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第26章 会戦
実在しないもの
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『マーチが流れてる……なんで?』
管制官の席で、サラはうろたえながらそう言った。
『戦場にマーチを流すか……悪趣味な冗談だ』
すべての通信の発信源であるシャムの機体をにらみつけながら、カウラは吐き捨てるようにそう言った。
『悪趣味?言うねえ……まあ、お前さん等には目の前に降臨された偉大な存在について論評するとすれば、その程度の言葉しか吐けねえってことか……嘆かわしい』
シャムのクロームナイトから聞こえる、嫌みな吉田の声。それはいつもと変わりがなかった。
『嘆かわしいねー。オメーこそいつの間にそんなに偉くなった?実体を失って本来の姿であるプログラムそのものになるってのはそんなに偉いことなのか……言ってみろよ?なあ?』
そう言う挑発的なランの言葉には余裕が感じられた。
「プログラム?でも……吉田さんは……」
誠にはランの言う言葉が理解できなかった。誠の目の前で吉田の乗った機体は、目の前の砲台の砲身に特攻をかけ、消滅した。その事実は誠もはっきり見ている。
『神前よ……さっきから言ってるだろ?こういう時のため絵に報告書を依頼したらことが起こる前にちゃんと読んどけって。なあに、あの報告書にはちゃあんとあの吉田が……吉田の正体って奴が書いてあった。……そう、書いてあったんだ……」
再び、かなめはネネの報告書のことを話題に挙げた。そう言うかなめの口元は笑っている。
『どういう事だ!西園寺!例の報告書には何が書いてあった!言え!吉田少佐は何者なんだ!私達はこれから何に遭遇するんだ!貴様は知っているんだろ!言ってみせろ!』
カウラの叫び。かなめの知ったような口ぶりに明らかに怒りを帯びつつそう叫んだ。
『知りたいか?……良いだろう。教えてやるよ。吉田俊平なんて人間ははなから……『居ない』んだ。そう、吉田俊平なんて言う人間が存在するなんてのはまやかしだ。ちゃんと戸籍があるだ?傭兵としての戦績が残っているだ?まあ、書面上はそうなってる、記録上はそうなってるってだけの話だろ?なあに、現実ってのはもう少し複雑だ。アタシ等に今、通信を入れてきてるいつもの吉田の声は作り物だ。そう、奴はな、『作り物』なんだ……おい!吉田!答えてみろ!ちゃんとテメエの口で、アタシ等物分かりの悪い連中に説明してみせろ!』
言葉を繰り出すたびに、かなめは自分の言葉の怒りの成分に酔って激しい言葉を飛ばした。
『なるほどねえ……自己紹介ってのは自分でやってこそ意味がある。そう言いたいわけだ……別に俺には隠し事なんてないし、そんなものをする必要もないしな……良いだろう……教えてやろう……だが……主、邪魔が入るようです……』
吉田の最後の一言。同時にシャムの機体を囲んでいた、砲台の艦載機が一斉に襲い掛かる。
『シャムちゃん!敵が!』
『高雄』の艦長の席で状況を見守っていたアイシャが我慢できずに叫んだ。
光だった……その時、シャムのアサルト・モジュール、クロームナイトを包んだのは、圧倒的な光だった。
『何よこれ!なにが起きているの……あり得ない……そんな筈は……まさか……』
一人沈黙し、計器を見つめていたはずのラーナの叫び。
『どうした!ラーナ!『高雄』のセンサーの反応に何が起きた!言ってみろ!』
驚きに飲み込まれつつカウラが叫ぶ。
『知ってるぜ……俺は何が起きたか……何が起きるのか……まあ、さっきの俺についての話題だが、我が主は唯一の臣下である俺が目立つのはお気に召さないらしい……まずは、主。連中に主が何者か……教えてやってもいいんじゃないですかね……』
吉田の口調はいつもの性格の悪い彼らしいものだった。
「主……唯一の臣下……吉田さん何を……何が言いたいんですか……」
ただうろたえつつ、誠はそう言った。すべての想像を超えた事象が目の前で起きている。その事実が誠の意識のすべてを覆いつくしていた。
管制官の席で、サラはうろたえながらそう言った。
『戦場にマーチを流すか……悪趣味な冗談だ』
すべての通信の発信源であるシャムの機体をにらみつけながら、カウラは吐き捨てるようにそう言った。
『悪趣味?言うねえ……まあ、お前さん等には目の前に降臨された偉大な存在について論評するとすれば、その程度の言葉しか吐けねえってことか……嘆かわしい』
シャムのクロームナイトから聞こえる、嫌みな吉田の声。それはいつもと変わりがなかった。
『嘆かわしいねー。オメーこそいつの間にそんなに偉くなった?実体を失って本来の姿であるプログラムそのものになるってのはそんなに偉いことなのか……言ってみろよ?なあ?』
そう言う挑発的なランの言葉には余裕が感じられた。
「プログラム?でも……吉田さんは……」
誠にはランの言う言葉が理解できなかった。誠の目の前で吉田の乗った機体は、目の前の砲台の砲身に特攻をかけ、消滅した。その事実は誠もはっきり見ている。
『神前よ……さっきから言ってるだろ?こういう時のため絵に報告書を依頼したらことが起こる前にちゃんと読んどけって。なあに、あの報告書にはちゃあんとあの吉田が……吉田の正体って奴が書いてあった。……そう、書いてあったんだ……」
再び、かなめはネネの報告書のことを話題に挙げた。そう言うかなめの口元は笑っている。
『どういう事だ!西園寺!例の報告書には何が書いてあった!言え!吉田少佐は何者なんだ!私達はこれから何に遭遇するんだ!貴様は知っているんだろ!言ってみせろ!』
カウラの叫び。かなめの知ったような口ぶりに明らかに怒りを帯びつつそう叫んだ。
『知りたいか?……良いだろう。教えてやるよ。吉田俊平なんて人間ははなから……『居ない』んだ。そう、吉田俊平なんて言う人間が存在するなんてのはまやかしだ。ちゃんと戸籍があるだ?傭兵としての戦績が残っているだ?まあ、書面上はそうなってる、記録上はそうなってるってだけの話だろ?なあに、現実ってのはもう少し複雑だ。アタシ等に今、通信を入れてきてるいつもの吉田の声は作り物だ。そう、奴はな、『作り物』なんだ……おい!吉田!答えてみろ!ちゃんとテメエの口で、アタシ等物分かりの悪い連中に説明してみせろ!』
言葉を繰り出すたびに、かなめは自分の言葉の怒りの成分に酔って激しい言葉を飛ばした。
『なるほどねえ……自己紹介ってのは自分でやってこそ意味がある。そう言いたいわけだ……別に俺には隠し事なんてないし、そんなものをする必要もないしな……良いだろう……教えてやろう……だが……主、邪魔が入るようです……』
吉田の最後の一言。同時にシャムの機体を囲んでいた、砲台の艦載機が一斉に襲い掛かる。
『シャムちゃん!敵が!』
『高雄』の艦長の席で状況を見守っていたアイシャが我慢できずに叫んだ。
光だった……その時、シャムのアサルト・モジュール、クロームナイトを包んだのは、圧倒的な光だった。
『何よこれ!なにが起きているの……あり得ない……そんな筈は……まさか……』
一人沈黙し、計器を見つめていたはずのラーナの叫び。
『どうした!ラーナ!『高雄』のセンサーの反応に何が起きた!言ってみろ!』
驚きに飲み込まれつつカウラが叫ぶ。
『知ってるぜ……俺は何が起きたか……何が起きるのか……まあ、さっきの俺についての話題だが、我が主は唯一の臣下である俺が目立つのはお気に召さないらしい……まずは、主。連中に主が何者か……教えてやってもいいんじゃないですかね……』
吉田の口調はいつもの性格の悪い彼らしいものだった。
「主……唯一の臣下……吉田さん何を……何が言いたいんですか……」
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