758 / 1,505
第28章 神と人と
お母さまは心配性
しおりを挟む
「……で、今はかえでちゃんの案内で艦内を見回り中なわけね」
艦長席でため息をつくアイシャに誠はなんとも不思議な感じを持っていた。
「あの……西園寺さんのお母さんが艦内を見回るとなにか不都合でもあるんですか?元々『高雄』は『信太』と同じ胡州建造の船ですし、そもそもうちは同盟直下の部隊ですよ。胡州のファーストレディーだからって別に知られたら困ることも無いでしょうし……」
誠の言葉に隣に立つかなめとカウラは呆れたような顔をしてため息をついた。
「別に困ることがあるわけじゃねえんだよ。あの世話好きオバはんが黙って見回りを済ませただけで帰ると思うか?」
「西園寺、やはりそういう感じの人なんだなあれは」
かなめとカウラの言葉でなんとなく面倒なことが起こると予期している女性陣の鋭さに誠は感心していた。
「……お母様、こちらがブリッジになります」
そんなタイミングで康子を案内しているかえでがブリッジにたどり着いた。
「でも本当に狭くて……みんな苦労しているのね」
優雅に扇子をはためかせながら場違いな赤い留袖を着た康子がブリッジを見わたす。静かにそして仕方がないと諦めたように艦長席から立ち上がったアイシャが敬礼して康子を迎えた。
「お袋、あれか?『信太』は艦内を亜空間と繋げて……」
「かなめちゃん、『お袋』って誰?」
かなめの言葉に康子はこめかみをヒクつかせながら怒りに耐えているように扇子を閉じる。
「いや……ははは。アイシャ、カウラ。これから起きることはすぐに忘れろよ」
「へ?」
「忘れろと言われても……」
口元を震わせながら呟くかなめにアイシャとカウラは理解ができないというように聞き返すがそこにはいつものかなめとは違う目を輝かせて手を胸の前で握り締めている少女のようなかなめの姿があった。
「お母様!私わからないことが……」
ハイテンションで康子に問いかけるかなめに思わずアイシャは吹き出しカウラはあんぐりと口を開けてそれを見守った。
「何?かなめちゃん」
満足したように康子は笑みを浮かべながら扇子を揺らす。
「この艦の空間効率は相当いいはずですけど、『信太』が広いのには理由があるんでしょうか?例えば艦内を亜空間と繋げて通常ありえない空間を確保しているとか」
質問一つするだけでぐったりとした表情に戻るかなめ。だが、しばらく天井を向いて思案していた康子の視線がかなめに戻るとまた目を見開いてキラキラさせている先ほどの格好に戻った。
「そうね。『信太』は胡州の実験艦なんだけど私の空間干渉能力を使って亜空間に向けて館内スペースを拡張してあるのよ。おかげで搭載可能アサルト・モジュールは50機」
「50機?」
さすがに艦のこととなると艦長代理のアイシャの反応は早かった。それに気をよくして康子は言葉を続けた。
「別に驚く程のことじゃないわよ。理論上亜空間は無限に拡張可能だもの。あくまで実験的にハンガーを拡張してみただけですわよ。将来的には今回みたいな事件で避難が必要な市民の収容などを行う艦として運用していく予定なのよ」
「理論上無限ね……うちにも一人狭い場所だとストレス感じて勘が鈍る娘がいるからそういうの便利よね」
「アイシャさん、それは私のことかしら……」
にこやかな顔をしながらかなめが拳を握り締めていた。
「違うわよ……ほら来た」
アイシャの言葉と同時にシャムとランが着替えを済ませてブリッジに到着する。
「オメー等休み時間は終わりだぞ。今回の出撃のレポート。提出今日中だか……」
いつものように鬼隊長の顔を見せているランの目の前に康子の嬉しそうな顔が突きつけられた。
「あ……これはどうも」
頭を掻きながらランは崩れた敬礼を康子にする。
「ランちゃん!久しぶり!本当に可愛いわね!いつ見ても!」
「はあ」
すっかりご機嫌な康子が嬉しそうにランの頭を撫でる。脂汗を流しながらそれに耐えるランとその様子を笑顔で眺めるアイシャ、かなめ、かえで。
「ねえ、康子様!アタシは!」
「まあ!」
嬉しそうにランの頭を撫でていた康子の目の前にシャムが現れる。すこし驚いた後、靖子は静かにシャムを抱きしめた。
「辛いことがあったのね……」
突然の調子の変わりように驚く誠達。シャムは康子の言葉を聞くといつもの元気さを失って涙する。
「お母様、もしかしてシャムになにがあったかも……」
遠慮がちにかなめが康子に尋ねる。少し涙ぐみながら康子は立ち上がり涙をぬぐいながらかなめ達に目を向けた。
「吉田さんに聞いたのよ。おそらくシャムちゃんは今回の出撃で自分の運命を知るだろうってね。しかもそれは辛いものだって」
『どうでもいいけど俺は蚊帳の外か?』
突然モニターが光だしにやけた声が響く。
「体が無いってそれなりに不便でしょ」
再び元のどこか食えないファーストレディーの姿に戻った康子の言葉に砂嵐しか映していないモニターが喋りだす。
『確かにすぐに存在を忘れられるわ、誰も心配してくれねえわえらい目に会いましたわ』
吉田の言葉にようやくブリッジはいつもの雰囲気に戻った。
「体の方の手配はよろしいのですの?」
『いやあ……予備はあるんですがね。今回の件じゃ胡州にも貸しを作ったわけだし……代金は……』
「でも問題を起こしたのも吉田さんでしょ?貸し借りゼロじゃないかしら」
そう言うと康子はパチンと扇子を鳴らして画面に背を向ける。吉田も何も言えず黙り込んでいるようだった。
「じゃあ皆さん……また会いましょうね」
康子は手を差し伸べるかえでに頭を軽く下げたあとブリッジを出て行った。
「終わった……」
ずっと作り笑いを続けていたかなめがそのまま崩れるように床に腰を下ろした。
「あの……康子様はいいんですけど……」
「あ?どうした」
久しぶりに口を開いた誠にかなめがめんどくさそうに尋ねる。
「相馬曹長はどこに?」
全員が存在を忘れていた残念なエースパイロット。しかしかなめは顔色一つ変えず立ち上がると周りを見回しながら口を開いた。
「ああ、どっかで迷ってるんだろ?お袋が回収して帰るよ」
『かなめちゃん』
「ひ!」
余裕をかましていたかなめの後ろでモニターに映った康子が金吾を引きずりながらハンガーを歩いていた。
『じゃあまたお会いしましょうね。その時はお見合いの相手をご紹介できるようにしておきますから』
そう言うと康子は素早くアサルト・モジュールの手足をはねるようにして飛び越してコックピットに収まった。
「かなめちゃん……良かったわね良縁があると願ってるわ」
「アイシャ。オメエもな」
すっかり康子の相手に疲れきったというかなめとアイシャ。カウラはなにが起きたのかわからないというように呆然としている。
「レポートの期限、半日伸ばしてやるよ」
ランも疲れたようにそう言うとブリッジを出て行った。
「大変ですねえ」
誠が疲れ果ててうつむいているかなめに言える言葉はそれしか無かった。
艦長席でため息をつくアイシャに誠はなんとも不思議な感じを持っていた。
「あの……西園寺さんのお母さんが艦内を見回るとなにか不都合でもあるんですか?元々『高雄』は『信太』と同じ胡州建造の船ですし、そもそもうちは同盟直下の部隊ですよ。胡州のファーストレディーだからって別に知られたら困ることも無いでしょうし……」
誠の言葉に隣に立つかなめとカウラは呆れたような顔をしてため息をついた。
「別に困ることがあるわけじゃねえんだよ。あの世話好きオバはんが黙って見回りを済ませただけで帰ると思うか?」
「西園寺、やはりそういう感じの人なんだなあれは」
かなめとカウラの言葉でなんとなく面倒なことが起こると予期している女性陣の鋭さに誠は感心していた。
「……お母様、こちらがブリッジになります」
そんなタイミングで康子を案内しているかえでがブリッジにたどり着いた。
「でも本当に狭くて……みんな苦労しているのね」
優雅に扇子をはためかせながら場違いな赤い留袖を着た康子がブリッジを見わたす。静かにそして仕方がないと諦めたように艦長席から立ち上がったアイシャが敬礼して康子を迎えた。
「お袋、あれか?『信太』は艦内を亜空間と繋げて……」
「かなめちゃん、『お袋』って誰?」
かなめの言葉に康子はこめかみをヒクつかせながら怒りに耐えているように扇子を閉じる。
「いや……ははは。アイシャ、カウラ。これから起きることはすぐに忘れろよ」
「へ?」
「忘れろと言われても……」
口元を震わせながら呟くかなめにアイシャとカウラは理解ができないというように聞き返すがそこにはいつものかなめとは違う目を輝かせて手を胸の前で握り締めている少女のようなかなめの姿があった。
「お母様!私わからないことが……」
ハイテンションで康子に問いかけるかなめに思わずアイシャは吹き出しカウラはあんぐりと口を開けてそれを見守った。
「何?かなめちゃん」
満足したように康子は笑みを浮かべながら扇子を揺らす。
「この艦の空間効率は相当いいはずですけど、『信太』が広いのには理由があるんでしょうか?例えば艦内を亜空間と繋げて通常ありえない空間を確保しているとか」
質問一つするだけでぐったりとした表情に戻るかなめ。だが、しばらく天井を向いて思案していた康子の視線がかなめに戻るとまた目を見開いてキラキラさせている先ほどの格好に戻った。
「そうね。『信太』は胡州の実験艦なんだけど私の空間干渉能力を使って亜空間に向けて館内スペースを拡張してあるのよ。おかげで搭載可能アサルト・モジュールは50機」
「50機?」
さすがに艦のこととなると艦長代理のアイシャの反応は早かった。それに気をよくして康子は言葉を続けた。
「別に驚く程のことじゃないわよ。理論上亜空間は無限に拡張可能だもの。あくまで実験的にハンガーを拡張してみただけですわよ。将来的には今回みたいな事件で避難が必要な市民の収容などを行う艦として運用していく予定なのよ」
「理論上無限ね……うちにも一人狭い場所だとストレス感じて勘が鈍る娘がいるからそういうの便利よね」
「アイシャさん、それは私のことかしら……」
にこやかな顔をしながらかなめが拳を握り締めていた。
「違うわよ……ほら来た」
アイシャの言葉と同時にシャムとランが着替えを済ませてブリッジに到着する。
「オメー等休み時間は終わりだぞ。今回の出撃のレポート。提出今日中だか……」
いつものように鬼隊長の顔を見せているランの目の前に康子の嬉しそうな顔が突きつけられた。
「あ……これはどうも」
頭を掻きながらランは崩れた敬礼を康子にする。
「ランちゃん!久しぶり!本当に可愛いわね!いつ見ても!」
「はあ」
すっかりご機嫌な康子が嬉しそうにランの頭を撫でる。脂汗を流しながらそれに耐えるランとその様子を笑顔で眺めるアイシャ、かなめ、かえで。
「ねえ、康子様!アタシは!」
「まあ!」
嬉しそうにランの頭を撫でていた康子の目の前にシャムが現れる。すこし驚いた後、靖子は静かにシャムを抱きしめた。
「辛いことがあったのね……」
突然の調子の変わりように驚く誠達。シャムは康子の言葉を聞くといつもの元気さを失って涙する。
「お母様、もしかしてシャムになにがあったかも……」
遠慮がちにかなめが康子に尋ねる。少し涙ぐみながら康子は立ち上がり涙をぬぐいながらかなめ達に目を向けた。
「吉田さんに聞いたのよ。おそらくシャムちゃんは今回の出撃で自分の運命を知るだろうってね。しかもそれは辛いものだって」
『どうでもいいけど俺は蚊帳の外か?』
突然モニターが光だしにやけた声が響く。
「体が無いってそれなりに不便でしょ」
再び元のどこか食えないファーストレディーの姿に戻った康子の言葉に砂嵐しか映していないモニターが喋りだす。
『確かにすぐに存在を忘れられるわ、誰も心配してくれねえわえらい目に会いましたわ』
吉田の言葉にようやくブリッジはいつもの雰囲気に戻った。
「体の方の手配はよろしいのですの?」
『いやあ……予備はあるんですがね。今回の件じゃ胡州にも貸しを作ったわけだし……代金は……』
「でも問題を起こしたのも吉田さんでしょ?貸し借りゼロじゃないかしら」
そう言うと康子はパチンと扇子を鳴らして画面に背を向ける。吉田も何も言えず黙り込んでいるようだった。
「じゃあ皆さん……また会いましょうね」
康子は手を差し伸べるかえでに頭を軽く下げたあとブリッジを出て行った。
「終わった……」
ずっと作り笑いを続けていたかなめがそのまま崩れるように床に腰を下ろした。
「あの……康子様はいいんですけど……」
「あ?どうした」
久しぶりに口を開いた誠にかなめがめんどくさそうに尋ねる。
「相馬曹長はどこに?」
全員が存在を忘れていた残念なエースパイロット。しかしかなめは顔色一つ変えず立ち上がると周りを見回しながら口を開いた。
「ああ、どっかで迷ってるんだろ?お袋が回収して帰るよ」
『かなめちゃん』
「ひ!」
余裕をかましていたかなめの後ろでモニターに映った康子が金吾を引きずりながらハンガーを歩いていた。
『じゃあまたお会いしましょうね。その時はお見合いの相手をご紹介できるようにしておきますから』
そう言うと康子は素早くアサルト・モジュールの手足をはねるようにして飛び越してコックピットに収まった。
「かなめちゃん……良かったわね良縁があると願ってるわ」
「アイシャ。オメエもな」
すっかり康子の相手に疲れきったというかなめとアイシャ。カウラはなにが起きたのかわからないというように呆然としている。
「レポートの期限、半日伸ばしてやるよ」
ランも疲れたようにそう言うとブリッジを出て行った。
「大変ですねえ」
誠が疲れ果ててうつむいているかなめに言える言葉はそれしか無かった。
0
お気に入りに追加
57
あなたにおすすめの小説
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
もう、終わった話ですし
志位斗 茂家波
ファンタジー
一国が滅びた。
その知らせを聞いても、私には関係の無い事。
だってね、もう分っていたことなのよね‥‥‥
‥‥‥たまにやりたくなる、ありきたりな婚約破棄ざまぁ(?)もの
少々物足りないような気がするので、気が向いたらオマケ書こうかな?
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
【完結】そして、誰もいなくなった
杜野秋人
ファンタジー
「そなたは私の妻として、侯爵夫人として相応しくない!よって婚約を破棄する!」
愛する令嬢を傍らに声高にそう叫ぶ婚約者イグナシオに伯爵家令嬢セリアは誤解だと訴えるが、イグナシオは聞く耳を持たない。それどころか明らかに犯してもいない罪を挙げられ糾弾され、彼女は思わず彼に手を伸ばして取り縋ろうとした。
「触るな!」
だがその手をイグナシオは大きく振り払った。振り払われよろめいたセリアは、受け身も取れないまま仰向けに倒れ、頭を打って昏倒した。
「突き飛ばしたぞ」
「彼が手を上げた」
「誰か衛兵を呼べ!」
騒然となるパーティー会場。すぐさま会場警護の騎士たちに取り囲まれ、彼は「違うんだ、話を聞いてくれ!」と叫びながら愛人の令嬢とともに連行されていった。
そして倒れたセリアもすぐさま人が集められ運び出されていった。
そして誰もいなくなった。
彼女と彼と愛人と、果たして誰が悪かったのか。
これはとある悲しい、婚約破棄の物語である。
◆小説家になろう様でも公開しています。話数の関係上あちらの方が進みが早いです。
3/27、なろう版完結。あちらは全8話です。
3/30、小説家になろうヒューマンドラマランキング日間1位になりました!
4/1、完結しました。全14話。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
「おまえを愛することはない!」と言ってやったのに、なぜ無視するんだ!
七辻ゆゆ
ファンタジー
俺を見ない、俺の言葉を聞かない、そして触れられない。すり抜ける……なぜだ?
俺はいったい、どうなっているんだ。
真実の愛を取り戻したいだけなのに。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」
音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。
本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。
しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。
*6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
王家も我が家を馬鹿にしてますわよね
章槻雅希
ファンタジー
よくある婚約者が護衛対象の王女を優先して婚約破棄になるパターンのお話。あの手の話を読んで、『なんで王家は王女の醜聞になりかねない噂を放置してるんだろう』『てか、これ、王家が婚約者の家蔑ろにしてるよね?』と思った結果できた話。ひそかなサブタイは『うちも王家を馬鹿にしてますけど』かもしれません。
『小説家になろう』『アルファポリス』(敬称略)に重複投稿、自サイトにも掲載しています。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる