611 / 1,505
第37章 目撃者
目撃者
しおりを挟む
「まだかよ」
定時まで30分。かなめは大きく伸びをした。誠は呆れてつい目をかなめに向ける。そのかなめが声をかけたカウラは警邏隊から送られてくるアストラルゲージの波だけが映る画面から目を放そうとしない。彼女も一応は小隊の隊長である。無駄かもしれなくても仕事の真似事くらいはかなめの前ではしなければならない。
「聞いてるのか?」
「まだ30分前だ」
かなめのしつこさに耐えかねたというようにカウラが吐き捨てるようにつぶやく。
「それじゃねえよ。ちゃんと水島を引っ張れる証拠は見つかったのかって言うことだよ」
そう言うと答えを期待していないというようにかなめは大きく身をそらして伸びをする。アイシャもラーナもいつものこのかなめの気まぐれな言動にため息を漏らした。
「かなめちゃん。そう簡単に証拠が挙がるなら誰も苦労はしないわよ」
「そりゃあそうだけどさあ」
今度はかなめは左肩に手を当ててぐるぐると回す。要するに退屈なのだ。誠は思わず単純で分かりやすいかなめの行動を微笑みながら眺めることにした。
「サイボーグが準備運動か?」
重量のある義体の重さに耐えかねてぎしぎし言う椅子の音が気になったカウラの一言。かなめもその音を無駄に出しているという自覚はあるらしく回していた腕を止めて机に突っ伏せる。
「うるせえなあ……別にいいだろ」
しばらくそのままで時が流れる。だがかなめの退屈がどうにかなるわけではない。
「とりあえずタバコ吸ってくるわ」
「はいはい!行ってらっしゃい!」
投げやりなアイシャの言葉にかなめはそのまま席を立とうとした。ここまではいつもの光景だった。
だがその時突然ラーナが立ち上がった。
「取れたっす!取れたっすよ!」
誠よりも二つ年下の割にはいつも落ち着き払っているラーナの歓喜の声に一気に部屋の緊張が高まる。
「なんだ?何が取れたんだ?」
まるで子供のようにモニターを指差すラーナにかなめが驚いて声を掛ける。その表情が眠そうな気配を一気に消し飛ばしてシリアスなものに変わると部屋の空気が一変した。
「元旦の東宮神社の放火!目撃証言が取れたんすよ!確かにその時に水島は現場にいたそうっす!」
「一件だけか?偶然と言われたらおしまいだぞ」
待ちかねていた事実だがカウラはまだ冷静を装っていた。だがラーナの言葉は続く。
「それだけじゃ無いんす!豊川市での最初の自転車の転倒事件の現場、次の北川町でのぼや騒ぎ、そして駅前の殺傷事件の現場でも……」
「それどこの証言よ?それだけ証拠が揃ってれば東都警察が動いてるでしょ?」
アイシャのたしなめる声もラーナの笑みを止めることはできない。
「同盟司法局法術特捜を舐めてもらっては困るっす!情報ソースは秘匿事項なので明かせませんが目撃者の身元は確かっす。裁判での証言の約束も取れるっす!」
ラーナは得意げに胸を張る。カウラとアイシャはただ呆然と新事実に目を見張るばかりだった。ただかなめだけは一人うなづいて納得が言ったような表情を浮かべていた。
「西園寺さん……?」
「なあに、情報収集を行う必要のある機関はどこでも独自の情報ルートは持ってるものだ。まあ……茜が一から作ったにしては準備が良すぎるから叔父貴のコネクションからの情報だろうな。なら精度は確かだ」
かなめの一言がただ立ち尽くしていたカウラとアイシャの目に生気を戻した。二人は顔を見合わせてとりあえず椅子に座った。
「これで引っ張れるぞ……どうする?」
「待ちなさいよかなめちゃん。情報が確かで起訴して勝てるのは分かっていても……逮捕令状は?裁判所の命令書は?」
必死に落ち着こうとしているアイシャ。その声はいつもの余裕のある彼女らしくもなく上ずっていた。アイシャの珍しい鋭い目つきに刺激されるようにラーナのキーボードを叩く速度が加速する。
「地裁には嵯峨警視正の顔が利きますから……なんとかうちにも令状が……」
「頼むぞ茜、希望の星だよ……これでこの退屈な蟄居部屋ともおさらばだ!」
満面の笑みで叫ぶかなめにさすがに不謹慎だと言うようにカウラが白い目を向けているのがおかしくて誠はつい噴出していた。
「そうだな……これで我々の勝ちだ」
これまでは黙っていたものの豊川署のやり方に我慢ならならなかった。そんな気持ちがありありと分かるような薄ら笑いを浮かべながらカウラはラーナの手つきを眺める。
誠は自分には少しばかり女性恐怖症の気があるのではないか。その顔を見て背筋が寒くなる自分を感じながらそんなことを考えていた。
定時まで30分。かなめは大きく伸びをした。誠は呆れてつい目をかなめに向ける。そのかなめが声をかけたカウラは警邏隊から送られてくるアストラルゲージの波だけが映る画面から目を放そうとしない。彼女も一応は小隊の隊長である。無駄かもしれなくても仕事の真似事くらいはかなめの前ではしなければならない。
「聞いてるのか?」
「まだ30分前だ」
かなめのしつこさに耐えかねたというようにカウラが吐き捨てるようにつぶやく。
「それじゃねえよ。ちゃんと水島を引っ張れる証拠は見つかったのかって言うことだよ」
そう言うと答えを期待していないというようにかなめは大きく身をそらして伸びをする。アイシャもラーナもいつものこのかなめの気まぐれな言動にため息を漏らした。
「かなめちゃん。そう簡単に証拠が挙がるなら誰も苦労はしないわよ」
「そりゃあそうだけどさあ」
今度はかなめは左肩に手を当ててぐるぐると回す。要するに退屈なのだ。誠は思わず単純で分かりやすいかなめの行動を微笑みながら眺めることにした。
「サイボーグが準備運動か?」
重量のある義体の重さに耐えかねてぎしぎし言う椅子の音が気になったカウラの一言。かなめもその音を無駄に出しているという自覚はあるらしく回していた腕を止めて机に突っ伏せる。
「うるせえなあ……別にいいだろ」
しばらくそのままで時が流れる。だがかなめの退屈がどうにかなるわけではない。
「とりあえずタバコ吸ってくるわ」
「はいはい!行ってらっしゃい!」
投げやりなアイシャの言葉にかなめはそのまま席を立とうとした。ここまではいつもの光景だった。
だがその時突然ラーナが立ち上がった。
「取れたっす!取れたっすよ!」
誠よりも二つ年下の割にはいつも落ち着き払っているラーナの歓喜の声に一気に部屋の緊張が高まる。
「なんだ?何が取れたんだ?」
まるで子供のようにモニターを指差すラーナにかなめが驚いて声を掛ける。その表情が眠そうな気配を一気に消し飛ばしてシリアスなものに変わると部屋の空気が一変した。
「元旦の東宮神社の放火!目撃証言が取れたんすよ!確かにその時に水島は現場にいたそうっす!」
「一件だけか?偶然と言われたらおしまいだぞ」
待ちかねていた事実だがカウラはまだ冷静を装っていた。だがラーナの言葉は続く。
「それだけじゃ無いんす!豊川市での最初の自転車の転倒事件の現場、次の北川町でのぼや騒ぎ、そして駅前の殺傷事件の現場でも……」
「それどこの証言よ?それだけ証拠が揃ってれば東都警察が動いてるでしょ?」
アイシャのたしなめる声もラーナの笑みを止めることはできない。
「同盟司法局法術特捜を舐めてもらっては困るっす!情報ソースは秘匿事項なので明かせませんが目撃者の身元は確かっす。裁判での証言の約束も取れるっす!」
ラーナは得意げに胸を張る。カウラとアイシャはただ呆然と新事実に目を見張るばかりだった。ただかなめだけは一人うなづいて納得が言ったような表情を浮かべていた。
「西園寺さん……?」
「なあに、情報収集を行う必要のある機関はどこでも独自の情報ルートは持ってるものだ。まあ……茜が一から作ったにしては準備が良すぎるから叔父貴のコネクションからの情報だろうな。なら精度は確かだ」
かなめの一言がただ立ち尽くしていたカウラとアイシャの目に生気を戻した。二人は顔を見合わせてとりあえず椅子に座った。
「これで引っ張れるぞ……どうする?」
「待ちなさいよかなめちゃん。情報が確かで起訴して勝てるのは分かっていても……逮捕令状は?裁判所の命令書は?」
必死に落ち着こうとしているアイシャ。その声はいつもの余裕のある彼女らしくもなく上ずっていた。アイシャの珍しい鋭い目つきに刺激されるようにラーナのキーボードを叩く速度が加速する。
「地裁には嵯峨警視正の顔が利きますから……なんとかうちにも令状が……」
「頼むぞ茜、希望の星だよ……これでこの退屈な蟄居部屋ともおさらばだ!」
満面の笑みで叫ぶかなめにさすがに不謹慎だと言うようにカウラが白い目を向けているのがおかしくて誠はつい噴出していた。
「そうだな……これで我々の勝ちだ」
これまでは黙っていたものの豊川署のやり方に我慢ならならなかった。そんな気持ちがありありと分かるような薄ら笑いを浮かべながらカウラはラーナの手つきを眺める。
誠は自分には少しばかり女性恐怖症の気があるのではないか。その顔を見て背筋が寒くなる自分を感じながらそんなことを考えていた。
0
お気に入りに追加
57
あなたにおすすめの小説
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
もう、終わった話ですし
志位斗 茂家波
ファンタジー
一国が滅びた。
その知らせを聞いても、私には関係の無い事。
だってね、もう分っていたことなのよね‥‥‥
‥‥‥たまにやりたくなる、ありきたりな婚約破棄ざまぁ(?)もの
少々物足りないような気がするので、気が向いたらオマケ書こうかな?
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
【完結】そして、誰もいなくなった
杜野秋人
ファンタジー
「そなたは私の妻として、侯爵夫人として相応しくない!よって婚約を破棄する!」
愛する令嬢を傍らに声高にそう叫ぶ婚約者イグナシオに伯爵家令嬢セリアは誤解だと訴えるが、イグナシオは聞く耳を持たない。それどころか明らかに犯してもいない罪を挙げられ糾弾され、彼女は思わず彼に手を伸ばして取り縋ろうとした。
「触るな!」
だがその手をイグナシオは大きく振り払った。振り払われよろめいたセリアは、受け身も取れないまま仰向けに倒れ、頭を打って昏倒した。
「突き飛ばしたぞ」
「彼が手を上げた」
「誰か衛兵を呼べ!」
騒然となるパーティー会場。すぐさま会場警護の騎士たちに取り囲まれ、彼は「違うんだ、話を聞いてくれ!」と叫びながら愛人の令嬢とともに連行されていった。
そして倒れたセリアもすぐさま人が集められ運び出されていった。
そして誰もいなくなった。
彼女と彼と愛人と、果たして誰が悪かったのか。
これはとある悲しい、婚約破棄の物語である。
◆小説家になろう様でも公開しています。話数の関係上あちらの方が進みが早いです。
3/27、なろう版完結。あちらは全8話です。
3/30、小説家になろうヒューマンドラマランキング日間1位になりました!
4/1、完結しました。全14話。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
「おまえを愛することはない!」と言ってやったのに、なぜ無視するんだ!
七辻ゆゆ
ファンタジー
俺を見ない、俺の言葉を聞かない、そして触れられない。すり抜ける……なぜだ?
俺はいったい、どうなっているんだ。
真実の愛を取り戻したいだけなのに。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」
音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。
本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。
しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。
*6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
王家も我が家を馬鹿にしてますわよね
章槻雅希
ファンタジー
よくある婚約者が護衛対象の王女を優先して婚約破棄になるパターンのお話。あの手の話を読んで、『なんで王家は王女の醜聞になりかねない噂を放置してるんだろう』『てか、これ、王家が婚約者の家蔑ろにしてるよね?』と思った結果できた話。ひそかなサブタイは『うちも王家を馬鹿にしてますけど』かもしれません。
『小説家になろう』『アルファポリス』(敬称略)に重複投稿、自サイトにも掲載しています。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる