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第2章 取材開始
かりそめの宿舎
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一階のオペレーター室は通信、監視、物資管理の人員が忙しく行きかっている。嵯峨はそれに一々頭を下げながら階段を上り始める。
「私が知る限り一番便利な兵器は情報ですよ。まあ、そんな説教をされる覚えはホプキンスさんには無いでしょうがね 」
「クリスで結構です 」
苦笑いの嵯峨の後ろについていくクリスとハワード。階段は木製で野戦用ブーツの三人の足音が大げさに響く。上りきった二階の踊り場、嵯峨を見つけて駆け上がってきた女性下士官が一枚の書類を嵯峨に渡した。嵯峨はそれを持ったまま二階の踊り場で頭を掻いた。そしてクリスを振り返り彼が身の回りの品を入れた手荷物を持っていることに気づいた。
「ああ、荷物持ってきちゃったんですか。この隣なんですよ宿舎は。まあ面倒ですからそこに置いてついて来て下さい 」
そう言うと嵯峨は手に書類を持ったまま廊下を静かに歩き始めた。クリスとハワードは顔を見合わせると、荷物を廊下の端に置いて、嵯峨の入った司令室に入り込んだ。
司令室に入ったとたんに猛烈なタバコの匂いが入るものに容赦なく襲い掛かる。クリスは思わず鼻を押さえた。
「すいませんねえ、今、窓開けますから 」
そう言って窓を開く嵯峨。その妙に人懐っこいところが鼻に付く。クリスはそう思いながら部屋を見渡した。そしてすぐにこの部屋の異様さに気づいた。室内にしみこんだタバコの匂いだけがクリスを驚かせたわけではなかった。部屋中に広がる書類や銃器の部品。そして暑く積もっている鉄粉のような埃。
「別に面白いものは無いでしょ。どうにも片付けると言うことが苦手でしてね、私は 」
そう言って嵯峨は連隊クラスの部隊司令にふさわしいゆったりとした皮の椅子に腰掛けた。その目の前では上に置かれたガラクタが積み上げられて完全に機能を失っている大きな机がある。
「私は整理整頓と言うのが出来ない質でしてね。娘にはいつも叱られてばかりですよ 」
「娘さん……茜さんでしたね。おいくつになられますか? 」
クリスの頬を外からの風が撫でる。ようやく新鮮な空気が入ってきたことで少しばかり表情を和らげることができた。
「12歳になりますよ。今は東和の中学に行ってるはずですがね。本来はこっちの学校に行かせたかったんですが、本人が東和で弁護士をやりたいと言うものでして 」
そう言うと嵯峨はくわえっ放しだったタバコに火をつけた。この奇妙な人物に子供がいることをクリスは思い出していた。
「私が知る限り一番便利な兵器は情報ですよ。まあ、そんな説教をされる覚えはホプキンスさんには無いでしょうがね 」
「クリスで結構です 」
苦笑いの嵯峨の後ろについていくクリスとハワード。階段は木製で野戦用ブーツの三人の足音が大げさに響く。上りきった二階の踊り場、嵯峨を見つけて駆け上がってきた女性下士官が一枚の書類を嵯峨に渡した。嵯峨はそれを持ったまま二階の踊り場で頭を掻いた。そしてクリスを振り返り彼が身の回りの品を入れた手荷物を持っていることに気づいた。
「ああ、荷物持ってきちゃったんですか。この隣なんですよ宿舎は。まあ面倒ですからそこに置いてついて来て下さい 」
そう言うと嵯峨は手に書類を持ったまま廊下を静かに歩き始めた。クリスとハワードは顔を見合わせると、荷物を廊下の端に置いて、嵯峨の入った司令室に入り込んだ。
司令室に入ったとたんに猛烈なタバコの匂いが入るものに容赦なく襲い掛かる。クリスは思わず鼻を押さえた。
「すいませんねえ、今、窓開けますから 」
そう言って窓を開く嵯峨。その妙に人懐っこいところが鼻に付く。クリスはそう思いながら部屋を見渡した。そしてすぐにこの部屋の異様さに気づいた。室内にしみこんだタバコの匂いだけがクリスを驚かせたわけではなかった。部屋中に広がる書類や銃器の部品。そして暑く積もっている鉄粉のような埃。
「別に面白いものは無いでしょ。どうにも片付けると言うことが苦手でしてね、私は 」
そう言って嵯峨は連隊クラスの部隊司令にふさわしいゆったりとした皮の椅子に腰掛けた。その目の前では上に置かれたガラクタが積み上げられて完全に機能を失っている大きな机がある。
「私は整理整頓と言うのが出来ない質でしてね。娘にはいつも叱られてばかりですよ 」
「娘さん……茜さんでしたね。おいくつになられますか? 」
クリスの頬を外からの風が撫でる。ようやく新鮮な空気が入ってきたことで少しばかり表情を和らげることができた。
「12歳になりますよ。今は東和の中学に行ってるはずですがね。本来はこっちの学校に行かせたかったんですが、本人が東和で弁護士をやりたいと言うものでして 」
そう言うと嵯峨はくわえっ放しだったタバコに火をつけた。この奇妙な人物に子供がいることをクリスは思い出していた。
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