レジェンド・オブ・ダーク 遼州司法局異聞

橋本 直

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第33章 転換点

ホシ

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「いつ見つかってもおかしくないんすから。皆さんも十分注意お願いするっす」 

 今日も今日とて豊川署の元物置だった部屋。ラーナの言葉を待たずに誠達はそれぞれの端末にかじりついて警邏隊が車に積んでいるアストラルゲージの検索結果に目を通していた。

「言われるまでもねえよ」 

 そう言うとかなめは首のジャックに端末のコードを接続している。

「退屈よね……」 

「言うことはそれだけか」 

 不機嫌そうに流し目を向けてくるアイシャにカウラは厳しい視線を送る。誠は苦笑いを浮かべながら目の前のモニターに目を向けていた。平坦なグラフが見える。時々跳ね上がる数値に驚いて以前の事件の際のデータを引っ張り出すが、すぐにゲージは穏やかに下がってしまう。

「意外と法術師って多いのね。東和は法術適正検査を義務化したほうが良いんじゃないの?」 

 アイシャの言葉にカウラがため息をつく。誠もただ引きつった笑みを浮かべるだけだった。

「法術検査を受けるかどうかは東和では個人の意思っすから。同盟も内政干渉はできなっすよ」 

「同盟は内政干渉は行わないか……まあ理屈では分かるんだけどめんどくさい原則よね」 

 ラーナの弱った顔に満足したように頷いたアイシャはそのまま画面へと視線を戻した。

「見つかるものなら早く見つかるといいな」 

「西園寺も良いことを言うもんだな」 

 かなめもカウラも昨日一日同じことをしていたのを思い出したかのようにうんざりした表情を浮かべていた。

「無駄口を叩くんじゃないわよ」 

「一番叩きそうな奴に言われたくねえよ」 

 アイシャもすでに飽きている。人造人間とサイボーグ。どちらも忍耐力は通常の人間よりも有るはずなのに明らかにその限界は近くまで来ていることを知って誠はただ苦笑いを浮かべるだけだった。

「神前、飽きねえか?」 

「仕事ですから」 

「ふーん」 

 まじめにモニターを見つめている誠の言葉にとげのある表情を浮かべながら再びかなめの視線はモニターに向かった。

「また反応だ……」 

「ちゃんとチェックしろよ」

 カウラの声にかなめはうんざりしたような表情を浮かべる。 

「隊長命令か……ちょっと待て!」 

 かなめが突然立ち上がった。その叫びに全員が立ち上がり彼女のモニターに目をやる。時々数値が跳ね上がる。特徴的なアストラルパターン。

「ほら見ろ、またすぐに出やがった……特徴的なベータ波と……アストラルゲージは常に反転限界点で進行中だ」 

 得意げなかなめだがカウラがまじまじと画面を見た後ですぐに横からキーボードを叩いて事件現場で計測されたアストラルゲージパターンと照合する。

「似てはいるが……」 

「だろ?」 

「馬鹿ねえ、かなめちゃんは。似てるから即犯人とは限らないでしょ?」 

 アイシャの言葉に頬を膨らませながら一人自分の端末のキーボードを叩いているラーナに目をやった。

「東寺町……3丁目。古いアパートが多い場所っすね」 

 淡々とつぶやくラーナの言葉が終わる前にかなめはそのまま腰の拳銃を確認するとそのまま部屋の奥にかけられたコートに向かっていく。

「西園寺!」 

「なんだよ!犯人かどうか片っ端から訪問してそいつが怪しいかどうか確かめれば済むことだろ?」 

「そんな警察国家の胡州じゃないんだから」 

 アイシャの言葉に含まれた『胡州』と言う言葉がかなめの暴走を止めてくれた。コートに伸ばしていた手を引っ込めるとかなめはそのままラーナのところへと歩み寄った。

「西園寺大尉も分かってるとは思うっすが、政治犯が山ほどいる胡州なら予防検束はできるっす。でもここは東和っす。何度も繰り返し申し合わせをしたとおりアストラルパターンデータは証拠としての力ががないっすから……」 

 手を止めずにラーナはつぶやいた。誠も彼女が何をしているのか気になってそのまま立ち上がりかなめの横に立った。

「ここで例の不動産関係の資料を生かすわけね」 

 納得がいったようにアイシャはうなづく。ようやく自分の行動を理解してくれる人物が現れたことに安心したようにラーナは椅子に座りなおした。

「まず……吉田さんからもらったキーワードで……」 

「なんだ?あの機械人形はラーナにはそれを教えてたのか?」 

 不機嫌そうなかなめの肩をアイシャが静かに叩く。その様子を見て切れそうになる自分を治めるためのようにかなめはゆっくりと深呼吸をした。

「出ました。直近の転入者の名前は……水島勉……この前の十五人には入ってない名前だな」 

 画面に一人の人物の戸籍謄本が映し出される。

「前科無しか……別件で引っ張るわけには行かないか?」 

「西園寺。貴様は逮捕することしか考えていないんだな。それに例の十五人はどうする?無視か?」 

 カウラの諦めたように一言にかなめは舌打ちで答える。

「例の十五人は東和警察の皆様に調べていただくとしても……法術犯罪は現行犯が基本よ。とりあえず身辺を探ることから始めないと」 

 そう言うとアイシャはすぐに先ほどかなめがコートを取りに戻った場所へと向かう。

「制服着てか?それこそ現行犯は無理になるだろうが」 

「かなめちゃん……すぐに身辺に張り付くつもりなの?ラーナちゃん!水島とかいう人の以前の住所は分かるかしら?」 

「ええ、……城東区砂町……」 

「なるほど、まずは都心の事件の裏づけを取るのか」 

 納得したようにかなめもコートに手を伸ばす。ラーナは二人とは別に再びキーボードをたたき始めた。

「それでは水島の動向についても警邏隊に把握してもらう必要があるな。ラーナ、頼む」 

 カウラもそう言うと椅子にかけていたジャンバーを引っ掛ける。誠も遅れまいと同じくジャンバーを着た。

「寺町交番には資料を回しておくっす。それとデータ再確認の為にアタシはここに残るっす。十五人の動向も気になるっすから」 

 そう言うとラーナは再び端末に集中する。

「じゃあ行くか」 

 かなめの一言で頷いた誠達はそのまま倉庫のような部屋を後にした。
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