646 / 1,503
第4章 午前勤務
アモラー
しおりを挟む
ハンガーの轟音が響く技術部の各部の詰め所が並ぶ廊下が続いている。その中の一番地味に見える小部屋を見つけるとシャムは静かに呼び鈴を鳴らした。
『開いてますよ』
低い声が廊下に響くのを待ってシャムは引き戸を開く。重い引き戸には厳重なロックが施され、そこが一般の隊員の立ち入りが難しい部署であることをいつものことながらシャムは思い知った。
「ナンバルゲニア中尉……」
カウンターの向こうで狙撃銃のスコープを掲げて覗き込んでいる一際目立って座高の高い青年技術仕官。彼の隣のカウンターの上には見慣れたベルトが置かれているのが背の低いシャムからも見て取れた。
「キム……またごめんね」
シャムはそう言いながらカウンターに置かれたガンベルトに手を伸ばす。西部劇の保安官なんかがぶら下げていそうな派手なガンベルト。そこに刺さった二挺のリボルバー。シャム愛用のコルト・シングル・アクション・アーミー、通称『ピースメーカー』のコピーモデル。しかもその銃身は短く切り詰められ、グリップにはこれまたアイボリー調の素材に象嵌が施された派手な特注のものが仕込まれている。
「ちゃんと45ロングコルトの弱装弾を仕込んどきましたよ。ファクトリーロード弾は先週で撃ち切っちゃったんで……リロード品になりますが」
「ごめんね。いつも」
シャムがそう言うとキムは相変わらずスコープを右手に持ったまま左手で重そうな引き出しを開くと箱を一つ取り出した。
「まあ12発詰めるのも100発詰めるのも大して変わりないですから。一応これとあと一箱は作っておきましたから」
そう言いながら右手のスコープを机に置くとキムは今度は作業台から長い金属の棒を取り出して目の前に掲げる。シャムがベルトを巻きつけながらそれを見ているとさすがにキムも手を休めてシャムのほうに目を向けた。シャムはそのぶっきらぼうな視線に驚いたように回りを見回す。技術部小火器担当班。『アモラー』と呼ばれる部署は出入りの激しい技術部の人材の中にあって一人の異動も無い貴重な部署だった。そしてその雰囲気がその事実が当然のものだと納得させる。
キムの隣の筋肉質の曹長はじっと警備部の装備しているカラシニコフライフルの機関部の部品の一つと思われる針金を無言でバーナーで炙っている。その隣から三つの席は空席。ついたての奥では何か金属を打ち付ける機械の音が絶え間なく響く。珍しい来客に顔を出した赤毛の女性技術兵は苦笑いを浮かべながらキムの隣まで来ると手にした紙切れをキムに渡す。無言でそれを受け取ったキムは一度うなづく。赤毛の女性はその態度に納得したというように来たときのままの無表情を顔に貼り付けたままそのままついたての向こうに消えていく。
シャムはそれを見送ると彼女がつけていた防熱素材の前掛けが茶色だったか紫色だったかが思い出せずに気にかかりながらなんとかベルトのバックルを締め終えた。
「じゃあ行くね!」
そう叫んだシャムにようやくキムは目を向けた。いつもの鋭い視線がシャムを思わずのけぞらせる。
「西園寺大尉に伝えといてくださいよ。撃ちまくるのはいいですけどうちにあるXDM40のスライドの予備はあと三つですから」
「う……うん」
自分の言いたいことを言うとキムはそのまま目の前の机で作業を再開する。シャムはどうにも沈鬱な部屋の空気に押されるようにして部屋を出た。
廊下はハンガーの反対側の正門の方、部隊を運用する重巡洋艦クラスの運行艦『高雄』の運行管理を担当する運行部の女性士官達の話し声で華やかに感じられてようやくシャムは気分を変えてそのままハンガーへと向かった。
『開いてますよ』
低い声が廊下に響くのを待ってシャムは引き戸を開く。重い引き戸には厳重なロックが施され、そこが一般の隊員の立ち入りが難しい部署であることをいつものことながらシャムは思い知った。
「ナンバルゲニア中尉……」
カウンターの向こうで狙撃銃のスコープを掲げて覗き込んでいる一際目立って座高の高い青年技術仕官。彼の隣のカウンターの上には見慣れたベルトが置かれているのが背の低いシャムからも見て取れた。
「キム……またごめんね」
シャムはそう言いながらカウンターに置かれたガンベルトに手を伸ばす。西部劇の保安官なんかがぶら下げていそうな派手なガンベルト。そこに刺さった二挺のリボルバー。シャム愛用のコルト・シングル・アクション・アーミー、通称『ピースメーカー』のコピーモデル。しかもその銃身は短く切り詰められ、グリップにはこれまたアイボリー調の素材に象嵌が施された派手な特注のものが仕込まれている。
「ちゃんと45ロングコルトの弱装弾を仕込んどきましたよ。ファクトリーロード弾は先週で撃ち切っちゃったんで……リロード品になりますが」
「ごめんね。いつも」
シャムがそう言うとキムは相変わらずスコープを右手に持ったまま左手で重そうな引き出しを開くと箱を一つ取り出した。
「まあ12発詰めるのも100発詰めるのも大して変わりないですから。一応これとあと一箱は作っておきましたから」
そう言いながら右手のスコープを机に置くとキムは今度は作業台から長い金属の棒を取り出して目の前に掲げる。シャムがベルトを巻きつけながらそれを見ているとさすがにキムも手を休めてシャムのほうに目を向けた。シャムはそのぶっきらぼうな視線に驚いたように回りを見回す。技術部小火器担当班。『アモラー』と呼ばれる部署は出入りの激しい技術部の人材の中にあって一人の異動も無い貴重な部署だった。そしてその雰囲気がその事実が当然のものだと納得させる。
キムの隣の筋肉質の曹長はじっと警備部の装備しているカラシニコフライフルの機関部の部品の一つと思われる針金を無言でバーナーで炙っている。その隣から三つの席は空席。ついたての奥では何か金属を打ち付ける機械の音が絶え間なく響く。珍しい来客に顔を出した赤毛の女性技術兵は苦笑いを浮かべながらキムの隣まで来ると手にした紙切れをキムに渡す。無言でそれを受け取ったキムは一度うなづく。赤毛の女性はその態度に納得したというように来たときのままの無表情を顔に貼り付けたままそのままついたての向こうに消えていく。
シャムはそれを見送ると彼女がつけていた防熱素材の前掛けが茶色だったか紫色だったかが思い出せずに気にかかりながらなんとかベルトのバックルを締め終えた。
「じゃあ行くね!」
そう叫んだシャムにようやくキムは目を向けた。いつもの鋭い視線がシャムを思わずのけぞらせる。
「西園寺大尉に伝えといてくださいよ。撃ちまくるのはいいですけどうちにあるXDM40のスライドの予備はあと三つですから」
「う……うん」
自分の言いたいことを言うとキムはそのまま目の前の机で作業を再開する。シャムはどうにも沈鬱な部屋の空気に押されるようにして部屋を出た。
廊下はハンガーの反対側の正門の方、部隊を運用する重巡洋艦クラスの運行艦『高雄』の運行管理を担当する運行部の女性士官達の話し声で華やかに感じられてようやくシャムは気分を変えてそのままハンガーへと向かった。
0
お気に入りに追加
57
あなたにおすすめの小説
潜水艦艦長 深海調査手記
ただのA
SF
深海探査潜水艦ネプトゥヌスの艦長ロバート・L・グレイ が深海で発見した生物、現象、景観などを書き残した手記。
皆さんも艦長の手記を通して深海の神秘に触れてみませんか?
