レジェンド・オブ・ダーク 遼州司法局異聞

橋本 直

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第13章 厄介なお出かけ

過去

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「ひとまず失業はなさそうだなあ……」 

 寮の食堂のテレビを見ながらポテトチップスをかじっていたかなめの言葉にアイシャは首をひねった。

「そう簡単にいくかしらねえ」 

「ずいぶん慎重だな」 

 にやけたかなめの顔を見てアイシャは大きくため息をつく。

「なんだよその態度……」 

「良いわねえ、かなめちゃんは。司法局が解体になっても収入は領国から上がるでしょうし……ああ、他にも官位があったはずよね。そこからの年金もそれなりに入るんでしょ?」 

「なんだよ嫌みか?それにオメエだって艦長資格があるじゃねえか。東和宇宙軍にでも頼めばいいんじゃ無いか?ゲルパルトは……予算がないからなああそこは。元の鞘に収まるのも大変そうだ……結局失業か?」

「失業なんて、喧嘩でも売ってるつもり?」 

 にらみ合う二人。そこに明らかに場違いなにやけ面の誠がたどり着いたので二人の視線はドアの方に向かう。

「どうしたんですか?二人とも。来週の演習の荷造りは……」 

「そんなもんとっくに終わってるよ。オメエはあれだろ?航海中に作るプラモの品定めでもしてたんだろ?」 

 かなめに図星を刺されて誠はたじろぐ。アイシャはそんなかなめを無視して立ち上がるとそのまま誠のそばまで歩いて行く。

「ねえ、今度こそ私のフィギュア作ってよ!」 

「あれは……元型を作るのに集中しないといけないですから。二人部屋じゃあ無理ですよ」 

「なんだ。今度は二人部屋か?」 

 意外な誠の言葉にかなめは驚いたようにつぶやく。

「ええ、島田先輩と一緒の部屋です。まあ……部屋割りは鈴木中佐が決めたそうですが……」 

「お姉さんの産休前の最後のお仕事ね……それにしても変な話ね。島田君も一応士官だし、誠ちゃんはパイロット。それなりに優遇されてもいい話だけど……」 

「まああれだ。神前は肝っ玉が小さいから度胸の据わった島田に兵隊のなんたるかを教われってことなんじゃねえの?知らねえけど」 

 そう言うとそのままかなめはテレビに目を向ける。画面の中の遼北の国家府中央会議室で、引きつった笑みを浮かべる遼北首脳部の隣で、西園寺義基は本心からと思えるような満足げな笑みを浮かべている。それが胡州宰相でありかなめの父だと言うことはこの場の誰もが知っていることだった。

「良い仕事したじゃないの……たまにはパパを褒めて上げたら?」 

「誰が褒めるか!あの糞親父!失敗したら首締めに行ってやったのによ!」 

 そう吐き捨てるように言うとかなめは立ち上がる。

「タバコ吸ってくるからな」 

「別になにも聞いてないわよ」 

 アイシャの一言を聞くとぷいと背を向けてかなめは食堂を出て行った。

「相変わらずだな……」 

 入れ替わりに苦笑いを浮かべたカウラが入ってきた。

「まあね……あの娘も大変なんでしょ。父親が切れ者で知られた人物。否が応でも比較されるわけだし……私は勘弁だわ、そんなの」 

 アイシャの言葉に誠は首をひねった。

「でも西園寺さん……胡州大公家の次期当主でしょ?そんな仕事をしなくてもお金ならどうにでもなるんじゃないですか?」 

 そのままアイシャの隣に座った誠にアイシャは呆れたような表情を浮かべながら肩を叩く。

「あのねえ……誠ちゃん。あの子の肩を持つつもりはないけど貴族稼業も大変なのよ。私も最初は誠ちゃんと同じことを考えていろいろいじめてあげたんだけど……ねえ」 

「いじめねえ……」 

 アイシャの言葉にカウラは苦笑しながらそのまま正面の席に座った。誠は相変わらずよく分からない表情で呆然とアイシャを見つめていた。

「基本的に胡州貴族は無職じゃ勤まらない訳よ。まあ……公爵、伯爵クラスになれば就職先が無ければ貴族院議員の席が空いているからどうにでもなるけどねえ」 

「じゃあ議員になれば良いじゃないですか」 

 思わず出た誠の言葉にアイシャがさらに深いため息をつく。

「西園寺首相は反貴族主義の急先鋒よ。貴族院議員の権利はとっくに放棄済み。それで無職が三年続くと……」 

「廃嫡の上、不熟に付き永蟄居。つまり死ぬまで座敷牢の中で過ごすことになるそうだ……胡州貴族典範の付則に載ってる。ネットでも調べられるはずだ」 

 カウラの言葉に思わず誠は息を飲んだ。生まれ持った栄華と義務などと胡州貴族達が口にするのはそのような法的な裏付けがあったとは。それ以上にあの落ち着きのないかなめが座敷牢の中でじっとしていることに耐えられるとは思えなかった。

「そう言えば……あれでしょ?隊長が継ぐ前の嵯峨家の断絶理由も当主が永蟄居中に使用人を惨殺したとかしなかったとか……」 

「そんなことは知らないな。つまらない知識だ」 

 アイシャの言葉を切って捨てるとカウラはそのまま視線を食堂の入り口に移した。
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