レジェンド・オブ・ダーク 遼州司法局異聞

橋本 直

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第12章 卑怯者の挽歌

悪党の出撃

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「寒くないですか? 」 

 そんなクリスの言葉に、嵯峨は笑みで返した。

「おい、出るぞ 」 

 そう言うと嵯峨はコックピットハッチと装甲板を下ろす。鮮明な全周囲モニターの光。クリスの後部座席にはデータ収集用の機材が置かれている。

「あの、嵯峨中佐。本当に私が乗って良かったんですか? 」 

「ああ、その装置は自動で動くでしょ? こっちはこの機体の開発にそれなりの投資はしてきたんだ。わがままの一つや二つ、覚悟しておいてもらわないと 」 

 そう言うと嵯峨はカネミツに接続されたコードを次々とパージしていく。

「さて、戦争に出かけますか 」

 嵯峨は笑っている。クリスの背筋に寒いものが走った。全周囲モニターにはすぐに先行した部下達のウィンドーが開かれる。

「セニア! 明華と御子神のことよろしく頼むぜ。それとルーラ! 」 

「はい! 」 

 長身のルーラだが画面の中では頭が小さく見える。

「レムは初陣だ。まあとりあえず戦場の感覚だけ覚えさせろ。飯岡もできるだけ自重するように。今回は俺の馬車馬の試験が主要目的だ。あちらさんの虎の子のM5が出てきたら俺に回せ! 」 

 セニアもルーラも落ち着いたものだった。レムもいつもの能天気な表情を保っている。

「まあ今回はあいつ等も出したくは無かったんですがね 」 

 嵯峨はそう言うとエンジン出力を上げていく。

「なるほどねえ。前の試験の時よりかなり精神的負担は少なくなってるな。これなら使えるかも 」 

「中佐! 兵装ですが…… 」 

「法術兵器は俺とは相性が悪いからな。レールガンでかまわねえよ 」 

 キーラはすばやく指示を出し、四式と同形のレールガンをクレーンで回してくる。『法術兵器 』と言う聞き慣れない言葉に戸惑うクリスだが嵯峨に聞くだけ無駄なのは分かっていた。

「今回は機体そのもののスペックの検証がメインだからねえ 」 

 レールガンを受け取ると嵯峨は一歩カネミツを進めた。エンジン出力を示すゲージがさらに上昇している。

「大丈夫なんですか? 」 

 クリスは思わずそう尋ねていた。嵯峨は振り返ると残忍な笑みを浮かべる。

「そんなに心配なら降りますか? 」 

「いいえ、これも仕事ですから 」 

 クリスのその言葉を確認すると嵯峨はパルスエンジンに動力を供給する。

「いやあ、凄いねえこの出力係数。最新型の重力制御式コックピットじゃなきゃ三割のパワーで急発進、急制動かけたらミンチになるぜ 」 

 のんびりとそう言うと嵯峨は機体をゆっくりと浮上させる。

「楠木。歩兵部隊の出動は? 」 

 嵯峨は画像の無い機械化歩兵部隊の指揮をしている楠木に声をかける。

「はい、すべて予定通りに進行しています。呼応する山岳部族も敵の訓練キャンプの位置への移動を開始しています 」 

「それは重畳 」 

 嵯峨は余裕のある言葉で答える。

「じゃあ行きますか 」 

 機体が急激に持ち上げられる。パルスエンジンが四式の時とは変わって悲鳴を上げるような音を立てた。

「ほんじゃまあ、ねえ 」 

 そう言うと嵯峨はそのまま一直線に渓谷にカネミツを滑らせた。

 正直なところクリスは乗ったことを後悔していた。
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