レジェンド・オブ・ダーク 遼州司法局異聞

橋本 直

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第26章 会戦

発砲

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『砲台のチャージ完了まで一分切ったわよ!』

 管制官のサラが叫んだ。

「またですか?いくら砲身が解けて、威力が下がったって次の一撃は僕じゃあ耐えられません!」

 誠はそう言いながら機体前方に干渉空間を生成した。

『できるもなにも、やるのがアタシ等の仕事だ。オメーが蒸発してもアタシのでなんとか耐える』

 そう言って非情に誠の後方で待機していたランは干渉空間を展開した。

『クバルカ中佐!神前を見捨てるんですか?神前!逃げろ!もう私達にはやれることは何もない!クバルカ中佐!我々は何があっても生き延びなきゃならないんじゃないんですか!隊長が言う命の使いどころは今じゃないですよ!』

 干渉空間を展開する、誠とラン、二機の法術師乗る機体の間でカウラが叫ぶ。

『カウラよ。どうやらそいつが今らしいや。オメーも神前の上司だ。司法局実働部隊機動部隊第二小隊小隊長だ。神前の馬鹿の上司だ。覚悟ぐらい決めろ……」

 誠は唇をかみしめながらモニターの小窓の中で強がりを言うランを眺めていた。

『ですが!』

『カウラ、シャムは何してる?』

 カウラの機体の隣でレールガンを構えていたかなめがそう言った。

『西園寺!今は前線のシャムのことなんかどうでもいいだろ!』

 いつもは冷静なはずのカウラ。だが、いつもとは逆で今こうして運行艦『高雄』の隣にいる四人の中でかなめ一人が冷静だった。

『どうでも良くないね……サラどうだ?』

『どうだって……さっき急に動くのをやめて……まだ止まってる?なんで?シャムちゃん諦めちゃったの?』

 かなめの問いに答えたサラだが、その声は自分の見たデータの意外さに戸惑っているように聞こえた。

「動くのをやめた?シャムちゃんが?諦めない不屈の騎士を自称するあの子が?」

 誠もレーダーを見た。

 シャムの機体は完全に一点から動かなかった。周りには砲台の艦載機が十重二十重にシャムの機体を取り囲んでいる。

『どういう事だ!西園寺!いつもの貴様なら!こんな時は!』

『ブチ切れて敵につっこんでるって言いたいのか?まあな。いつものアタシならな。だが、オメエ等も同席していたはずだぜ。そしてデータのコピーなら『高雄』が出港する時に渡したはずだ』

 いつもにない冷静沈着なかなめ。

『何言ってるのよ!時間がないのよ!』

 艦長代理のアイシャが艦長席で怒鳴る。

『アイシャもだ。ネネの報告書。オメエ等読んでないのか?』

 かなめはそう言って舌なめずりをする。

『読んでないのが何よ!』

 そう言ってアイシャは艦長席で開き直る。

『そうだよなあ……じゃあオメエ等が今、焦ってるのは当然か……まあ、当然と言ったら当然……』

 かなめの言葉には余裕がある。誠の機体のモニターに映る、かなめ。サイボーグ用の口元しか見えない彼女の顔の見える口元には笑みが浮かんでいる。

『今、焦って何が悪い!今は!』

 叫ぶカウラ。

 突然、誠の背後で干渉空間を展開していたランが、その干渉空間の展開をやめた。

『なるほど……そうかい……そりゃあ良かった。じゃあ、あの砲台の命運も尽きたってことだ。カウラ!心配するな!少なくともあの砲台相手の勝負はついた。アタシ等の勝ちだ』

 ランはそう言うとにんまりと笑う。

『クバルカ中佐まで何を言ってるんですか!目標発砲!』

 悲痛なサラの叫びが宇宙空間にこだまする。エネルギーの流れが誠達に向けて押し寄せた。
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