レジェンド・オブ・ダーク 遼州司法局異聞

橋本 直

文字の大きさ
上 下
622 / 1,503
第48章 新たな力

危機……そして

しおりを挟む
「おい、神前……ラッキーかもしれねえぞ」 

 突然拳銃を手にかなめが振り返る。ニヤリとその口元が笑っている。感情の起伏の激しいかなめだが、こんなところで突然振り返って笑ってくるので誠は面食らって黙り込んでしまった。

「西園寺。ラッキーとはどういうことだ?根拠の無い事を言える状況じゃない」 

 不機嫌そうな表情を浮かべて首をひねるカウラ。それを見てもかなめは勝ち誇ったような笑みを浮かべていた。

「一瞬だがこの建物の四階で衛星通信をしている奴の反応が出た。恐らく水島が呼び寄せた使い魔は法術師じゃなくてサイボーグだ」 

「使い魔?ドラゴンとかじゃないから良かったとでも言いたいの?サイボーグだって十分驚異じゃないの。あんたの片腕。その状況だとそいつのをもぎ取って使えるから人斬り相手に有利に戦えるようになるとでも言いたいわけ?」 

 アイシャはあきれ果てたようにそう言うとそのままかなめを追い抜いて四階のフロアーに顔を上げる。

 銃声もない。誠も気配を感じることができない。ただ暗がりだけが広がっていくのがわかるだけだった。

「静かね……で?軍用義体のサイボーグが水島さんを助けに来た。それのどこがラッキーなのよ」 

 何もないのを確認したアイシャがかなめを振り返り小声で詰問する。そんなアイシャを見てさげすむように笑う。

「サイボーグは所詮工業製品だ。どんなに高性能な義体でも性能の上限は設計図を見れば分かる。研究途中でどんな力があるのか分からない法術師より与し易いだろ?」 

「事実だが楽観論だな。今の状況じゃ性能は分からないんだろ?」 

 あっさりとかなめの意見をカウラが切って捨てた。かなめはそのまま不機嫌そうに闇に目を向ける。そしてそのまま一気に四階のフロアーに飛び上がった。

「西園寺さん!」 

 誠が驚いて声をかける。かなめはムキになったようにそのまま前進した。

「馬鹿が!」

 カウラがその後に続いた。遅れまいと誠は左右を、アイシャは後方を警戒しながら前進していく。

 かなめは最初のドアを見つけるとカウラに少し離れて止まるように指示を出した。静かに彼女は左手の拳銃を手にドアを押し破ろうと手を伸ばした。

 その瞬間、誠は強い感情の流れをかなめの死角に当たる廊下の中央に感じた。

「正面!干渉空間!」

 その瞬間銃声がドアではなく廊下から響いた。手を伸ばしていたかなめがそのままその場に倒れ込む。かなめの隣に突然現われた発砲の作り出した火の玉がかき消すように消えた。 

「正面!こちらの場所を特定された!警戒!」

 カウラはそう言いながら銃を構えて周りを見回す。誠もまたカウラの隣でショットガンを構える。まるでこちらを分断しようとするように一発一発、別の場所からの発砲が続く。

「痛てえ!」 

 ドアの下。腹部を押さえてかなめが叫んだ。

「当たり前でしょ!こっちに這ってきなさいよ!」 

 アイシャが叫びつつ銃口の光を目印に銃を三発打ち込む。北川の銃はリボルバー。弾を撃ち尽くしてとりあえず引いたようで着弾した感触は無かった。

 しかし、その時廊下の奥の黒い塊の方で金属パイプが落ちるような音が響いた。

『銃だ!銃だ!』 

 誠が凝視するとその黒い塊はベッドのクッション部分を積み重ねたもののように見えた。そしてその影で人影のようなものが動いているのが誠にも見えた。

「見つけたぞ。神前、西園寺を何とかしろ!」 

 カウラの言葉に誠は干渉空間を展開した。そしてそのまま床に転がってわめいているかなめに向かう。

 銀色の光の板。誠が作り出した干渉空間に向けて先ほどのベッドの後ろからの三発の銃弾が着弾した。

「カウラさん!拳銃じゃ無理ですよ!」 

 正確な射撃。距離と三発の射撃間隔を計れば銃が苦手な誠でもそれがサブマシンガン以上の火力の火器のものだと言うことはわかる。カウラは誠が言葉をかけるまでもなく、消火栓の影に身を沈めてベッドの向こうのサイボーグだという水島の護衛の射撃に備えていた。

「済まねえ……しくじった!」 

 腹から血を流しているかなめ。誠はただかなめを守りたい一心で干渉空間を展開し続ける。

「神前……力はとっておくもんだぞ……人斬りが出て来たときに……力がでないとそれこそ洒落に……」 

 かなめはそれだけ言うと動きを止めた。

「嘘……嘘ですよね!」 

 誠は展開していた干渉空間を収束させるとそのまま目を閉じたままのかなめの頬を叩いた。反応は無い。胸を触ってみた。動かない。涙が自然にあふれてくる。どうして良いか分からなくなる。明らかにかなめは機能を止めていた。

 そのまま片膝を付いていた姿勢からよろよろと誠は立ち上がった。

「カウラさん……西園寺さんが……」

 無防備に立ち尽くす誠を見てカウラの表情が怒りに震えたものへと瞬時に変わった。 

「馬鹿!脳内の血液損失を防ぐ為に仮死状態になっただけだ!さっさと引きずって来い!」 

 ベッドの裏からまた正確な牽制射撃が二発カウラの手前のコンクリートブロックにはじける。

 誠はカウラの言葉でようやく我に返り、そのまま干渉空間を展開しながらかなめを引きずり始めた。

 二発銃弾が誠の展開する干渉空間に吸収された時にベッドの裏の敵の動きが止まった。

『相手はベテランだ。テメエの能力が予想以上だってことで弾を節約し始めてやがる』 

「西園寺さん!」 

 耳の通信端末から響くかなめの声に思わず手を止めた誠。

『さっきは勝手に殺しやがって!とっとと運べよ』 

「早くしろ!北川達も目標を見つけたんだ。動き出すぞ!」 

 壁際で叫ぶカウラ。誠は必死になって動くことの無いかなめの体を引きずって行く。

「いい様ね、かなめちゃん」

 背後の警戒から帰ってきたアイシャがかなめの足を持って誠を手伝う。 

『ぶっ殺す!後で……』 

「威勢は良いのねえ……動けないくせに」 

『やっぱりぶっ殺す』 

 動けないかなめの通信に背後を警戒していたアイシャが絡む。だがそこに背後からの銃弾が届いてきた。

「来ちゃったわよ!北川と例の人斬り」 

 牽制射撃で何とか時間を稼ごうとするアイシャ。カウラのところまでたどり着けないと悟った誠とアイシャはそのまま手前の病室に入ろうと扉を蹴破る。

 パイプ椅子が乱雑に置かれた部屋。カウラもまた水島をかばうサイボーグの的確な射撃に押されて誠達と合流すべく部屋に駆け込んできた。

「ここでなんとかあの連中がつぶし合うのを……」 

 アイシャがそう言った時、かなめを置いた壁の隣にあったパイプ椅子が半分になった。部屋のあちこちに干渉空間が展開される。

「北川の狙いはこちらか……終わりかもな」 

 カウラのつぶやき。それを聞いた時誠の中で何かがはじけた。

 誠は立ち上がりまわりに干渉空間を展開する。

「誠ちゃん!死ぬ気?」 

 アイシャの言葉は誠には届かなかった。そのまま部屋を飛び出した誠。階段付近からの北川の拳銃弾と奥のベッドからのライフルの銃弾が次々と銀色に輝く誠を覆う干渉空間に命中しては消える。

「神前……」 

『誠?』 

 つぶやくカウラ。かなめは唯一自由の利くタレ目を誠に向けた。

『なんだありゃ?』 

 階段近くで北川が叫ぶ声が誠達にも聞こえてきた。
しおりを挟む
感想 7

あなたにおすすめの小説

特殊装甲隊 ダグフェロン 『廃帝と永遠の世紀末』 第三部 『暗黒大陸』

橋本 直
SF
遼州司法局も法術特捜の発足とともに実働部隊、機動隊、法術特捜の三部体制が確立することとなった。 それまで東和陸軍教導隊を兼務していた小さな隊長、クバルカ・ラン中佐が実働部隊副隊長として本異動になることが決まった。 彼女の本拠地である東和陸軍教導隊を訪ねた神前誠に法術兵器の実験に任務が課せられた。それは広域にわたり兵士の意識を奪ってしまうという新しい発想の非破壊兵器だった。 実験は成功するがチャージの時間等、運用の難しい兵器と判明する。 一方実働部隊部隊長嵯峨惟基は自分が領邦領主を務めている貴族制国家甲武国へ飛んだ。そこでは彼の両方を西園寺かなめの妹、日野かえでに継がせることに関する会議が行われる予定だった。 一方、南の『魔窟』と呼ばれる大陸ベルルカンの大国、バルキスタンにて総選挙が予定されており、実働部隊も支援部隊を派遣していた。だが選挙に不満を持つ政府軍、反政府軍の駆け引きが続いていた。 嵯峨は万が一の両軍衝突の際アメリカの介入を要請しようとする兄である西園寺義基のシンパである甲武軍部穏健派を牽制しつつ貴族の群れる会議へと向かった。 そしてそんな中、バルキスタンで反政府軍が機動兵器を手に入れ政府軍との全面衝突が発生する。 誠は試験が済んだばかりの非破壊兵器を手に戦線の拡大を防ぐべく出撃するのだった。

法術装甲隊ダグフェロン 永遠に続く世紀末の国で 野球と海と『革命家』

橋本 直
SF
その文明は出会うべきではなかった その人との出会いは歓迎すべきものではなかった これは悲しい『出会い』の物語 『特殊な部隊』と出会うことで青年にはある『宿命』がせおわされることになる 法術装甲隊ダグフェロン 第二部  遼州人の青年『神前誠(しんぜんまこと)』が発動した『干渉空間』と『光の剣(つるぎ)により貴族主義者のクーデターを未然に防止することが出来た『近藤事件』が終わってから1か月がたった。 宇宙は誠をはじめとする『法術師』の存在を公表することで混乱に陥っていたが、誠の所属する司法局実働部隊、通称『特殊な部隊』は相変わらずおバカな生活を送っていた。 そんな『特殊な部隊』の運用艦『ふさ』艦長アメリア・クラウゼ中佐と誠の所属するシュツルム・パンツァーパイロット部隊『機動部隊第一小隊』のパイロットでサイボーグの西園寺かなめは『特殊な部隊』の野球部の夏合宿を企画した。 どうせろくな事が起こらないと思いながら仕事をさぼって参加する誠。 そこではかなめがいかに自分とはかけ離れたお嬢様で、貴族主義の国『甲武国』がどれほど自分の暮らす永遠に続く20世紀末の東和共和国と違うのかを誠は知ることになった。 しかし、彼を待っていたのは『法術』を持つ遼州人を地球人から解放しようとする『革命家』の襲撃だった。 この事件をきっかけに誠の身辺警護の必要性から誠の警護にアメリア、かなめ、そして無表情な人造人間『ラスト・バタリオン』の第一小隊小隊長カウラ・ベルガー大尉がつくことになる。 これにより誠の暮らす『男子下士官寮』は有名無実化することになった。 そんなおバカな連中を『駄目人間』嵯峨惟基特務大佐と機動部隊隊長クバルカ・ラン中佐は生暖かい目で見守っていた。 そんな『特殊な部隊』の意図とは関係なく着々と『力ある者の支配する宇宙』の実現を目指す『廃帝ハド』の野望はゆっくりと動き出しつつあった。 SFお仕事ギャグロマン小説。

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

悪意のパーティー《完結》

アーエル
ファンタジー
私が目を覚ましたのは王城で行われたパーティーで毒を盛られてから1年になろうかという時期でした。 ある意味でダークな内容です ‪☆他社でも公開

【完結】そして、誰もいなくなった

杜野秋人
ファンタジー
「そなたは私の妻として、侯爵夫人として相応しくない!よって婚約を破棄する!」 愛する令嬢を傍らに声高にそう叫ぶ婚約者イグナシオに伯爵家令嬢セリアは誤解だと訴えるが、イグナシオは聞く耳を持たない。それどころか明らかに犯してもいない罪を挙げられ糾弾され、彼女は思わず彼に手を伸ばして取り縋ろうとした。 「触るな!」 だがその手をイグナシオは大きく振り払った。振り払われよろめいたセリアは、受け身も取れないまま仰向けに倒れ、頭を打って昏倒した。 「突き飛ばしたぞ」 「彼が手を上げた」 「誰か衛兵を呼べ!」 騒然となるパーティー会場。すぐさま会場警護の騎士たちに取り囲まれ、彼は「違うんだ、話を聞いてくれ!」と叫びながら愛人の令嬢とともに連行されていった。 そして倒れたセリアもすぐさま人が集められ運び出されていった。 そして誰もいなくなった。 彼女と彼と愛人と、果たして誰が悪かったのか。 これはとある悲しい、婚約破棄の物語である。 ◆小説家になろう様でも公開しています。話数の関係上あちらの方が進みが早いです。 3/27、なろう版完結。あちらは全8話です。 3/30、小説家になろうヒューマンドラマランキング日間1位になりました! 4/1、完結しました。全14話。

無能なので辞めさせていただきます!

サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。 マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。 えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって? 残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、 無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって? はいはいわかりました。 辞めますよ。 退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。 自分無能なんで、なんにもわかりませんから。 カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。

仰っている意味が分かりません

水姫
ファンタジー
お兄様が何故か王位を継ぐ気満々なのですけれど、何を仰っているのでしょうか? 常識知らずの迷惑な兄と次代の王のやり取りです。 ※過去に投稿したものを手直し後再度投稿しています。

冷遇妻に家を売り払われていた男の裁判

七辻ゆゆ
ファンタジー
婚姻後すぐに妻を放置した男が二年ぶりに帰ると、家はなくなっていた。 「では開廷いたします」 家には10億の価値があったと主張し、妻に離縁と損害賠償を求める男。妻の口からは二年の事実が語られていく。

処理中です...