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第51章 敗北
自刃
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「出撃だ!準備をしろ!」
安東はそう叫ぶと疲れた部下達がよろよろと体を起こしているパイロット控え室から飛び出した。部下達も部隊長の言葉を聞いて自分を奮い立たせるとそれに続いた。
そして安東はそのままハンガーに来た時にようやく異変に気がついた。
警備兵が整備員に銃を突きつけて整列させている。そしてその指揮を執っているのは艦長の秋田貞義だった。
「何のつもりだ……」
そう言うと威嚇射撃がすぐに飛んできた。
「安東大佐。我々はこれから第三艦隊に降伏します」
秋田のまじめな表情に安東は顔をゆがめた。
「命が惜しいのか?」
秋田は首を振る。そしてその立場も安東には十分に分かった。
もはや官派に逆転の目は無かった。おそらく今回の第三艦隊の逆転劇に一枚噛んでいる親友の嵯峨惟基。あの男を敵に回している以上奇跡は期待できない。そして羽州が官派一枚に染まったとなれば戦後の懲罰はどのような形で彼等の領邦を襲うか分かったものではない。秋田にはそれを避ける義務があることは安東にも理解できた。
「降伏は貴様等がしろ。俺は貫くべき信義を貫く」
そう言って自分の機体を目指す安東だがその足元に秋田の拳銃の射撃音が響いた。
「大佐はそのまま自室に戻ってください」
死んだような目が安東を見つめている。思わず安東は敵意をはらんだ目を秋田に向けていた。
「大佐が動けばさらに赤松准将を怒らせることになります。ですので大佐には……」
「ごめんだな!」
そう叫ぶと身を翻し安東は走り出した。射撃音が響き肩に痛みが走るが無理をしてそのまま控え室の隣の脱出用エアロックに飛び込む。
『大佐!無駄な抵抗はやめてください!これ以上は!』
叫ぶ秋田の声がインターホンを通して響く中、安東は大きくため息をついた。
『大佐!抵抗はやめてください!』
驚いたように叫ぶ秋田の声を聞きながら安東は笑みを浮かべていた。
「部下に裏切られての最期……俺らしいか」
そう言うとパイロットスーツについていた短刀を取り出す。外部のモニターでその様子が見えるらしく秋田は部下にドアの破壊をするように命じたようで外が相変わらず騒がしい。
しずかに中央の床にどっかりと座る。短刀の刃は静かに銀色の光を放っていた。
「辞世の句くらい用意しておくべきだったかもしれないが……それはらしくないかな」
そう言うとすぐに喉にその刃を添える。鋭い刃は静かに喉の肌を切り裂き痛みが安東の顔をしかめさせた。
扉の外から非常用の鉈でドアを壊す音が響いてくる。
「恭子すまない。俺の信義だけは譲れないんだ」
さらに短刀の刃を押すべく左手を添える。次第に短刀を持つ右手に赤い血が流れてくるのが分かる。
「大佐!」
半分壊された扉から秋田が叫ぶのが安東からも見えた。
「じゃあな」
慌てる秋田を見ながら安東は左手に力を込めた。鮮血が流れる中、安東の意識が途切れる。
「早くしろ!医務官を呼べ!すぐに輸血だ!」
秋田は部下達を急き立てるが静かに床に倒れていく主君を目にして彼の目にも涙が浮かんだ。
「大佐!」
そんな秋田の叫びはどこにも届くことは無かった。
安東はそう叫ぶと疲れた部下達がよろよろと体を起こしているパイロット控え室から飛び出した。部下達も部隊長の言葉を聞いて自分を奮い立たせるとそれに続いた。
そして安東はそのままハンガーに来た時にようやく異変に気がついた。
警備兵が整備員に銃を突きつけて整列させている。そしてその指揮を執っているのは艦長の秋田貞義だった。
「何のつもりだ……」
そう言うと威嚇射撃がすぐに飛んできた。
「安東大佐。我々はこれから第三艦隊に降伏します」
秋田のまじめな表情に安東は顔をゆがめた。
「命が惜しいのか?」
秋田は首を振る。そしてその立場も安東には十分に分かった。
もはや官派に逆転の目は無かった。おそらく今回の第三艦隊の逆転劇に一枚噛んでいる親友の嵯峨惟基。あの男を敵に回している以上奇跡は期待できない。そして羽州が官派一枚に染まったとなれば戦後の懲罰はどのような形で彼等の領邦を襲うか分かったものではない。秋田にはそれを避ける義務があることは安東にも理解できた。
「降伏は貴様等がしろ。俺は貫くべき信義を貫く」
そう言って自分の機体を目指す安東だがその足元に秋田の拳銃の射撃音が響いた。
「大佐はそのまま自室に戻ってください」
死んだような目が安東を見つめている。思わず安東は敵意をはらんだ目を秋田に向けていた。
「大佐が動けばさらに赤松准将を怒らせることになります。ですので大佐には……」
「ごめんだな!」
そう叫ぶと身を翻し安東は走り出した。射撃音が響き肩に痛みが走るが無理をしてそのまま控え室の隣の脱出用エアロックに飛び込む。
『大佐!無駄な抵抗はやめてください!これ以上は!』
叫ぶ秋田の声がインターホンを通して響く中、安東は大きくため息をついた。
『大佐!抵抗はやめてください!』
驚いたように叫ぶ秋田の声を聞きながら安東は笑みを浮かべていた。
「部下に裏切られての最期……俺らしいか」
そう言うとパイロットスーツについていた短刀を取り出す。外部のモニターでその様子が見えるらしく秋田は部下にドアの破壊をするように命じたようで外が相変わらず騒がしい。
しずかに中央の床にどっかりと座る。短刀の刃は静かに銀色の光を放っていた。
「辞世の句くらい用意しておくべきだったかもしれないが……それはらしくないかな」
そう言うとすぐに喉にその刃を添える。鋭い刃は静かに喉の肌を切り裂き痛みが安東の顔をしかめさせた。
扉の外から非常用の鉈でドアを壊す音が響いてくる。
「恭子すまない。俺の信義だけは譲れないんだ」
さらに短刀の刃を押すべく左手を添える。次第に短刀を持つ右手に赤い血が流れてくるのが分かる。
「大佐!」
半分壊された扉から秋田が叫ぶのが安東からも見えた。
「じゃあな」
慌てる秋田を見ながら安東は左手に力を込めた。鮮血が流れる中、安東の意識が途切れる。
「早くしろ!医務官を呼べ!すぐに輸血だ!」
秋田は部下達を急き立てるが静かに床に倒れていく主君を目にして彼の目にも涙が浮かんだ。
「大佐!」
そんな秋田の叫びはどこにも届くことは無かった。
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