614 / 1,505
第40章 後手
後手
しおりを挟む
水島のアパートまであと少しというところだった。信号待ちのためにカウラは車を止めた。
「おい、西園寺……何かあったのか?」
カウラは後ろの席のかなめに声をかけた。右足を車の後部座席に突っ込んだまま右手を耳に当ててじっと動かないかなめ。それは彼女の脳の中に埋め込まれた通信端末にアクセスしている時の彼女らしい態度だった。
「西園寺さん……」
心配して声を掛けた誠の顔面にかなめの右ストレートが炸裂する。そのまま誠の体はアイシャの頭のある助手席の背もたれに激突する。そしてすぐに苦々しげな笑みがかなめの顔に浮かんだ。
「どこかの馬鹿野郎が水島のアパートにカチコミをかけやがった。騒ぎを聞きつけて駆けつけた巡回の警官二名が重傷だ」
「後手を踏んだか……で?そのあとは?」
いつもなら車が傷つくと文句を言うカウラだが冷静に後部座席のかなめに振り向いて尋ねる。隣ではアイシャがすでに端末を取り出して検索を掛けていた。
「出てきたのはダンビラ片手の大男だそうだ。防弾ベスト越しに二太刀浴びせた後は忽然と銀色の円盤の中に消えたそうだ……そりゃあ干渉空間だな。やられたよ」
かなめはそう言うと制服のポケットに手を伸ばしてタバコを取り出したがさすがにそれを許すほどカウラは寛容ではなかった。睨み付けられるといつもの卑屈な笑みを浮かべてかなめはタバコを仕舞った。
「警察も非常線を張ってるみたいだけど……空間跳躍をする相手に何をやっているのやら……。それにしても先を越されたわけね……どうするの?」
助手席で携帯端末の検索結果から視線を離したアイシャの目がカウラに向かう。誠はただ黙って指揮官の表情のカウラを眺めていた。
「西園寺。他に死者や怪我人は出ているのか?」
「怪我したのは警官だけ。斬り付けられた時に悲鳴を上げてそれに驚いて飛び出した近くの住人がいるそうだが……顔とかを見る余裕も無かったらしい。単独犯かどうかも定かでは無いみたいだな」
「カウラちゃん。こうなったらいっそのことのんびりと怪我をしたおまわりさんの回復まで待ちましょうか?」
アイシャの笑み。明らかにカウラを挑発しているような雰囲気のその言葉がカウラに迅速な行動を強制していることだけは確かだった。誠はそんな彼女を一瞥した後あごに右手の親指を当てて考え込んでいるカウラに視線を移す。
「例の人斬りかどうかは分からないが、警官相手に冷静に刀を振えるそういうことに慣れた人物。それに大男の仕業かどうかは別として干渉空間を展開できるだけの法術師が動いている。ターゲットが留守だと言うのに行われた騒ぎだとしたらとてつもない馬鹿だったと言うことだが……そんな馬鹿が今まで東都警察の捜査網に引っかからないで闊歩していっとは考えにくいな」
カウラの推察にアイシャは同感というようにうなづく。
「恐らく水島とは顔を合わせたが逃げられた……斬殺魔以外にも水島さんとやらに接触している勢力があるわけね……しかも恐らくこちらも干渉空間を展開できる手練れ付き。厄介なことになりそうじゃないの」
そう言うとアイシャはそのまま助手席の扉を開けてカウラの赤いスポーツカーの後ろに回りこんだ。カウラはそれを見てトランクの鍵を開ける。開いたトランクに上半身を突っ込んだアイシャはそのまま鮮やかなオレンジ色に染められたショットガンを取り出した。そしてそのまま車中にショットガンを突き出してくる。夕闇の中、あまり車の通りの多くない大通りの中央で銃の受け渡しをしている姿は極めて目立つものだった。誠がなんとか銃を受け取りながら周りを見るといつの間にか何人かの通行人が珍しそうに歩道で立ち止まっているのが見える。アイシャが東都警察の制服を着ていなかったら通報されていたかもしれない。
「かなめちゃん。ラーナちゃんに連絡つく?」
「例の警邏隊に仕掛けたアストラルセンサーか?頼りになるかねえ」
「他に手段が無い」
渋るかなめを一瞥した後、アイシャから銃を受け取ってそのままダッシュボードを開けた。中にはオレンジ色の紙箱が入っている。カウラはそれを躊躇無く開け、中から取り出した低殺傷性弾薬を薬室に装填する。
「誠ちゃんも」
助手席に戻ったアイシャから低殺傷弾薬を受け取った誠もまねをして初弾を装填する。かなめも同じく銃を手にしてにんまりと笑いながら弾を込め始める。
「どこまで干渉空間を使っての転移ができるかはわからないが……突然の襲撃を受けてとなればそう遠くには飛べないはずだ。上手くいけば警邏隊のアストラルゲージに動きが見れるはずだ」
「あくまで希望的な推測だと言うわけね」
カウラの推測を聞くとアイシャは自分の銃を手にして初弾を装填した。
「人事を尽くしたんだから後は天命を待ちましょう」
アイシャの言葉に誠達は大きくうなづいた。
「おい、西園寺……何かあったのか?」
カウラは後ろの席のかなめに声をかけた。右足を車の後部座席に突っ込んだまま右手を耳に当ててじっと動かないかなめ。それは彼女の脳の中に埋め込まれた通信端末にアクセスしている時の彼女らしい態度だった。
「西園寺さん……」
心配して声を掛けた誠の顔面にかなめの右ストレートが炸裂する。そのまま誠の体はアイシャの頭のある助手席の背もたれに激突する。そしてすぐに苦々しげな笑みがかなめの顔に浮かんだ。
「どこかの馬鹿野郎が水島のアパートにカチコミをかけやがった。騒ぎを聞きつけて駆けつけた巡回の警官二名が重傷だ」
「後手を踏んだか……で?そのあとは?」
いつもなら車が傷つくと文句を言うカウラだが冷静に後部座席のかなめに振り向いて尋ねる。隣ではアイシャがすでに端末を取り出して検索を掛けていた。
「出てきたのはダンビラ片手の大男だそうだ。防弾ベスト越しに二太刀浴びせた後は忽然と銀色の円盤の中に消えたそうだ……そりゃあ干渉空間だな。やられたよ」
かなめはそう言うと制服のポケットに手を伸ばしてタバコを取り出したがさすがにそれを許すほどカウラは寛容ではなかった。睨み付けられるといつもの卑屈な笑みを浮かべてかなめはタバコを仕舞った。
「警察も非常線を張ってるみたいだけど……空間跳躍をする相手に何をやっているのやら……。それにしても先を越されたわけね……どうするの?」
助手席で携帯端末の検索結果から視線を離したアイシャの目がカウラに向かう。誠はただ黙って指揮官の表情のカウラを眺めていた。
「西園寺。他に死者や怪我人は出ているのか?」
「怪我したのは警官だけ。斬り付けられた時に悲鳴を上げてそれに驚いて飛び出した近くの住人がいるそうだが……顔とかを見る余裕も無かったらしい。単独犯かどうかも定かでは無いみたいだな」
「カウラちゃん。こうなったらいっそのことのんびりと怪我をしたおまわりさんの回復まで待ちましょうか?」
アイシャの笑み。明らかにカウラを挑発しているような雰囲気のその言葉がカウラに迅速な行動を強制していることだけは確かだった。誠はそんな彼女を一瞥した後あごに右手の親指を当てて考え込んでいるカウラに視線を移す。
「例の人斬りかどうかは分からないが、警官相手に冷静に刀を振えるそういうことに慣れた人物。それに大男の仕業かどうかは別として干渉空間を展開できるだけの法術師が動いている。ターゲットが留守だと言うのに行われた騒ぎだとしたらとてつもない馬鹿だったと言うことだが……そんな馬鹿が今まで東都警察の捜査網に引っかからないで闊歩していっとは考えにくいな」
カウラの推察にアイシャは同感というようにうなづく。
「恐らく水島とは顔を合わせたが逃げられた……斬殺魔以外にも水島さんとやらに接触している勢力があるわけね……しかも恐らくこちらも干渉空間を展開できる手練れ付き。厄介なことになりそうじゃないの」
そう言うとアイシャはそのまま助手席の扉を開けてカウラの赤いスポーツカーの後ろに回りこんだ。カウラはそれを見てトランクの鍵を開ける。開いたトランクに上半身を突っ込んだアイシャはそのまま鮮やかなオレンジ色に染められたショットガンを取り出した。そしてそのまま車中にショットガンを突き出してくる。夕闇の中、あまり車の通りの多くない大通りの中央で銃の受け渡しをしている姿は極めて目立つものだった。誠がなんとか銃を受け取りながら周りを見るといつの間にか何人かの通行人が珍しそうに歩道で立ち止まっているのが見える。アイシャが東都警察の制服を着ていなかったら通報されていたかもしれない。
「かなめちゃん。ラーナちゃんに連絡つく?」
「例の警邏隊に仕掛けたアストラルセンサーか?頼りになるかねえ」
「他に手段が無い」
渋るかなめを一瞥した後、アイシャから銃を受け取ってそのままダッシュボードを開けた。中にはオレンジ色の紙箱が入っている。カウラはそれを躊躇無く開け、中から取り出した低殺傷性弾薬を薬室に装填する。
「誠ちゃんも」
助手席に戻ったアイシャから低殺傷弾薬を受け取った誠もまねをして初弾を装填する。かなめも同じく銃を手にしてにんまりと笑いながら弾を込め始める。
「どこまで干渉空間を使っての転移ができるかはわからないが……突然の襲撃を受けてとなればそう遠くには飛べないはずだ。上手くいけば警邏隊のアストラルゲージに動きが見れるはずだ」
「あくまで希望的な推測だと言うわけね」
カウラの推測を聞くとアイシャは自分の銃を手にして初弾を装填した。
「人事を尽くしたんだから後は天命を待ちましょう」
アイシャの言葉に誠達は大きくうなづいた。
0
お気に入りに追加
57
あなたにおすすめの小説
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く
ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。
5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。
夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
もう、終わった話ですし
志位斗 茂家波
ファンタジー
一国が滅びた。
その知らせを聞いても、私には関係の無い事。
だってね、もう分っていたことなのよね‥‥‥
‥‥‥たまにやりたくなる、ありきたりな婚約破棄ざまぁ(?)もの
少々物足りないような気がするので、気が向いたらオマケ書こうかな?
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
あなたがそう望んだから
まる
ファンタジー
「ちょっとアンタ!アンタよ!!アデライス・オールテア!」
思わず不快さに顔が歪みそうになり、慌てて扇で顔を隠す。
確か彼女は…最近編入してきたという男爵家の庶子の娘だったかしら。
喚き散らす娘が望んだのでその通りにしてあげましたわ。
○○○○○○○○○○
誤字脱字ご容赦下さい。もし電波な転生者に貴族の令嬢が絡まれたら。攻略対象と思われてる男性もガッチリ貴族思考だったらと考えて書いてみました。ゆっくりペースになりそうですがよろしければ是非。
閲覧、しおり、お気に入りの登録ありがとうございました(*´ω`*)
何となくねっとりじわじわな感じになっていたらいいのにと思ったのですがどうなんでしょうね?
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
【完結】そして、誰もいなくなった
杜野秋人
ファンタジー
「そなたは私の妻として、侯爵夫人として相応しくない!よって婚約を破棄する!」
愛する令嬢を傍らに声高にそう叫ぶ婚約者イグナシオに伯爵家令嬢セリアは誤解だと訴えるが、イグナシオは聞く耳を持たない。それどころか明らかに犯してもいない罪を挙げられ糾弾され、彼女は思わず彼に手を伸ばして取り縋ろうとした。
「触るな!」
だがその手をイグナシオは大きく振り払った。振り払われよろめいたセリアは、受け身も取れないまま仰向けに倒れ、頭を打って昏倒した。
「突き飛ばしたぞ」
「彼が手を上げた」
「誰か衛兵を呼べ!」
騒然となるパーティー会場。すぐさま会場警護の騎士たちに取り囲まれ、彼は「違うんだ、話を聞いてくれ!」と叫びながら愛人の令嬢とともに連行されていった。
そして倒れたセリアもすぐさま人が集められ運び出されていった。
そして誰もいなくなった。
彼女と彼と愛人と、果たして誰が悪かったのか。
これはとある悲しい、婚約破棄の物語である。
◆小説家になろう様でも公開しています。話数の関係上あちらの方が進みが早いです。
3/27、なろう版完結。あちらは全8話です。
3/30、小説家になろうヒューマンドラマランキング日間1位になりました!
4/1、完結しました。全14話。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」
音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。
本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。
しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。
*6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる