572 / 1,535
第12章 出向
座敷牢
しおりを挟む
左側に並ぶ部屋はそれぞれ捜査関係の部署らしく私服、制服の署員がひっきりなしに出入りを繰り返していた。男はその部屋をまるでそんなものが存在しないと言うようにまん前を向いたまま歩き続ける。
なかなかたどり着かなかったが、エレベータルームを通り過ぎて人気がなくなると男の足取りは急に遅くなった。いくつかの閉まったままの扉。そのどれを開くか迷っているように何度か身を翻した後、その中の真ん中の一番地味な扉を男は開いた。
「おう、来たか」
すでに東都警察の制服に着替えていたかなめが目に飛び込んでくる。黙っていれば制服が似合う彼女らしく襟に警部補の階級章を光らせている。
「そういえば大丈夫?神前……一応巡査部長扱いでよかったんだな」
カウラから誠に巡査部長の階級章が手渡された。
「それにしても……私は似合う?」
カウラとかなめが警部補の階級章をつけているのに対し、アイシャのそれは警部のものだった。いつも東都警察の巡査部長の制服を着ているはずのラーナだが彼女の姿はなぜか見えなかった。
「おい、とっちゃん坊や。何でこいつが警部なんだ?」
誠をつれてきた男にかなめは喧嘩腰で食って掛かる。誠は止めようと手を伸ばす体勢で話を聞いていた。
「いやあ、僕は事務方だからねえ……」
「事務屋だと現場のことがわからねえって言う気か?うちでさえ管理部門の大将はアタシ等の行動も把握済みだぞ。なんだか東都警察も……」
「黙れ、西園寺!」
カウラが思い切りテーブルを叩く。
「一応、これでも仲がいいんですよ……ねえ?」
さすがにかなめの暴走が予想を超えていたのでフォローを入れるアイシャだが、にらみ合うかなめとカウラを珍しそうに眺める男の目に浮かんだ軽蔑のまなざし。こう言うことに敏感なかなめは怒りのようなものを覚えているらしいことは誠にも分かった。
「まあ……とりあえずこちらの部屋を使用してください。それと連絡は杉田と申すものが担当しますので」
それだけ言うと男は出て行った。いつもの面々だけになると誠達は部屋の様子を思い思いに見回した。
「用具室か。結構片付いているんだな。うちの部隊とは……」
「でも本来人のいるとことじゃないんじゃないの?ここ」
カウラは何とか自分を納得させるようにつぶやくがそれをアイシャがぶち壊す。確かに何もなかった。端のほうに書類のダンボールが山積みにされ、とってつけたようにいつのころの時代のものかと聞きたくなる端末が置かれた机と椅子が四つ並んでいる。
ノックの音がした。
「どうぞ」
アイシャが当然のように答える。入ってきたのはかなりくたびれた背広を着た定年間際と思われるやせぎすの男だった。
「杉田さんですね」
アイシャの言葉にそれまでの無表情が人懐っこいものへと変わる。
「ええ、まあ」
杉田の返事にアイシャは満足げにうなづく。かなめは相変わらず不機嫌そうに周りを見回している。
「ひでえ部屋だな」
「実は……上からの指示でね。本来なら大事な助っ人だ。いい部屋を用意しておくべきなんですけどねえ」
杉田氏が口を開くまでもなく誠達はこの惨めな有様が東都警察上層部の意図だと言うことを理解していた。
同盟厚生局事件。一応外面的にはテロリストによる法術データ強盗事件と言う発表で落ち着いているが、三ヶ月前のその事件は厚生局による違法法術研究の事故が原因であり、その為に東都警察と司法局実働部隊が対応に当たったことは司法関係者なら誰もが知っていることだった。
その時、虎の子の法術対応即応部隊を投入しながら何一つ点数を稼げなかった東都警察が、暴走する実験体を対峙して見せた誠達に明らかに嫉妬していると言う噂は散々聞いていた。
そしてその結果が目の前の哀れな現状だった。仕方がないというように顔を怒りで引きつらせながら椅子に座るカウラ。かなめはもう怒りを通り越して呆れてそのまま窓から外を眺めている。
「空調はちゃんと効くのね」
そう言いながらアイシャはそのまま奥の空調機を確認する。誠はただ黙って杉田の顔を眺めていた。
「ご不満でも?……まあ不満でしょうね」
急にそれまでの杉田の柔和な表情が緊張する。一応は東都警察の警察官。しかも見るところベテランであることは間違いない。にらみを利かせるように言われれば誠はただ黙ってうなづくしかない。
「……捜査関係の資料は閲覧できるのですか?」
「当然です。ただし……プロテクトがかかっている部分については……」
「安心しな。うち専属のハッカー吉田は本隊でお寝んねだよ」
半分やけになったようにかなめは叫ぶとそのまま近くの席に腰を下ろした。
「それではよろしくお願いします」
そう言うと杉田は見放すようにドアを閉めて消えていった。
「予想したよりはかなりましなんじゃないの?」
早速端末を起動させながらアイシャがつぶやいた。
「でもなあ」
「西園寺。結果で示せばいい事だ」
カウラの言葉にかなめは渋々うなづく。誠はただ不安で一杯になりながら自分の襟に巡査部長の階級章を取り付けていた。
なかなかたどり着かなかったが、エレベータルームを通り過ぎて人気がなくなると男の足取りは急に遅くなった。いくつかの閉まったままの扉。そのどれを開くか迷っているように何度か身を翻した後、その中の真ん中の一番地味な扉を男は開いた。
「おう、来たか」
すでに東都警察の制服に着替えていたかなめが目に飛び込んでくる。黙っていれば制服が似合う彼女らしく襟に警部補の階級章を光らせている。
「そういえば大丈夫?神前……一応巡査部長扱いでよかったんだな」
カウラから誠に巡査部長の階級章が手渡された。
「それにしても……私は似合う?」
カウラとかなめが警部補の階級章をつけているのに対し、アイシャのそれは警部のものだった。いつも東都警察の巡査部長の制服を着ているはずのラーナだが彼女の姿はなぜか見えなかった。
「おい、とっちゃん坊や。何でこいつが警部なんだ?」
誠をつれてきた男にかなめは喧嘩腰で食って掛かる。誠は止めようと手を伸ばす体勢で話を聞いていた。
「いやあ、僕は事務方だからねえ……」
「事務屋だと現場のことがわからねえって言う気か?うちでさえ管理部門の大将はアタシ等の行動も把握済みだぞ。なんだか東都警察も……」
「黙れ、西園寺!」
カウラが思い切りテーブルを叩く。
「一応、これでも仲がいいんですよ……ねえ?」
さすがにかなめの暴走が予想を超えていたのでフォローを入れるアイシャだが、にらみ合うかなめとカウラを珍しそうに眺める男の目に浮かんだ軽蔑のまなざし。こう言うことに敏感なかなめは怒りのようなものを覚えているらしいことは誠にも分かった。
「まあ……とりあえずこちらの部屋を使用してください。それと連絡は杉田と申すものが担当しますので」
それだけ言うと男は出て行った。いつもの面々だけになると誠達は部屋の様子を思い思いに見回した。
「用具室か。結構片付いているんだな。うちの部隊とは……」
「でも本来人のいるとことじゃないんじゃないの?ここ」
カウラは何とか自分を納得させるようにつぶやくがそれをアイシャがぶち壊す。確かに何もなかった。端のほうに書類のダンボールが山積みにされ、とってつけたようにいつのころの時代のものかと聞きたくなる端末が置かれた机と椅子が四つ並んでいる。
ノックの音がした。
「どうぞ」
アイシャが当然のように答える。入ってきたのはかなりくたびれた背広を着た定年間際と思われるやせぎすの男だった。
「杉田さんですね」
アイシャの言葉にそれまでの無表情が人懐っこいものへと変わる。
「ええ、まあ」
杉田の返事にアイシャは満足げにうなづく。かなめは相変わらず不機嫌そうに周りを見回している。
「ひでえ部屋だな」
「実は……上からの指示でね。本来なら大事な助っ人だ。いい部屋を用意しておくべきなんですけどねえ」
杉田氏が口を開くまでもなく誠達はこの惨めな有様が東都警察上層部の意図だと言うことを理解していた。
同盟厚生局事件。一応外面的にはテロリストによる法術データ強盗事件と言う発表で落ち着いているが、三ヶ月前のその事件は厚生局による違法法術研究の事故が原因であり、その為に東都警察と司法局実働部隊が対応に当たったことは司法関係者なら誰もが知っていることだった。
その時、虎の子の法術対応即応部隊を投入しながら何一つ点数を稼げなかった東都警察が、暴走する実験体を対峙して見せた誠達に明らかに嫉妬していると言う噂は散々聞いていた。
そしてその結果が目の前の哀れな現状だった。仕方がないというように顔を怒りで引きつらせながら椅子に座るカウラ。かなめはもう怒りを通り越して呆れてそのまま窓から外を眺めている。
「空調はちゃんと効くのね」
そう言いながらアイシャはそのまま奥の空調機を確認する。誠はただ黙って杉田の顔を眺めていた。
「ご不満でも?……まあ不満でしょうね」
急にそれまでの杉田の柔和な表情が緊張する。一応は東都警察の警察官。しかも見るところベテランであることは間違いない。にらみを利かせるように言われれば誠はただ黙ってうなづくしかない。
「……捜査関係の資料は閲覧できるのですか?」
「当然です。ただし……プロテクトがかかっている部分については……」
「安心しな。うち専属のハッカー吉田は本隊でお寝んねだよ」
半分やけになったようにかなめは叫ぶとそのまま近くの席に腰を下ろした。
「それではよろしくお願いします」
そう言うと杉田は見放すようにドアを閉めて消えていった。
「予想したよりはかなりましなんじゃないの?」
早速端末を起動させながらアイシャがつぶやいた。
「でもなあ」
「西園寺。結果で示せばいい事だ」
カウラの言葉にかなめは渋々うなづく。誠はただ不安で一杯になりながら自分の襟に巡査部長の階級章を取り付けていた。
0
お気に入りに追加
58
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
特殊装甲隊 ダグフェロン 『廃帝と永遠の世紀末』 第五部 『カウラ・ベルガー大尉の誕生日』
橋本 直
SF
遼州司法局実働部隊に課せられる訓練『閉所白兵戦訓練』
いつもの閉所白兵戦訓練で同時に製造された友人の話から実はクリスマスイブが誕生日と分かったカウラ。
そんな彼女をお祝いすると言う名目でアメリアとかなめは誠の実家でのパーティーを企画することになる。
予想通り趣味に走ったプレゼントを用意するアメリア。いかにもセレブな買い物をするかなめ。そんな二人をしり目に誠は独自でのプレゼントを考える。
誠はいかにも絵師らしくカウラを描くことになった。
閑話休題的物語。


メトロポリス社へようこそ! ~「役立たずだ」とクビにされたおっさんの就職先は大企業の宇宙船を守る護衛官でした~
アンジェロ岩井
SF
「えっ、クビですか?」
中企業アナハイニム社の事務課に勤める大津修也(おおつしゅうや)は会社の都合によってクビを切られてしまう。
ろくなスキルも身に付けていない修也にとって再転職は絶望的だと思われたが、大企業『メトロポリス』からの使者が現れた。
『メトロポリス』からの使者によれば自身の商品を宇宙の植民星に運ぶ際に宇宙生物に襲われるという事態が幾度も発生しており、そのための護衛役として会社の顧問役である人工頭脳『マリア』が護衛役を務める適任者として選び出したのだという。
宇宙生物との戦いに用いるロトワングというパワードスーツには適性があり、その適性が見出されたのが大津修也だ。
大津にとっては他に就職の選択肢がなかったので『メトロポリス』からの選択肢を受けざるを得なかった。
『メトロポリス』の宇宙船に乗り込み、宇宙生物との戦いに明け暮れる中で、彼は護衛アンドロイドであるシュウジとサヤカと共に過ごし、絆を育んでいくうちに地球上にてアンドロイドが使用人としての扱いしか受けていないことを思い出す。
修也は戦いの中でアンドロイドと人間が対等な関係を築き、共存を行うことができればいいと考えたが、『メトロポリス』では修也とは対照的に人類との共存ではなく支配という名目で動き出そうとしていた。

【VRMMO】イースターエッグ・オンライン【RPG】
一樹
SF
ちょっと色々あって、オンラインゲームを始めることとなった主人公。
しかし、オンラインゲームのことなんてほとんど知らない主人公は、スレ立てをしてオススメのオンラインゲームを、スレ民に聞くのだった。
ゲーム初心者の活字中毒高校生が、オンラインゲームをする話です。
以前投稿した短編
【緩募】ゲーム初心者にもオススメのオンラインゲーム教えて
の連載版です。
連載するにあたり、短編は削除しました。
四代目 豊臣秀勝
克全
歴史・時代
アルファポリス第5回歴史時代小説大賞参加作です。
読者賞を狙っていますので、アルファポリスで投票とお気に入り登録してくださると助かります。
史実で三木城合戦前後で夭折した木下与一郎が生き延びた。
秀吉の最年長の甥であり、秀長の嫡男・与一郎が生き延びた豊臣家が辿る歴史はどう言うモノになるのか。
小牧長久手で秀吉は勝てるのか?
朝日姫は徳川家康の嫁ぐのか?
朝鮮征伐は行われるのか?
秀頼は生まれるのか。
秀次が後継者に指名され切腹させられるのか?
銀河太平記
武者走走九郎or大橋むつお
SF
いまから二百年の未来。
前世紀から移住の始まった火星は地球のしがらみから離れようとしていた。火星の中緯度カルディア平原の大半を領域とする扶桑公国は国民の大半が日本からの移民で構成されていて、臣籍降下した扶桑宮が征夷大将軍として幕府を開いていた。
その扶桑幕府も代を重ねて五代目になろうとしている。
折しも地球では二千年紀に入って三度目のグローバリズムが破綻して、東アジア発の動乱期に入ろうとしている。
火星と地球を舞台として、銀河規模の争乱の時代が始まろうとしている。
特殊装甲隊 ダグフェロン 『廃帝と永遠の世紀末』 第六部 『特殊な部隊の特殊な自主映画』
橋本 直
SF
毎年恒例の時代行列に加えて豊川市から映画作成を依頼された『特殊な部隊』こと司法局実働部隊。
自主映画作品を作ることになるのだがアメリアとサラの暴走でテーマをめぐり大騒ぎとなる。
いざテーマが決まってもアメリアの極めて趣味的な魔法少女ストーリに呆れて隊員達はてんでんばらばらに活躍を見せる。
そんな先輩達に振り回されながら誠は自分がキャラデザインをしたという責任感のみで参加する。
どたばたの日々が始まるのだった……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる