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第44章 接敵
接敵
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かなめは静かに北川に追尾する。そして誠達は先頭を行く彼女に黙って付き従う。その行進は三階の開けたフロアーまで続いた。暗がりの中、不意に北川が足を止める。
「いい加減……出てきても良いんじゃないですか?」
北川の言葉に自分達の存在がばれたと思ったかなめがショットガンの一撃を加えた。銀色に光る板のような干渉空間に殺傷能力の低い弾丸が中に入っている粉を振りまきながら飲み込まれた。
「消えた?」
かなめの言葉の通り北川の姿は干渉空間が消滅した時には消えていた。誠はすぐに北川の意識の断片が吹き抜けの階段に現われるのを確認して叫ぶ。
「上です!西園寺さん!」
階段の手すりを盾にするようにしてその上に銃口から光る赤い弾が二つ。それと同時に誠の正面にいたかなめは右肩を抑えて銃を取り落とした。
「西園寺さん!」
「来るな!他にもいるぞ」
かなめの叫び。そして再び彼女の前に銀色の干渉空間が出現する。次の瞬間には彼女の右腕が切り落とされて地面に転がった。一瞬見えた大男の影が再び消え失せる。誠はカウラに背後から襟首を捕まれて何もできずに北川の火線の中で孤立したかなめを置き去りにしてフロアー手前の壁際まで引きずられた。
振り向いた誠の目に飛び込むのはカウラの真剣な表情だった。後衛にいたアイシャが孤立したかなめの元に姿勢を低くして駆け寄る。
「どこよ?どこにいるのよ!」
アイシャは誠の見上げていた階段に銃口を向けたまま叫んだ。
「このままじゃ……」
「お前には無理だ」
低威力のショットガンを見切ったカウラは拳銃を抜くとそのままフロアーの向こうの壁に張り付く。
今度は階段の反対側からの銃声。何とか残った左手で拳銃を抜いたかなめの手前で銃弾が跳ねるのが見えた。かなめをかばうように片膝を立てて反撃するアイシャ。カウラがかなめの元に飛び出してきたのは彼女の背後から刀を手にした大男が現われたからだった。
「何もできずに全滅ですか?」
そう言いながら誠は銃を握りしめる。自分が行っても足手まといになるだけ。それは十分に分かっていた。カウラが廊下を悠々と歩く大男に発砲するが弾はすべて銀色の干渉空間に消える。
じりじりと大男が刀を手にしたままフロアーの中央で負傷したかなめをかばうカウラ達に歩み寄る。北川の発砲の様子は無い。大男は間合いが詰まったと判断したように太刀を大上段に振り上げた。
「うわー!」
夢中だった。誠は繰り返し発動する法術の気配を感じながら手にした銃を逆手に持って大男に殴りかかった。振り下ろされたショットガンのストックは男の前に展開された干渉空間にぶち当たる。
「こなくそ!」
力を込めて押し込む誠。その銃を中心に誠の干渉空間が展開される。男はそれまでの無表情を驚愕の表情に変え、背後に展開された干渉空間に姿を消した。
「馬鹿か!神前!銃はバットじゃない!」
カウラはそう言いながら周りの気配を探る。再び階段の上から銃弾が誠の足下を掠めた。
「カウラ!がたがた抜かす前に銃を撃て!」
かなめは左手で無理に拳銃を取り出すと階段を駆け上がっていく北川の背中に三発の銃弾を発射した。
すべての弾丸が銀色の空間に消える。
「人斬りは!」
かなめが叫ぶ。誠のショットガンが空を切った辺りで広がった銀色の空間から現れた刀に両断された。
「なによ!」
ショットガンを諦めたアイシャは拳銃を抜いてそのまま転がるようにして壁に張り付く。再びこの階に転移してきた北川の弾丸がかつてアイシャのいた場所に着弾して煙を上げていた。
「西園寺!下がるぞ」
カウラの言葉で我を取り戻したかなめは切り落とされた自分の右腕をちらりと見た後そのままアイシャのいる壁際に後退してきた。
「とんでもねえ!ありゃ化け物だ」
ようやく北川の銃撃から逃れてきたかなめが吐き捨てるように叫ぶ。切り落とされた右腕の血は止まり。相変わらずひねくれたような笑みを浮かべながら北川が隠れていた物陰をにらみつける。
「西園寺さん、大丈夫ですか?」
「大丈夫に見えるか?まあアタシの体は自動で動脈を閉じてるから出血は無いが、片腕切り落とされたら痛いぞ」
「それは分かるけど……」
腰の拳銃を取り出してけん制射撃をしながらアイシャがつぶやく。反撃がないことから北川がすでに移動していることはすぐに分かった。
「今からでも救援を呼ぶか?」
「なんだよ、救援呼んでなかったのか?頼むぜ隊長さん」
カウラを呆れたような顔で見るとかなめはすぐに立ち上がる。
「片腕じゃショットガンは無理だな……神前、とりあえず弾だけ取っとけ」
そう言うとかなめは落ちていたショットガンを拾った。そしてそのまま誠に銃を差し出す。誠とは呆れつつ、ショットガンから弾を抜いてポケットに押し込んだ。
「あの刀の化け物と法術師のコンビネーション……舐めない方がいいわね。とりあえず不正確な射撃からして法術師、北川はこう言う場には慣れていないみたいだからそっちから潰す?」
「まあその方が賢いやりかただな。アタシ等に出会ったのは想定外の事件のはずだ。さもなきゃリボルバーとダンビラで喧嘩を売ってくる意味がわからねえ」
かなめはそう言うとそのまま北川のいた物陰に銃を向ける。
「やはりあちらも予想外な事態なわけね。となると……あの方々と私達。どちらが先に水島さんに出会うかが勝負の分かれ目になりそうね……私達は上がってきたけど運動不足の中年男には出会わなかった訳だし」
「となると上だな」
笑みを浮かべて周りを警戒するアイシャ。カウラもその死角をカバーするように位置をとって拳銃を構える。誠は緊張感に胃が痛くなるのを感じながら周りを見回す。
廃病院がつかの間の沈黙に包まれた。
「こっちも茜クラスの使い手がいれば楽なのにな……」
「西園寺さん、すみません」
頭を下げた誠を心底呆れたという顔でかなめが見つめ返す。
「謝って済むなら少しは鍛えろ。それじゃあ行きますか!」
かなめはそう言うと残った左手の銃を握り直すと先ほど北川が昇っていった階段を駆け上がって行った。
「いい加減……出てきても良いんじゃないですか?」
北川の言葉に自分達の存在がばれたと思ったかなめがショットガンの一撃を加えた。銀色に光る板のような干渉空間に殺傷能力の低い弾丸が中に入っている粉を振りまきながら飲み込まれた。
「消えた?」
かなめの言葉の通り北川の姿は干渉空間が消滅した時には消えていた。誠はすぐに北川の意識の断片が吹き抜けの階段に現われるのを確認して叫ぶ。
「上です!西園寺さん!」
階段の手すりを盾にするようにしてその上に銃口から光る赤い弾が二つ。それと同時に誠の正面にいたかなめは右肩を抑えて銃を取り落とした。
「西園寺さん!」
「来るな!他にもいるぞ」
かなめの叫び。そして再び彼女の前に銀色の干渉空間が出現する。次の瞬間には彼女の右腕が切り落とされて地面に転がった。一瞬見えた大男の影が再び消え失せる。誠はカウラに背後から襟首を捕まれて何もできずに北川の火線の中で孤立したかなめを置き去りにしてフロアー手前の壁際まで引きずられた。
振り向いた誠の目に飛び込むのはカウラの真剣な表情だった。後衛にいたアイシャが孤立したかなめの元に姿勢を低くして駆け寄る。
「どこよ?どこにいるのよ!」
アイシャは誠の見上げていた階段に銃口を向けたまま叫んだ。
「このままじゃ……」
「お前には無理だ」
低威力のショットガンを見切ったカウラは拳銃を抜くとそのままフロアーの向こうの壁に張り付く。
今度は階段の反対側からの銃声。何とか残った左手で拳銃を抜いたかなめの手前で銃弾が跳ねるのが見えた。かなめをかばうように片膝を立てて反撃するアイシャ。カウラがかなめの元に飛び出してきたのは彼女の背後から刀を手にした大男が現われたからだった。
「何もできずに全滅ですか?」
そう言いながら誠は銃を握りしめる。自分が行っても足手まといになるだけ。それは十分に分かっていた。カウラが廊下を悠々と歩く大男に発砲するが弾はすべて銀色の干渉空間に消える。
じりじりと大男が刀を手にしたままフロアーの中央で負傷したかなめをかばうカウラ達に歩み寄る。北川の発砲の様子は無い。大男は間合いが詰まったと判断したように太刀を大上段に振り上げた。
「うわー!」
夢中だった。誠は繰り返し発動する法術の気配を感じながら手にした銃を逆手に持って大男に殴りかかった。振り下ろされたショットガンのストックは男の前に展開された干渉空間にぶち当たる。
「こなくそ!」
力を込めて押し込む誠。その銃を中心に誠の干渉空間が展開される。男はそれまでの無表情を驚愕の表情に変え、背後に展開された干渉空間に姿を消した。
「馬鹿か!神前!銃はバットじゃない!」
カウラはそう言いながら周りの気配を探る。再び階段の上から銃弾が誠の足下を掠めた。
「カウラ!がたがた抜かす前に銃を撃て!」
かなめは左手で無理に拳銃を取り出すと階段を駆け上がっていく北川の背中に三発の銃弾を発射した。
すべての弾丸が銀色の空間に消える。
「人斬りは!」
かなめが叫ぶ。誠のショットガンが空を切った辺りで広がった銀色の空間から現れた刀に両断された。
「なによ!」
ショットガンを諦めたアイシャは拳銃を抜いてそのまま転がるようにして壁に張り付く。再びこの階に転移してきた北川の弾丸がかつてアイシャのいた場所に着弾して煙を上げていた。
「西園寺!下がるぞ」
カウラの言葉で我を取り戻したかなめは切り落とされた自分の右腕をちらりと見た後そのままアイシャのいる壁際に後退してきた。
「とんでもねえ!ありゃ化け物だ」
ようやく北川の銃撃から逃れてきたかなめが吐き捨てるように叫ぶ。切り落とされた右腕の血は止まり。相変わらずひねくれたような笑みを浮かべながら北川が隠れていた物陰をにらみつける。
「西園寺さん、大丈夫ですか?」
「大丈夫に見えるか?まあアタシの体は自動で動脈を閉じてるから出血は無いが、片腕切り落とされたら痛いぞ」
「それは分かるけど……」
腰の拳銃を取り出してけん制射撃をしながらアイシャがつぶやく。反撃がないことから北川がすでに移動していることはすぐに分かった。
「今からでも救援を呼ぶか?」
「なんだよ、救援呼んでなかったのか?頼むぜ隊長さん」
カウラを呆れたような顔で見るとかなめはすぐに立ち上がる。
「片腕じゃショットガンは無理だな……神前、とりあえず弾だけ取っとけ」
そう言うとかなめは落ちていたショットガンを拾った。そしてそのまま誠に銃を差し出す。誠とは呆れつつ、ショットガンから弾を抜いてポケットに押し込んだ。
「あの刀の化け物と法術師のコンビネーション……舐めない方がいいわね。とりあえず不正確な射撃からして法術師、北川はこう言う場には慣れていないみたいだからそっちから潰す?」
「まあその方が賢いやりかただな。アタシ等に出会ったのは想定外の事件のはずだ。さもなきゃリボルバーとダンビラで喧嘩を売ってくる意味がわからねえ」
かなめはそう言うとそのまま北川のいた物陰に銃を向ける。
「やはりあちらも予想外な事態なわけね。となると……あの方々と私達。どちらが先に水島さんに出会うかが勝負の分かれ目になりそうね……私達は上がってきたけど運動不足の中年男には出会わなかった訳だし」
「となると上だな」
笑みを浮かべて周りを警戒するアイシャ。カウラもその死角をカバーするように位置をとって拳銃を構える。誠は緊張感に胃が痛くなるのを感じながら周りを見回す。
廃病院がつかの間の沈黙に包まれた。
「こっちも茜クラスの使い手がいれば楽なのにな……」
「西園寺さん、すみません」
頭を下げた誠を心底呆れたという顔でかなめが見つめ返す。
「謝って済むなら少しは鍛えろ。それじゃあ行きますか!」
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