743 / 1,505
第25章 援軍
援軍
しおりを挟む「これで良かったの?」
胡州帝国、摂州軍。その旗艦である重巡洋艦『信太』の艦長室で艦長の椅子に座った西園寺康子の言葉が凛と響いた。部屋の中央に置かれたソファーに腰掛けていた吉田俊平はただ笑顔でそれに応えた。
「仕事に私情は挟まない主義でして……それよりこれですべて仕掛けは揃いましたから……。それにしても相手にしているのが俺な分だけ手が打ちやすい」
「あなたにしては随分と司法局の仲間を信用しているのね。特に神前君だったかしら。彼にはそれほどの力があるの?」
康子の言葉に吉田は静かに目を閉じてみせた。
「神前の奴は……信用しているというわけじゃないですよ。だから今回あなたにご出馬願ったんですから。それに俺が信用しているのはシャムだけです」
「へえ、あのちっちゃな娘に気があるわけ?もしかしてロリコン?」
いたずらめいた康子。吉田は特に反論もせずにソファーの上で伸びをしてみせた。
「俺はようやく自分が何者なのか知った……次はあいつの番ですよ。自分が何者か知らずにただ場当たり的に生きていられる時代は終わった。あいつも俺も」
「彼女は『エターナルチルドレン』でしょ?それ以外何かあるの?」
康子の『エターナルチルドレン』という言葉にそれまでにない緊張した視線が吉田から康子に突き刺さった
「そんな目で見ないでよ。一応、私も遼南宮廷で育った身よ。噂は聞いてるわよ……と言うか、あなたもご存じでしょうけど、私も『エターナルチルドレン』なんだけど」
康子の言葉に吉田の視線は緊張の度合いを弱めた。
「『エターナルチルドレン』自体は遼州を探せば両手に余る程度はいるでしょ。俺の知っている限りでもあなたと嵯峨惟基、島田正人、クバルカ・ラン、『預言者』ネネ、『廃帝』ハドくらいの名前はすぐに浮かびますから」
「考えてみればすごいわよね。新ちゃん以外に三人も『エターナルチルドレン』を抱えている部隊なんて他にないんじゃないの?」
「まあ部隊長が意識して集めたところもありますから」
康子に『新ちゃん』と呼ばれる嵯峨の手腕が部隊構成に大きな影響を与えたことを吉田も理解していた。
「ただ普通の『エターナルチルドレン』とはシャムとクバルカ中佐は毛色が違うんですがね」
それだけ言うとニンマリと吉田は笑った。
「どう毛色が違うかは教えてくれないんでしょ?」
こちらも対抗するとでも言うように康子も笑みを返した。
「聞き出しますか?力尽くで」
身を乗り出す吉田に康子は静かに首を横に振った。
「今は私達で争う時期じゃないわ。今はね」
康子の静かな口調に吉田は恐怖を感じた。彼の上司の『新ちゃん』こと嵯峨惟基をして『地上最強の生物』と呼ばれる康子の恐ろしさは吉田自身も体験したことがあるだけに、彼女を前にして秘密を守り続ける自身は吉田にもなかった。
「それじゃあいずれは……」
「いずれの話はしないことにしているの。私の主義よ」
再び定型的な笑みを浮かべる康子に吉田は彼女を頼らざるを得ない状況にあることの恐ろしさを再確認するのだった。
胡州帝国、摂州軍。その旗艦である重巡洋艦『信太』の艦長室で艦長の椅子に座った西園寺康子の言葉が凛と響いた。部屋の中央に置かれたソファーに腰掛けていた吉田俊平はただ笑顔でそれに応えた。
「仕事に私情は挟まない主義でして……それよりこれですべて仕掛けは揃いましたから……。それにしても相手にしているのが俺な分だけ手が打ちやすい」
「あなたにしては随分と司法局の仲間を信用しているのね。特に神前君だったかしら。彼にはそれほどの力があるの?」
康子の言葉に吉田は静かに目を閉じてみせた。
「神前の奴は……信用しているというわけじゃないですよ。だから今回あなたにご出馬願ったんですから。それに俺が信用しているのはシャムだけです」
「へえ、あのちっちゃな娘に気があるわけ?もしかしてロリコン?」
いたずらめいた康子。吉田は特に反論もせずにソファーの上で伸びをしてみせた。
「俺はようやく自分が何者なのか知った……次はあいつの番ですよ。自分が何者か知らずにただ場当たり的に生きていられる時代は終わった。あいつも俺も」
「彼女は『エターナルチルドレン』でしょ?それ以外何かあるの?」
康子の『エターナルチルドレン』という言葉にそれまでにない緊張した視線が吉田から康子に突き刺さった
「そんな目で見ないでよ。一応、私も遼南宮廷で育った身よ。噂は聞いてるわよ……と言うか、あなたもご存じでしょうけど、私も『エターナルチルドレン』なんだけど」
康子の言葉に吉田の視線は緊張の度合いを弱めた。
「『エターナルチルドレン』自体は遼州を探せば両手に余る程度はいるでしょ。俺の知っている限りでもあなたと嵯峨惟基、島田正人、クバルカ・ラン、『預言者』ネネ、『廃帝』ハドくらいの名前はすぐに浮かびますから」
「考えてみればすごいわよね。新ちゃん以外に三人も『エターナルチルドレン』を抱えている部隊なんて他にないんじゃないの?」
「まあ部隊長が意識して集めたところもありますから」
康子に『新ちゃん』と呼ばれる嵯峨の手腕が部隊構成に大きな影響を与えたことを吉田も理解していた。
「ただ普通の『エターナルチルドレン』とはシャムとクバルカ中佐は毛色が違うんですがね」
それだけ言うとニンマリと吉田は笑った。
「どう毛色が違うかは教えてくれないんでしょ?」
こちらも対抗するとでも言うように康子も笑みを返した。
「聞き出しますか?力尽くで」
身を乗り出す吉田に康子は静かに首を横に振った。
「今は私達で争う時期じゃないわ。今はね」
康子の静かな口調に吉田は恐怖を感じた。彼の上司の『新ちゃん』こと嵯峨惟基をして『地上最強の生物』と呼ばれる康子の恐ろしさは吉田自身も体験したことがあるだけに、彼女を前にして秘密を守り続ける自身は吉田にもなかった。
「それじゃあいずれは……」
「いずれの話はしないことにしているの。私の主義よ」
再び定型的な笑みを浮かべる康子に吉田は彼女を頼らざるを得ない状況にあることの恐ろしさを再確認するのだった。
0
お気に入りに追加
57
あなたにおすすめの小説
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く
ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。
5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。
夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
婚約破棄の後始末 ~息子よ、貴様何をしてくれってんだ!
タヌキ汁
ファンタジー
国一番の権勢を誇る公爵家の令嬢と政略結婚が決められていた王子。だが政略結婚を嫌がり、自分の好き相手と結婚する為に取り巻き達と共に、公爵令嬢に冤罪をかけ婚約破棄をしてしまう、それが国を揺るがすことになるとも思わずに。
これは馬鹿なことをやらかした息子を持つ父親達の嘆きの物語である。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
あなたがそう望んだから
まる
ファンタジー
「ちょっとアンタ!アンタよ!!アデライス・オールテア!」
思わず不快さに顔が歪みそうになり、慌てて扇で顔を隠す。
確か彼女は…最近編入してきたという男爵家の庶子の娘だったかしら。
喚き散らす娘が望んだのでその通りにしてあげましたわ。
○○○○○○○○○○
誤字脱字ご容赦下さい。もし電波な転生者に貴族の令嬢が絡まれたら。攻略対象と思われてる男性もガッチリ貴族思考だったらと考えて書いてみました。ゆっくりペースになりそうですがよろしければ是非。
閲覧、しおり、お気に入りの登録ありがとうございました(*´ω`*)
何となくねっとりじわじわな感じになっていたらいいのにと思ったのですがどうなんでしょうね?
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
【完結】そして、誰もいなくなった
杜野秋人
ファンタジー
「そなたは私の妻として、侯爵夫人として相応しくない!よって婚約を破棄する!」
愛する令嬢を傍らに声高にそう叫ぶ婚約者イグナシオに伯爵家令嬢セリアは誤解だと訴えるが、イグナシオは聞く耳を持たない。それどころか明らかに犯してもいない罪を挙げられ糾弾され、彼女は思わず彼に手を伸ばして取り縋ろうとした。
「触るな!」
だがその手をイグナシオは大きく振り払った。振り払われよろめいたセリアは、受け身も取れないまま仰向けに倒れ、頭を打って昏倒した。
「突き飛ばしたぞ」
「彼が手を上げた」
「誰か衛兵を呼べ!」
騒然となるパーティー会場。すぐさま会場警護の騎士たちに取り囲まれ、彼は「違うんだ、話を聞いてくれ!」と叫びながら愛人の令嬢とともに連行されていった。
そして倒れたセリアもすぐさま人が集められ運び出されていった。
そして誰もいなくなった。
彼女と彼と愛人と、果たして誰が悪かったのか。
これはとある悲しい、婚約破棄の物語である。
◆小説家になろう様でも公開しています。話数の関係上あちらの方が進みが早いです。
3/27、なろう版完結。あちらは全8話です。
3/30、小説家になろうヒューマンドラマランキング日間1位になりました!
4/1、完結しました。全14話。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」
音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。
本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。
しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。
*6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
仰っている意味が分かりません
水姫
ファンタジー
お兄様が何故か王位を継ぐ気満々なのですけれど、何を仰っているのでしょうか?
常識知らずの迷惑な兄と次代の王のやり取りです。
※過去に投稿したものを手直し後再度投稿しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる