レジェンド・オブ・ダーク 遼州司法局異聞

橋本 直

文字の大きさ
上 下
914 / 1,505
第7章 小さな騎士

遭遇

しおりを挟む
「追いますか? 」 

「御子神の。お前の目は飾りか何かか? レーダーを見ろ 」 

 クリスも地図に目を移す。そこには北兼軍以外の所属を示すランプが点滅していた。

「残存戦力? 」 

 クリスの言葉に嵯峨が振り返り笑みを浮かべた。

「共和軍も無駄に戦力を捨てるほど馬鹿じゃないでしょ? それにこんな森の支配権を争っても無意味だってことぐらい分かるでしょうしねえ 」 

 殺気の消えた嵯峨の顔がにやりと笑みを浮かべてクリスの前にあった。

「柴崎! お前が一番近い。所属を確認しろ。それとセニアと御子神はバックアップにまわれ。俺はそのまま距離をとって追走する 」 

 嵯峨の言葉に不承不承従う柴崎。

「どこかの工作部隊ですか? 」 

「アサルト・モジュールで潜入作戦ですか? アステロイドベルトならいざ知らず、ここは地上ですよ。それに偵察のためだけの俺達の目に触れないでの高高度降下なんて突飛過ぎますよ。上を警戒飛行している東和軍の偵察機や攻撃機もそれほど無能ぞろいじゃないでしょう…… 」 

「うわ! 」 

 嵯峨の言葉が終わらないうちに、柴崎の悲鳴が四式のコックピットに響いた。映っていた柴崎の画像が乱れ、次の瞬間には衝撃に見舞われたというようにシートにヘルメットを叩きつけている姿が映った。

「柴崎! 」 

「御子神焦るな! 柴崎、状況を報告しろ! 」 

 地図の上で所属不明機と柴崎の二式が重なっている。嵯峨はすぐさま加速をかけた。

「食いつかれました! この馬鹿力! コックピットを潰す気か! 」 

 森のはずれ、二式が見たことも無い白いアサルト・モジュールに組み付かれている様がクリスの目に飛び込んできた。

「中佐! 助けてくだ……うわ! 」 

 柴崎の二式の右腕がねじ切られる。不明機の左手は二色のコックピットの装甲版を打ち破ろうとしていた。

「御子神! 組み付け! 」 

 嵯峨はそう言うとさらに白いアサルト・モジュールへと接近した。

 着陸した御子神機がレールガンを構えながらじりじりと柴崎機に組み付いている白いアサルト・モジュールに近づく。

「馬鹿か! 発砲したら柴崎に当たる。とっとと組み付け! セニアもついてやれ! 」 

 嵯峨の言葉にレールガンを捨てた御子神の二式が白いアサルト・モジュールに組み付いた。しかし、白い機体は止まろうとしない。御子神機を振りほどき、さらに柴崎機のコックピットに右腕を叩きつける。

「セニア、手を貸してやれ! いざとなったら俺も組み付く 」 

 振りほどかれた御子神機、それにセニアの機体が絡みつくとさすがに動きが鈍くなる。

「助けてください! 嵯峨中佐! 」 

 相変わらず涙目で懇願する柴崎。サーベルの届くところまで来た嵯峨はそのまま白い機体見つめていた。その圧倒的なパワーはクリスの想像を絶していた。これほどの出力を出せるアサルト・モジュールなど聞いたことが無かった。

「ちょっと待ってろ! 」 

 嵯峨はそう言うと白いアサルト・モジュールの右足の付け根にサーベルを突き立てた。白い機体はバランスを崩し倒れる。絡み付いていた御子神、セニアの機体がもんどりうって倒れこんだ。

「おい! 柴崎。生きてるか? 」 

「ええ、まあ……イテエ! 」 

 柴崎の悲鳴が響く。ばたばたとバランスを崩して逃げようとする白いアサルト・モジュール。セニアと御子神は関節を潰しにかかる。だが、抵抗は衰えるようには見えなかった。そこに増援として森の中から重火器を積んだ装甲ホバー二機が現れた。

「海上(うなかみ)、少し待て。とりあえず御子神とセニアがそいつを拘束するまで…… 」 

 タバコに火をつけた嵯峨の言葉が切れる前に白いアサルト・モジュールがねじが切れたように動きを止めた。セニア機は関節から煙を上げながら傾き、御子神機も限界だと言うように白いアサルト・モジュールから手を離す。そんな白い機体のコックピットが開いた。小さな影が中に動いているのが分かる。

「子供? 」 

 クリスは驚きの声を上げた。開いたコックピットから身を乗り出して辺りを見回すのは、ぼさぼさの髪の10歳くらいの子供だった。

「海上! 撃つんじゃねえぞ 」 

 ホバーから飛び出していく機動歩兵部隊を制止した嵯峨は四式のコックピットを開いた。彼は朱塗りの鞘の愛刀長船兼光を手に、そのまま地面に降り立つ。クリスもまたその後に続いた。ホバーから歩兵部隊隊長で先の大戦からの嵯峨の部下である海上智明大尉に率いられた部隊が銃を構えて白いアサルト・モジュールを取り巻いた。その後ろにはハワードがカメラを構えてコックピットの子供を撮るタイミングを計っていた。

「とりあえず下りろ! 」 

 兵士の一人が子供に銃を向けた。

「おいおい、待てよ。餓鬼相手にそんな本気にならなくても 」 

 嵯峨はそう言うと歩兵部隊に銃を下げるように命じた。
しおりを挟む
感想 7

あなたにおすすめの小説

父が再婚しました

Ruhuna
ファンタジー
母が亡くなって1ヶ月後に 父が再婚しました

もう、終わった話ですし

志位斗 茂家波
ファンタジー
一国が滅びた。 その知らせを聞いても、私には関係の無い事。 だってね、もう分っていたことなのよね‥‥‥ ‥‥‥たまにやりたくなる、ありきたりな婚約破棄ざまぁ(?)もの 少々物足りないような気がするので、気が向いたらオマケ書こうかな?

【完結】そして、誰もいなくなった

杜野秋人
ファンタジー
「そなたは私の妻として、侯爵夫人として相応しくない!よって婚約を破棄する!」 愛する令嬢を傍らに声高にそう叫ぶ婚約者イグナシオに伯爵家令嬢セリアは誤解だと訴えるが、イグナシオは聞く耳を持たない。それどころか明らかに犯してもいない罪を挙げられ糾弾され、彼女は思わず彼に手を伸ばして取り縋ろうとした。 「触るな!」 だがその手をイグナシオは大きく振り払った。振り払われよろめいたセリアは、受け身も取れないまま仰向けに倒れ、頭を打って昏倒した。 「突き飛ばしたぞ」 「彼が手を上げた」 「誰か衛兵を呼べ!」 騒然となるパーティー会場。すぐさま会場警護の騎士たちに取り囲まれ、彼は「違うんだ、話を聞いてくれ!」と叫びながら愛人の令嬢とともに連行されていった。 そして倒れたセリアもすぐさま人が集められ運び出されていった。 そして誰もいなくなった。 彼女と彼と愛人と、果たして誰が悪かったのか。 これはとある悲しい、婚約破棄の物語である。 ◆小説家になろう様でも公開しています。話数の関係上あちらの方が進みが早いです。 3/27、なろう版完結。あちらは全8話です。 3/30、小説家になろうヒューマンドラマランキング日間1位になりました! 4/1、完結しました。全14話。

「おまえを愛することはない!」と言ってやったのに、なぜ無視するんだ!

七辻ゆゆ
ファンタジー
俺を見ない、俺の言葉を聞かない、そして触れられない。すり抜ける……なぜだ? 俺はいったい、どうなっているんだ。 真実の愛を取り戻したいだけなのに。

悪意のパーティー《完結》

アーエル
ファンタジー
私が目を覚ましたのは王城で行われたパーティーで毒を盛られてから1年になろうかという時期でした。 ある意味でダークな内容です ‪☆他社でも公開

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

王家も我が家を馬鹿にしてますわよね

章槻雅希
ファンタジー
 よくある婚約者が護衛対象の王女を優先して婚約破棄になるパターンのお話。あの手の話を読んで、『なんで王家は王女の醜聞になりかねない噂を放置してるんだろう』『てか、これ、王家が婚約者の家蔑ろにしてるよね?』と思った結果できた話。ひそかなサブタイは『うちも王家を馬鹿にしてますけど』かもしれません。 『小説家になろう』『アルファポリス』(敬称略)に重複投稿、自サイトにも掲載しています。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

処理中です...