652 / 1,503
第5章 午後のお仕事
教導のお仕事
しおりを挟む
「じゃあお仕事お仕事……」
ズボンに手を突っ込んだまま吉田は詰め所から出て行った。吉田についてシャムは部屋を出ようとする。
「じゃあ行ってくるね!」
「おう!行って来い!」
ランに見送られてシャム達は部屋を出た。アンが心配そうな表情で後に続く。そんな一行の目の前には技術部の古参兵と管理部の背広組と警備部の新人二人を連れた菰田だった。
「あ、吉田少佐。ありがとうございました!」
脂ぎった顔を驚きで満たした表情で菰田が吉田に頭を下げる。その顔がにんまりとした笑みに変わりながらあがってくるのを無表情で見つめていた吉田が首をかしげる。
「え?何が?」
「あの、伝票……本当に助かりましたよ」
「ああ、その件ね。あのさあ。俺達に面倒ごと押し付けるの止めてくれないかな?」
淡々と言葉をつむぐ吉田を見て笑顔が急に凍りつく菰田。周りの『ヒンヌー教徒』達も吉田の表情の変化に全身系を集中している。伝説の傭兵として知られた変わった経歴の持ち主の義体使い。相手にするにはあまりにも異質で理解を超えている存在を前にしての緊張。そして明らかに吉田は菰田達を良く思ってはいない。
「……以降気をつけます!」
「ああ、分かってくれりゃあいいよ」
吉田の言葉が終わらないうちに菰田は自分の島の管理部に飛び込んだ。取り巻きもそれぞれに自分の部署へ小走りに消えていった。
「痛快ですね!」
アンの言葉に同じような冷たい視線を浴びせた後、吉田はシャム達を引き連れてそのままハンガーが見える踊り場へと歩き出した。
「アン君。ほら、見てるじゃないの」
シャムが見たのはガラス張りの管理部の部屋でじっとシャム達をにらみつけている菰田の姿だった。吉田はと言えばまるで相手にする気は無いというようにそのままハンガーへ降りる階段を下っている。
「ああ、島田班長から聞いてますよ。例の件ですね!」
降りてくる吉田達をいち早く見つけたのは待機状態のまま固定化されている司法局実働部隊の隊長嵯峨の愛機、『カネミツ』の入った巨大な冷却室のスイッチをいじっていた上等兵だった。彼はそのままシャム達に敬礼するとはしごから降りて走り出す。
階段を降りきったところでシャム達がハンガーの入り口のあたりを見ればグローブをはめたままの古参兵達と先ほどの上等兵がなにやら話をしているところだった。
「あいつ等も偉くなったもんだな」
「だってそれなりの仕事はしてくれているじゃん」
「まあな」
吉田がしぶしぶ苦笑いを浮かべるのを見ながらなぜかシャムはうれしい気分になった。
『絶対に貴様だけは守ってやる』
その昔、故郷、遼南の内戦の激戦の中、吉田はシャムにそう言ったことがあった。それからは一時期シャムが軍を離れて農業高校に行っていた時期以外はほとんど一緒にすごしてきた。
『やっぱり俊平は頼りになるな』
昔を思い出すとなぜかいつも顔が自然とニコニコしてくるのがシャムはうれしかった。
そんなシャム達に向かって先ほどの上等兵が再び駆け寄ってきた。
「班長から案内するようにとのことを言い付かりました」
「いいよ、自分の機体だぜ。場所くらい……」
「それが……あの……」
そのまま上等兵を置いていこうとする吉田に上等兵は煮え切らない表情を浮かべた。
「なんだよ」
「エンジン下して制御系の調整中でして……それはコードとかがぐにゃぐにゃ並んでまして……」
もじもじつぶやく上等兵に一瞬無視して歩き出そうとした吉田だがすぐにシャムとアンを振り返って立ち止まった。
「あれか……ヨハンのデータバックアップ作業の機材がそのまま接続されてるんだろ? じゃあ頼むわ」
「ありがとうございます!」
上等兵は歓喜の表情で歩き出す。シャムは彼を見ながら彼の様子を入り口のあたりでじっと見守っていた古参兵に囲まれた島田の様子を見て安堵の表情で吉田達に続いた。
ズボンに手を突っ込んだまま吉田は詰め所から出て行った。吉田についてシャムは部屋を出ようとする。
「じゃあ行ってくるね!」
「おう!行って来い!」
ランに見送られてシャム達は部屋を出た。アンが心配そうな表情で後に続く。そんな一行の目の前には技術部の古参兵と管理部の背広組と警備部の新人二人を連れた菰田だった。
「あ、吉田少佐。ありがとうございました!」
脂ぎった顔を驚きで満たした表情で菰田が吉田に頭を下げる。その顔がにんまりとした笑みに変わりながらあがってくるのを無表情で見つめていた吉田が首をかしげる。
「え?何が?」
「あの、伝票……本当に助かりましたよ」
「ああ、その件ね。あのさあ。俺達に面倒ごと押し付けるの止めてくれないかな?」
淡々と言葉をつむぐ吉田を見て笑顔が急に凍りつく菰田。周りの『ヒンヌー教徒』達も吉田の表情の変化に全身系を集中している。伝説の傭兵として知られた変わった経歴の持ち主の義体使い。相手にするにはあまりにも異質で理解を超えている存在を前にしての緊張。そして明らかに吉田は菰田達を良く思ってはいない。
「……以降気をつけます!」
「ああ、分かってくれりゃあいいよ」
吉田の言葉が終わらないうちに菰田は自分の島の管理部に飛び込んだ。取り巻きもそれぞれに自分の部署へ小走りに消えていった。
「痛快ですね!」
アンの言葉に同じような冷たい視線を浴びせた後、吉田はシャム達を引き連れてそのままハンガーが見える踊り場へと歩き出した。
「アン君。ほら、見てるじゃないの」
シャムが見たのはガラス張りの管理部の部屋でじっとシャム達をにらみつけている菰田の姿だった。吉田はと言えばまるで相手にする気は無いというようにそのままハンガーへ降りる階段を下っている。
「ああ、島田班長から聞いてますよ。例の件ですね!」
降りてくる吉田達をいち早く見つけたのは待機状態のまま固定化されている司法局実働部隊の隊長嵯峨の愛機、『カネミツ』の入った巨大な冷却室のスイッチをいじっていた上等兵だった。彼はそのままシャム達に敬礼するとはしごから降りて走り出す。
階段を降りきったところでシャム達がハンガーの入り口のあたりを見ればグローブをはめたままの古参兵達と先ほどの上等兵がなにやら話をしているところだった。
「あいつ等も偉くなったもんだな」
「だってそれなりの仕事はしてくれているじゃん」
「まあな」
吉田がしぶしぶ苦笑いを浮かべるのを見ながらなぜかシャムはうれしい気分になった。
『絶対に貴様だけは守ってやる』
その昔、故郷、遼南の内戦の激戦の中、吉田はシャムにそう言ったことがあった。それからは一時期シャムが軍を離れて農業高校に行っていた時期以外はほとんど一緒にすごしてきた。
『やっぱり俊平は頼りになるな』
昔を思い出すとなぜかいつも顔が自然とニコニコしてくるのがシャムはうれしかった。
そんなシャム達に向かって先ほどの上等兵が再び駆け寄ってきた。
「班長から案内するようにとのことを言い付かりました」
「いいよ、自分の機体だぜ。場所くらい……」
「それが……あの……」
そのまま上等兵を置いていこうとする吉田に上等兵は煮え切らない表情を浮かべた。
「なんだよ」
「エンジン下して制御系の調整中でして……それはコードとかがぐにゃぐにゃ並んでまして……」
もじもじつぶやく上等兵に一瞬無視して歩き出そうとした吉田だがすぐにシャムとアンを振り返って立ち止まった。
「あれか……ヨハンのデータバックアップ作業の機材がそのまま接続されてるんだろ? じゃあ頼むわ」
「ありがとうございます!」
上等兵は歓喜の表情で歩き出す。シャムは彼を見ながら彼の様子を入り口のあたりでじっと見守っていた古参兵に囲まれた島田の様子を見て安堵の表情で吉田達に続いた。
0
お気に入りに追加
57
あなたにおすすめの小説
潜水艦艦長 深海調査手記
ただのA
SF
深海探査潜水艦ネプトゥヌスの艦長ロバート・L・グレイ が深海で発見した生物、現象、景観などを書き残した手記。
皆さんも艦長の手記を通して深海の神秘に触れてみませんか?
特殊装甲隊 ダグフェロン 『廃帝と永遠の世紀末』 第三部 『暗黒大陸』
橋本 直
SF
遼州司法局も法術特捜の発足とともに実働部隊、機動隊、法術特捜の三部体制が確立することとなった。
それまで東和陸軍教導隊を兼務していた小さな隊長、クバルカ・ラン中佐が実働部隊副隊長として本異動になることが決まった。
彼女の本拠地である東和陸軍教導隊を訪ねた神前誠に法術兵器の実験に任務が課せられた。それは広域にわたり兵士の意識を奪ってしまうという新しい発想の非破壊兵器だった。
実験は成功するがチャージの時間等、運用の難しい兵器と判明する。
一方実働部隊部隊長嵯峨惟基は自分が領邦領主を務めている貴族制国家甲武国へ飛んだ。そこでは彼の両方を西園寺かなめの妹、日野かえでに継がせることに関する会議が行われる予定だった。
一方、南の『魔窟』と呼ばれる大陸ベルルカンの大国、バルキスタンにて総選挙が予定されており、実働部隊も支援部隊を派遣していた。だが選挙に不満を持つ政府軍、反政府軍の駆け引きが続いていた。
嵯峨は万が一の両軍衝突の際アメリカの介入を要請しようとする兄である西園寺義基のシンパである甲武軍部穏健派を牽制しつつ貴族の群れる会議へと向かった。
そしてそんな中、バルキスタンで反政府軍が機動兵器を手に入れ政府軍との全面衝突が発生する。
誠は試験が済んだばかりの非破壊兵器を手に戦線の拡大を防ぐべく出撃するのだった。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」
音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。
本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。
しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。
*6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。
法術装甲隊ダグフェロン 永遠に続く世紀末の国で 野球と海と『革命家』
橋本 直
SF
その文明は出会うべきではなかった
その人との出会いは歓迎すべきものではなかった
これは悲しい『出会い』の物語
『特殊な部隊』と出会うことで青年にはある『宿命』がせおわされることになる
法術装甲隊ダグフェロン 第二部
遼州人の青年『神前誠(しんぜんまこと)』が発動した『干渉空間』と『光の剣(つるぎ)により貴族主義者のクーデターを未然に防止することが出来た『近藤事件』が終わってから1か月がたった。
宇宙は誠をはじめとする『法術師』の存在を公表することで混乱に陥っていたが、誠の所属する司法局実働部隊、通称『特殊な部隊』は相変わらずおバカな生活を送っていた。
そんな『特殊な部隊』の運用艦『ふさ』艦長アメリア・クラウゼ中佐と誠の所属するシュツルム・パンツァーパイロット部隊『機動部隊第一小隊』のパイロットでサイボーグの西園寺かなめは『特殊な部隊』の野球部の夏合宿を企画した。
どうせろくな事が起こらないと思いながら仕事をさぼって参加する誠。
そこではかなめがいかに自分とはかけ離れたお嬢様で、貴族主義の国『甲武国』がどれほど自分の暮らす永遠に続く20世紀末の東和共和国と違うのかを誠は知ることになった。
しかし、彼を待っていたのは『法術』を持つ遼州人を地球人から解放しようとする『革命家』の襲撃だった。
この事件をきっかけに誠の身辺警護の必要性から誠の警護にアメリア、かなめ、そして無表情な人造人間『ラスト・バタリオン』の第一小隊小隊長カウラ・ベルガー大尉がつくことになる。
これにより誠の暮らす『男子下士官寮』は有名無実化することになった。
そんなおバカな連中を『駄目人間』嵯峨惟基特務大佐と機動部隊隊長クバルカ・ラン中佐は生暖かい目で見守っていた。
そんな『特殊な部隊』の意図とは関係なく着々と『力ある者の支配する宇宙』の実現を目指す『廃帝ハド』の野望はゆっくりと動き出しつつあった。
SFお仕事ギャグロマン小説。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
【完結】そして、誰もいなくなった
杜野秋人
ファンタジー
「そなたは私の妻として、侯爵夫人として相応しくない!よって婚約を破棄する!」
愛する令嬢を傍らに声高にそう叫ぶ婚約者イグナシオに伯爵家令嬢セリアは誤解だと訴えるが、イグナシオは聞く耳を持たない。それどころか明らかに犯してもいない罪を挙げられ糾弾され、彼女は思わず彼に手を伸ばして取り縋ろうとした。
「触るな!」
だがその手をイグナシオは大きく振り払った。振り払われよろめいたセリアは、受け身も取れないまま仰向けに倒れ、頭を打って昏倒した。
「突き飛ばしたぞ」
「彼が手を上げた」
「誰か衛兵を呼べ!」
騒然となるパーティー会場。すぐさま会場警護の騎士たちに取り囲まれ、彼は「違うんだ、話を聞いてくれ!」と叫びながら愛人の令嬢とともに連行されていった。
そして倒れたセリアもすぐさま人が集められ運び出されていった。
そして誰もいなくなった。
彼女と彼と愛人と、果たして誰が悪かったのか。
これはとある悲しい、婚約破棄の物語である。
◆小説家になろう様でも公開しています。話数の関係上あちらの方が進みが早いです。
3/27、なろう版完結。あちらは全8話です。
3/30、小説家になろうヒューマンドラマランキング日間1位になりました!
4/1、完結しました。全14話。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる