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第22章 濃州の姫
葛藤
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胡州本星で越州決起の報が広まっていた時にはすでに越州軍は主力を濃州第三コロニーまで進めてきていた。駐屯基地。旧式の九七式ばかりを装備している濃州防衛部隊は大半の戦力を戦闘開始三十分で失っていた。
「洋子様が出ることは無いでしょう」
斎藤一実はパイロットスーツで女性当主の前に立ちふさがった。胡州の第三艦隊が出撃準備に入ったと言う知らせとともに越州艦隊は濃州第三コロニーに照準を合わせてきていることはアクティブセンサーを見るまでもなく撃破された友軍機のビーコンでわかる程度に彼我の戦力差は違いすぎた。その様子が分かるだけにこのコントロールルームの中の士官が誰も逃げようとしないのが不思議に思える状況が展開されていた。
長い髪をなびかせながらヘルメットを手にした領主斎藤洋子は目の前に立つ大柄な一族の筆頭格の斎藤一実を見上げていた。
「私が動かなければ士気が下がります!それに一実様にはしてもらわねばならないことがありますから」
そう言って長い黒髪をヘルメットに収めようとしている。そんな領主を斎藤とその部下達は洋子の前に立ちふさがっていた。
「洋子様!あなたを失えば濃州の士気は落ちます。そうすれば赤松公の艦隊が到着したとしても……」
斎藤の言葉に洋子は大きくため息をついた。
「まるで私が無能のようなおっしゃりようですね。私も胡州の青い騎士と呼ばれた斎藤一学の妹ですわよ。それなりの活躍くらい……」
「それが甘いと申し上げているのです!戦場では強い弱いより運次第で明暗が分かれるものです。大将を失えば必然的に濃州は落ちます!」
「でも……」
そう言って口ごもる女主の鳩尾に一実はこぶしを放った。突然のことにそのまま意識を失う明子。
「大尉……」
部下達は突然の一実の行動にためらっている。一実は静かに彼女を抱えると人を呼ぶべく駆逐艦のタラップに手を振った。
「この戦いは私情で動いてはならないものなのです。一学様の守った濃州。明子様が立派に支えていって下さらなければ意味がありません」
そう言うと事態を理解した兵士達は気を失ったままの洋子を担ぎ上げる。
「それでは濃州勢の力とやらを越州のならず者に見せてくれようか」
一実の笑いに周りのパイロットスーツの男達も笑顔を浮かべる。そしてそのまま駆逐艦のタラップに向けて無重力空間を浮いたまま進んでいくことになった。
『濃州はそうやすやすとは獲られませんよ……』
心の中でつぶやく一実。彼がそのまま無重力空間を進んでいると慣れた調子で負傷したパイロット達が立ちふさがった。
「貴様等が出る必要は無い。後は頼む」
「いえ……一実様だけを生贄にしたら死んでも死に切れませんよ。それに泉州の救助艦隊が到着するまで時間を稼がないと……」
誰もが死を覚悟していた。かつてこの地を慈愛で収めた代々の斎藤家の当主への恩義が彼等を突き動かしていた。
「自分の世話は自分で焼けよ」
「分かっていますよ」
思わず微笑む片目の下士官。その肩を叩くと気合を入れるように深呼吸をする一実。
「じゃああの連中に濃州の戦争を教えてやろう」
にんまりと笑うと兵士が投げたヘルメットを被り、斎藤一実はそのままハンガーへと向かった。
「洋子様が出ることは無いでしょう」
斎藤一実はパイロットスーツで女性当主の前に立ちふさがった。胡州の第三艦隊が出撃準備に入ったと言う知らせとともに越州艦隊は濃州第三コロニーに照準を合わせてきていることはアクティブセンサーを見るまでもなく撃破された友軍機のビーコンでわかる程度に彼我の戦力差は違いすぎた。その様子が分かるだけにこのコントロールルームの中の士官が誰も逃げようとしないのが不思議に思える状況が展開されていた。
長い髪をなびかせながらヘルメットを手にした領主斎藤洋子は目の前に立つ大柄な一族の筆頭格の斎藤一実を見上げていた。
「私が動かなければ士気が下がります!それに一実様にはしてもらわねばならないことがありますから」
そう言って長い黒髪をヘルメットに収めようとしている。そんな領主を斎藤とその部下達は洋子の前に立ちふさがっていた。
「洋子様!あなたを失えば濃州の士気は落ちます。そうすれば赤松公の艦隊が到着したとしても……」
斎藤の言葉に洋子は大きくため息をついた。
「まるで私が無能のようなおっしゃりようですね。私も胡州の青い騎士と呼ばれた斎藤一学の妹ですわよ。それなりの活躍くらい……」
「それが甘いと申し上げているのです!戦場では強い弱いより運次第で明暗が分かれるものです。大将を失えば必然的に濃州は落ちます!」
「でも……」
そう言って口ごもる女主の鳩尾に一実はこぶしを放った。突然のことにそのまま意識を失う明子。
「大尉……」
部下達は突然の一実の行動にためらっている。一実は静かに彼女を抱えると人を呼ぶべく駆逐艦のタラップに手を振った。
「この戦いは私情で動いてはならないものなのです。一学様の守った濃州。明子様が立派に支えていって下さらなければ意味がありません」
そう言うと事態を理解した兵士達は気を失ったままの洋子を担ぎ上げる。
「それでは濃州勢の力とやらを越州のならず者に見せてくれようか」
一実の笑いに周りのパイロットスーツの男達も笑顔を浮かべる。そしてそのまま駆逐艦のタラップに向けて無重力空間を浮いたまま進んでいくことになった。
『濃州はそうやすやすとは獲られませんよ……』
心の中でつぶやく一実。彼がそのまま無重力空間を進んでいると慣れた調子で負傷したパイロット達が立ちふさがった。
「貴様等が出る必要は無い。後は頼む」
「いえ……一実様だけを生贄にしたら死んでも死に切れませんよ。それに泉州の救助艦隊が到着するまで時間を稼がないと……」
誰もが死を覚悟していた。かつてこの地を慈愛で収めた代々の斎藤家の当主への恩義が彼等を突き動かしていた。
「自分の世話は自分で焼けよ」
「分かっていますよ」
思わず微笑む片目の下士官。その肩を叩くと気合を入れるように深呼吸をする一実。
「じゃああの連中に濃州の戦争を教えてやろう」
にんまりと笑うと兵士が投げたヘルメットを被り、斎藤一実はそのままハンガーへと向かった。
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