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第28章 鬼姫の娘
残酷な姫君
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近衛師団の通用門に巨大な人影が現れた。当然のように入り口を封鎖している清原派の決起部隊は警戒を始めて待機させていたアサルト・モジュールを起動させた。コックピットの中ではサイボーグ用の顔が半分以上隠れるヘルメットを着用した士官候補生西園寺かなめがじっと外で起動を始めるアサルト・モジュールの群れを眺めていた。引き締まった口元。まるで得物でも見つけたように自然と舌なめずりをする要。
「ほう、やる気ですか?」
すぐさま右手のレールガンを構えてそのまま連射する。起動がされていない機体はひとたまりも無く火を噴いて倒れた。
『いきなり撃つな!お前のお袋を殺されたいのか!』
「いやあ、寝てる機体をぶっつぶした方が被害が少なくて済むじゃないですか。それにアタシの任務は陽動ですよ。好きに暴れさせてもらいます」
そう言うと一気に機体をジャンプさせる。突然のことにまだ烏丸派の決起部隊は何が起きたか理解できずにいた。すでに起動済みの三式が二機合わせるように宙に浮いた近衛師団の新型機に付いて飛び上がる。
「五式の実力はどの程度かねえ」
付いてきた敵機に照準を合わせるが、相手が師団の敷地を背にしているので攻撃ができないことに気づく。
『馬鹿やっているんじゃない!ともかく動き回ってひきつければいいんだ!』
「簡単に言ってくれるねえ……」
かなめはそう言うとすぐに近くの森に機体を突入させる。敵の二機もそれを見てそのままかなめの機体を追う。だがそれは追っているのではなくただ部隊の通用門から引き離されていると言うことに気づいていないパイロットを想像してさらに要は満足げに頷く。
『今から救出隊出る!その間ひきつけていろ!』
通信をしていた士官の搭乗していた装甲車両が虚を付いて封鎖されていた街道のバリケードを踏み越えて都心部へと走り出した。
「それでいいわけだ……後はスコアーでも稼がせてもらおうかね」
かなめはそう言うと背中に張り付こうとしている先の大戦の従軍章をマーキングしている動きの良い三式にターゲットを絞った。下手に動けばやられると思ったのか、公園の池のほとりでじっとしている敵。もう一機は要を挟み込もうとしているようにオブジェの影を動いているのがレーダーで見て取れる。
「ステルス性能の差がこれだけあるとかわいそうに思えてくるな……」
そう言って真後ろを取ったつもりで飛び込んでくる新人の機体に照準を合わせた。
「さよならだな!」
振り向きざまのレールガンの一撃で三式のコックピットが吹き飛ぶ。それに驚いて飛び出した隊長機。
「小娘相手になにやってんだか」
自然とかなめの頬に笑みが浮かんだ。さすがに隊長機らしくすぐに冷静さを取り戻した敵は再び森に隠れる。
「でかい図体で森の中……逃げるのか?逃げれるのかよ」
笑みが浮かぶ。自分の残酷さに気づいて少しばかり嫌になるかなめ。三歳で生身の体を失って大人の義体をあてがわれて生きてきた彼女。胡州貴族の頂点に立つ四大公家の筆頭、西園寺家の一人娘と言う立場から人の目を気にして生きてきた自分。そんな自分を本来の自分にしてくれたのが軍の訓練だったのは意外なことだった。
父も、恐ろしい母も彼女の軍の予科学校への進学には反対だった。だが、彼女は反対されればされるほど軍に志願したいと言う気持ちは高まった。屋敷に出入りしている醍醐文隆などの軍の幹部にねだってなんとかあこがれていた叔父嵯峨惟基の入った予科学校に入学した。
日に日に訓練と言う名の暴力になじんでいくうちに悟ったこと。自分がどれほど攻撃的な人間だと言う否定できない事実。それを悟った今、要は目の前のベテランパイロットが旧式の機体の性能に悪態をつきながら自分から逃げ惑っていることを想像して笑いをこらえていた。
「さあて。どこまで逃げれるかな?小娘相手だと油断していたんだ。簡単に殺すようなことはしないからさあ……出てきて遊ぼうじゃねえの」
熱センサーはそのまま公園の森の木をなぎ倒しながら進んでいる標的を示している。今撃てば相手を蜂の巣にできると確信しているがかなめはまだ敵の止めを刺すつもりは無かった。上空に決起部隊の信号を出しているヘリが現れる。
「ずいぶんと用意がいいことで」
そう言うとかなめは機体をジャンプさせた。そのままヘリの操縦席を五式の空いた左手を使って握りつぶす。
友軍のあっさりと無様に死ぬ様を見てようやく三式のパイロットの頭に血が上った。レールガンの掃射が行なわれようとしているが、その照準はすでに要の首筋に刺さったコードを通じて彼女の意識の中に取り込まれていた。ひたすら引き金を引きながら弾が出ないことに焦っているだろう敵パイロットを想像して大笑いする要。
「相手が悪かったな……」
そう言うとかなめはレールガンを放つ。森の中に立つ三式の頭部が吹き飛ぶ。そして右腕、左足、右足、左足。一発ずつ正確に命中する弾丸。すでに脱出装置のシステムにはウィルスが仕込んであり、死に行くのを待つだけのパイロット。
『卑怯者が!』
傍受した通信に最後に叫んだベテランパイロットの叫びに悦に入りながら要は三発の弾丸を腹部のコックピットに命中させて決着をつけた。
「ほう、やる気ですか?」
すぐさま右手のレールガンを構えてそのまま連射する。起動がされていない機体はひとたまりも無く火を噴いて倒れた。
『いきなり撃つな!お前のお袋を殺されたいのか!』
「いやあ、寝てる機体をぶっつぶした方が被害が少なくて済むじゃないですか。それにアタシの任務は陽動ですよ。好きに暴れさせてもらいます」
そう言うと一気に機体をジャンプさせる。突然のことにまだ烏丸派の決起部隊は何が起きたか理解できずにいた。すでに起動済みの三式が二機合わせるように宙に浮いた近衛師団の新型機に付いて飛び上がる。
「五式の実力はどの程度かねえ」
付いてきた敵機に照準を合わせるが、相手が師団の敷地を背にしているので攻撃ができないことに気づく。
『馬鹿やっているんじゃない!ともかく動き回ってひきつければいいんだ!』
「簡単に言ってくれるねえ……」
かなめはそう言うとすぐに近くの森に機体を突入させる。敵の二機もそれを見てそのままかなめの機体を追う。だがそれは追っているのではなくただ部隊の通用門から引き離されていると言うことに気づいていないパイロットを想像してさらに要は満足げに頷く。
『今から救出隊出る!その間ひきつけていろ!』
通信をしていた士官の搭乗していた装甲車両が虚を付いて封鎖されていた街道のバリケードを踏み越えて都心部へと走り出した。
「それでいいわけだ……後はスコアーでも稼がせてもらおうかね」
かなめはそう言うと背中に張り付こうとしている先の大戦の従軍章をマーキングしている動きの良い三式にターゲットを絞った。下手に動けばやられると思ったのか、公園の池のほとりでじっとしている敵。もう一機は要を挟み込もうとしているようにオブジェの影を動いているのがレーダーで見て取れる。
「ステルス性能の差がこれだけあるとかわいそうに思えてくるな……」
そう言って真後ろを取ったつもりで飛び込んでくる新人の機体に照準を合わせた。
「さよならだな!」
振り向きざまのレールガンの一撃で三式のコックピットが吹き飛ぶ。それに驚いて飛び出した隊長機。
「小娘相手になにやってんだか」
自然とかなめの頬に笑みが浮かんだ。さすがに隊長機らしくすぐに冷静さを取り戻した敵は再び森に隠れる。
「でかい図体で森の中……逃げるのか?逃げれるのかよ」
笑みが浮かぶ。自分の残酷さに気づいて少しばかり嫌になるかなめ。三歳で生身の体を失って大人の義体をあてがわれて生きてきた彼女。胡州貴族の頂点に立つ四大公家の筆頭、西園寺家の一人娘と言う立場から人の目を気にして生きてきた自分。そんな自分を本来の自分にしてくれたのが軍の訓練だったのは意外なことだった。
父も、恐ろしい母も彼女の軍の予科学校への進学には反対だった。だが、彼女は反対されればされるほど軍に志願したいと言う気持ちは高まった。屋敷に出入りしている醍醐文隆などの軍の幹部にねだってなんとかあこがれていた叔父嵯峨惟基の入った予科学校に入学した。
日に日に訓練と言う名の暴力になじんでいくうちに悟ったこと。自分がどれほど攻撃的な人間だと言う否定できない事実。それを悟った今、要は目の前のベテランパイロットが旧式の機体の性能に悪態をつきながら自分から逃げ惑っていることを想像して笑いをこらえていた。
「さあて。どこまで逃げれるかな?小娘相手だと油断していたんだ。簡単に殺すようなことはしないからさあ……出てきて遊ぼうじゃねえの」
熱センサーはそのまま公園の森の木をなぎ倒しながら進んでいる標的を示している。今撃てば相手を蜂の巣にできると確信しているがかなめはまだ敵の止めを刺すつもりは無かった。上空に決起部隊の信号を出しているヘリが現れる。
「ずいぶんと用意がいいことで」
そう言うとかなめは機体をジャンプさせた。そのままヘリの操縦席を五式の空いた左手を使って握りつぶす。
友軍のあっさりと無様に死ぬ様を見てようやく三式のパイロットの頭に血が上った。レールガンの掃射が行なわれようとしているが、その照準はすでに要の首筋に刺さったコードを通じて彼女の意識の中に取り込まれていた。ひたすら引き金を引きながら弾が出ないことに焦っているだろう敵パイロットを想像して大笑いする要。
「相手が悪かったな……」
そう言うとかなめはレールガンを放つ。森の中に立つ三式の頭部が吹き飛ぶ。そして右腕、左足、右足、左足。一発ずつ正確に命中する弾丸。すでに脱出装置のシステムにはウィルスが仕込んであり、死に行くのを待つだけのパイロット。
『卑怯者が!』
傍受した通信に最後に叫んだベテランパイロットの叫びに悦に入りながら要は三発の弾丸を腹部のコックピットに命中させて決着をつけた。
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