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第20章 毎朝のように
おやつ
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よく見ればかなめの一撃を受けたのは部隊最年少の整備班員の西高志兵長だった。出勤時間間際。食事を終えて安心しきっていたところへの一撃に思わず西はうずくまる。
「ごめんね……馬鹿が暴れて」
アイシャの謝罪にはまるで誠意の感じられない。
「ええ、大丈夫です……鼻血も出ていないみたいですし」
西は顔を抑えながらもなんとか自力で立ち上がった。鉄の規律と結束で知られる整備班員はその様子を見ながらもニヤニヤ笑って見せるだけ。まるで助ける様子も無い。そこには日ごろの西への整備班員の嫉妬があった。
第四小隊。司法局実働部隊設立時の発起人の一人、胡州海軍中将赤松忠満のコネクションで出向してきたアメリカ海軍の軍籍を持つ異色の部隊。そこに配備されたアメリカ海軍最新式アサルト・モジュールM10担当の技術士官。それがレベッカ・シンプソン中尉だった。ほんわかとした見た目に似合う眼鏡と金色の柔らかい髪が似合う美女。そして部隊最大でかなめに『おっぱいお化け』と呼ばれる彼女は西とは非常に仲がよくいつも行動を共にしている。
整備班員にとって女性隊員といえばその異常にタイトで長時間にわたる勤務の繰り返しにより、技術部長の神と崇め奉られている許明華大佐の姿が脳に刷り込まれていた。高圧的でサディスティックなまさに『司法局実働部隊最高実力者』。彼女を絶対神として信仰することに慣れてきたところに現れたやさしい女神のような存在を、あっさり部隊一の若輩者にさらわれたと言うことで腹の虫が収まらないのは当然の話だった。特に明華から早出が義務付けられていない部隊設立からの古参の下士官達にとってははらわたの煮えくり返る事実だった。
「誰か助けてあげなさいよー」
そんな技術部員の感情をよく知っているアイシャの明らかに助ける気の無い言葉が響く。
「べ……別に大丈夫ですから」
西はそう叫ぶとそのまま鼻を押さえて食堂を飛び出して行った。快かなとそれを見送る古参兵達をアイシャは白い目で眺める。
「それじゃあ行くか!」
「後で西に謝って置けよ」
「アタシは上官だぜ……面倒くせえ」
かなめがつぶやくようにそう言うとアイシャもカウラも呆れたような視線で見上げる。
「かなめちゃん謝りなさいよ。大人でしょ?」
そんなアイシャの一言にかなめの顔がゆがむ。
「分かったよ……後で謝っておくから」
「ちゃんと謝るのよ……」
アイシャはそう言うとそのまま立ち上がる。手にはどんぶり。誠も今度はアイシャの手を煩わせまいと自分のどんぶりを手に取る。
「行きましょ」
そのままどんぶりをカウンターに返すとそのままアイシャは出口へと向かった。
「そうだ、ラーナ。飯は食ったか?」
いつの間にか手に湯飲みを持ってくつろいでいたラーナにかなめが話題を振る。突然のことに戸惑うように視線を泳がせた後、静かにうなづく。
「ええ、まあ」
「食べたのならいいけどな。神前。アタシはおやつが食べたい」
突然のかなめの一言。誠は先週警備部の新人が買ってきた月餅が厨房の冷蔵庫にあることを思い出して立ち上がる。
「ああ、誠ちゃん私のも!」
アイシャも叫ぶ。誠はそのまま厨房に飛び込んだ。
食事当番の管理部の面々が冷たい視線で大きな業務用冷蔵庫に飛びつく誠を迎える。
「相手が女性ばかりで……うらやましいねえ」
洗い場で背中を向けている菰田の言葉に肝を冷やしながら誠は月餅を取り出すとそのままカウンターに走る。先ほど慌ててかなめが湯飲みを返したことと、カウラの湯飲みが無いことを思い出した誠はそれをトレーに乗せると急ぎ足でかなめ達の所に辿り着いた。
「ご苦労」
「ありがとうな」
当然のことのように受け取るかなめ。カウラはすぐさまポットに手を伸ばす。
「本当に……神前曹長、いつもお疲れさまっす」
そんなラーナの気遣いの言葉を聞いて誠は苦笑いを浮かべる。
「いつものことですから」
「そうだな、いつものことだ」
かなめはそう言うとうまそうに月餅を口に運ぶ。
「そう言えば機動隊のパスでサーバーにアクセスするんだよな。機動隊の部隊長権限でどこまで入れるんだ?」
カウラにポットから番茶を注いでもらったものに手を伸ばしながらかなめがつぶやいた。
「まあある程度限定されるでしょうね……でもねえ。かなめちゃん。何の為にかなめちゃんがいるのよ。そういう時は……」
「おい、アイシャ。アタシを犯罪者にしたいのか?」
アイシャの明らかにハッキングしろと言う態度に苦笑いを浮かべるかなめ。だが冷たくなった番茶を啜りながら誠はどうせ証拠が見つかるまで止めてもかなめがやたらとアクセスする光景を予想して苦笑いを浮かべた。
「じゃあ、皆さんいいっすか?」
「茶ぐらい飲ませろよ」
月餅を頬張りながらかなめがつぶやく。アイシャはそれを見て呆れたように大きくため息をつく。
「なんだよその態度。潰すぞこのアマ」
アイシャとかなめの掛け合い漫才を見ながら仕方が無いと言うように笑うカウラと誠は立ち上がった。かなめも湯飲みを置くとそのまま静かに立ちあがる。
「神前、かたしておけよ」
かなめはそういい残してラーナ達と一緒に食堂を出て行った。置き去りにされた誠は厨房の当番の同僚達から冷ややかな視線を浴びながら仕方なく湯飲みを手に洗いものの棚に運んだ。
「ごめんね……馬鹿が暴れて」
アイシャの謝罪にはまるで誠意の感じられない。
「ええ、大丈夫です……鼻血も出ていないみたいですし」
西は顔を抑えながらもなんとか自力で立ち上がった。鉄の規律と結束で知られる整備班員はその様子を見ながらもニヤニヤ笑って見せるだけ。まるで助ける様子も無い。そこには日ごろの西への整備班員の嫉妬があった。
第四小隊。司法局実働部隊設立時の発起人の一人、胡州海軍中将赤松忠満のコネクションで出向してきたアメリカ海軍の軍籍を持つ異色の部隊。そこに配備されたアメリカ海軍最新式アサルト・モジュールM10担当の技術士官。それがレベッカ・シンプソン中尉だった。ほんわかとした見た目に似合う眼鏡と金色の柔らかい髪が似合う美女。そして部隊最大でかなめに『おっぱいお化け』と呼ばれる彼女は西とは非常に仲がよくいつも行動を共にしている。
整備班員にとって女性隊員といえばその異常にタイトで長時間にわたる勤務の繰り返しにより、技術部長の神と崇め奉られている許明華大佐の姿が脳に刷り込まれていた。高圧的でサディスティックなまさに『司法局実働部隊最高実力者』。彼女を絶対神として信仰することに慣れてきたところに現れたやさしい女神のような存在を、あっさり部隊一の若輩者にさらわれたと言うことで腹の虫が収まらないのは当然の話だった。特に明華から早出が義務付けられていない部隊設立からの古参の下士官達にとってははらわたの煮えくり返る事実だった。
「誰か助けてあげなさいよー」
そんな技術部員の感情をよく知っているアイシャの明らかに助ける気の無い言葉が響く。
「べ……別に大丈夫ですから」
西はそう叫ぶとそのまま鼻を押さえて食堂を飛び出して行った。快かなとそれを見送る古参兵達をアイシャは白い目で眺める。
「それじゃあ行くか!」
「後で西に謝って置けよ」
「アタシは上官だぜ……面倒くせえ」
かなめがつぶやくようにそう言うとアイシャもカウラも呆れたような視線で見上げる。
「かなめちゃん謝りなさいよ。大人でしょ?」
そんなアイシャの一言にかなめの顔がゆがむ。
「分かったよ……後で謝っておくから」
「ちゃんと謝るのよ……」
アイシャはそう言うとそのまま立ち上がる。手にはどんぶり。誠も今度はアイシャの手を煩わせまいと自分のどんぶりを手に取る。
「行きましょ」
そのままどんぶりをカウンターに返すとそのままアイシャは出口へと向かった。
「そうだ、ラーナ。飯は食ったか?」
いつの間にか手に湯飲みを持ってくつろいでいたラーナにかなめが話題を振る。突然のことに戸惑うように視線を泳がせた後、静かにうなづく。
「ええ、まあ」
「食べたのならいいけどな。神前。アタシはおやつが食べたい」
突然のかなめの一言。誠は先週警備部の新人が買ってきた月餅が厨房の冷蔵庫にあることを思い出して立ち上がる。
「ああ、誠ちゃん私のも!」
アイシャも叫ぶ。誠はそのまま厨房に飛び込んだ。
食事当番の管理部の面々が冷たい視線で大きな業務用冷蔵庫に飛びつく誠を迎える。
「相手が女性ばかりで……うらやましいねえ」
洗い場で背中を向けている菰田の言葉に肝を冷やしながら誠は月餅を取り出すとそのままカウンターに走る。先ほど慌ててかなめが湯飲みを返したことと、カウラの湯飲みが無いことを思い出した誠はそれをトレーに乗せると急ぎ足でかなめ達の所に辿り着いた。
「ご苦労」
「ありがとうな」
当然のことのように受け取るかなめ。カウラはすぐさまポットに手を伸ばす。
「本当に……神前曹長、いつもお疲れさまっす」
そんなラーナの気遣いの言葉を聞いて誠は苦笑いを浮かべる。
「いつものことですから」
「そうだな、いつものことだ」
かなめはそう言うとうまそうに月餅を口に運ぶ。
「そう言えば機動隊のパスでサーバーにアクセスするんだよな。機動隊の部隊長権限でどこまで入れるんだ?」
カウラにポットから番茶を注いでもらったものに手を伸ばしながらかなめがつぶやいた。
「まあある程度限定されるでしょうね……でもねえ。かなめちゃん。何の為にかなめちゃんがいるのよ。そういう時は……」
「おい、アイシャ。アタシを犯罪者にしたいのか?」
アイシャの明らかにハッキングしろと言う態度に苦笑いを浮かべるかなめ。だが冷たくなった番茶を啜りながら誠はどうせ証拠が見つかるまで止めてもかなめがやたらとアクセスする光景を予想して苦笑いを浮かべた。
「じゃあ、皆さんいいっすか?」
「茶ぐらい飲ませろよ」
月餅を頬張りながらかなめがつぶやく。アイシャはそれを見て呆れたように大きくため息をつく。
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アイシャとかなめの掛け合い漫才を見ながら仕方が無いと言うように笑うカウラと誠は立ち上がった。かなめも湯飲みを置くとそのまま静かに立ちあがる。
「神前、かたしておけよ」
かなめはそういい残してラーナ達と一緒に食堂を出て行った。置き去りにされた誠は厨房の当番の同僚達から冷ややかな視線を浴びながら仕方なく湯飲みを手に洗いものの棚に運んだ。
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