特殊装甲隊 ダグフェロン 『廃帝と永遠の世紀末』 第三部 『暗黒大陸』
橋本 直
SF
遼州司法局も法術特捜の発足とともに実働部隊、機動隊、法術特捜の三部体制が確立することとなった。
それまで東和陸軍教導隊を兼務していた小さな隊長、クバルカ・ラン中佐が実働部隊副隊長として本異動になることが決まった。
彼女の本拠地である東和陸軍教導隊を訪ねた神前誠に法術兵器の実験に任務が課せられた。それは広域にわたり兵士の意識を奪ってしまうという新しい発想の非破壊兵器だった。
実験は成功するがチャージの時間等、運用の難しい兵器と判明する。
一方実働部隊部隊長嵯峨惟基は自分が領邦領主を務めている貴族制国家甲武国へ飛んだ。そこでは彼の両方を西園寺かなめの妹、日野かえでに継がせることに関する会議が行われる予定だった。
一方、南の『魔窟』と呼ばれる大陸ベルルカンの大国、バルキスタンにて総選挙が予定されており、実働部隊も支援部隊を派遣していた。だが選挙に不満を持つ政府軍、反政府軍の駆け引きが続いていた。
嵯峨は万が一の両軍衝突の際アメリカの介入を要請しようとする兄である西園寺義基のシンパである甲武軍部穏健派を牽制しつつ貴族の群れる会議へと向かった。
そしてそんな中、バルキスタンで反政府軍が機動兵器を手に入れ政府軍との全面衝突が発生する。
誠は試験が済んだばかりの非破壊兵器を手に戦線の拡大を防ぐべく出撃するのだった。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」
音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。
本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。
しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。
*6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。
法術装甲隊ダグフェロン 永遠に続く世紀末の国で 野球と海と『革命家』
橋本 直
SF
その文明は出会うべきではなかった
その人との出会いは歓迎すべきものではなかった
これは悲しい『出会い』の物語
『特殊な部隊』と出会うことで青年にはある『宿命』がせおわされることになる
法術装甲隊ダグフェロン 第二部
遼州人の青年『神前誠(しんぜんまこと)』が発動した『干渉空間』と『光の剣(つるぎ)により貴族主義者のクーデターを未然に防止することが出来た『近藤事件』が終わってから1か月がたった。
宇宙は誠をはじめとする『法術師』の存在を公表することで混乱に陥っていたが、誠の所属する司法局実働部隊、通称『特殊な部隊』は相変わらずおバカな生活を送っていた。
そんな『特殊な部隊』の運用艦『ふさ』艦長アメリア・クラウゼ中佐と誠の所属するシュツルム・パンツァーパイロット部隊『機動部隊第一小隊』のパイロットでサイボーグの西園寺かなめは『特殊な部隊』の野球部の夏合宿を企画した。
どうせろくな事が起こらないと思いながら仕事をさぼって参加する誠。
そこではかなめがいかに自分とはかけ離れたお嬢様で、貴族主義の国『甲武国』がどれほど自分の暮らす永遠に続く20世紀末の東和共和国と違うのかを誠は知ることになった。
しかし、彼を待っていたのは『法術』を持つ遼州人を地球人から解放しようとする『革命家』の襲撃だった。
この事件をきっかけに誠の身辺警護の必要性から誠の警護にアメリア、かなめ、そして無表情な人造人間『ラスト・バタリオン』の第一小隊小隊長カウラ・ベルガー大尉がつくことになる。
これにより誠の暮らす『男子下士官寮』は有名無実化することになった。
そんなおバカな連中を『駄目人間』嵯峨惟基特務大佐と機動部隊隊長クバルカ・ラン中佐は生暖かい目で見守っていた。
そんな『特殊な部隊』の意図とは関係なく着々と『力ある者の支配する宇宙』の実現を目指す『廃帝ハド』の野望はゆっくりと動き出しつつあった。
SFお仕事ギャグロマン小説。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
【完結】そして、誰もいなくなった
杜野秋人
ファンタジー
「そなたは私の妻として、侯爵夫人として相応しくない!よって婚約を破棄する!」
愛する令嬢を傍らに声高にそう叫ぶ婚約者イグナシオに伯爵家令嬢セリアは誤解だと訴えるが、イグナシオは聞く耳を持たない。それどころか明らかに犯してもいない罪を挙げられ糾弾され、彼女は思わず彼に手を伸ばして取り縋ろうとした。
「触るな!」
だがその手をイグナシオは大きく振り払った。振り払われよろめいたセリアは、受け身も取れないまま仰向けに倒れ、頭を打って昏倒した。
「突き飛ばしたぞ」
「彼が手を上げた」
「誰か衛兵を呼べ!」
騒然となるパーティー会場。すぐさま会場警護の騎士たちに取り囲まれ、彼は「違うんだ、話を聞いてくれ!」と叫びながら愛人の令嬢とともに連行されていった。
そして倒れたセリアもすぐさま人が集められ運び出されていった。
そして誰もいなくなった。
彼女と彼と愛人と、果たして誰が悪かったのか。
これはとある悲しい、婚約破棄の物語である。
◆小説家になろう様でも公開しています。話数の関係上あちらの方が進みが早いです。
3/27、なろう版完結。あちらは全8話です。
3/30、小説家になろうヒューマンドラマランキング日間1位になりました!
4/1、完結しました。全14話。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く
ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。
5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。
夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる