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第17章 切り替え
散歩
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「令状がなきゃアタシ等は動けねえのはおんなじなんだな……でもなあ、捜査会議にも出れないってのはどういうことなんだ?犯人逮捕する気あるのか?あの連中は!」
部隊の溜まり場、あまさき屋。店に来て三十分も経たずにすでにかなめは二本のラムの瓶を空けていた。誰もそれを止めない。カウラは黙って烏龍茶を啜る。
誠から見てもかなめの怒りももっともだった。署に帰った誠達を待っていた杉田。彼はぼそぼそとつぶやくように愚痴り始めた。現場を見た後に勝手に行動を開始するな。そんな連中には捜査会議に出る資格は無い。会議の結果どおり後で動いてくれとの言葉。かなめがそれを聞いて暴れださなかったのが今考えても不思議なくらいだった。
「まあ東都警察は当てにならないことは分かったものね……完全に私達には情報は流さないつもりよ」
「意地でも自分の手柄にしたいんだろうな」
アイシャもカウラも黙ってはいるがそのはらわたは煮えくり返っているのが痙攣しているこめかみや口元を見れば誠にも分かった。誠も確かにほとんど監禁状態でトイレに行くのにも係員がついてくる豊川署のやり方には腹に据えかねるものがあった。
「私も言われたから一応吉田さんにも頼んでみたけど……法的にはネットの情報は改竄がいくらでもできるから証拠としては弱いんですって。それに住民登録関係のセキュリティーは吉田さんでも足がつくのを覚悟しないと個人名の特定まではできないって言われたわよ。東都警察ばかりか東都都庁まで敵に回すのはごめんだから証拠探しには足を使えって」
呼び出されたアイシャと同じ人造人間で保安隊運行部員のサラ・グリファンとパーラ・ラビロフは暗い表情でたこ焼きを突付いていた。
「二人にも迷惑かけたわね……特にパーラ」
「何よ。迷惑かけたのが分かってるならこれからも付き合わせなさいよ」
パーラはピンクの長い髪をなびかせながらたこ焼きを口に頬張る。店に着くなりアイシャのマシンガントークの洗礼を受けた上にこれまでの東都警察との確執を知る二人は完全に捜査に参加する気でいた。そのあまりにもやる気が前面に出た姿に誠も少しばかり困ったように店の奥で心配そうにこちらを眺めている女将の家村春子に目をやった。
かなめが三本目のラムに手を伸ばした。
「西園寺さん。飲みすぎですよ」
つい口を出していた誠。目の前のグラスばかり見つめていたかなめの鉛色のタレ目が誠に向かってくる。肝臓のプラントの機能を落としてわざと泥酔しているかなめのにごった瞳。そこには自分の失敗を悔いる色が嫌と言うほど見て取れた。
「いいアイディアだと思ったんだけどなあ……不動産屋の線から犯人へ直行。今頃は警察の連中も人海戦術で同じこと始めてるだろうし……そうなったら察しのいい犯人なら対応策を練られるぞ。それでパーだ」
そう言っただけですぐにかなめは目の前の空のグラスに酒を注ぐ。
「金の無駄になるぞ」
「いいんだよ、たまには。こう言うときは思いっきり飲ませろよ」
カウラの言葉に顔も上げずにかなめは酒を飲み続ける。
「まるで通夜よね……私も正直騒ぐ気にはなれないわ」
そんなアイシャの言葉に誠もただ乾いた笑みを浮かべるだけだった。手がかりは見つけては消え、ただ時間だけが過ぎる。同盟司法局の捜査責任者である茜のコネで手に入れた東都警察の警察官の捜査権限。しかし出が司法局と言うことで警戒する東都警察からつまはじきにされて定時に仕事を終えたらこうして酒を飲むより他にすることが無い。また何か動いて豊川署の捜査官と衝突すれば今度は東都警察上層部の介入も容易に想像できた。
「焦ってきますね」
誠のその言葉に全員が大きくため息をついた。
「たのもー!」
突然の突拍子もない叫び声に店の客達は入り口に目を向けた。
そこには黒く巨大な影と、少しだけ入り口を開けたところに立っている少女が見て取れた。
「シャム……」
かなめが呆れたようにつぶやく。赤いパーカーを着た少女、ナンバルゲニア・シャムラード中尉の能天気な笑顔にそれまでの自分が浮かべていた仏頂面を思い出して一同に自然と笑顔が浮かんだ。
「師匠!お散歩ですか?」
店の奥から飛び出してきたのはエプロン姿の家村小夏。女将の春子の一人娘でシャムを師と仰ぐ女子中学生だった。
「おう!お散歩だよ!そしていつもの!」
シャムの言葉に小夏はそのまま厨房に消えていく。
「しかし良いのか?グレゴリウス16世は……一応猛獣だろ?」
入り口をふさぐ巨大な影。それがコンロンオオヒグマの子供のグレゴリウス16世であることは全員が分かっていた。
子供だと言うのに地球の最大級の熊と同じくらいの大きさの巨体。一応繁華街であるあまさき屋の前にやってくるのは不自然を通り越して異常だった。
「知らないの?かなめちゃん。この前、豊川FMで紹介されてたわよ。彼はすっかり街の人気者だって」
アイシャの言葉にかなめの顔がゆがむ。
「マジ?いいの?ロープも鎖も無えんだぞ?」
そこまで言ったところでシャムの頭の上にグレゴリウスの顔が飛び出してきた。
「なんだよ……やる気か?」
「西園寺。熊と同レベルでの喧嘩はやめてくれ」
諦めたようにカウラがつぶやく。そして厨房からは大きな鉢を持った小夏が現れた。
「はい!グリンのおやつですよ!」
そう言うと小夏は入り口になにやら赤いものが入った鉢を置く。誠は以前、小夏からこの店にはシャムの下宿している魚屋で出た魚のあらをグレゴリウスの餌として蓄えていると言う話を聞いたのを思い出した。すぐに顔だけ出していたグレゴリウスはそのままシャムの足元に顔を持ってきて鉢の中に頭を突っ込んだ。
「やっぱり動物がご飯を食べるのは和むわねえ」
「和んでる場合かよ」
アイシャの言葉に思わずかなめは突っ込みを入れていた。だがシャムとグレゴリウスの闖入でそれまでの重い空気が吹き飛んだのは事実だった。
「そう言えば、中尉。基地からここまで歩いたんですか?」
「アホか……そうか!吉田はどこだ!」
かなめが立ち上がるとパーラとサラも立ち上がった。そしてそのまま三人は二階の座敷に駆け上がっていく。そんな三人を確認すると静かにシャムの背後から吉田が現れた。
「あいつ等馬鹿じゃねえの?いつも俺が二階に現れるとは限らないんだよ」
「吉田少佐……日ごろの行いじゃないんですか?」
カウラに言われて頭を掻きながら吉田はどっかりと椅子に腰掛けた。
「どうだい、捜査の方は」
突然吉田から聞かれてため息をつくアイシャ達。
「まあ慣れない捜査活動だ。成果が出る方がどうかしてる……って言うけど茜のお嬢さんも前回の厚生局の件で味をしめたからなあ……そうそういつもいい結果が出るわけじゃないのに」
そう言うと吉田はアイシャの頼んでいた新しい烏龍茶を手にして飲み始めた。
「分かっているなら教えてあげたらどうなんですか?私達は捜査のプロでは無いんです」
「まあ言うなって人っていうやつは失敗をして学んでいくもんだよ。あの人も多少は痛い目に会わないとね。それにお前等も多少はこう言う頭を使う仕事をした方が後々伸びるよ」
カウラに聞かれて答える吉田の顔は少しばかり悪戯をした子供のような雰囲気があった。
「そんな悠長なことを言っている段階ですか?こうしている間にもあの違法法術発動事件の犯人は……」
「はいはいはい!ちょっと待てよ。落ち着けよ。俺達も腹が減ってるんだ」
そう言うと吉田は店内に入ってきてパーラとサラの座っていた席の向かいの席に腰掛けた。
「とりあえず烏龍茶と生中」
「吉田さんは烏龍茶ね」
吉田の注文を受けた春子が厨房に消える。入り口ではシャムと小夏が楽しそうにグレゴリウスの食事を眺めていた。
「おい!吉田!」
二階から降りてきたかなめを満面の笑みで吉田は迎えた。
「すまないな。たまにはまともに入りたくなるんだ」
「ったくよう」
愚痴りながらかなめは席に戻る。付いてきたパーラとサラも仕方がないというように席に戻った。
「お待たせしたわね。シャムちゃんのビールはどこに置くの?」
「俊平の隣でいいよ」
春子が生ビールを置くとシャムはうれしそうに席に戻った。
「俊平、何食べるの?」
「そりゃあ俺はイか玉だな。お前は豚玉三倍量か?」
「うん!」
闖入者のおかげで誠達は完全にペースを乱されていた。何を話すべきだったか忘れてしまったかのように渋々烏龍茶を啜るカウラ。アイシャは自分の紺色の長い髪の枝毛を探していた。
部隊の溜まり場、あまさき屋。店に来て三十分も経たずにすでにかなめは二本のラムの瓶を空けていた。誰もそれを止めない。カウラは黙って烏龍茶を啜る。
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「二人にも迷惑かけたわね……特にパーラ」
「何よ。迷惑かけたのが分かってるならこれからも付き合わせなさいよ」
パーラはピンクの長い髪をなびかせながらたこ焼きを口に頬張る。店に着くなりアイシャのマシンガントークの洗礼を受けた上にこれまでの東都警察との確執を知る二人は完全に捜査に参加する気でいた。そのあまりにもやる気が前面に出た姿に誠も少しばかり困ったように店の奥で心配そうにこちらを眺めている女将の家村春子に目をやった。
かなめが三本目のラムに手を伸ばした。
「西園寺さん。飲みすぎですよ」
つい口を出していた誠。目の前のグラスばかり見つめていたかなめの鉛色のタレ目が誠に向かってくる。肝臓のプラントの機能を落としてわざと泥酔しているかなめのにごった瞳。そこには自分の失敗を悔いる色が嫌と言うほど見て取れた。
「いいアイディアだと思ったんだけどなあ……不動産屋の線から犯人へ直行。今頃は警察の連中も人海戦術で同じこと始めてるだろうし……そうなったら察しのいい犯人なら対応策を練られるぞ。それでパーだ」
そう言っただけですぐにかなめは目の前の空のグラスに酒を注ぐ。
「金の無駄になるぞ」
「いいんだよ、たまには。こう言うときは思いっきり飲ませろよ」
カウラの言葉に顔も上げずにかなめは酒を飲み続ける。
「まるで通夜よね……私も正直騒ぐ気にはなれないわ」
そんなアイシャの言葉に誠もただ乾いた笑みを浮かべるだけだった。手がかりは見つけては消え、ただ時間だけが過ぎる。同盟司法局の捜査責任者である茜のコネで手に入れた東都警察の警察官の捜査権限。しかし出が司法局と言うことで警戒する東都警察からつまはじきにされて定時に仕事を終えたらこうして酒を飲むより他にすることが無い。また何か動いて豊川署の捜査官と衝突すれば今度は東都警察上層部の介入も容易に想像できた。
「焦ってきますね」
誠のその言葉に全員が大きくため息をついた。
「たのもー!」
突然の突拍子もない叫び声に店の客達は入り口に目を向けた。
そこには黒く巨大な影と、少しだけ入り口を開けたところに立っている少女が見て取れた。
「シャム……」
かなめが呆れたようにつぶやく。赤いパーカーを着た少女、ナンバルゲニア・シャムラード中尉の能天気な笑顔にそれまでの自分が浮かべていた仏頂面を思い出して一同に自然と笑顔が浮かんだ。
「師匠!お散歩ですか?」
店の奥から飛び出してきたのはエプロン姿の家村小夏。女将の春子の一人娘でシャムを師と仰ぐ女子中学生だった。
「おう!お散歩だよ!そしていつもの!」
シャムの言葉に小夏はそのまま厨房に消えていく。
「しかし良いのか?グレゴリウス16世は……一応猛獣だろ?」
入り口をふさぐ巨大な影。それがコンロンオオヒグマの子供のグレゴリウス16世であることは全員が分かっていた。
子供だと言うのに地球の最大級の熊と同じくらいの大きさの巨体。一応繁華街であるあまさき屋の前にやってくるのは不自然を通り越して異常だった。
「知らないの?かなめちゃん。この前、豊川FMで紹介されてたわよ。彼はすっかり街の人気者だって」
アイシャの言葉にかなめの顔がゆがむ。
「マジ?いいの?ロープも鎖も無えんだぞ?」
そこまで言ったところでシャムの頭の上にグレゴリウスの顔が飛び出してきた。
「なんだよ……やる気か?」
「西園寺。熊と同レベルでの喧嘩はやめてくれ」
諦めたようにカウラがつぶやく。そして厨房からは大きな鉢を持った小夏が現れた。
「はい!グリンのおやつですよ!」
そう言うと小夏は入り口になにやら赤いものが入った鉢を置く。誠は以前、小夏からこの店にはシャムの下宿している魚屋で出た魚のあらをグレゴリウスの餌として蓄えていると言う話を聞いたのを思い出した。すぐに顔だけ出していたグレゴリウスはそのままシャムの足元に顔を持ってきて鉢の中に頭を突っ込んだ。
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「和んでる場合かよ」
アイシャの言葉に思わずかなめは突っ込みを入れていた。だがシャムとグレゴリウスの闖入でそれまでの重い空気が吹き飛んだのは事実だった。
「そう言えば、中尉。基地からここまで歩いたんですか?」
「アホか……そうか!吉田はどこだ!」
かなめが立ち上がるとパーラとサラも立ち上がった。そしてそのまま三人は二階の座敷に駆け上がっていく。そんな三人を確認すると静かにシャムの背後から吉田が現れた。
「あいつ等馬鹿じゃねえの?いつも俺が二階に現れるとは限らないんだよ」
「吉田少佐……日ごろの行いじゃないんですか?」
カウラに言われて頭を掻きながら吉田はどっかりと椅子に腰掛けた。
「どうだい、捜査の方は」
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「まあ慣れない捜査活動だ。成果が出る方がどうかしてる……って言うけど茜のお嬢さんも前回の厚生局の件で味をしめたからなあ……そうそういつもいい結果が出るわけじゃないのに」
そう言うと吉田はアイシャの頼んでいた新しい烏龍茶を手にして飲み始めた。
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カウラに聞かれて答える吉田の顔は少しばかり悪戯をした子供のような雰囲気があった。
「そんな悠長なことを言っている段階ですか?こうしている間にもあの違法法術発動事件の犯人は……」
「はいはいはい!ちょっと待てよ。落ち着けよ。俺達も腹が減ってるんだ」
そう言うと吉田は店内に入ってきてパーラとサラの座っていた席の向かいの席に腰掛けた。
「とりあえず烏龍茶と生中」
「吉田さんは烏龍茶ね」
吉田の注文を受けた春子が厨房に消える。入り口ではシャムと小夏が楽しそうにグレゴリウスの食事を眺めていた。
「おい!吉田!」
二階から降りてきたかなめを満面の笑みで吉田は迎えた。
「すまないな。たまにはまともに入りたくなるんだ」
「ったくよう」
愚痴りながらかなめは席に戻る。付いてきたパーラとサラも仕方がないというように席に戻った。
「お待たせしたわね。シャムちゃんのビールはどこに置くの?」
「俊平の隣でいいよ」
春子が生ビールを置くとシャムはうれしそうに席に戻った。
「俊平、何食べるの?」
「そりゃあ俺はイか玉だな。お前は豚玉三倍量か?」
「うん!」
闖入者のおかげで誠達は完全にペースを乱されていた。何を話すべきだったか忘れてしまったかのように渋々烏龍茶を啜るカウラ。アイシャは自分の紺色の長い髪の枝毛を探していた。
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