633 / 1,505
第2章 朝の実働部隊
モフモフ熊とのひと時
しおりを挟む
「これなら今日で終わるかな」
そう言うとそのままバイクを押して駐車場へと向かうシャム。そして彼女の接近を知ると熊のほえる声が響いていた。
「あ、グレゴリウスの料理……」
シャムは荷台に目をやる。そこには発泡スチロールの箱があった。
「そうだ、急がないと」
彼女はそのまま走ってバイクを押していく。駐車場には夜間訓練の関係で警備部員の車が並んでいた。そしてその向こうには見慣れたバンが止まっていて隣には見慣れた人影が見えた。
「遅いな」
吉田俊平はそう言うと端の駐輪所にバイクを止めるシャムに声をかけた。
「別に始業前なんだから時間は自由でいいじゃん」
そう言いながらシャムは荷台から箱を下ろす。吉田はにやりと笑うと彼女から箱を受け取った。
「あの馬鹿熊。いいもの食ってるんだな。うらやましいよ」
「だって俊平は特に味とか気にしないんでしょ?」
「それはそうなんだけどな……もったいないような食べたいような……」
ヘルメットを脱ぐシャムをちらちらと見ながら吉田はただ箱を抱えているだけだった。
「ご飯作んなきゃね」
そのまま手のヘルメットを座席の下の開いたところに入れて鍵を閉めるとそのままシャムは奥の隊の所有する車両置き場の隣の大きな檻に向かって歩いた。
「わうー」
大きな熊の声が響く。シャムは笑顔で檻に手を入れると巨大なヒグマ、グレゴリウス16世はうれしそうに彼女の手をなめていた。ちょうど柔らかな冬毛が生えそろってる時期なのでシャムがあごの下に手を伸ばすとモフモフの毛皮が手に障った。
「俊平!開けてあげて!」
シャムの言葉に街灯の下で吉田は渋い顔をした。
「こいつ俺のこと嫌いだからな……」
「そんなことないよ!ねえ!」
「わう!」
大好きなシャムの言葉にうなづいているように見えるグレゴリウス16世。それを見ながら苦笑いを浮かべつつ吉田は電子ロックを解除した。
グレゴリウス16世はしばらく周りを見渡す。全長五メートルの巨体だが、コンロンオオヒグマとしては子供のグレゴリウス16世はただびっくりしたように慎重に歩き始めた。
「じゃあアタシはグレゴリウスのご飯を作ってくるから!」
「おい!待て!」
シャムがそのまま裏手の倉庫に向かったときにすぐにグレゴリウス16世は吉田に襲い掛かった。
「馬鹿!糞熊!」
サイボーグらしく間一髪でかわす吉田。だがグレゴリウス16世はうれしそうに右腕を振り上げる。
「こいつ!俺を殺す気か!」
「こんなもんじゃ死なないからやってるんだろ?」
「うわ!」
突然背中から声をかけられて吉田はバランスを崩した。その顔面に突き立てられそうになったグレゴリウス16世の右腕だが寸前で止まり、そのままおとなしく地面についた。
「隊長……見てたなら止めてくださいよ」
じりじりと後ろに下がっていくグレゴリウス16世を警戒しながら吉田は声の主のほうに目を向けた。
着流しにどてらを羽織った姿の司法局実働部隊隊長、嵯峨惟基特務大佐の姿がそこにあった。
「だってさあ……楽しんでいるように見えたから」
「俺のどこが楽しんでたんですか!」
「いや、お前じゃなくてグレゴリウス君がだよ」
「わう!」
自分の名付け親である嵯峨の言葉をまるで理解しているようにグレゴリウス16世がうなづいた。
吉田は真剣な表情で襲いかかろうとする熊をにらみ付けた。グレゴリウス16世は近くに仲良しと思っている嵯峨がいることもあって殊勝な表情で腰を下ろして座った。
「なに?何かあったの?」
シャムが手にボールを持ちながら現れる。ボールの中にはりんごや先ほどさばいた鮭の切り身が入っていた。うれしそうにそれを見るグレゴリウス16世。
「はい、朝ごはん」
そう言うとシャムはグレゴリウス16世の前にボールを置いた。
「キウ……」
「食べて良いよ」
シャムの一言を聞くとうれしそうにボールに頭を突っ込む。その無邪気な姿にさすがの吉田も牙を抜かれたように肩の力を抜いた。
そう言うとそのままバイクを押して駐車場へと向かうシャム。そして彼女の接近を知ると熊のほえる声が響いていた。
「あ、グレゴリウスの料理……」
シャムは荷台に目をやる。そこには発泡スチロールの箱があった。
「そうだ、急がないと」
彼女はそのまま走ってバイクを押していく。駐車場には夜間訓練の関係で警備部員の車が並んでいた。そしてその向こうには見慣れたバンが止まっていて隣には見慣れた人影が見えた。
「遅いな」
吉田俊平はそう言うと端の駐輪所にバイクを止めるシャムに声をかけた。
「別に始業前なんだから時間は自由でいいじゃん」
そう言いながらシャムは荷台から箱を下ろす。吉田はにやりと笑うと彼女から箱を受け取った。
「あの馬鹿熊。いいもの食ってるんだな。うらやましいよ」
「だって俊平は特に味とか気にしないんでしょ?」
「それはそうなんだけどな……もったいないような食べたいような……」
ヘルメットを脱ぐシャムをちらちらと見ながら吉田はただ箱を抱えているだけだった。
「ご飯作んなきゃね」
そのまま手のヘルメットを座席の下の開いたところに入れて鍵を閉めるとそのままシャムは奥の隊の所有する車両置き場の隣の大きな檻に向かって歩いた。
「わうー」
大きな熊の声が響く。シャムは笑顔で檻に手を入れると巨大なヒグマ、グレゴリウス16世はうれしそうに彼女の手をなめていた。ちょうど柔らかな冬毛が生えそろってる時期なのでシャムがあごの下に手を伸ばすとモフモフの毛皮が手に障った。
「俊平!開けてあげて!」
シャムの言葉に街灯の下で吉田は渋い顔をした。
「こいつ俺のこと嫌いだからな……」
「そんなことないよ!ねえ!」
「わう!」
大好きなシャムの言葉にうなづいているように見えるグレゴリウス16世。それを見ながら苦笑いを浮かべつつ吉田は電子ロックを解除した。
グレゴリウス16世はしばらく周りを見渡す。全長五メートルの巨体だが、コンロンオオヒグマとしては子供のグレゴリウス16世はただびっくりしたように慎重に歩き始めた。
「じゃあアタシはグレゴリウスのご飯を作ってくるから!」
「おい!待て!」
シャムがそのまま裏手の倉庫に向かったときにすぐにグレゴリウス16世は吉田に襲い掛かった。
「馬鹿!糞熊!」
サイボーグらしく間一髪でかわす吉田。だがグレゴリウス16世はうれしそうに右腕を振り上げる。
「こいつ!俺を殺す気か!」
「こんなもんじゃ死なないからやってるんだろ?」
「うわ!」
突然背中から声をかけられて吉田はバランスを崩した。その顔面に突き立てられそうになったグレゴリウス16世の右腕だが寸前で止まり、そのままおとなしく地面についた。
「隊長……見てたなら止めてくださいよ」
じりじりと後ろに下がっていくグレゴリウス16世を警戒しながら吉田は声の主のほうに目を向けた。
着流しにどてらを羽織った姿の司法局実働部隊隊長、嵯峨惟基特務大佐の姿がそこにあった。
「だってさあ……楽しんでいるように見えたから」
「俺のどこが楽しんでたんですか!」
「いや、お前じゃなくてグレゴリウス君がだよ」
「わう!」
自分の名付け親である嵯峨の言葉をまるで理解しているようにグレゴリウス16世がうなづいた。
吉田は真剣な表情で襲いかかろうとする熊をにらみ付けた。グレゴリウス16世は近くに仲良しと思っている嵯峨がいることもあって殊勝な表情で腰を下ろして座った。
「なに?何かあったの?」
シャムが手にボールを持ちながら現れる。ボールの中にはりんごや先ほどさばいた鮭の切り身が入っていた。うれしそうにそれを見るグレゴリウス16世。
「はい、朝ごはん」
そう言うとシャムはグレゴリウス16世の前にボールを置いた。
「キウ……」
「食べて良いよ」
シャムの一言を聞くとうれしそうにボールに頭を突っ込む。その無邪気な姿にさすがの吉田も牙を抜かれたように肩の力を抜いた。
0
お気に入りに追加
57
あなたにおすすめの小説
もう、終わった話ですし
志位斗 茂家波
ファンタジー
一国が滅びた。
その知らせを聞いても、私には関係の無い事。
だってね、もう分っていたことなのよね‥‥‥
‥‥‥たまにやりたくなる、ありきたりな婚約破棄ざまぁ(?)もの
少々物足りないような気がするので、気が向いたらオマケ書こうかな?
【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く
ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。
5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。
夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…
あなたがそう望んだから
まる
ファンタジー
「ちょっとアンタ!アンタよ!!アデライス・オールテア!」
思わず不快さに顔が歪みそうになり、慌てて扇で顔を隠す。
確か彼女は…最近編入してきたという男爵家の庶子の娘だったかしら。
喚き散らす娘が望んだのでその通りにしてあげましたわ。
○○○○○○○○○○
誤字脱字ご容赦下さい。もし電波な転生者に貴族の令嬢が絡まれたら。攻略対象と思われてる男性もガッチリ貴族思考だったらと考えて書いてみました。ゆっくりペースになりそうですがよろしければ是非。
閲覧、しおり、お気に入りの登録ありがとうございました(*´ω`*)
何となくねっとりじわじわな感じになっていたらいいのにと思ったのですがどうなんでしょうね?
(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」
音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。
本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。
しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。
*6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。
「おまえを愛することはない!」と言ってやったのに、なぜ無視するんだ!
七辻ゆゆ
ファンタジー
俺を見ない、俺の言葉を聞かない、そして触れられない。すり抜ける……なぜだ?
俺はいったい、どうなっているんだ。
真実の愛を取り戻したいだけなのに。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる