レジェンド・オブ・ダーク 遼州司法局異聞

橋本 直

文字の大きさ
上 下
939 / 1,505
第12章 卑怯者の挽歌

悪党の出撃

しおりを挟む
「寒くないですか? 」 

 そんなクリスの言葉に、嵯峨は笑みで返した。

「おい、出るぞ 」 

 そう言うと嵯峨はコックピットハッチと装甲板を下ろす。鮮明な全周囲モニターの光。クリスの後部座席にはデータ収集用の機材が置かれている。

「あの、嵯峨中佐。本当に私が乗って良かったんですか? 」 

「ああ、その装置は自動で動くでしょ? こっちはこの機体の開発にそれなりの投資はしてきたんだ。わがままの一つや二つ、覚悟しておいてもらわないと 」 

 そう言うと嵯峨はカネミツに接続されたコードを次々とパージしていく。

「さて、戦争に出かけますか 」

 嵯峨は笑っている。クリスの背筋に寒いものが走った。全周囲モニターにはすぐに先行した部下達のウィンドーが開かれる。

「セニア! 明華と御子神のことよろしく頼むぜ。それとルーラ! 」 

「はい! 」 

 長身のルーラだが画面の中では頭が小さく見える。

「レムは初陣だ。まあとりあえず戦場の感覚だけ覚えさせろ。飯岡もできるだけ自重するように。今回は俺の馬車馬の試験が主要目的だ。あちらさんの虎の子のM5が出てきたら俺に回せ! 」 

 セニアもルーラも落ち着いたものだった。レムもいつもの能天気な表情を保っている。

「まあ今回はあいつ等も出したくは無かったんですがね 」 

 嵯峨はそう言うとエンジン出力を上げていく。

「なるほどねえ。前の試験の時よりかなり精神的負担は少なくなってるな。これなら使えるかも 」 

「中佐! 兵装ですが…… 」 

「法術兵器は俺とは相性が悪いからな。レールガンでかまわねえよ 」 

 キーラはすばやく指示を出し、四式と同形のレールガンをクレーンで回してくる。『法術兵器 』と言う聞き慣れない言葉に戸惑うクリスだが嵯峨に聞くだけ無駄なのは分かっていた。

「今回は機体そのもののスペックの検証がメインだからねえ 」 

 レールガンを受け取ると嵯峨は一歩カネミツを進めた。エンジン出力を示すゲージがさらに上昇している。

「大丈夫なんですか? 」 

 クリスは思わずそう尋ねていた。嵯峨は振り返ると残忍な笑みを浮かべる。

「そんなに心配なら降りますか? 」 

「いいえ、これも仕事ですから 」 

 クリスのその言葉を確認すると嵯峨はパルスエンジンに動力を供給する。

「いやあ、凄いねえこの出力係数。最新型の重力制御式コックピットじゃなきゃ三割のパワーで急発進、急制動かけたらミンチになるぜ 」 

 のんびりとそう言うと嵯峨は機体をゆっくりと浮上させる。

「楠木。歩兵部隊の出動は? 」 

 嵯峨は画像の無い機械化歩兵部隊の指揮をしている楠木に声をかける。

「はい、すべて予定通りに進行しています。呼応する山岳部族も敵の訓練キャンプの位置への移動を開始しています 」 

「それは重畳 」 

 嵯峨は余裕のある言葉で答える。

「じゃあ行きますか 」 

 機体が急激に持ち上げられる。パルスエンジンが四式の時とは変わって悲鳴を上げるような音を立てた。

「ほんじゃまあ、ねえ 」 

 そう言うと嵯峨はそのまま一直線に渓谷にカネミツを滑らせた。

 正直なところクリスは乗ったことを後悔していた。
しおりを挟む
感想 7

あなたにおすすめの小説

父が再婚しました

Ruhuna
ファンタジー
母が亡くなって1ヶ月後に 父が再婚しました

もう、終わった話ですし

志位斗 茂家波
ファンタジー
一国が滅びた。 その知らせを聞いても、私には関係の無い事。 だってね、もう分っていたことなのよね‥‥‥ ‥‥‥たまにやりたくなる、ありきたりな婚約破棄ざまぁ(?)もの 少々物足りないような気がするので、気が向いたらオマケ書こうかな?

【完結】そして、誰もいなくなった

杜野秋人
ファンタジー
「そなたは私の妻として、侯爵夫人として相応しくない!よって婚約を破棄する!」 愛する令嬢を傍らに声高にそう叫ぶ婚約者イグナシオに伯爵家令嬢セリアは誤解だと訴えるが、イグナシオは聞く耳を持たない。それどころか明らかに犯してもいない罪を挙げられ糾弾され、彼女は思わず彼に手を伸ばして取り縋ろうとした。 「触るな!」 だがその手をイグナシオは大きく振り払った。振り払われよろめいたセリアは、受け身も取れないまま仰向けに倒れ、頭を打って昏倒した。 「突き飛ばしたぞ」 「彼が手を上げた」 「誰か衛兵を呼べ!」 騒然となるパーティー会場。すぐさま会場警護の騎士たちに取り囲まれ、彼は「違うんだ、話を聞いてくれ!」と叫びながら愛人の令嬢とともに連行されていった。 そして倒れたセリアもすぐさま人が集められ運び出されていった。 そして誰もいなくなった。 彼女と彼と愛人と、果たして誰が悪かったのか。 これはとある悲しい、婚約破棄の物語である。 ◆小説家になろう様でも公開しています。話数の関係上あちらの方が進みが早いです。 3/27、なろう版完結。あちらは全8話です。 3/30、小説家になろうヒューマンドラマランキング日間1位になりました! 4/1、完結しました。全14話。

「おまえを愛することはない!」と言ってやったのに、なぜ無視するんだ!

七辻ゆゆ
ファンタジー
俺を見ない、俺の言葉を聞かない、そして触れられない。すり抜ける……なぜだ? 俺はいったい、どうなっているんだ。 真実の愛を取り戻したいだけなのに。

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

悪意のパーティー《完結》

アーエル
ファンタジー
私が目を覚ましたのは王城で行われたパーティーで毒を盛られてから1年になろうかという時期でした。 ある意味でダークな内容です ‪☆他社でも公開

王家も我が家を馬鹿にしてますわよね

章槻雅希
ファンタジー
 よくある婚約者が護衛対象の王女を優先して婚約破棄になるパターンのお話。あの手の話を読んで、『なんで王家は王女の醜聞になりかねない噂を放置してるんだろう』『てか、これ、王家が婚約者の家蔑ろにしてるよね?』と思った結果できた話。ひそかなサブタイは『うちも王家を馬鹿にしてますけど』かもしれません。 『小説家になろう』『アルファポリス』(敬称略)に重複投稿、自サイトにも掲載しています。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

処理中です...