566 / 1,505
第7章 会議
会議
しおりを挟む
アイシャがノックをする。
「どうぞ 」
澄んだ声。部隊長嵯峨惟基の実娘、嵯峨茜警視正の声が響く。そのまま開いた扉の中を見れば振り返るカウラと法術特捜担当ということで呼び出された実働部隊長のクバルカ・ラン中佐の幼い顔があった。
「なんだよ神前。髪の毛濡れたままじゃねーか……。西園寺。そんなに神前を急かす必要なんてねーんだぞ」
ランの言葉にむっとした表情のままかなめはランの隣の椅子にどっかと腰を落ち着ける。その大人気ない様子にカウラは大きくため息をつく。
「さあ、皆さんそろったんですから……」
なんとか和ませようと中腰で仲介するのは技術部の整備班長の島田正人准尉。隣にいるアイシャの部下のサラ・グリファン少尉も雲行きの怪しい誠達のとばっちりを避けたいというように頷きながらかなめを見つめていた。
「そろったと言うことで」
ホワイトボードの前に立つ茜が室内を見回す。
「まあな。それじゃあ何のためにアタシ等が呼ばれたか聞かせてもらおうか」
かなめの声に茜は微笑みで返す。
「実は最近演操術系の法術を使用しての悪戯のようなものが多発していますの」
紺の東都警察の制服が似合う茜。以前の主にこの豊川司法局実働部隊駐屯地に詰めっぱなしだったときの東和陸軍と共通の司法局実働部隊のオリーブドラブの制服とは違う新鮮な姿に誠は惹きつけられていた。
「例の件か……結局アタシ等にお鉢が回ってきたわけだな」
かなめの苦笑いを見ながら茜はなにやら端末を叩いている助手のカルビナ・ラーナ警部補に目を向けた。
白いボードに何かの映像が映る。焼け焦げた布団。ばっさりと切り裂かれた積み上げられたタイヤの山。ガードレールが真っ二つに裂かれているのにはさすがの誠もぎょっとしてしまった。
「ごらんのようにボヤや器物の損壊で済んでいますが……」
「おい待てよ」
話を進めようとする茜をかなめが不機嫌な表情で止めた。
「なんだよなんだよ。アタシ等の知らないところでこんなことまでやったのか?」
「お前は馬鹿か?同一犯とは決まったわけじゃないだろ?」
立ち上がって叫ぶかなめにポツリとつぶやくカウラ。かなめは完全にカウラの言葉に切れていつものように一触即発の雰囲気が漂う。島田とアイシャはとりあえずいつかなめがカウラに飛び掛ってもいいように身構えているのが誠からすると滑稽に見えて噴出してしまう。
「神前君。不謹慎よ」
同じくにやけながら噴出した誠をサラがいさめる。
「どれも容疑者として上げた法術師はそんな意識は無かったと容疑を否認しているって訳だな……神前達が出会ったのもそんな事件の一つってことだな」
一人離れた場所からこの様子を見ていたランの言葉に茜は大きくうなづいた。
「恐らくはそうでしょう。ですが……」
そう言うと茜は従姉に当たるかなめに目を向けた。かなめは首筋のジャックにコードをつなげてネットワークと接続している最中だった。
「どの事件も発生場所は東都東部に集中しているな。それに時間も夕方6時から夜中の12時まで。唯一の例外が正月のアタシ等が出会ったボヤ。同一犯の犯行と考えるのを邪魔する要素はねえな」
「馬鹿にしないでくださいよ。そんくらいのことは捜査官もわかって話してるんす!」
不愉快だと言うようにラーナが叫ぶ。茜は彼女の肩を叩いて頷きながらなだめて見せた。
「でもそれならうちよりも所轄に頼むのが適当なんじゃないですか?うちは豊川ですよ。どんなに急いでも都心まで出かければ半日は無駄にしますから。それに先日の厚生局事件の時に活躍した東都警察の虎の子の航空法術師部隊を待機させてローラー作戦でもやれば一発で見つかるでしょ?」
アイシャの言葉にもっともだと誠もうなづく。
「反対する理由は無いな。クラウゼの言うことが今のところ正しく見えるのだが……」
カウラも同意しているのを見てかなめはやる気がなさそうに端末につないでいたコードを引き抜く。
「オメー等の言うとおりだが一つ大事なことを忘れてんぞ。東都警察がこの種の事件に興味を持っていればって限定が入るんじゃねーのか?アイシャのような捜査手法をとるにはさー」
ランの一言。見た目は8歳くらいにしか見えなくても司法局実働部隊副長の肩書きは伊達ではなかった。そして自分達が遼州同盟の司法捜査官であり東都警察の捜査官と違うと言う現実に目が行った。
「確かに東和警察は解決を急ぐつもりは無いようです。どれも他愛の無い悪戯程度で済んでいますから……でも得てしてこういう愉快犯はいつか暴走して……」
「要は大事になる前に捕まえろってことか?面倒だなあ。どうせならこっちに引っ越して来てくれるといいんだけど」
「そんなに都合よく行くわけ無いだろ?」
かなめの言葉に突っ込むカウラ。そのいつもどおりの情景に誠はいつの間にか癒されるようになっていた。
「でもあれだぜ。あの正月の事件以来同種の事件は発生していねえからな。もしかすると……」
周りを見渡してにんまりと笑うかなめ。だが全員が大きなため息をついて白い目で彼女を見つめた。
「西園寺さん。もしかして犯人は現在引っ越し準備中で豊川近くに部屋でも借りに来ているとでも言うつもりですか?」
それまで沈黙を黙っていた島田の一言。隣では彼に同調するように赤い髪のサラが大きくうなづいている。
「でもあれだぞ!今の時期は年度末を控えていろいろ引越しとか……」
「だとなんで豊川市に引っ越して来るんだ?」
呆れるを通り越して哀れみの目でかなめを見つめるカウラ。追い詰められたかなめは必死に出口を探して頭をひねる。そして手を打って元気良く叫んだ。
「そりゃあ法術を最初に展開して今みたいな状況を作ったアタシ等に復讐するため!」
「あのなあ、西園寺。その発想はシャムレベルだぞ……まあいいや。もし隊長の許可が出たら司法局に第二小隊を詰めさせるから。それで勘弁してくれよ」
ランの言葉に茜はうなづくとテーブルを整理始めた。周りの面々もそれぞれに立ち上がり持ち場へと急ごうとする。
「何だよ!テメエ等!寄ってたかってアタシを馬鹿にしやがって!」
怒鳴るかなめの肩にそっとランが手を乗せる。
「まあ良いじゃねーか。要は犯人を捕まえれば分かるってわけだ」
これ以上無い正論を言われてさすがのかなめも参ったというように肩を落とす。誠もカウラもこれから先彼女と付き合って捜査を行うだろう今後を思いやりながらそれぞれに席を立った。
「どうぞ 」
澄んだ声。部隊長嵯峨惟基の実娘、嵯峨茜警視正の声が響く。そのまま開いた扉の中を見れば振り返るカウラと法術特捜担当ということで呼び出された実働部隊長のクバルカ・ラン中佐の幼い顔があった。
「なんだよ神前。髪の毛濡れたままじゃねーか……。西園寺。そんなに神前を急かす必要なんてねーんだぞ」
ランの言葉にむっとした表情のままかなめはランの隣の椅子にどっかと腰を落ち着ける。その大人気ない様子にカウラは大きくため息をつく。
「さあ、皆さんそろったんですから……」
なんとか和ませようと中腰で仲介するのは技術部の整備班長の島田正人准尉。隣にいるアイシャの部下のサラ・グリファン少尉も雲行きの怪しい誠達のとばっちりを避けたいというように頷きながらかなめを見つめていた。
「そろったと言うことで」
ホワイトボードの前に立つ茜が室内を見回す。
「まあな。それじゃあ何のためにアタシ等が呼ばれたか聞かせてもらおうか」
かなめの声に茜は微笑みで返す。
「実は最近演操術系の法術を使用しての悪戯のようなものが多発していますの」
紺の東都警察の制服が似合う茜。以前の主にこの豊川司法局実働部隊駐屯地に詰めっぱなしだったときの東和陸軍と共通の司法局実働部隊のオリーブドラブの制服とは違う新鮮な姿に誠は惹きつけられていた。
「例の件か……結局アタシ等にお鉢が回ってきたわけだな」
かなめの苦笑いを見ながら茜はなにやら端末を叩いている助手のカルビナ・ラーナ警部補に目を向けた。
白いボードに何かの映像が映る。焼け焦げた布団。ばっさりと切り裂かれた積み上げられたタイヤの山。ガードレールが真っ二つに裂かれているのにはさすがの誠もぎょっとしてしまった。
「ごらんのようにボヤや器物の損壊で済んでいますが……」
「おい待てよ」
話を進めようとする茜をかなめが不機嫌な表情で止めた。
「なんだよなんだよ。アタシ等の知らないところでこんなことまでやったのか?」
「お前は馬鹿か?同一犯とは決まったわけじゃないだろ?」
立ち上がって叫ぶかなめにポツリとつぶやくカウラ。かなめは完全にカウラの言葉に切れていつものように一触即発の雰囲気が漂う。島田とアイシャはとりあえずいつかなめがカウラに飛び掛ってもいいように身構えているのが誠からすると滑稽に見えて噴出してしまう。
「神前君。不謹慎よ」
同じくにやけながら噴出した誠をサラがいさめる。
「どれも容疑者として上げた法術師はそんな意識は無かったと容疑を否認しているって訳だな……神前達が出会ったのもそんな事件の一つってことだな」
一人離れた場所からこの様子を見ていたランの言葉に茜は大きくうなづいた。
「恐らくはそうでしょう。ですが……」
そう言うと茜は従姉に当たるかなめに目を向けた。かなめは首筋のジャックにコードをつなげてネットワークと接続している最中だった。
「どの事件も発生場所は東都東部に集中しているな。それに時間も夕方6時から夜中の12時まで。唯一の例外が正月のアタシ等が出会ったボヤ。同一犯の犯行と考えるのを邪魔する要素はねえな」
「馬鹿にしないでくださいよ。そんくらいのことは捜査官もわかって話してるんす!」
不愉快だと言うようにラーナが叫ぶ。茜は彼女の肩を叩いて頷きながらなだめて見せた。
「でもそれならうちよりも所轄に頼むのが適当なんじゃないですか?うちは豊川ですよ。どんなに急いでも都心まで出かければ半日は無駄にしますから。それに先日の厚生局事件の時に活躍した東都警察の虎の子の航空法術師部隊を待機させてローラー作戦でもやれば一発で見つかるでしょ?」
アイシャの言葉にもっともだと誠もうなづく。
「反対する理由は無いな。クラウゼの言うことが今のところ正しく見えるのだが……」
カウラも同意しているのを見てかなめはやる気がなさそうに端末につないでいたコードを引き抜く。
「オメー等の言うとおりだが一つ大事なことを忘れてんぞ。東都警察がこの種の事件に興味を持っていればって限定が入るんじゃねーのか?アイシャのような捜査手法をとるにはさー」
ランの一言。見た目は8歳くらいにしか見えなくても司法局実働部隊副長の肩書きは伊達ではなかった。そして自分達が遼州同盟の司法捜査官であり東都警察の捜査官と違うと言う現実に目が行った。
「確かに東和警察は解決を急ぐつもりは無いようです。どれも他愛の無い悪戯程度で済んでいますから……でも得てしてこういう愉快犯はいつか暴走して……」
「要は大事になる前に捕まえろってことか?面倒だなあ。どうせならこっちに引っ越して来てくれるといいんだけど」
「そんなに都合よく行くわけ無いだろ?」
かなめの言葉に突っ込むカウラ。そのいつもどおりの情景に誠はいつの間にか癒されるようになっていた。
「でもあれだぜ。あの正月の事件以来同種の事件は発生していねえからな。もしかすると……」
周りを見渡してにんまりと笑うかなめ。だが全員が大きなため息をついて白い目で彼女を見つめた。
「西園寺さん。もしかして犯人は現在引っ越し準備中で豊川近くに部屋でも借りに来ているとでも言うつもりですか?」
それまで沈黙を黙っていた島田の一言。隣では彼に同調するように赤い髪のサラが大きくうなづいている。
「でもあれだぞ!今の時期は年度末を控えていろいろ引越しとか……」
「だとなんで豊川市に引っ越して来るんだ?」
呆れるを通り越して哀れみの目でかなめを見つめるカウラ。追い詰められたかなめは必死に出口を探して頭をひねる。そして手を打って元気良く叫んだ。
「そりゃあ法術を最初に展開して今みたいな状況を作ったアタシ等に復讐するため!」
「あのなあ、西園寺。その発想はシャムレベルだぞ……まあいいや。もし隊長の許可が出たら司法局に第二小隊を詰めさせるから。それで勘弁してくれよ」
ランの言葉に茜はうなづくとテーブルを整理始めた。周りの面々もそれぞれに立ち上がり持ち場へと急ごうとする。
「何だよ!テメエ等!寄ってたかってアタシを馬鹿にしやがって!」
怒鳴るかなめの肩にそっとランが手を乗せる。
「まあ良いじゃねーか。要は犯人を捕まえれば分かるってわけだ」
これ以上無い正論を言われてさすがのかなめも参ったというように肩を落とす。誠もカウラもこれから先彼女と付き合って捜査を行うだろう今後を思いやりながらそれぞれに席を立った。
0
お気に入りに追加
57
あなたにおすすめの小説
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
もう、終わった話ですし
志位斗 茂家波
ファンタジー
一国が滅びた。
その知らせを聞いても、私には関係の無い事。
だってね、もう分っていたことなのよね‥‥‥
‥‥‥たまにやりたくなる、ありきたりな婚約破棄ざまぁ(?)もの
少々物足りないような気がするので、気が向いたらオマケ書こうかな?
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
【完結】そして、誰もいなくなった
杜野秋人
ファンタジー
「そなたは私の妻として、侯爵夫人として相応しくない!よって婚約を破棄する!」
愛する令嬢を傍らに声高にそう叫ぶ婚約者イグナシオに伯爵家令嬢セリアは誤解だと訴えるが、イグナシオは聞く耳を持たない。それどころか明らかに犯してもいない罪を挙げられ糾弾され、彼女は思わず彼に手を伸ばして取り縋ろうとした。
「触るな!」
だがその手をイグナシオは大きく振り払った。振り払われよろめいたセリアは、受け身も取れないまま仰向けに倒れ、頭を打って昏倒した。
「突き飛ばしたぞ」
「彼が手を上げた」
「誰か衛兵を呼べ!」
騒然となるパーティー会場。すぐさま会場警護の騎士たちに取り囲まれ、彼は「違うんだ、話を聞いてくれ!」と叫びながら愛人の令嬢とともに連行されていった。
そして倒れたセリアもすぐさま人が集められ運び出されていった。
そして誰もいなくなった。
彼女と彼と愛人と、果たして誰が悪かったのか。
これはとある悲しい、婚約破棄の物語である。
◆小説家になろう様でも公開しています。話数の関係上あちらの方が進みが早いです。
3/27、なろう版完結。あちらは全8話です。
3/30、小説家になろうヒューマンドラマランキング日間1位になりました!
4/1、完結しました。全14話。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
「おまえを愛することはない!」と言ってやったのに、なぜ無視するんだ!
七辻ゆゆ
ファンタジー
俺を見ない、俺の言葉を聞かない、そして触れられない。すり抜ける……なぜだ?
俺はいったい、どうなっているんだ。
真実の愛を取り戻したいだけなのに。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」
音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。
本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。
しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。
*6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
王家も我が家を馬鹿にしてますわよね
章槻雅希
ファンタジー
よくある婚約者が護衛対象の王女を優先して婚約破棄になるパターンのお話。あの手の話を読んで、『なんで王家は王女の醜聞になりかねない噂を放置してるんだろう』『てか、これ、王家が婚約者の家蔑ろにしてるよね?』と思った結果できた話。ひそかなサブタイは『うちも王家を馬鹿にしてますけど』かもしれません。
『小説家になろう』『アルファポリス』(敬称略)に重複投稿、自サイトにも掲載しています。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる