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第7部 『殺戮機械が思い出に浸る時』 第一章 失踪
社会情勢
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「いやあ……とりあえず昼休みも終わりだし。明日にしましょうよ」
そう言うと誠はそのまま立ち去ろうとした。だがかなめのその肩を押さえつける。
「せっかくここに来たんだ。高梨参事に一応確かめるくらいの事はしてもいいんじゃねえのか?」
「そうだな。駄目なのは当たり前でも聞くだけ聞くのは無駄じゃないだろう」
かなめとカウラの言葉に、誠はただ絶望に包まれた。そして恐怖を紛らわすべく室内を見回す。
昼休みと言うことで付けられている端末のテレビ画面。そこには次から次へと兵器の映像が映し出されていた。このところ見慣れた光景に思わず誠の顔も歪んだ。
「また遼北と西モスレムが揉めてるんですか?」
何気ない誠の言葉。冷ややかにカウラがうなづく。
「遼北領イスラム教徒居住区問題は複雑だからな。先週、西モスレムのテロ組織の過激派が越境攻撃を仕掛けたらしい。遼北は西モスレム政府の関与を疑い、西モスレムはそれを否定した上で、遼北内部でのイスラム教徒の不当弾圧を同盟会議にかけるといきり立ってる」
「あそこは一回ぶつかった方がいいんだよ。多少痛み分けすれば仲も良くなるじゃねえのか?」
かなめの相変わらずの不穏当な発言に誠はただため息をつくばかりだった。
「そういうわけにも行かないだろ。同盟の有力加盟国だからなどちらも。それに確か……設立準備中の同盟軍事部隊が国境線沿いに展開しているはずだぞ」
「え?シン大尉の部隊ですか?」
誠が思い出した。元管理部部長の寡黙なイスラム教徒、アブドゥール・シャー・シン大尉。沈着冷静な司法局の良心と呼ばれた人物である。当然その名を聞けば元の部下である菰田もひねくれた性根を訂正して振り向いて画面を見なければならなくなった。
「あの人……確かパイロキネシスとですよね」
パイロキネシスト。この遼州の先住民族『リャオ』の一部が持つ法術と呼ばれる能力の一つにある発火能力。愛煙家のシンはライターの類を持ち歩かず、常にそれで火を付ける癖があった。そしてその力は彼のテリトリーに入った敵をすべて消し炭にすることができるという恐るべきものだった。半年前、法術の存在が公にされてからは彼の力は同盟以外でも知られることになった。
「そりゃあ……大丈夫かね?あの人、西モスレムの軍籍があるから……遼北が黙ってないだろ?」
かなめの言葉にカウラはとぼけたように首を振るとそのまま部屋を出て行った。
「無視しやがって……」
「でもシン大尉は実直な人ですから。任務とあれば母国であっても容赦はしないようなところがありそうですよ?」
「おい、神前。それは確かめたのか?遼北はたぶん疑心暗鬼に陥るぞ。まずいな……」
それだけ言うとかなめもまた部屋を出て行く。誠は一人画面に目をやった。
飛び回る西モスレム空軍のフランス製の航空アサルト・モジュール『ルミネール』が大地に突っ立っている同盟軍事機構の05式を威圧している様が映っている。
「あれだな。西園寺さんがこの場にいたら何機か撃ち落としてるんじゃないか?」
「確かに……」
菰田の言葉に同意してすぐに誠はドアの辺りを見回した。とりあえずかなめの姿は無い。振り向くとそこには同情の視線を送る菰田がいた。
「まあなんだ。とりあえずがんばれや」
なんとも慰めともつかない菰田の言葉に誠はただ苦笑いを浮かべて管理部の部室を出た。
「同盟……どうなるんだろうな?」
不安は増す。危機は確実に広がってきている。そして司法局実働部隊はその目とも言える存在の吉田が行方不明。
「考えても仕方がないか……」
誠は入隊以来そう諦める癖が身についてきている自分が少し情けなく感じられた。
そう言うと誠はそのまま立ち去ろうとした。だがかなめのその肩を押さえつける。
「せっかくここに来たんだ。高梨参事に一応確かめるくらいの事はしてもいいんじゃねえのか?」
「そうだな。駄目なのは当たり前でも聞くだけ聞くのは無駄じゃないだろう」
かなめとカウラの言葉に、誠はただ絶望に包まれた。そして恐怖を紛らわすべく室内を見回す。
昼休みと言うことで付けられている端末のテレビ画面。そこには次から次へと兵器の映像が映し出されていた。このところ見慣れた光景に思わず誠の顔も歪んだ。
「また遼北と西モスレムが揉めてるんですか?」
何気ない誠の言葉。冷ややかにカウラがうなづく。
「遼北領イスラム教徒居住区問題は複雑だからな。先週、西モスレムのテロ組織の過激派が越境攻撃を仕掛けたらしい。遼北は西モスレム政府の関与を疑い、西モスレムはそれを否定した上で、遼北内部でのイスラム教徒の不当弾圧を同盟会議にかけるといきり立ってる」
「あそこは一回ぶつかった方がいいんだよ。多少痛み分けすれば仲も良くなるじゃねえのか?」
かなめの相変わらずの不穏当な発言に誠はただため息をつくばかりだった。
「そういうわけにも行かないだろ。同盟の有力加盟国だからなどちらも。それに確か……設立準備中の同盟軍事部隊が国境線沿いに展開しているはずだぞ」
「え?シン大尉の部隊ですか?」
誠が思い出した。元管理部部長の寡黙なイスラム教徒、アブドゥール・シャー・シン大尉。沈着冷静な司法局の良心と呼ばれた人物である。当然その名を聞けば元の部下である菰田もひねくれた性根を訂正して振り向いて画面を見なければならなくなった。
「あの人……確かパイロキネシスとですよね」
パイロキネシスト。この遼州の先住民族『リャオ』の一部が持つ法術と呼ばれる能力の一つにある発火能力。愛煙家のシンはライターの類を持ち歩かず、常にそれで火を付ける癖があった。そしてその力は彼のテリトリーに入った敵をすべて消し炭にすることができるという恐るべきものだった。半年前、法術の存在が公にされてからは彼の力は同盟以外でも知られることになった。
「そりゃあ……大丈夫かね?あの人、西モスレムの軍籍があるから……遼北が黙ってないだろ?」
かなめの言葉にカウラはとぼけたように首を振るとそのまま部屋を出て行った。
「無視しやがって……」
「でもシン大尉は実直な人ですから。任務とあれば母国であっても容赦はしないようなところがありそうですよ?」
「おい、神前。それは確かめたのか?遼北はたぶん疑心暗鬼に陥るぞ。まずいな……」
それだけ言うとかなめもまた部屋を出て行く。誠は一人画面に目をやった。
飛び回る西モスレム空軍のフランス製の航空アサルト・モジュール『ルミネール』が大地に突っ立っている同盟軍事機構の05式を威圧している様が映っている。
「あれだな。西園寺さんがこの場にいたら何機か撃ち落としてるんじゃないか?」
「確かに……」
菰田の言葉に同意してすぐに誠はドアの辺りを見回した。とりあえずかなめの姿は無い。振り向くとそこには同情の視線を送る菰田がいた。
「まあなんだ。とりあえずがんばれや」
なんとも慰めともつかない菰田の言葉に誠はただ苦笑いを浮かべて管理部の部室を出た。
「同盟……どうなるんだろうな?」
不安は増す。危機は確実に広がってきている。そして司法局実働部隊はその目とも言える存在の吉田が行方不明。
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