797 / 1,535
第14章 同志達
会合
しおりを挟む
敗戦と復興で持ち直したのがうわべに過ぎないことはこの帝都でも路地に迷い込んでみればすぐ分かる。別所にもらった地図を見ながら明石はこの路地を歩きながら去年まで肩で風を切って歩いた芸州コロニーの闇市を思い出して歩いていた。後ろからついてくるのは是非との意向で部下達を代表してついてきた楓がきょろきょろと辺りを見回している。
『それなら民派の軍人の秘密裏の会合があるから……行ってみるか?』
怒鳴り散らした明石に飽き飽きしたと言うような表情でプリントアウトした地図を手渡しが別所の渋い表情が頭を掠めた。
「なんや、珍しいんか?」
街の雰囲気にかつての芸州のドヤ街を思い出してリラックスしている明石を緊張した面持ちで見上げて無言で頷く楓。だが、明石は民派の会合の場所とされた寺に向かって歩みを速めた。きな臭い世の中。通り過ぎる人々も海軍の制服を着た二人をわざとらしく無視している。
明石もかつてはそうだった。
戦争と言う天災に近い出来事で人生そのものを棒に振った気持ちで、ただ地べたを這い回るしかないなどと自分を慰めながら同じ境遇の者同士で寄り集まるのは負け犬だったかつての自分。やっかみと羨望で軍人や官僚達を持ち上げてすごしていた時代を思い出して明石は苦笑いを浮かべた。
「あそこに墓地が見えますよ」
楓がそう言う前に嗅ぎなれた線香の香りに明石は気づいていた。路地を行きかう闇屋や担ぎ屋ではない参拝客を目にするようになると、古びた本堂の伽藍が目に入る。周りのバラックと比べれば確かに瓦がきちんと並んでいる屋根は別世界の建物に見えた。だが墓には雑草が見え、塀は破れ、塔婆が散らかっているのが見える。
「荒れてますね。こんな……」
「そないな顔せんといてな。貴族相手の寺やったら別やけど今はどの寺も今はこんなもんやで」
そう言いながら明石は破れがちの塀に沿って門を目指す。門には背広の男が立っており、明石の顔を見ると黙って道をあける。
「大丈夫なんでしょうか」
楓が言うのも当然な話で、男の左胸には膨らみがあり、そこには銃が隠れているのは間違いが無かった。門をくぐると寺の荒れ方がかなり本格的なことに気づいた。襖はつぎはぎで覆われ、柱には大きく傷跡が見える。
そうして入り口には今度は陸軍の制服を着た下士官がライフルを構えて立っている。
「ご苦労さん」
そう言って明石が頭を下げると下士官は戸惑うように笑った後、奥を覗き込んだ。見慣れない陸軍士官がきびきびと歩いてくる。
「明石清海少佐ですね。それと……」
「正親町三条楓曹長であります!」
直立不動の姿勢で敬礼をする少女に微笑んだ陸軍中尉は敬礼を返す。
「靴を脱いで上がってください。あと、出来るだけ下を見ながら歩いてくださいよ。床が傷ついているので下手をすると靴下をだめにしますから」
そう言って靴を脱ぐ二人を眺める中尉。警備の下士官は二人の靴を横に片付ける。40足以上の靴が並んでいるところから見てそれなりの規模の集会であることは分かった。明石も奥に消えようとする中尉について薄暗い寺の屋根の下を歩いた。
「来たか!待っていたぞ」
満面の笑みの魚住。黒田の顔も見える。本堂には他にも海軍や陸軍の中堅士官達がスルメをつまみにして酒を飲んでいた。
『それなら民派の軍人の秘密裏の会合があるから……行ってみるか?』
怒鳴り散らした明石に飽き飽きしたと言うような表情でプリントアウトした地図を手渡しが別所の渋い表情が頭を掠めた。
「なんや、珍しいんか?」
街の雰囲気にかつての芸州のドヤ街を思い出してリラックスしている明石を緊張した面持ちで見上げて無言で頷く楓。だが、明石は民派の会合の場所とされた寺に向かって歩みを速めた。きな臭い世の中。通り過ぎる人々も海軍の制服を着た二人をわざとらしく無視している。
明石もかつてはそうだった。
戦争と言う天災に近い出来事で人生そのものを棒に振った気持ちで、ただ地べたを這い回るしかないなどと自分を慰めながら同じ境遇の者同士で寄り集まるのは負け犬だったかつての自分。やっかみと羨望で軍人や官僚達を持ち上げてすごしていた時代を思い出して明石は苦笑いを浮かべた。
「あそこに墓地が見えますよ」
楓がそう言う前に嗅ぎなれた線香の香りに明石は気づいていた。路地を行きかう闇屋や担ぎ屋ではない参拝客を目にするようになると、古びた本堂の伽藍が目に入る。周りのバラックと比べれば確かに瓦がきちんと並んでいる屋根は別世界の建物に見えた。だが墓には雑草が見え、塀は破れ、塔婆が散らかっているのが見える。
「荒れてますね。こんな……」
「そないな顔せんといてな。貴族相手の寺やったら別やけど今はどの寺も今はこんなもんやで」
そう言いながら明石は破れがちの塀に沿って門を目指す。門には背広の男が立っており、明石の顔を見ると黙って道をあける。
「大丈夫なんでしょうか」
楓が言うのも当然な話で、男の左胸には膨らみがあり、そこには銃が隠れているのは間違いが無かった。門をくぐると寺の荒れ方がかなり本格的なことに気づいた。襖はつぎはぎで覆われ、柱には大きく傷跡が見える。
そうして入り口には今度は陸軍の制服を着た下士官がライフルを構えて立っている。
「ご苦労さん」
そう言って明石が頭を下げると下士官は戸惑うように笑った後、奥を覗き込んだ。見慣れない陸軍士官がきびきびと歩いてくる。
「明石清海少佐ですね。それと……」
「正親町三条楓曹長であります!」
直立不動の姿勢で敬礼をする少女に微笑んだ陸軍中尉は敬礼を返す。
「靴を脱いで上がってください。あと、出来るだけ下を見ながら歩いてくださいよ。床が傷ついているので下手をすると靴下をだめにしますから」
そう言って靴を脱ぐ二人を眺める中尉。警備の下士官は二人の靴を横に片付ける。40足以上の靴が並んでいるところから見てそれなりの規模の集会であることは分かった。明石も奥に消えようとする中尉について薄暗い寺の屋根の下を歩いた。
「来たか!待っていたぞ」
満面の笑みの魚住。黒田の顔も見える。本堂には他にも海軍や陸軍の中堅士官達がスルメをつまみにして酒を飲んでいた。
0
お気に入りに追加
58
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
特殊装甲隊 ダグフェロン 『廃帝と永遠の世紀末』 第五部 『カウラ・ベルガー大尉の誕生日』
橋本 直
SF
遼州司法局実働部隊に課せられる訓練『閉所白兵戦訓練』
いつもの閉所白兵戦訓練で同時に製造された友人の話から実はクリスマスイブが誕生日と分かったカウラ。
そんな彼女をお祝いすると言う名目でアメリアとかなめは誠の実家でのパーティーを企画することになる。
予想通り趣味に走ったプレゼントを用意するアメリア。いかにもセレブな買い物をするかなめ。そんな二人をしり目に誠は独自でのプレゼントを考える。
誠はいかにも絵師らしくカウラを描くことになった。
閑話休題的物語。

四代目 豊臣秀勝
克全
歴史・時代
アルファポリス第5回歴史時代小説大賞参加作です。
読者賞を狙っていますので、アルファポリスで投票とお気に入り登録してくださると助かります。
史実で三木城合戦前後で夭折した木下与一郎が生き延びた。
秀吉の最年長の甥であり、秀長の嫡男・与一郎が生き延びた豊臣家が辿る歴史はどう言うモノになるのか。
小牧長久手で秀吉は勝てるのか?
朝日姫は徳川家康の嫁ぐのか?
朝鮮征伐は行われるのか?
秀頼は生まれるのか。
秀次が後継者に指名され切腹させられるのか?

メトロポリス社へようこそ! ~「役立たずだ」とクビにされたおっさんの就職先は大企業の宇宙船を守る護衛官でした~
アンジェロ岩井
SF
「えっ、クビですか?」
中企業アナハイニム社の事務課に勤める大津修也(おおつしゅうや)は会社の都合によってクビを切られてしまう。
ろくなスキルも身に付けていない修也にとって再転職は絶望的だと思われたが、大企業『メトロポリス』からの使者が現れた。
『メトロポリス』からの使者によれば自身の商品を宇宙の植民星に運ぶ際に宇宙生物に襲われるという事態が幾度も発生しており、そのための護衛役として会社の顧問役である人工頭脳『マリア』が護衛役を務める適任者として選び出したのだという。
宇宙生物との戦いに用いるロトワングというパワードスーツには適性があり、その適性が見出されたのが大津修也だ。
大津にとっては他に就職の選択肢がなかったので『メトロポリス』からの選択肢を受けざるを得なかった。
『メトロポリス』の宇宙船に乗り込み、宇宙生物との戦いに明け暮れる中で、彼は護衛アンドロイドであるシュウジとサヤカと共に過ごし、絆を育んでいくうちに地球上にてアンドロイドが使用人としての扱いしか受けていないことを思い出す。
修也は戦いの中でアンドロイドと人間が対等な関係を築き、共存を行うことができればいいと考えたが、『メトロポリス』では修也とは対照的に人類との共存ではなく支配という名目で動き出そうとしていた。
銀河太平記
武者走走九郎or大橋むつお
SF
いまから二百年の未来。
前世紀から移住の始まった火星は地球のしがらみから離れようとしていた。火星の中緯度カルディア平原の大半を領域とする扶桑公国は国民の大半が日本からの移民で構成されていて、臣籍降下した扶桑宮が征夷大将軍として幕府を開いていた。
その扶桑幕府も代を重ねて五代目になろうとしている。
折しも地球では二千年紀に入って三度目のグローバリズムが破綻して、東アジア発の動乱期に入ろうとしている。
火星と地球を舞台として、銀河規模の争乱の時代が始まろうとしている。
スキルが【アイテムボックス】だけってどうなのよ?
山ノ内虎之助
ファンタジー
高校生宮原幸也は転生者である。
2度目の人生を目立たぬよう生きてきた幸也だが、ある日クラスメイト15人と一緒に異世界に転移されてしまう。
異世界で与えられたスキルは【アイテムボックス】のみ。
唯一のスキルを創意工夫しながら異世界を生き抜いていく。

もしかして寝てる間にざまぁしました?
ぴぴみ
ファンタジー
令嬢アリアは気が弱く、何をされても言い返せない。
内気な性格が邪魔をして本来の能力を活かせていなかった。
しかし、ある時から状況は一変する。彼女を馬鹿にし嘲笑っていた人間が怯えたように見てくるのだ。
私、寝てる間に何かしました?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる