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第45章 包囲網
激闘の始まり
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「大丈夫かよ」
明石が青い顔をしているのに気づいた別所が声をかける。幹部のみのブリーフィングルーム。すでに羽州艦隊が先行して胡州海軍第三艦隊の待ち構えているアステロイドのデブリに向かっていた。
「ああ、ワシは考えてみると初陣やったなあ」
「確かに」
振り返る魚住と黒田の顔が笑顔に染まっている。
「今度は帰りの燃料もあるからな。安心して戦えるぞ」
別所はそう言いながらモニターを指していたペンを振り回しながら明石の目の前まで来た。そしておもむろに明石の剃りあげられた額を触る。
「熱は無いか。なら問題ないな」
その動作に明石は別所もまた先の大戦で人生を狂わされた被害者であることを思い出した。そして同世代の他の艦のアサルト・モジュール部隊の部隊長達もそんな一人なのかと思うと次第に目頭が熱くなった。考えてみれば別所も魚住も戦争が無ければたぶん球場で何回か話をしたくらいでこれほどまでに近しい存在にはならなかっただろう。別所は父の跡をついで病院の内科医になり、魚住は商社か何かのサラリーマンになっていたことだろう。自分も宗教学者が務まるほどでは無かったので実家の寺で読経の日々を過ごしていたはずだった。
しかし戦争はすべてを変えた。
三人はそれぞれ第三艦隊の最前線に有って指揮を執る旗艦『播磨』の最前線部隊を指揮することが決定していた。お互い命を預けての戦いになるのは目に見えていた。
『俺達と同じような物語があいつ等にもあるんやろか?』
黙って明石は周りの熱心に作戦の要綱を伝える別所の言葉を聴いている指揮官達を眺めている。
「ぼんやりしてるんじゃないぞ!タコ」
あまりに別のことを考えていた明石に別所の投げたペンが飛んだ。それをすばやく交わすと明石はしてやったりというようににんまりと笑っていた。
「それでは健闘を祈る」
そんな別所の言葉に明石はペンをよけた感覚で目を覚ましたように顔を上げた。他の艦から出撃する部隊の隊長達は足早に会議室を出て行く。
「そんなに眠いのかよ」
ぼんやりとした顔の魚住。その隣では不思議そうな表情の黒田が明石の顔を覗き込んでくる。
「すまんのう。ワシはどうかしとるかもしれんわ」
そんな明石の言葉に魚住は不思議そうな顔をした後で立ち上がる。
「相手は『胡州の侍』安東貞盛大佐殿だ。そう簡単に話が済むはずはないからな」
立ち上がり伸びをする魚住。邀撃部隊の経験のある彼はある意味達観したように大きくあくびをする余裕があった。
「なんや、落ちついとるやん」
「まあな。生きて帰れるかどうかはわからんが今のところ俺の神経はまともらしいや。それより貴様はさっきから変だぞ」
再び自分のことを魚住に指摘されて明石は覚悟を決めたような表情で立ち上がる。二メートルを超える巨漢の明石が立ち上がると慣れているとはいえ小柄な魚住はのけぞるように反り返る。
「明石、一つだけ助言をしてやるよ」
明石が立ち上がるのを見ると、艦隊付きの参謀と打ち合わせをしていた別所が駆け寄ってきてニヤリと笑った。
「なんやねん。気持ちわるいなあ」
そう言って胸のポケットからサングラスを取り出した明石を見上げて再び別所は笑みを浮かべる。
「これは一番大事なことだと俺は思っているんだ」
「だからなんやねん」
なぜか別所の態度に明石はいらだっていた。それが初の実戦を前にした苛立ち妥当ことは明石も分かっていた。そしてそんな苛立ちを読み取らせまいと必死に強気な表情を作り上げようとするがどうせ別所にはばれるだろうと諦めた瞬間だった。
「英雄になろうとしないことだ。相手は強い。元々技量の差が大きく出るアサルト・モジュール戦じゃあ安東さん相手には勝ち目は無い。とにかく生き残れ」
そんな言葉に少し違和感を感じながら明石は手を振って会議室を後にした。
明石が青い顔をしているのに気づいた別所が声をかける。幹部のみのブリーフィングルーム。すでに羽州艦隊が先行して胡州海軍第三艦隊の待ち構えているアステロイドのデブリに向かっていた。
「ああ、ワシは考えてみると初陣やったなあ」
「確かに」
振り返る魚住と黒田の顔が笑顔に染まっている。
「今度は帰りの燃料もあるからな。安心して戦えるぞ」
別所はそう言いながらモニターを指していたペンを振り回しながら明石の目の前まで来た。そしておもむろに明石の剃りあげられた額を触る。
「熱は無いか。なら問題ないな」
その動作に明石は別所もまた先の大戦で人生を狂わされた被害者であることを思い出した。そして同世代の他の艦のアサルト・モジュール部隊の部隊長達もそんな一人なのかと思うと次第に目頭が熱くなった。考えてみれば別所も魚住も戦争が無ければたぶん球場で何回か話をしたくらいでこれほどまでに近しい存在にはならなかっただろう。別所は父の跡をついで病院の内科医になり、魚住は商社か何かのサラリーマンになっていたことだろう。自分も宗教学者が務まるほどでは無かったので実家の寺で読経の日々を過ごしていたはずだった。
しかし戦争はすべてを変えた。
三人はそれぞれ第三艦隊の最前線に有って指揮を執る旗艦『播磨』の最前線部隊を指揮することが決定していた。お互い命を預けての戦いになるのは目に見えていた。
『俺達と同じような物語があいつ等にもあるんやろか?』
黙って明石は周りの熱心に作戦の要綱を伝える別所の言葉を聴いている指揮官達を眺めている。
「ぼんやりしてるんじゃないぞ!タコ」
あまりに別のことを考えていた明石に別所の投げたペンが飛んだ。それをすばやく交わすと明石はしてやったりというようににんまりと笑っていた。
「それでは健闘を祈る」
そんな別所の言葉に明石はペンをよけた感覚で目を覚ましたように顔を上げた。他の艦から出撃する部隊の隊長達は足早に会議室を出て行く。
「そんなに眠いのかよ」
ぼんやりとした顔の魚住。その隣では不思議そうな表情の黒田が明石の顔を覗き込んでくる。
「すまんのう。ワシはどうかしとるかもしれんわ」
そんな明石の言葉に魚住は不思議そうな顔をした後で立ち上がる。
「相手は『胡州の侍』安東貞盛大佐殿だ。そう簡単に話が済むはずはないからな」
立ち上がり伸びをする魚住。邀撃部隊の経験のある彼はある意味達観したように大きくあくびをする余裕があった。
「なんや、落ちついとるやん」
「まあな。生きて帰れるかどうかはわからんが今のところ俺の神経はまともらしいや。それより貴様はさっきから変だぞ」
再び自分のことを魚住に指摘されて明石は覚悟を決めたような表情で立ち上がる。二メートルを超える巨漢の明石が立ち上がると慣れているとはいえ小柄な魚住はのけぞるように反り返る。
「明石、一つだけ助言をしてやるよ」
明石が立ち上がるのを見ると、艦隊付きの参謀と打ち合わせをしていた別所が駆け寄ってきてニヤリと笑った。
「なんやねん。気持ちわるいなあ」
そう言って胸のポケットからサングラスを取り出した明石を見上げて再び別所は笑みを浮かべる。
「これは一番大事なことだと俺は思っているんだ」
「だからなんやねん」
なぜか別所の態度に明石はいらだっていた。それが初の実戦を前にした苛立ち妥当ことは明石も分かっていた。そしてそんな苛立ちを読み取らせまいと必死に強気な表情を作り上げようとするがどうせ別所にはばれるだろうと諦めた瞬間だった。
「英雄になろうとしないことだ。相手は強い。元々技量の差が大きく出るアサルト・モジュール戦じゃあ安東さん相手には勝ち目は無い。とにかく生き残れ」
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