865 / 1,503
第48章 猛将
見つめる瞳
しおりを挟む
「なんだ、赤松は押されてるじゃないか」
会議室で参謀達に囲まれながら佐賀はつぶやいた。周りでも今からでも清原派に加担する為に泉州艦隊を迂回する為に大回りをしている越州などの艦隊に道を明けるべきだと主張したい士官達がざわめいていた。
「しかし今行ってどうします?」
そう言ったのは小見だった。本家嵯峨家の被官であり、猛将嵯峨惟基の教えを受けた実力者の言葉にあたりは静まり返った。
「今なら間に合うんじゃないかな。それに圧倒的に清原君の部隊の方が優勢じゃないか」
長身で痩せ型。どう見ても実戦の経験の無い佐官の言葉にきっと見据える小見。その殺気だった目ににらまれて哀れな指揮官は黙り込むしかなかった。
「優勢なのは確かです。そして我が艦隊が参戦すれば万が一にも赤松さんには勝ち目は無い」
「認めるんだな?我々が参加すれば勝負がつくことを」
佐賀の言葉に小見は大きく頷いた。
「だが一つ忘れてはならないことをお忘れのようなので」
「何が言いたい」
あっさりと自分の言うことを認める小見に佐賀は怪訝そうな視線を投げる。
「勝ち馬に乗る。それが自力なら問題は無いでしょう。ですが私を含めて殿上家の被官を勝手に動かしたことは事実ですよね」
そんな小見の言葉に佐賀の顔は引きつった。
本来は泉州コロニーの管理を殿上嵯峨家から命じられているだけの佐賀が自分の手持ちの陸軍師団と一緒に今回は出撃させていた。そのことは明らかに越権行為であり、嵯峨惟基から見れば暴挙と言うことになるのは目に見えていた。
「泉州は勝ちの決まった清原候を支持して勝ち馬に乗った。しかもその戦いは本家の意図とはかけ離れている。世間に対して恥ということを知っている人間のすることではない。そう言われて戦いが終わって捨てられた武人がどれほどいることか……」
小見の独り言のようなつぶやきに会議室のモニターを見つめている幹部達は肝を冷やしていた。
「な、ならば貴官は赤松側に付けと言うのか!黙ってみていろと言い出したのは貴様ではないか!」
髭面の士官に表情を殺したように目を向ける小見。その慌てる姿に同調するように佐賀は小見の顔を覗き込んだ。
「いえ、私はどちらにつくかまでは言っていませんよ。ただ見ていればどちらが勝つかは見えてくる。そしてどちらに着くべきかの選択は佐賀高家閣下のご存念に添った形にするのが一番だと申し上げたまでですが?」
小見の言葉に一斉に視線が佐賀に集まる。佐賀は慌てたように咳払いをすると静かに椅子に腰を下ろした。
「赤松に逆転の要素は無いのか?」
渋々声を絞り出す佐賀。そしてその声でつい笑顔を浮かべそうになった若手の情報将校が驚いたように端末の操作を開始する。
「まだ……始まったばかりだ」
それだけ言うと佐賀は黙り込んだ。その表情があまりにも慌てているように見えたので周りの参謀達は不安そうに小見に目を向ける。
小見は一人、涼しい表情で自分の方に視線を向ける参謀達の視線を浴びていた。
テーブルの中央のモニターに戦況が表示される。拡大された左翼にはすさまじい勢いで赤松側のアサルト・モジュールを撃墜している清原側のエースの姿が見えていた。
「現在、『播磨』に向けて安東貞盛大佐が攻撃をかけています」
淡々と感情を殺したようにつぶやく士官の言葉に会議室がざわめく。
「安東君か。彼はなかなかの腕前だが……彼が出なければならないほどなのか?」
佐賀の言葉に情報将校は黙り込んだ。そして佐賀の目は若手のおどおどした情報将校から小見に向けられた。
「いい試金石がいるではないですか」
満面の笑みの小見。そしてその笑みを不愉快に感じた佐賀はそのまま視線をテーブルの上のモニターに再び向けることになった。
会議室で参謀達に囲まれながら佐賀はつぶやいた。周りでも今からでも清原派に加担する為に泉州艦隊を迂回する為に大回りをしている越州などの艦隊に道を明けるべきだと主張したい士官達がざわめいていた。
「しかし今行ってどうします?」
そう言ったのは小見だった。本家嵯峨家の被官であり、猛将嵯峨惟基の教えを受けた実力者の言葉にあたりは静まり返った。
「今なら間に合うんじゃないかな。それに圧倒的に清原君の部隊の方が優勢じゃないか」
長身で痩せ型。どう見ても実戦の経験の無い佐官の言葉にきっと見据える小見。その殺気だった目ににらまれて哀れな指揮官は黙り込むしかなかった。
「優勢なのは確かです。そして我が艦隊が参戦すれば万が一にも赤松さんには勝ち目は無い」
「認めるんだな?我々が参加すれば勝負がつくことを」
佐賀の言葉に小見は大きく頷いた。
「だが一つ忘れてはならないことをお忘れのようなので」
「何が言いたい」
あっさりと自分の言うことを認める小見に佐賀は怪訝そうな視線を投げる。
「勝ち馬に乗る。それが自力なら問題は無いでしょう。ですが私を含めて殿上家の被官を勝手に動かしたことは事実ですよね」
そんな小見の言葉に佐賀の顔は引きつった。
本来は泉州コロニーの管理を殿上嵯峨家から命じられているだけの佐賀が自分の手持ちの陸軍師団と一緒に今回は出撃させていた。そのことは明らかに越権行為であり、嵯峨惟基から見れば暴挙と言うことになるのは目に見えていた。
「泉州は勝ちの決まった清原候を支持して勝ち馬に乗った。しかもその戦いは本家の意図とはかけ離れている。世間に対して恥ということを知っている人間のすることではない。そう言われて戦いが終わって捨てられた武人がどれほどいることか……」
小見の独り言のようなつぶやきに会議室のモニターを見つめている幹部達は肝を冷やしていた。
「な、ならば貴官は赤松側に付けと言うのか!黙ってみていろと言い出したのは貴様ではないか!」
髭面の士官に表情を殺したように目を向ける小見。その慌てる姿に同調するように佐賀は小見の顔を覗き込んだ。
「いえ、私はどちらにつくかまでは言っていませんよ。ただ見ていればどちらが勝つかは見えてくる。そしてどちらに着くべきかの選択は佐賀高家閣下のご存念に添った形にするのが一番だと申し上げたまでですが?」
小見の言葉に一斉に視線が佐賀に集まる。佐賀は慌てたように咳払いをすると静かに椅子に腰を下ろした。
「赤松に逆転の要素は無いのか?」
渋々声を絞り出す佐賀。そしてその声でつい笑顔を浮かべそうになった若手の情報将校が驚いたように端末の操作を開始する。
「まだ……始まったばかりだ」
それだけ言うと佐賀は黙り込んだ。その表情があまりにも慌てているように見えたので周りの参謀達は不安そうに小見に目を向ける。
小見は一人、涼しい表情で自分の方に視線を向ける参謀達の視線を浴びていた。
テーブルの中央のモニターに戦況が表示される。拡大された左翼にはすさまじい勢いで赤松側のアサルト・モジュールを撃墜している清原側のエースの姿が見えていた。
「現在、『播磨』に向けて安東貞盛大佐が攻撃をかけています」
淡々と感情を殺したようにつぶやく士官の言葉に会議室がざわめく。
「安東君か。彼はなかなかの腕前だが……彼が出なければならないほどなのか?」
佐賀の言葉に情報将校は黙り込んだ。そして佐賀の目は若手のおどおどした情報将校から小見に向けられた。
「いい試金石がいるではないですか」
満面の笑みの小見。そしてその笑みを不愉快に感じた佐賀はそのまま視線をテーブルの上のモニターに再び向けることになった。
0
お気に入りに追加
57
あなたにおすすめの小説
特殊装甲隊 ダグフェロン 『廃帝と永遠の世紀末』 第三部 『暗黒大陸』
橋本 直
SF
遼州司法局も法術特捜の発足とともに実働部隊、機動隊、法術特捜の三部体制が確立することとなった。
それまで東和陸軍教導隊を兼務していた小さな隊長、クバルカ・ラン中佐が実働部隊副隊長として本異動になることが決まった。
彼女の本拠地である東和陸軍教導隊を訪ねた神前誠に法術兵器の実験に任務が課せられた。それは広域にわたり兵士の意識を奪ってしまうという新しい発想の非破壊兵器だった。
実験は成功するがチャージの時間等、運用の難しい兵器と判明する。
一方実働部隊部隊長嵯峨惟基は自分が領邦領主を務めている貴族制国家甲武国へ飛んだ。そこでは彼の両方を西園寺かなめの妹、日野かえでに継がせることに関する会議が行われる予定だった。
一方、南の『魔窟』と呼ばれる大陸ベルルカンの大国、バルキスタンにて総選挙が予定されており、実働部隊も支援部隊を派遣していた。だが選挙に不満を持つ政府軍、反政府軍の駆け引きが続いていた。
嵯峨は万が一の両軍衝突の際アメリカの介入を要請しようとする兄である西園寺義基のシンパである甲武軍部穏健派を牽制しつつ貴族の群れる会議へと向かった。
そしてそんな中、バルキスタンで反政府軍が機動兵器を手に入れ政府軍との全面衝突が発生する。
誠は試験が済んだばかりの非破壊兵器を手に戦線の拡大を防ぐべく出撃するのだった。
法術装甲隊ダグフェロン 永遠に続く世紀末の国で 野球と海と『革命家』
橋本 直
SF
その文明は出会うべきではなかった
その人との出会いは歓迎すべきものではなかった
これは悲しい『出会い』の物語
『特殊な部隊』と出会うことで青年にはある『宿命』がせおわされることになる
法術装甲隊ダグフェロン 第二部
遼州人の青年『神前誠(しんぜんまこと)』が発動した『干渉空間』と『光の剣(つるぎ)により貴族主義者のクーデターを未然に防止することが出来た『近藤事件』が終わってから1か月がたった。
宇宙は誠をはじめとする『法術師』の存在を公表することで混乱に陥っていたが、誠の所属する司法局実働部隊、通称『特殊な部隊』は相変わらずおバカな生活を送っていた。
そんな『特殊な部隊』の運用艦『ふさ』艦長アメリア・クラウゼ中佐と誠の所属するシュツルム・パンツァーパイロット部隊『機動部隊第一小隊』のパイロットでサイボーグの西園寺かなめは『特殊な部隊』の野球部の夏合宿を企画した。
どうせろくな事が起こらないと思いながら仕事をさぼって参加する誠。
そこではかなめがいかに自分とはかけ離れたお嬢様で、貴族主義の国『甲武国』がどれほど自分の暮らす永遠に続く20世紀末の東和共和国と違うのかを誠は知ることになった。
しかし、彼を待っていたのは『法術』を持つ遼州人を地球人から解放しようとする『革命家』の襲撃だった。
この事件をきっかけに誠の身辺警護の必要性から誠の警護にアメリア、かなめ、そして無表情な人造人間『ラスト・バタリオン』の第一小隊小隊長カウラ・ベルガー大尉がつくことになる。
これにより誠の暮らす『男子下士官寮』は有名無実化することになった。
そんなおバカな連中を『駄目人間』嵯峨惟基特務大佐と機動部隊隊長クバルカ・ラン中佐は生暖かい目で見守っていた。
そんな『特殊な部隊』の意図とは関係なく着々と『力ある者の支配する宇宙』の実現を目指す『廃帝ハド』の野望はゆっくりと動き出しつつあった。
SFお仕事ギャグロマン小説。
「おまえを愛することはない!」と言ってやったのに、なぜ無視するんだ!
七辻ゆゆ
ファンタジー
俺を見ない、俺の言葉を聞かない、そして触れられない。すり抜ける……なぜだ?
俺はいったい、どうなっているんだ。
真実の愛を取り戻したいだけなのに。
てめぇの所為だよ
章槻雅希
ファンタジー
王太子ウルリコは政略によって結ばれた婚約が気に食わなかった。それを隠そうともせずに臨んだ婚約者エウフェミアとの茶会で彼は自分ばかりが貧乏くじを引いたと彼女を責める。しかし、見事に返り討ちに遭うのだった。
『小説家になろう』様・『アルファポリス』様の重複投稿、自サイトにも掲載。
無能なので辞めさせていただきます!
サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。
マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。
えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって?
残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、
無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって?
はいはいわかりました。
辞めますよ。
退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。
自分無能なんで、なんにもわかりませんから。
カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。
学園長からのお話です
ラララキヲ
ファンタジー
学園長の声が学園に響く。
『昨日、平民の女生徒の食べていたお菓子を高位貴族の令息5人が取り囲んで奪うという事がありました』
昨日ピンク髪の女生徒からクッキーを貰った自覚のある王太子とその側近4人は項垂れながらその声を聴いていた。
学園長の話はまだまだ続く……
◇テンプレ乙女ゲームになりそうな登場人物(しかし出てこない)
◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。
◇なろうにも上げています。
【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる
三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。
こんなはずじゃなかった!
異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。
珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に!
やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活!
右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり!
アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる