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第4章 午前勤務
アモラー
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ハンガーの轟音が響く技術部の各部の詰め所が並ぶ廊下が続いている。その中の一番地味に見える小部屋を見つけるとシャムは静かに呼び鈴を鳴らした。
『開いてますよ』
低い声が廊下に響くのを待ってシャムは引き戸を開く。重い引き戸には厳重なロックが施され、そこが一般の隊員の立ち入りが難しい部署であることをいつものことながらシャムは思い知った。
「ナンバルゲニア中尉……」
カウンターの向こうで狙撃銃のスコープを掲げて覗き込んでいる一際目立って座高の高い青年技術仕官。彼の隣のカウンターの上には見慣れたベルトが置かれているのが背の低いシャムからも見て取れた。
「キム……またごめんね」
シャムはそう言いながらカウンターに置かれたガンベルトに手を伸ばす。西部劇の保安官なんかがぶら下げていそうな派手なガンベルト。そこに刺さった二挺のリボルバー。シャム愛用のコルト・シングル・アクション・アーミー、通称『ピースメーカー』のコピーモデル。しかもその銃身は短く切り詰められ、グリップにはこれまたアイボリー調の素材に象嵌が施された派手な特注のものが仕込まれている。
「ちゃんと45ロングコルトの弱装弾を仕込んどきましたよ。ファクトリーロード弾は先週で撃ち切っちゃったんで……リロード品になりますが」
「ごめんね。いつも」
シャムがそう言うとキムは相変わらずスコープを右手に持ったまま左手で重そうな引き出しを開くと箱を一つ取り出した。
「まあ12発詰めるのも100発詰めるのも大して変わりないですから。一応これとあと一箱は作っておきましたから」
そう言いながら右手のスコープを机に置くとキムは今度は作業台から長い金属の棒を取り出して目の前に掲げる。シャムがベルトを巻きつけながらそれを見ているとさすがにキムも手を休めてシャムのほうに目を向けた。シャムはそのぶっきらぼうな視線に驚いたように回りを見回す。技術部小火器担当班。『アモラー』と呼ばれる部署は出入りの激しい技術部の人材の中にあって一人の異動も無い貴重な部署だった。そしてその雰囲気がその事実が当然のものだと納得させる。
キムの隣の筋肉質の曹長はじっと警備部の装備しているカラシニコフライフルの機関部の部品の一つと思われる針金を無言でバーナーで炙っている。その隣から三つの席は空席。ついたての奥では何か金属を打ち付ける機械の音が絶え間なく響く。珍しい来客に顔を出した赤毛の女性技術兵は苦笑いを浮かべながらキムの隣まで来ると手にした紙切れをキムに渡す。無言でそれを受け取ったキムは一度うなづく。赤毛の女性はその態度に納得したというように来たときのままの無表情を顔に貼り付けたままそのままついたての向こうに消えていく。
シャムはそれを見送ると彼女がつけていた防熱素材の前掛けが茶色だったか紫色だったかが思い出せずに気にかかりながらなんとかベルトのバックルを締め終えた。
「じゃあ行くね!」
そう叫んだシャムにようやくキムは目を向けた。いつもの鋭い視線がシャムを思わずのけぞらせる。
「西園寺大尉に伝えといてくださいよ。撃ちまくるのはいいですけどうちにあるXDM40のスライドの予備はあと三つですから」
「う……うん」
自分の言いたいことを言うとキムはそのまま目の前の机で作業を再開する。シャムはどうにも沈鬱な部屋の空気に押されるようにして部屋を出た。
廊下はハンガーの反対側の正門の方、部隊を運用する重巡洋艦クラスの運行艦『高雄』の運行管理を担当する運行部の女性士官達の話し声で華やかに感じられてようやくシャムは気分を変えてそのままハンガーへと向かった。
『開いてますよ』
低い声が廊下に響くのを待ってシャムは引き戸を開く。重い引き戸には厳重なロックが施され、そこが一般の隊員の立ち入りが難しい部署であることをいつものことながらシャムは思い知った。
「ナンバルゲニア中尉……」
カウンターの向こうで狙撃銃のスコープを掲げて覗き込んでいる一際目立って座高の高い青年技術仕官。彼の隣のカウンターの上には見慣れたベルトが置かれているのが背の低いシャムからも見て取れた。
「キム……またごめんね」
シャムはそう言いながらカウンターに置かれたガンベルトに手を伸ばす。西部劇の保安官なんかがぶら下げていそうな派手なガンベルト。そこに刺さった二挺のリボルバー。シャム愛用のコルト・シングル・アクション・アーミー、通称『ピースメーカー』のコピーモデル。しかもその銃身は短く切り詰められ、グリップにはこれまたアイボリー調の素材に象嵌が施された派手な特注のものが仕込まれている。
「ちゃんと45ロングコルトの弱装弾を仕込んどきましたよ。ファクトリーロード弾は先週で撃ち切っちゃったんで……リロード品になりますが」
「ごめんね。いつも」
シャムがそう言うとキムは相変わらずスコープを右手に持ったまま左手で重そうな引き出しを開くと箱を一つ取り出した。
「まあ12発詰めるのも100発詰めるのも大して変わりないですから。一応これとあと一箱は作っておきましたから」
そう言いながら右手のスコープを机に置くとキムは今度は作業台から長い金属の棒を取り出して目の前に掲げる。シャムがベルトを巻きつけながらそれを見ているとさすがにキムも手を休めてシャムのほうに目を向けた。シャムはそのぶっきらぼうな視線に驚いたように回りを見回す。技術部小火器担当班。『アモラー』と呼ばれる部署は出入りの激しい技術部の人材の中にあって一人の異動も無い貴重な部署だった。そしてその雰囲気がその事実が当然のものだと納得させる。
キムの隣の筋肉質の曹長はじっと警備部の装備しているカラシニコフライフルの機関部の部品の一つと思われる針金を無言でバーナーで炙っている。その隣から三つの席は空席。ついたての奥では何か金属を打ち付ける機械の音が絶え間なく響く。珍しい来客に顔を出した赤毛の女性技術兵は苦笑いを浮かべながらキムの隣まで来ると手にした紙切れをキムに渡す。無言でそれを受け取ったキムは一度うなづく。赤毛の女性はその態度に納得したというように来たときのままの無表情を顔に貼り付けたままそのままついたての向こうに消えていく。
シャムはそれを見送ると彼女がつけていた防熱素材の前掛けが茶色だったか紫色だったかが思い出せずに気にかかりながらなんとかベルトのバックルを締め終えた。
「じゃあ行くね!」
そう叫んだシャムにようやくキムは目を向けた。いつもの鋭い視線がシャムを思わずのけぞらせる。
「西園寺大尉に伝えといてくださいよ。撃ちまくるのはいいですけどうちにあるXDM40のスライドの予備はあと三つですから」
「う……うん」
自分の言いたいことを言うとキムはそのまま目の前の机で作業を再開する。シャムはどうにも沈鬱な部屋の空気に押されるようにして部屋を出た。
廊下はハンガーの反対側の正門の方、部隊を運用する重巡洋艦クラスの運行艦『高雄』の運行管理を担当する運行部の女性士官達の話し声で華やかに感じられてようやくシャムは気分を変えてそのままハンガーへと向かった。
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