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第56章 安息の日々
庶民の店
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「暇やな」
そう言いながら明石はこってりと油の浮いたラーメンを啜っていた。その目の前では静かに楓がどうしたらいいのか分からないように座っている。
「いいんだよ、好きに食えば」
魚住はもうすでに頼んでいた替え玉が来るとそれをラーメンの中に入れてしまった。第三艦隊クルーは久しぶりの休日を楽しんでいた。パイロットは三分の一が戦死。明石も例外ではなくこの数日は戦死した部下達の家を訪問して頭を下げる日々が続いていた。
官庁街や上流貴族の住む屋敷町などは今でも多くの武装した治安維持部隊が闊歩しているがこういった下町にくるともうすでにそんな堅苦しい雰囲気は抜けていた。
「おやじ!ワシにも替え玉や」
そう言うと明石はどんぶりをカウンターに載せた。うれしそうに頭を下げながら麺を湯に投ずる大将。
「しかし……別所の奴も災難だな。しばらくは海軍での官派の取調べがお仕事だ。パイロット上がりの俺等にはつらいよ」
「それを言うなら一番の悲劇は黒田やろ。付き合いがいいのも考えもんや」
大将が差し出した替え玉入りのどんぶりを受け取りスープに麺をなじませる明石。その様子にようやく踏ん切りが付いたというように楓は麺に箸を伸ばす。明石は決起した士官達の取調べに立ち会っているだろう別所達を思い出していた。官派の士官達が自分の正当性を叫びながら状況説明に応じない姿勢を貫いている様は鉄や続きの別所をねぎらいに行った時に目にしていた。そしてこの戦いが根深くこれからも遺恨として残るだろうと想像して少しばかり憂鬱な気分になったのを思い出した。
「……そのまま麺を取ってだし汁につけて食べる。簡単だろ?」
そう不器用につけ麺を箸でつかんでいる楓に教えながらチャーシューをかじる魚住。上官の言葉に仕方が無いというように楓が麺をだし汁につけた。
そう言いながら明石はこってりと油の浮いたラーメンを啜っていた。その目の前では静かに楓がどうしたらいいのか分からないように座っている。
「いいんだよ、好きに食えば」
魚住はもうすでに頼んでいた替え玉が来るとそれをラーメンの中に入れてしまった。第三艦隊クルーは久しぶりの休日を楽しんでいた。パイロットは三分の一が戦死。明石も例外ではなくこの数日は戦死した部下達の家を訪問して頭を下げる日々が続いていた。
官庁街や上流貴族の住む屋敷町などは今でも多くの武装した治安維持部隊が闊歩しているがこういった下町にくるともうすでにそんな堅苦しい雰囲気は抜けていた。
「おやじ!ワシにも替え玉や」
そう言うと明石はどんぶりをカウンターに載せた。うれしそうに頭を下げながら麺を湯に投ずる大将。
「しかし……別所の奴も災難だな。しばらくは海軍での官派の取調べがお仕事だ。パイロット上がりの俺等にはつらいよ」
「それを言うなら一番の悲劇は黒田やろ。付き合いがいいのも考えもんや」
大将が差し出した替え玉入りのどんぶりを受け取りスープに麺をなじませる明石。その様子にようやく踏ん切りが付いたというように楓は麺に箸を伸ばす。明石は決起した士官達の取調べに立ち会っているだろう別所達を思い出していた。官派の士官達が自分の正当性を叫びながら状況説明に応じない姿勢を貫いている様は鉄や続きの別所をねぎらいに行った時に目にしていた。そしてこの戦いが根深くこれからも遺恨として残るだろうと想像して少しばかり憂鬱な気分になったのを思い出した。
「……そのまま麺を取ってだし汁につけて食べる。簡単だろ?」
そう不器用につけ麺を箸でつかんでいる楓に教えながらチャーシューをかじる魚住。上官の言葉に仕方が無いというように楓が麺をだし汁につけた。
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