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第7部 『殺戮機械が思い出に浸る時』 第一章 失踪
対岸の火事
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「吉田さんが来てない?まあ今のところうちは問題がないからねえ……」
昼休み。弁当を掻き込みながら、技術部整備班長の島田正人准尉が思い切り嫌な顔をしてつぶやいた。さすがに今日の島田に声をかけるのは誠も躊躇したが、そんなことを許すかなめではない。
島田の弁当を作った司法局唯一の運用艦『高雄』の管制官のサラ・グリファン少尉が殺意を込めた視線で誠達を睨み付けてくる。
島田は野郎ばかりの整備班の班長である。そんな島田の為に作ってた弁当を広げてひと時に浸る二人。そんな二人の時間をかなめは意図的に土足で踏みにじるつもりだ。そのいつもの興味深そうなタレ目を見れば誠も十分に分かった。
「今、第一小隊の05式の一斉点検の最中なんだけど……データ送っても速攻でレスが入ってくるからなあ。本当にいないの?嘘でしょ」
「ならテメエのその何も見えていない目で確かめて見るか?え?」
かなめはそう言うと島田の襟首を掴んで持ち上げる。長身の島田と言えど、軍用の局地戦用義体の持ち主のかなめの腕力に勝てるわけもない。ただされるがままにつるされる。島田は逆らうだけ無駄だとわかっているのか、静かに目の前のかなめのタレ目に目をやる。
「だからうちじゃあ分かりませんて!吉田さんならシャムちゃんが相棒じゃないですか! 俺達に聞くよりそっちの方が!」
「分からねえ奴だな!そのシャムが喋らないからテメエに聞いてるんだろ?答えろ!」
島田が何も知らないことは誠にもわかっていた。要するにかなめは島田とサラの貴重な時間を踏みにじりたいというサディスティックな欲求だけでこうして暴力をふるっているだけだった。いつものことながら誠はただあきれてその様子を眺めていた。
「かなめちゃん止めてよ!」
さすがに勢い余って首を絞め始めて島田が泡を吹き出したところでサラが止めにかかった。常人ならとっくに窒息していたほどの時間ぎゅうぎゅうと首を絞められて一瞬白目を剥いた島田がなんとか咳をしながら我に変える。
「人をなんだと思ってるんですか?」
「え?死なない便利な弾避け」
かなめの言葉にカウラは大きくため息をついた。島田は体組織再生能力という体質の持ち主だった。これまでも何度か誠達の無謀な行動につきあわされて常人なら即死するような目に何度もあっている。それでもこうして平和に弁当を食べられるのはその不死の体故だった。だが所詮は死なない以外にとりえのない島田である。今はこれ以上ひどい目にあわなようにとじっとかなめに吊るされたまま口を開いた。
「吉田の旦那と一番話をしてるのはうちではキムですよ。アイツは鉄砲オタクだから吉田の旦那とは趣味があいますから」
「吉田のは趣味じゃなくて実用だろ?それにキムの知識といえば、どこのメーカーのバレルが長持ちするとか、狙撃用の弾薬のパウダーのメーカーをどこにしたらいいかとか……そんなことが役に立つと思うか?」
「いやあ、役に立つかと聞かれても……」
島田はとりあえずかなめの脅威がしばらく続きそうなのでうんざりしながら周りを見回した。いつもは人望厚い島田だがこと相手がかなめとなると、あえて身代わりになりに来るような古参兵達は周りにはいない。新兵達はかなめは自分達を端から相手にしないことは分かっているのでそれぞれがやがやと雑談を続けている。
「おい、ベルガー」
「なんだ」
かなめは無駄なことに付き合わされて苦虫をかみつぶすような表情を浮かべているカウラを呼ぶ。
「次どこ行くか?」
「私に聞くな」
かなめはネタ切れだ。誠はそう思うとこれ以上騒動が大きくならないと踏んで大きく安どのため息をついた。
誠もかなめがこのまま機動部隊の詰め所に帰ってくれるだろうと思っていた。
昼休み。弁当を掻き込みながら、技術部整備班長の島田正人准尉が思い切り嫌な顔をしてつぶやいた。さすがに今日の島田に声をかけるのは誠も躊躇したが、そんなことを許すかなめではない。
島田の弁当を作った司法局唯一の運用艦『高雄』の管制官のサラ・グリファン少尉が殺意を込めた視線で誠達を睨み付けてくる。
島田は野郎ばかりの整備班の班長である。そんな島田の為に作ってた弁当を広げてひと時に浸る二人。そんな二人の時間をかなめは意図的に土足で踏みにじるつもりだ。そのいつもの興味深そうなタレ目を見れば誠も十分に分かった。
「今、第一小隊の05式の一斉点検の最中なんだけど……データ送っても速攻でレスが入ってくるからなあ。本当にいないの?嘘でしょ」
「ならテメエのその何も見えていない目で確かめて見るか?え?」
かなめはそう言うと島田の襟首を掴んで持ち上げる。長身の島田と言えど、軍用の局地戦用義体の持ち主のかなめの腕力に勝てるわけもない。ただされるがままにつるされる。島田は逆らうだけ無駄だとわかっているのか、静かに目の前のかなめのタレ目に目をやる。
「だからうちじゃあ分かりませんて!吉田さんならシャムちゃんが相棒じゃないですか! 俺達に聞くよりそっちの方が!」
「分からねえ奴だな!そのシャムが喋らないからテメエに聞いてるんだろ?答えろ!」
島田が何も知らないことは誠にもわかっていた。要するにかなめは島田とサラの貴重な時間を踏みにじりたいというサディスティックな欲求だけでこうして暴力をふるっているだけだった。いつものことながら誠はただあきれてその様子を眺めていた。
「かなめちゃん止めてよ!」
さすがに勢い余って首を絞め始めて島田が泡を吹き出したところでサラが止めにかかった。常人ならとっくに窒息していたほどの時間ぎゅうぎゅうと首を絞められて一瞬白目を剥いた島田がなんとか咳をしながら我に変える。
「人をなんだと思ってるんですか?」
「え?死なない便利な弾避け」
かなめの言葉にカウラは大きくため息をついた。島田は体組織再生能力という体質の持ち主だった。これまでも何度か誠達の無謀な行動につきあわされて常人なら即死するような目に何度もあっている。それでもこうして平和に弁当を食べられるのはその不死の体故だった。だが所詮は死なない以外にとりえのない島田である。今はこれ以上ひどい目にあわなようにとじっとかなめに吊るされたまま口を開いた。
「吉田の旦那と一番話をしてるのはうちではキムですよ。アイツは鉄砲オタクだから吉田の旦那とは趣味があいますから」
「吉田のは趣味じゃなくて実用だろ?それにキムの知識といえば、どこのメーカーのバレルが長持ちするとか、狙撃用の弾薬のパウダーのメーカーをどこにしたらいいかとか……そんなことが役に立つと思うか?」
「いやあ、役に立つかと聞かれても……」
島田はとりあえずかなめの脅威がしばらく続きそうなのでうんざりしながら周りを見回した。いつもは人望厚い島田だがこと相手がかなめとなると、あえて身代わりになりに来るような古参兵達は周りにはいない。新兵達はかなめは自分達を端から相手にしないことは分かっているのでそれぞれがやがやと雑談を続けている。
「おい、ベルガー」
「なんだ」
かなめは無駄なことに付き合わされて苦虫をかみつぶすような表情を浮かべているカウラを呼ぶ。
「次どこ行くか?」
「私に聞くな」
かなめはネタ切れだ。誠はそう思うとこれ以上騒動が大きくならないと踏んで大きく安どのため息をついた。
誠もかなめがこのまま機動部隊の詰め所に帰ってくれるだろうと思っていた。
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