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第30章 疑心暗鬼
恩讐と
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『以上が帝都の現状に関する報告になります!』
戦艦『伊勢』。大戦後の軍縮協定で廃棄されることが決まり解体を待っていた旧世代の戦艦の参謀控え室。端末に写った帝都の通信将校の顔が消えると清原は渋い表情で机越しに立つ安東の顔を見上げた。西園寺基義の身柄の拘束はすべての作戦の中でも重要度が高く確実性のある作戦と誰もが思っていた。それが水泡に帰した現状は第三艦隊追撃に向かう官派の幹部達の士気を一気に削ぎかねない事態だった。
「西園寺康子様……『法術』の存在を知っていれば十分予想された事態だと思うのですが……」
安東の表情を殺した言葉が気に入らず、清原はそのままうつむいた。
現在遼州系第四惑星胡州の各地で彼等の同志の部隊が宇宙に上がっていた。この四条畷港も民間のシャトルをすべて運休させて廃棄処理待ちの旧型戦艦にアサルト・モジュールを満載して宇宙に上がるのを待っている段階だった。すべては順調に進んでいる。そんな段階での失点に不安が広がるのは目に見えていた。だが確実に清原の同志達は集結を始めていた。烏丸家の被官ばかりではなく地下佐賀家、池家と言った嵯峨家の重鎮や大河内家の片腕として知られる里見義和の第八分遣艦隊なども清原に賛同して胡州衛星軌道上の西園寺派と目される艦船の一斉拿捕を行なっていた。
「そんなことを言うとは……安東君。まだ踏ん切りがつかないかね」
それ以上に軍への復帰に手を尽くしてくれた恩人の清原の言葉に安東は唇を噛んだ。安東の忠節すら信用をしない清原。穿って考えればその言葉からすると清原は自身の保身のために戦いを選んでいるのかもしれない。そう思うと安東は自分が憎らしく感じられた。
恐らく烏丸派が勝ったところで腐敗した貴族制がいつまでも維持できないことは誰の眼にも明らかだった。清原も十分知っていることだが、地球のアメリカをはじめとする国々は烏丸派のクーデターを一斉に非難た。カナダなど大使の召還を始めた国もヨーロッパを中心に20カ国に及ぶ。国内的にもこの決起により先の大戦で凍結されている対外資産についての絶望的展開から産業界は烏丸派への支援を止めると言う脅しを非公式に打診してきていた。
『負けても地獄。勝っても地獄だ』
安東の心の声が聞こえたと言うように憔悴しきった清原が顔を上げる。
「どうなのかね」
清原の諦めかけた顔。だが、安東はすでにすべてを決めていた。
「私の答えはいつも決まっています。大恩ある……」
「いや、いい。君はそれでもいいだろうが君の部下達はどうなのかね?秋田君や安倍君あたりはおおっぴらに私の悪口を言って回って……」
そこまで清原が言ったところで安東は大きく机を叩いた。
「清原さん!そんなことを言っていられる状況なんですか!」
突然の部下の怒りに清原は目を丸くした。そしてしばらく満遍なく安東を眺めた後大きく深呼吸をした。
「安東君。君も胡州の軍人だろ?上官に意見するときの作法も覚えておくべきだと思わないかね?」
そう言うとそのまま後ろを向いた清原に大きくため息をつくと安東は参謀控え室を飛び出すように出て行った。
「安藤君もまだまだだな。戦力では互角以上。しかもあちらは本隊の醍醐君は南極港を使うことができない……戦いは数だ。勝ちは決まっているんだ。あとは戦後の交渉を進めるばかりじゃないか」
清原はそう言うとデスクに向き直り資料を集めようと端末を起動した。そしてすぐに部屋には静寂が訪れることになった。
戦艦『伊勢』。大戦後の軍縮協定で廃棄されることが決まり解体を待っていた旧世代の戦艦の参謀控え室。端末に写った帝都の通信将校の顔が消えると清原は渋い表情で机越しに立つ安東の顔を見上げた。西園寺基義の身柄の拘束はすべての作戦の中でも重要度が高く確実性のある作戦と誰もが思っていた。それが水泡に帰した現状は第三艦隊追撃に向かう官派の幹部達の士気を一気に削ぎかねない事態だった。
「西園寺康子様……『法術』の存在を知っていれば十分予想された事態だと思うのですが……」
安東の表情を殺した言葉が気に入らず、清原はそのままうつむいた。
現在遼州系第四惑星胡州の各地で彼等の同志の部隊が宇宙に上がっていた。この四条畷港も民間のシャトルをすべて運休させて廃棄処理待ちの旧型戦艦にアサルト・モジュールを満載して宇宙に上がるのを待っている段階だった。すべては順調に進んでいる。そんな段階での失点に不安が広がるのは目に見えていた。だが確実に清原の同志達は集結を始めていた。烏丸家の被官ばかりではなく地下佐賀家、池家と言った嵯峨家の重鎮や大河内家の片腕として知られる里見義和の第八分遣艦隊なども清原に賛同して胡州衛星軌道上の西園寺派と目される艦船の一斉拿捕を行なっていた。
「そんなことを言うとは……安東君。まだ踏ん切りがつかないかね」
それ以上に軍への復帰に手を尽くしてくれた恩人の清原の言葉に安東は唇を噛んだ。安東の忠節すら信用をしない清原。穿って考えればその言葉からすると清原は自身の保身のために戦いを選んでいるのかもしれない。そう思うと安東は自分が憎らしく感じられた。
恐らく烏丸派が勝ったところで腐敗した貴族制がいつまでも維持できないことは誰の眼にも明らかだった。清原も十分知っていることだが、地球のアメリカをはじめとする国々は烏丸派のクーデターを一斉に非難た。カナダなど大使の召還を始めた国もヨーロッパを中心に20カ国に及ぶ。国内的にもこの決起により先の大戦で凍結されている対外資産についての絶望的展開から産業界は烏丸派への支援を止めると言う脅しを非公式に打診してきていた。
『負けても地獄。勝っても地獄だ』
安東の心の声が聞こえたと言うように憔悴しきった清原が顔を上げる。
「どうなのかね」
清原の諦めかけた顔。だが、安東はすでにすべてを決めていた。
「私の答えはいつも決まっています。大恩ある……」
「いや、いい。君はそれでもいいだろうが君の部下達はどうなのかね?秋田君や安倍君あたりはおおっぴらに私の悪口を言って回って……」
そこまで清原が言ったところで安東は大きく机を叩いた。
「清原さん!そんなことを言っていられる状況なんですか!」
突然の部下の怒りに清原は目を丸くした。そしてしばらく満遍なく安東を眺めた後大きく深呼吸をした。
「安東君。君も胡州の軍人だろ?上官に意見するときの作法も覚えておくべきだと思わないかね?」
そう言うとそのまま後ろを向いた清原に大きくため息をつくと安東は参謀控え室を飛び出すように出て行った。
「安藤君もまだまだだな。戦力では互角以上。しかもあちらは本隊の醍醐君は南極港を使うことができない……戦いは数だ。勝ちは決まっているんだ。あとは戦後の交渉を進めるばかりじゃないか」
清原はそう言うとデスクに向き直り資料を集めようと端末を起動した。そしてすぐに部屋には静寂が訪れることになった。
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