レジェンド・オブ・ダーク 遼州司法局異聞

橋本 直

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第12章 卑怯者の挽歌

試験運用

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『やはりこの人は信用は出来ない 』 

 そんな言葉が意識を引き回す。カネミツの速度は四式をはるかに凌ぐ。音速は軽く超えているらしく、振り返れば低空を進むカネミツの起こす衝撃波に木々がなぎ倒されているのが見えた。

「こんなに機動性上げる必要性あるのかねえ 」 

 嵯峨はそう言いながらも速度を落とすつもりは無いようだった。

「見えた! 」 

 嵯峨はそう言うと急制動をかけた。コックピットの重力制御能力は四式のそれとは比べ物にならないようで、嵯峨のくわえたタバコからの煙も真っ直ぐに真上の空調に吸い込まれている。

「さあて、まずは運動性能と装甲のテストかな 」 

 そう言う嵯峨に地面からの対空ミサイルランチャーのものと思われるロックオンゲージが点滅する。

「今度は止まってやるから当て放題だ。やれるならやってみろよ! 」 

 嵯峨の言葉に合わせたように針葉樹の森からミサイルが発射される。五発はあるだろうか、クリスの見ている前で嵯峨が操縦棹を細かく動かす。どのミサイルも紙一重でかわした嵯峨は、そのままミサイルが発射された森に機体を突っ込んだ。

「お礼だよ。受け取りな! 」 

 対人兵器が炸裂する。そして森にはいくつものクレーターが出来ていた。

「おいおい、まだ状況がつかめて無いのかねえ。教導士官はアメリカさん? それともジョンブルか? 」 

 そう言うと嵯峨はそのままカネミツを歩かせた。木々をなぎ倒し、進むカネミツに逃げ惑う民兵がアサルトライフルで反撃する。

「おいおい、逃げても良いんだぜ、って言うか逃げろよ馬鹿 」 

 嵯峨はそのままカネミツを停止させた。しかし、なぜか嵯峨はそこで機体を中腰の姿勢に変えた。その頭上を低進する砲火が走る。 

「なるほど、対アサルトライフル砲の配置は教本通りだな。なら少し教育してやろう 」 

 そのまま発射された地点へと走るカネミツ。森が開けた小山に築かれたトーチカ。そこに嵯峨はレールガンの銃口を突っ込んだ。

「ご苦労さん! 」 

 一撃でトーチカは吹き飛んだ。そして嵯峨はそのまま山の後ろに合った廃鉱山の入り口を見据える。

「ここの教導士官は馬鹿か? まだアサルト・モジュールを出さないなんて。しばらく眺めてみますか 」 

 嵯峨はそう言うとカネミツを見て逃げ惑う民兵達を後目にタバコをゆったりとふかす。坑道の一つからようやくM5が姿を現す。

「はい、そっちから撃てよ。そうしないとデータも取れねえ 」 

 嵯峨の言葉を聞いてでもいるかのように5機のM5は左右に展開を始めた。

 カネミツはM5の展開を見て跳ね上がる。

「脚部アクチュエーターのパワーは十分か。それじゃあパルスエンジンの微調整を兼ねまして! 」 

 上空に跳ね上がったカネミツの動きについていけない民兵組織のM5。ようやく彼らがモニターでカネミツを捕らえられるようになった時にはカネミツの左手にはサーベルが抜き放たれていた。

「まずは一機か? 」 

 嵯峨のとぼけた声がコックピットに響く。クリスの目の前で、民兵のM5が頭から一刀両断にされる。

「次! 」 

 そのまま剣は左に跳ねた。隣でレールガンを構えようとしているM5の腕が切り落とされる。

「あのねえ、同士討ちってこと考えないのかな? 」 

 再び跳ね上がったカネミツを狙ったレールガンの砲火が腕を失った友軍機のコックピットを炎に包んだ。

「落ち着いて行けば、そんなことにはならなかったんだがな! 」 

 叫び声を上げる嵯峨、滞空しながら残り3機の民兵側のアサルト・モジュールにレールガンの弾丸を配って回る。

「データにもならねえな。こりゃあしばらく試験を続ける必要有りかねえ 」 
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