927 / 1,535
第10章 混沌の戦場
にらみ合い
しおりを挟む
共和軍の基地上空。嵯峨は機体を旋回させた。クリスが身を乗り出すと共和軍の基地はすでに3機のフランス製のアサルトモジュールが着陸しているのが見て取れた。基地の防衛隊の兵士が十重二十重の包囲網をそれらの部外者の機体相手に敷いているのが上空からでも見える。
「先客がいたか。ありゃあ東モスレム解放同盟の機体だな 」
嵯峨は下を見やりながら頭を掻いた。フランスを中心とした軍事企業体の輸出向けアサルト・モジュール『シャレード 』。アラブ連盟加盟国をはじめとした国に輸出され成功を収めた機体とされている。その褐色の機体が3機、共和軍のM5に取り囲まれていた。
「ほう、あの隊長機は『ベンガル・タイガー 』だな 」
嵯峨がゆっくりと旋回しつつ高度を落としながら隊長機の画面を拡大して、その肩に描かれた虎のマーキングを見てつぶやいた。
「アブドゥール・シャー・シン。解放同盟のエースじゃないですか 」
クリスは目を見張った。
アブドゥール・シャー・シン。西モスレム国防軍を除隊して東モスレム解放運動に身を投じた志士。ゴンザレス政権との対立を続ける東モスレム三派の兵には『ベンガル・タイガー 』の二つ名で敬愛される猛将である。
「こりゃあ繋がっても話にならんかなあ 」
そう言いながらさらに高度を下げ、基地の上空で旋回を続ける嵯峨。クリスは基地よりもその隣を流れる河に沿った街道に設けられた検問所を見ていた。黒くその北兼台地側に見えるのはすべて人間の頭だった。高度が下がるに従って、難民達が検問所の兵士達と問答を続けている様が見て取れる。
「早く出ろってんだよ馬鹿野郎 」
嵯峨が独り言を言う。振り向けばシャムも同じように旋回を続けていた。追跡してきた邀撃機は、基地上空での戦闘を嫌って近くの森に着陸してレールガンを構えている。
「北兼軍閥所属機に告ぐ! 現在、我々は…… 」
「うるせえバーカ! とっとと降ろさせろ! そこのアラブ人と目的は同じだ! 喧嘩するつもりはねえよ! バーカ! 」
嵯峨がいきなり怒鳴りつけたので、オペレーターの女性士官は驚いたような顔をした。そして、その話している相手が北兼軍閥の首領、嵯峨惟基中佐であることに気づき、立ち上がって画面から消えた。
「臨機応変。戦場じゃあ何が起きるかわからねえんだ。少しは頭を使えっての 」
そう言うと嵯峨はまたタバコに手を伸ばすが、クリスの表情が視界に入ったのか、その手を止めた。
「嵯峨惟基中佐。それでは第三滑走路に着陸していただけますでしょうか? 」
管制部長と思われる恰幅の良い佐官の指示を聞くと、嵯峨はM5、4機が待機している滑走路に着陸した。シャムのクローム・ナイトはそれに続いて静かに着陸を済ませた。
静かに着地する嵯峨の四式とシャムのクローム・ナイト。
「シャム。そのまま待機していろ 」
「了解! 」
「先客がいたか。ありゃあ東モスレム解放同盟の機体だな 」
嵯峨は下を見やりながら頭を掻いた。フランスを中心とした軍事企業体の輸出向けアサルト・モジュール『シャレード 』。アラブ連盟加盟国をはじめとした国に輸出され成功を収めた機体とされている。その褐色の機体が3機、共和軍のM5に取り囲まれていた。
「ほう、あの隊長機は『ベンガル・タイガー 』だな 」
嵯峨がゆっくりと旋回しつつ高度を落としながら隊長機の画面を拡大して、その肩に描かれた虎のマーキングを見てつぶやいた。
「アブドゥール・シャー・シン。解放同盟のエースじゃないですか 」
クリスは目を見張った。
アブドゥール・シャー・シン。西モスレム国防軍を除隊して東モスレム解放運動に身を投じた志士。ゴンザレス政権との対立を続ける東モスレム三派の兵には『ベンガル・タイガー 』の二つ名で敬愛される猛将である。
「こりゃあ繋がっても話にならんかなあ 」
そう言いながらさらに高度を下げ、基地の上空で旋回を続ける嵯峨。クリスは基地よりもその隣を流れる河に沿った街道に設けられた検問所を見ていた。黒くその北兼台地側に見えるのはすべて人間の頭だった。高度が下がるに従って、難民達が検問所の兵士達と問答を続けている様が見て取れる。
「早く出ろってんだよ馬鹿野郎 」
嵯峨が独り言を言う。振り向けばシャムも同じように旋回を続けていた。追跡してきた邀撃機は、基地上空での戦闘を嫌って近くの森に着陸してレールガンを構えている。
「北兼軍閥所属機に告ぐ! 現在、我々は…… 」
「うるせえバーカ! とっとと降ろさせろ! そこのアラブ人と目的は同じだ! 喧嘩するつもりはねえよ! バーカ! 」
嵯峨がいきなり怒鳴りつけたので、オペレーターの女性士官は驚いたような顔をした。そして、その話している相手が北兼軍閥の首領、嵯峨惟基中佐であることに気づき、立ち上がって画面から消えた。
「臨機応変。戦場じゃあ何が起きるかわからねえんだ。少しは頭を使えっての 」
そう言うと嵯峨はまたタバコに手を伸ばすが、クリスの表情が視界に入ったのか、その手を止めた。
「嵯峨惟基中佐。それでは第三滑走路に着陸していただけますでしょうか? 」
管制部長と思われる恰幅の良い佐官の指示を聞くと、嵯峨はM5、4機が待機している滑走路に着陸した。シャムのクローム・ナイトはそれに続いて静かに着陸を済ませた。
静かに着地する嵯峨の四式とシャムのクローム・ナイト。
「シャム。そのまま待機していろ 」
「了解! 」
0
お気に入りに追加
58
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
特殊装甲隊 ダグフェロン 『廃帝と永遠の世紀末』 第五部 『カウラ・ベルガー大尉の誕生日』
橋本 直
SF
遼州司法局実働部隊に課せられる訓練『閉所白兵戦訓練』
いつもの閉所白兵戦訓練で同時に製造された友人の話から実はクリスマスイブが誕生日と分かったカウラ。
そんな彼女をお祝いすると言う名目でアメリアとかなめは誠の実家でのパーティーを企画することになる。
予想通り趣味に走ったプレゼントを用意するアメリア。いかにもセレブな買い物をするかなめ。そんな二人をしり目に誠は独自でのプレゼントを考える。
誠はいかにも絵師らしくカウラを描くことになった。
閑話休題的物語。

