レジェンド・オブ・ダーク 遼州司法局異聞

橋本 直

文字の大きさ
上 下
798 / 1,505
第14章 同志達

貴族と家臣

しおりを挟む
「君が明石君か。話は聞いているよ」 

 そう上座から声をかけてきたのは写真では何度も見たことのある人物だった。

「これは醍醐少将!」 

 明石は身が固まるのを感じた。だが、醍醐文隆陸軍少将は明石が連れてきた楓の方に目が行くと突然立ち上がり楓の前に額づいた。先の大戦では参謀としてアフリカ方面戦線で活躍し、遼南軍の崩壊にあわなければ要衝モガディシオを陥落させたとも言われる人物である。しかし醍醐の視線が隣に立っている楓に動くと急変した。

「これは姫様!申し訳ございません!」 

 突然の醍醐の懺悔に硬直したままその禿かけた頭を見つめる楓。彼女は視線で明石にどうしたら良いか訪ねてくるようなそぶりを見せた。

「ああ、将軍。頭上げてくださいよ。コイツはワシの部隊の代表で来とるだけなんで」 

 明石がそう言っても醍醐は頭を上げようとしない。

「醍醐さん。いつも父上が迷惑をかけています。こんな状況になったのも……」 

「いえ!私の独断で未来ある若者達に危険なことをさせているんです!これは……」 

「醍醐さん!」 

 凛と響く楓の声が本堂に響く。苦笑いを浮かべながら土下座する醍醐を見つめていた同志達はその声に呼び起こされるようにして立ち上がった。

「同志の一人じゃないですか!あくまで我々は胡州の変化を作り出すべく立ち上がったんです!」 

「そうだ!家柄など無意味!」 

「志を持っているんだ、歓迎するよ」 

 彼等はそう言って楓に握手の手を伸ばしてくる。自分の言葉が呼んだ状況だと言うのに戸惑うように明石を見つめた後、それぞれの手に握手を返す楓。

「将軍。頭を上げてください」 

 一通り握手が終わると、楓はまだ頭を垂れている醍醐の肩を叩いた。醍醐はゆっくりと立ち上がり上座に戻って皿の上のスルメを手に取る。

「隊長。これは?」 

 楓は珍しそうにスルメを眺めている。

「ああ、酒のつまみやけど……ああ、ワレはあかんで。酒のつまみやさかい」 

 そう言うと明石は楓からスルメを取り上げて自分の口に運ぶ。

「いいじゃないですか、酒じゃなくてスルメくらいなら」 

 隣の髭面の海軍大尉がそう言って笑った。どちらかと言えば酒で何とか先日のテロへの怒りを静めていると言う血の気の多い面々と比べると一回り上の年齢で落ち着きを感じる姿に明石は好意を持っていた。
しおりを挟む
感想 7

あなたにおすすめの小説

父が再婚しました

Ruhuna
ファンタジー
母が亡くなって1ヶ月後に 父が再婚しました

もう、終わった話ですし

志位斗 茂家波
ファンタジー
一国が滅びた。 その知らせを聞いても、私には関係の無い事。 だってね、もう分っていたことなのよね‥‥‥ ‥‥‥たまにやりたくなる、ありきたりな婚約破棄ざまぁ(?)もの 少々物足りないような気がするので、気が向いたらオマケ書こうかな?

【完結】そして、誰もいなくなった

杜野秋人
ファンタジー
「そなたは私の妻として、侯爵夫人として相応しくない!よって婚約を破棄する!」 愛する令嬢を傍らに声高にそう叫ぶ婚約者イグナシオに伯爵家令嬢セリアは誤解だと訴えるが、イグナシオは聞く耳を持たない。それどころか明らかに犯してもいない罪を挙げられ糾弾され、彼女は思わず彼に手を伸ばして取り縋ろうとした。 「触るな!」 だがその手をイグナシオは大きく振り払った。振り払われよろめいたセリアは、受け身も取れないまま仰向けに倒れ、頭を打って昏倒した。 「突き飛ばしたぞ」 「彼が手を上げた」 「誰か衛兵を呼べ!」 騒然となるパーティー会場。すぐさま会場警護の騎士たちに取り囲まれ、彼は「違うんだ、話を聞いてくれ!」と叫びながら愛人の令嬢とともに連行されていった。 そして倒れたセリアもすぐさま人が集められ運び出されていった。 そして誰もいなくなった。 彼女と彼と愛人と、果たして誰が悪かったのか。 これはとある悲しい、婚約破棄の物語である。 ◆小説家になろう様でも公開しています。話数の関係上あちらの方が進みが早いです。 3/27、なろう版完結。あちらは全8話です。 3/30、小説家になろうヒューマンドラマランキング日間1位になりました! 4/1、完結しました。全14話。

「おまえを愛することはない!」と言ってやったのに、なぜ無視するんだ!

七辻ゆゆ
ファンタジー
俺を見ない、俺の言葉を聞かない、そして触れられない。すり抜ける……なぜだ? 俺はいったい、どうなっているんだ。 真実の愛を取り戻したいだけなのに。

悪意のパーティー《完結》

アーエル
ファンタジー
私が目を覚ましたのは王城で行われたパーティーで毒を盛られてから1年になろうかという時期でした。 ある意味でダークな内容です ‪☆他社でも公開

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

王家も我が家を馬鹿にしてますわよね

章槻雅希
ファンタジー
 よくある婚約者が護衛対象の王女を優先して婚約破棄になるパターンのお話。あの手の話を読んで、『なんで王家は王女の醜聞になりかねない噂を放置してるんだろう』『てか、これ、王家が婚約者の家蔑ろにしてるよね?』と思った結果できた話。ひそかなサブタイは『うちも王家を馬鹿にしてますけど』かもしれません。 『小説家になろう』『アルファポリス』(敬称略)に重複投稿、自サイトにも掲載しています。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

処理中です...