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第9章 賭け
有力者達
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「おう、貞坊!」
赤松が叫んだ先には暗闇に一人の陸軍大佐が立っていた。明石が目を凝らす中、その将校はゆっくりと近づいてくる。
「安東大佐……」
別所の言葉に明石もその男が『胡州一の侍』と呼ばれたアサルト・モジュールパイロット安東貞盛大佐であることを理解した。
「西園寺公は?」
ゆっくりと一語一語確かめるようにして安東は赤松に尋ねた。
「康子さんのことはよう知っとるやろ?大丈夫なんちゃうか?」
それだけ言うと赤松が何かに気づいたように振り返った。黒い高級車が屋敷の車止めに止められる。その中でちらちらと刃物のようなもののきらめきが見えて別所が腰の拳銃に手をかけようとした。
「やめとけ、康子はんや」
赤松の言葉に書生が開けたその車のドアから薙刀の先が突き出しているのが見えた。それに続いて諦めたような顔の西園寺基義が現れる。
「赤松君!これはどう言うことだ!」
車から降りた西園寺はそのまま自分を笑顔で見つめている赤松に詰め寄る。
「ああ、これの文句は新三に」
その赤松の言葉に安東が腹を抱える。その二人の息の合い方を明石は不思議に思いながら見つめていた。
「あの二人は義理の兄弟だからな」
別所の囁きで赤松貴子が安東貞盛の姉であることを思い出し、笑いあう安東と赤松の顔が一斉に西園寺に向かっている意味が分かった。
さらに車が現れる。今度はバンであり、大きな寝台でも運んでいるような車だった。
「保科のとっつぁんか」
安東が腕組みし、赤松が渋い表情で車を見る。運転手達は車が止まると同時にそのまま後部のハッチを開いた。
「よう、元気そうだな」
寝台から上半身を起こそうとする保科老人を黙って赤松と安東は眺めていた。
「君達もいるのか。嵯峨君はなかなかのやり手のようだ」
そう言うと保科を乗せた寝台は屋敷の中へと向かう。赤松と安東はそれに寄り添うようにして正親町三条家の屋敷の玄関へと向かった。
「これでどうにかなる話なんやろか」
ぼんやりとつぶやく明石の肩を叩く別所。
「恐らくは保科さんの命が続く限りのひと時の平和だろうな」
そんな悟りきった言葉を吐く別所を明石はにらみつけた。
「ひと時だろうが平和が命を救うのはお前が一番知っているだろ?」
別所の顔は真剣だった。明石もその言葉の意味は分かっていた。長距離ミサイルにコックピットを取り付けて敵艦隊に突入する。その特別攻撃部隊の隊長として終戦を迎えた明石には停戦がどれほどの意味を持ち平和がどれほどの命を救うかを知っていた。
「その間にどうすれば命が消えずに済むか考えろってことやな」
明石のつぶやきに頷く別所。たたずむ車止め。従卒達はタバコを吸いながら中で行われているだろう会議を空想していた。
赤松が叫んだ先には暗闇に一人の陸軍大佐が立っていた。明石が目を凝らす中、その将校はゆっくりと近づいてくる。
「安東大佐……」
別所の言葉に明石もその男が『胡州一の侍』と呼ばれたアサルト・モジュールパイロット安東貞盛大佐であることを理解した。
「西園寺公は?」
ゆっくりと一語一語確かめるようにして安東は赤松に尋ねた。
「康子さんのことはよう知っとるやろ?大丈夫なんちゃうか?」
それだけ言うと赤松が何かに気づいたように振り返った。黒い高級車が屋敷の車止めに止められる。その中でちらちらと刃物のようなもののきらめきが見えて別所が腰の拳銃に手をかけようとした。
「やめとけ、康子はんや」
赤松の言葉に書生が開けたその車のドアから薙刀の先が突き出しているのが見えた。それに続いて諦めたような顔の西園寺基義が現れる。
「赤松君!これはどう言うことだ!」
車から降りた西園寺はそのまま自分を笑顔で見つめている赤松に詰め寄る。
「ああ、これの文句は新三に」
その赤松の言葉に安東が腹を抱える。その二人の息の合い方を明石は不思議に思いながら見つめていた。
「あの二人は義理の兄弟だからな」
別所の囁きで赤松貴子が安東貞盛の姉であることを思い出し、笑いあう安東と赤松の顔が一斉に西園寺に向かっている意味が分かった。
さらに車が現れる。今度はバンであり、大きな寝台でも運んでいるような車だった。
「保科のとっつぁんか」
安東が腕組みし、赤松が渋い表情で車を見る。運転手達は車が止まると同時にそのまま後部のハッチを開いた。
「よう、元気そうだな」
寝台から上半身を起こそうとする保科老人を黙って赤松と安東は眺めていた。
「君達もいるのか。嵯峨君はなかなかのやり手のようだ」
そう言うと保科を乗せた寝台は屋敷の中へと向かう。赤松と安東はそれに寄り添うようにして正親町三条家の屋敷の玄関へと向かった。
「これでどうにかなる話なんやろか」
ぼんやりとつぶやく明石の肩を叩く別所。
「恐らくは保科さんの命が続く限りのひと時の平和だろうな」
そんな悟りきった言葉を吐く別所を明石はにらみつけた。
「ひと時だろうが平和が命を救うのはお前が一番知っているだろ?」
別所の顔は真剣だった。明石もその言葉の意味は分かっていた。長距離ミサイルにコックピットを取り付けて敵艦隊に突入する。その特別攻撃部隊の隊長として終戦を迎えた明石には停戦がどれほどの意味を持ち平和がどれほどの命を救うかを知っていた。
「その間にどうすれば命が消えずに済むか考えろってことやな」
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