レジェンド・オブ・ダーク 遼州司法局異聞

橋本 直

文字の大きさ
上 下
927 / 1,505
第10章 混沌の戦場

にらみ合い

しおりを挟む
 共和軍の基地上空。嵯峨は機体を旋回させた。クリスが身を乗り出すと共和軍の基地はすでに3機のフランス製のアサルトモジュールが着陸しているのが見て取れた。基地の防衛隊の兵士が十重二十重の包囲網をそれらの部外者の機体相手に敷いているのが上空からでも見える。

「先客がいたか。ありゃあ東モスレム解放同盟の機体だな 」 

 嵯峨は下を見やりながら頭を掻いた。フランスを中心とした軍事企業体の輸出向けアサルト・モジュール『シャレード 』。アラブ連盟加盟国をはじめとした国に輸出され成功を収めた機体とされている。その褐色の機体が3機、共和軍のM5に取り囲まれていた。

「ほう、あの隊長機は『ベンガル・タイガー 』だな 」 

 嵯峨がゆっくりと旋回しつつ高度を落としながら隊長機の画面を拡大して、その肩に描かれた虎のマーキングを見てつぶやいた。

「アブドゥール・シャー・シン。解放同盟のエースじゃないですか 」 

 クリスは目を見張った。

 アブドゥール・シャー・シン。西モスレム国防軍を除隊して東モスレム解放運動に身を投じた志士。ゴンザレス政権との対立を続ける東モスレム三派の兵には『ベンガル・タイガー 』の二つ名で敬愛される猛将である。

「こりゃあ繋がっても話にならんかなあ 」 

 そう言いながらさらに高度を下げ、基地の上空で旋回を続ける嵯峨。クリスは基地よりもその隣を流れる河に沿った街道に設けられた検問所を見ていた。黒くその北兼台地側に見えるのはすべて人間の頭だった。高度が下がるに従って、難民達が検問所の兵士達と問答を続けている様が見て取れる。

「早く出ろってんだよ馬鹿野郎 」 

 嵯峨が独り言を言う。振り向けばシャムも同じように旋回を続けていた。追跡してきた邀撃機は、基地上空での戦闘を嫌って近くの森に着陸してレールガンを構えている。

「北兼軍閥所属機に告ぐ! 現在、我々は…… 」 

「うるせえバーカ! とっとと降ろさせろ! そこのアラブ人と目的は同じだ! 喧嘩するつもりはねえよ! バーカ! 」 

 嵯峨がいきなり怒鳴りつけたので、オペレーターの女性士官は驚いたような顔をした。そして、その話している相手が北兼軍閥の首領、嵯峨惟基中佐であることに気づき、立ち上がって画面から消えた。

「臨機応変。戦場じゃあ何が起きるかわからねえんだ。少しは頭を使えっての 」 

 そう言うと嵯峨はまたタバコに手を伸ばすが、クリスの表情が視界に入ったのか、その手を止めた。

「嵯峨惟基中佐。それでは第三滑走路に着陸していただけますでしょうか? 」 

 管制部長と思われる恰幅の良い佐官の指示を聞くと、嵯峨はM5、4機が待機している滑走路に着陸した。シャムのクローム・ナイトはそれに続いて静かに着陸を済ませた。

 静かに着地する嵯峨の四式とシャムのクローム・ナイト。

「シャム。そのまま待機していろ 」 

「了解! 」 
しおりを挟む
感想 7

あなたにおすすめの小説

父が再婚しました

Ruhuna
ファンタジー
母が亡くなって1ヶ月後に 父が再婚しました

もう、終わった話ですし

志位斗 茂家波
ファンタジー
一国が滅びた。 その知らせを聞いても、私には関係の無い事。 だってね、もう分っていたことなのよね‥‥‥ ‥‥‥たまにやりたくなる、ありきたりな婚約破棄ざまぁ(?)もの 少々物足りないような気がするので、気が向いたらオマケ書こうかな?

【完結】そして、誰もいなくなった

杜野秋人
ファンタジー
「そなたは私の妻として、侯爵夫人として相応しくない!よって婚約を破棄する!」 愛する令嬢を傍らに声高にそう叫ぶ婚約者イグナシオに伯爵家令嬢セリアは誤解だと訴えるが、イグナシオは聞く耳を持たない。それどころか明らかに犯してもいない罪を挙げられ糾弾され、彼女は思わず彼に手を伸ばして取り縋ろうとした。 「触るな!」 だがその手をイグナシオは大きく振り払った。振り払われよろめいたセリアは、受け身も取れないまま仰向けに倒れ、頭を打って昏倒した。 「突き飛ばしたぞ」 「彼が手を上げた」 「誰か衛兵を呼べ!」 騒然となるパーティー会場。すぐさま会場警護の騎士たちに取り囲まれ、彼は「違うんだ、話を聞いてくれ!」と叫びながら愛人の令嬢とともに連行されていった。 そして倒れたセリアもすぐさま人が集められ運び出されていった。 そして誰もいなくなった。 彼女と彼と愛人と、果たして誰が悪かったのか。 これはとある悲しい、婚約破棄の物語である。 ◆小説家になろう様でも公開しています。話数の関係上あちらの方が進みが早いです。 3/27、なろう版完結。あちらは全8話です。 3/30、小説家になろうヒューマンドラマランキング日間1位になりました! 4/1、完結しました。全14話。

「おまえを愛することはない!」と言ってやったのに、なぜ無視するんだ!

七辻ゆゆ
ファンタジー
俺を見ない、俺の言葉を聞かない、そして触れられない。すり抜ける……なぜだ? 俺はいったい、どうなっているんだ。 真実の愛を取り戻したいだけなのに。

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

悪意のパーティー《完結》

アーエル
ファンタジー
私が目を覚ましたのは王城で行われたパーティーで毒を盛られてから1年になろうかという時期でした。 ある意味でダークな内容です ‪☆他社でも公開

王家も我が家を馬鹿にしてますわよね

章槻雅希
ファンタジー
 よくある婚約者が護衛対象の王女を優先して婚約破棄になるパターンのお話。あの手の話を読んで、『なんで王家は王女の醜聞になりかねない噂を放置してるんだろう』『てか、これ、王家が婚約者の家蔑ろにしてるよね?』と思った結果できた話。ひそかなサブタイは『うちも王家を馬鹿にしてますけど』かもしれません。 『小説家になろう』『アルファポリス』(敬称略)に重複投稿、自サイトにも掲載しています。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

処理中です...