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第6章 西園寺サロン
かつての友
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「ああ、そうだ。貞坊には会ったのか?」
赤松の言葉にしばらく別所と明石は呆然とした。
「一般受けしない呼び方は止めとけよ。安東貞盛大佐殿だろ?会ったよ」
嵯峨の言葉に沈黙に包まれる。明石も黙り込んだ。赤松の妻が安東大佐の姉であり、安東の妻が赤松の妹。その複雑な事情を考えれば言葉を繰り出すのが難しかった。
「アイツは本当に融通が効かねえ奴だな。まあ昔からだけどな」
そう言ってしばらく考え事をしていた嵯峨。そこにふすまの外に人の気配を感じた。
「康子か?」
西園寺の声にふすまが開く。そこには下女が一人目の前にすき焼き鍋を置いてかしこまっていた。
「おう!待ってたんだ」
嵯峨の言葉に合わせるように変わった円盤を持った康子が現れる。
「あの、それ……」
「電熱器。知らないでしょ」
そう言う康子は非常にうれしそうに両手に持った電熱器を別所の前と夫の基義の前に置く。二人の女中は手にした鍋を康子の置いた電熱器に置き、その隣に肉の乗った皿を置いた。
「へえ、これが西園寺流のすき焼きですか」
別所はじっくりと鍋の中を見つめる。いまだ温まっていない割り下に浮かぶ春菊に目がひきつけられる。
「ちょっと時間がかかるのが困るのよね」
そう言いながら続けて入って来た女中から卵などを受け取る康子。
「かなめ!あなたも来なさい!」
ふすまの外に座っていた西園寺かなめが遠慮がちに部屋に入ってくる。明石はその雰囲気に安心できるような感じを抱きながら見守っていた。
赤松の言葉にしばらく別所と明石は呆然とした。
「一般受けしない呼び方は止めとけよ。安東貞盛大佐殿だろ?会ったよ」
嵯峨の言葉に沈黙に包まれる。明石も黙り込んだ。赤松の妻が安東大佐の姉であり、安東の妻が赤松の妹。その複雑な事情を考えれば言葉を繰り出すのが難しかった。
「アイツは本当に融通が効かねえ奴だな。まあ昔からだけどな」
そう言ってしばらく考え事をしていた嵯峨。そこにふすまの外に人の気配を感じた。
「康子か?」
西園寺の声にふすまが開く。そこには下女が一人目の前にすき焼き鍋を置いてかしこまっていた。
「おう!待ってたんだ」
嵯峨の言葉に合わせるように変わった円盤を持った康子が現れる。
「あの、それ……」
「電熱器。知らないでしょ」
そう言う康子は非常にうれしそうに両手に持った電熱器を別所の前と夫の基義の前に置く。二人の女中は手にした鍋を康子の置いた電熱器に置き、その隣に肉の乗った皿を置いた。
「へえ、これが西園寺流のすき焼きですか」
別所はじっくりと鍋の中を見つめる。いまだ温まっていない割り下に浮かぶ春菊に目がひきつけられる。
「ちょっと時間がかかるのが困るのよね」
そう言いながら続けて入って来た女中から卵などを受け取る康子。
「かなめ!あなたも来なさい!」
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