さな隊長、クバルカ・ラン中佐が実働部隊副隊長として本異動になることが決まった。 彼女の本拠地である東和陸軍教導隊を訪ねた神前誠に法術兵器の実験に任務が課せられた。それは広域にわたり兵士の意識を奪ってしまうという新しい発想の非破壊兵器だった。 実験は成功するがチャージの時間等、運用の難しい兵器と判明する。 一方実働部隊部隊長嵯峨惟基は自分が領邦領主を務めている貴族制国家甲武国へ飛んだ。そこでは彼の両方を西園寺かなめの妹、日野かえでに継がせることに関する会議が行われる予定だった。 一方、南の『魔窟』と呼ばれる大陸ベルルカンの大国、バルキスタンにて総選挙が予定されており、実働部隊も支援部隊を派遣していた。だが選挙に不満を持つ政府軍、反政府軍の駆け引きが続いていた。 嵯峨は万が一の両軍衝突の際アメリカの介入を要請しようとする兄である西園寺義基のシンパである甲武軍部穏健派を牽制しつつ貴族の群れる会議へと向かった。 そしてそんな中、バルキスタンで反政府軍が機動兵器を手に入れ政府軍との全面衝突が発生する。 誠は試験が済んだばかりの非破壊兵器を手に戦線の拡大を防ぐべく出撃するのだった。

法術装甲隊ダグフェロン 永遠に続く世紀末の国で 野球と海と『革命家』

橋本 直
SF
その文明は出会うべきではなかった その人との出会いは歓迎すべきものではなかった これは悲しい『出会い』の物語 『特殊な部隊』と出会うことで青年にはある『宿命』がせおわされることになる 法術装甲隊ダグフェロン 第二部  遼州人の青年『神前誠(しんぜんまこと)』が発動した『干渉空間』と『光の剣(つるぎ)により貴族主義者のクーデターを未然に防止することが出来た『近藤事件』が終わってから1か月がたった。 宇宙は誠をはじめとする『法術師』の存在を公表することで混乱に陥っていたが、誠の所属する司法局実働部隊、通称『特殊な部隊』は相変わらずおバカな生活を送っていた。 そんな『特殊な部隊』の運用艦『ふさ』艦長アメリア・クラウゼ中佐と誠の所属するシュツルム・パンツァーパイロット部隊『機動部隊第一小隊』のパイロットでサイボーグの西園寺かなめは『特殊な部隊』の野球部の夏合宿を企画した。 どうせろくな事が起こらないと思いながら仕事をさぼって参加する誠。 そこではかなめがいかに自分とはかけ離れたお嬢様で、貴族主義の国『甲武国』がどれほど自分の暮らす永遠に続く20世紀末の東和共和国と違うのかを誠は知ることになった。 しかし、彼を待っていたのは『法術』を持つ遼州人を地球人から解放しようとする『革命家』の襲撃だった。 この事件をきっかけに誠の身辺警護の必要性から誠の警護にアメリア、かなめ、そして無表情な人造人間『ラスト・バタリオン』の第一小隊小隊長カウラ・ベルガー大尉がつくことになる。 これにより誠の暮らす『男子下士官寮』は有名無実化することになった。 そんなおバカな連中を『駄目人間』嵯峨惟基特務大佐と機動部隊隊長クバルカ・ラン中佐は生暖かい目で見守っていた。 そんな『特殊な部隊』の意図とは関係なく着々と『力ある者の支配する宇宙』の実現を目指す『廃帝ハド』の野望はゆっくりと動き出しつつあった。 SFお仕事ギャグロマン小説。

「おまえを愛することはない!」と言ってやったのに、なぜ無視するんだ!

七辻ゆゆ
ファンタジー
俺を見ない、俺の言葉を聞かない、そして触れられない。すり抜ける……なぜだ? 俺はいったい、どうなっているんだ。 真実の愛を取り戻したいだけなのに。

てめぇの所為だよ

章槻雅希
ファンタジー
王太子ウルリコは政略によって結ばれた婚約が気に食わなかった。それを隠そうともせずに臨んだ婚約者エウフェミアとの茶会で彼は自分ばかりが貧乏くじを引いたと彼女を責める。しかし、見事に返り討ちに遭うのだった。 『小説家になろう』様・『アルファポリス』様の重複投稿、自サイトにも掲載。

無能なので辞めさせていただきます!

サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。 マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。 えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって? 残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、 無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって? はいはいわかりました。 辞めますよ。 退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。 自分無能なんで、なんにもわかりませんから。 カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。

学園長からのお話です

ラララキヲ
ファンタジー
 学園長の声が学園に響く。 『昨日、平民の女生徒の食べていたお菓子を高位貴族の令息5人が取り囲んで奪うという事がありました』  昨日ピンク髪の女生徒からクッキーを貰った自覚のある王太子とその側近4人は項垂れながらその声を聴いていた。  学園長の話はまだまだ続く…… ◇テンプレ乙女ゲームになりそうな登場人物(しかし出てこない) ◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。 ◇なろうにも上げています。

【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる

三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。 こんなはずじゃなかった! 異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。 珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に! やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活! 右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり! アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

処理中です...