四代目 豊臣秀勝
克全
歴史・時代
アルファポリス第5回歴史時代小説大賞参加作です。
読者賞を狙っていますので、アルファポリスで投票とお気に入り登録してくださると助かります。
史実で三木城合戦前後で夭折した木下与一郎が生き延びた。
秀吉の最年長の甥であり、秀長の嫡男・与一郎が生き延びた豊臣家が辿る歴史はどう言うモノになるのか。
小牧長久手で秀吉は勝てるのか?
朝日姫は徳川家康の嫁ぐのか?
朝鮮征伐は行われるのか?
秀頼は生まれるのか。
秀次が後継者に指名され切腹させられるのか?

もしかして寝てる間にざまぁしました?
ぴぴみ
ファンタジー
令嬢アリアは気が弱く、何をされても言い返せない。
内気な性格が邪魔をして本来の能力を活かせていなかった。
しかし、ある時から状況は一変する。彼女を馬鹿にし嘲笑っていた人間が怯えたように見てくるのだ。
私、寝てる間に何かしました?

【VRMMO】イースターエッグ・オンライン【RPG】
一樹
SF
ちょっと色々あって、オンラインゲームを始めることとなった主人公。
しかし、オンラインゲームのことなんてほとんど知らない主人公は、スレ立てをしてオススメのオンラインゲームを、スレ民に聞くのだった。
ゲーム初心者の活字中毒高校生が、オンラインゲームをする話です。
以前投稿した短編
【緩募】ゲーム初心者にもオススメのオンラインゲーム教えて
の連載版です。
連載するにあたり、短編は削除しました。
スキルが【アイテムボックス】だけってどうなのよ?
山ノ内虎之助
ファンタジー
高校生宮原幸也は転生者である。
2度目の人生を目立たぬよう生きてきた幸也だが、ある日クラスメイト15人と一緒に異世界に転移されてしまう。
異世界で与えられたスキルは【アイテムボックス】のみ。
唯一のスキルを創意工夫しながら異世界を生き抜いていく。

メトロポリス社へようこそ! ~「役立たずだ」とクビにされたおっさんの就職先は大企業の宇宙船を守る護衛官でした~
アンジェロ岩井
SF
「えっ、クビですか?」
中企業アナハイニム社の事務課に勤める大津修也(おおつしゅうや)は会社の都合によってクビを切られてしまう。
ろくなスキルも身に付けていない修也にとって再転職は絶望的だと思われたが、大企業『メトロポリス』からの使者が現れた。
『メトロポリス』からの使者によれば自身の商品を宇宙の植民星に運ぶ際に宇宙生物に襲われるという事態が幾度も発生しており、そのための護衛役として会社の顧問役である人工頭脳『マリア』が護衛役を務める適任者として選び出したのだという。
宇宙生物との戦いに用いるロトワングというパワードスーツには適性があり、その適性が見出されたのが大津修也だ。
大津にとっては他に就職の選択肢がなかったので『メトロポリス』からの選択肢を受けざるを得なかった。
『メトロポリス』の宇宙船に乗り込み、宇宙生物との戦いに明け暮れる中で、彼は護衛アンドロイドであるシュウジとサヤカと共に過ごし、絆を育んでいくうちに地球上にてアンドロイドが使用人としての扱いしか受けていないことを思い出す。
修也は戦いの中でアンドロイドと人間が対等な関係を築き、共存を行うことができればいいと考えたが、『メトロポリス』では修也とは対照的に人類との共存ではなく支配という名目で動き出そうとしていた。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる