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第18章 法術師と言う存在
法術暴走
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「それよりこのことは叔父貴は知ってるのか?」
かなめはあごを引いて上目遣いに茜を見つめる。
「いつかは私《わたくし》から伝えろとは言われていますけど……」
「なるほどねえ、まあ一番ああなる可能性の高いのは自分だしな」
「それってどういうことですか?」
誠はようやく落ち着いてかなめの言葉に口を挟んだ。
「なあに、言ったまんまの意味だよ。暴走の起きる可能性は叔父貴が一番高い。そう言うこった」
そう言ってかなめは再びひざの上に腕を乗せて起き上がった。
「オメエから話せよ。実の親父のことだろ?」
そう言って上体を上げて茜を見た後はかなめは目をつぶってソファーに体を落ち着ける。その声を聞くと茜は神妙な表情で誠を見つめながら語りだした。
「お父様、いえムジャンタ・ラスコーは遼南王族なのはご存知ですわよね」
「そこから話すか?ぱっぱと言えよ」
天井を見上げてかなめが声を張り上げる。仕方が無いと言うような表情をして茜は再び口を開く。
「遼南王家にはこんな言い伝えがありますの。遼州の民の頂上に立つ人物、皇帝に即位する地位にある者が法術の素養に恵まれていれば国が乱れると。そのため当時の女帝、お父様の祖母に当たるラスバ帝はお父様の力を封印されたんです」
「まあ先日のスポーツ選手の法術発動が不公平になるとか言うことで公開された法術封印技術と言う奴だ。急にいくら地球の親切な人達がいるからってすぐに見付かる方法じゃねえのはわかるだろ?臨床心理学的方法と生理学的方法を駆使して法術の発生の元である大脳旧皮質に刺激を与えて機能を低下させると言うあれだ」
そう言って胸のポケットのタバコに手をやったかなめを茜は非難する調子で見つめる。
「そしてそのような先進技術ではありませんが、能力の発動そのものを抑えてしまう外科的技術が遼南王家には有るんですの」
「外科的技術?」
茜の言葉にカウラが怪訝な顔をする。
「そう、脳内に何本か針を打ち込む方法です」
「おい、大丈夫なのかよそんな民間療法……ってあの叔父貴がそんなもんで死ぬわけも無いか」
やけになったようなかなめの声。無視して茜は話を続ける。
「本来はそれにより成長過程で次第に法術の発動が阻害されて力を使えないようになるはずだったのですが……」
「普通の法術適正者だったらな」
ポツリとかなめがつぶやく。『普通』とは明らかに違う行動パターンの嵯峨を思い出し笑いそうになる誠だが、かなめと茜の顔には笑顔など無かった。
「ご存知ですよね、『エターナルチルドレン』の存在は?」
突然、茜の口から出た言葉、ランやシャムを指す言葉に誠は静かにうなづいた。
。
「お父様は意識がある限り体細胞が再生してしまう体質なんです」
その言葉に誠は一瞬思考が止まるのを感じた。
「再生?だったら法術の封印も……」
「不完全だったんですの。それで法術の多くは封印されましたが再生能力だけが突出して発動する体質になってしまったんです」
茜の言葉が暗いことが誠に不審に思えた。
「再生能力が早いってことは便利じゃないですか。怪我をしてもすぐに直るんですよね?」
そう言った誠の言葉にかなめと茜は目を合わせる。そして少し悲しげな面持ちで茜が話を続ける。
「その能力の制御ができればと言う前提がつきますわね、再生能力が役に立つ状況であるには」
そしてラーナが運んできた紅茶がテーブルに置かれる。先ほど拒否したはずだと言うのにかなめはラーナからカップを受け取る。
「取りあえず叔父貴はそう簡単に怪我するほど鈍くは無いけどな。けどあのボケは、前の戦争の遼南戦線で法術について非常に高い関心を持っている組織に投降をするという失態を犯した。結果、不完全で制御ができないまま法術能力の増幅がその組織で行われたってわけだ」
静かに語るかなめ。誠もラーナが置いたカップを静かに手に取った。
「アメリカ陸軍第423実験大隊」
うつむき加減のカウラが吐いた言葉。その意味を誠は理解できなかった。そんな誠を仕方ないと言う顔をしたかなめが眺めている。
「んなこと言ってもこいつに分かるわけねえだろ?アメリカさんの法術関連の実験部隊の名称だ。生きたまま法術適正者を使って人体実験……」
「推測でものを言うのは感心できることではなくてよ。そのような部隊の存在は地球の国連も否定しているのですから」
紅茶を一口飲んで落ち着いたというように茜が口を開く。
「ともかく言える事は遼南における捕虜虐待、民間人虐殺容疑で逮捕された嵯峨惟基憲兵少佐をネバダ砂漠の実験施設内に収監していたと言うことは記録で残ってますわね」
茜は優雅に紅茶を口にしながら誠に目をやる。実際雛人形のように見える彼女に見られると誠はいつものようにただ頭を掻いて愛想笑いを浮かべるしかなかった。
「そしてその実験大隊の施設があると目されていた基地が収監394日目に蒸発した。このことは隣接していた核兵器の封印作業をしていたロシアの技術部隊の証言から裏がとれていますわ。そしてその98日後に胡州のお屋敷にお父様が帰ってこられた。このことも嵯峨家の監視をしていた胡州陸軍憲兵隊の記録に残っていますから」
それだけ言うと茜は再び紅茶に手を伸ばした。
「蒸発?」
誠の言葉にかなめと茜がうなづく。隣に座っているカウラもあいまいな笑みを浮かべるだけだった。
「現在でも空間のゆがみが見られるということで跡地は周囲半径30kmにわたって立ち入り禁止になっているそうだ」
カウラの一言に誠は唖然とする。
「それは……凄いですね」
「そうね、それが制御できる力ならと言う限定がつきますけど。そしてようやく先ほどのミイラに話が戻るわけです」
紅茶のカップを置く茜。彼女はラーナから携帯端末を受け取った。
「これを見ていただけます?」
そう言って茜は3Dモニターを展開した。そこには鎖につながれ、頭に袋をかけられた半裸の男が立っていた。良く見ればその男の後頭部から太いコードが延びている。さらに体中に電極のようなものが部屋の四方へと伸びていた。
「一瞬ですから、見逃さないように」
緊張感のある茜の声。しばらくぐったりと吊り下げられていた男が痙攣を起こす。そしてすぐに周囲が赤く染まり、次の瞬間には男が釣り下がっていた場所には細いなにかがぶら下がっていた。
「人工的に法術暴走を起こさせたか……」
カウラの一言に誠は動くことができなかった。目の前にあるのは作り物だと思いたかった。だが、目の前の画像では顔を見れないように加工された白衣の人影が中央の何かを触りながらお互い手元の計測機器をいじっている様子が映る。
「こんな実験が……」
「映像は吉田少佐の提供ですが、あの方も元傭兵ですから入手先は秘匿するということで……」
「馬鹿、これに映ってるのはオメエの親父じゃねえか」
そのかなめの言葉に誠は呆然とした。目の前の3D画像の中の白衣の人々が何かに握られているとでも言うようにもがき始める。腕は不自然に曲がり、首がポロリと落ち、胴がちぎれて鮮血が画面を覆う。
そしてそこには黒い煙を上げながら次第に立ち上がろうとする先ほどの男、その顔は嵯峨惟基以外の誰でもなかった。
「吉田からってことは証拠性はゼロってことか。でもまあそれを知った上でもこれをマスコミにでも見せたらそれなりに大変なことになりそうだな」
停止した画像に映る嵯峨の表情にかなめは苦笑いを浮かべてつぶやく。
「でもこれは人工的に暴走を引き起こしたわけで……」
「同じ条件が日常生活や任務中などに発生しないと言う保障はおありになるの?」
茜の言葉に誠は黙り込む。
「おい、なにやってんの?」
誠が振り向くとそこにいつの間にか嵯峨がいた。茜が厳しい視線をラーナに投げるが、きっちり鍵を閉めたと言うようにラーナが首を振る。そんなラーナの肩を叩くと嵯峨は歩み寄ってきた。
「なんだこれ?……吉田か。あいつからの情報は証拠に使えねえよ。司法関係者にとっては証拠性の無い情報は単なるデマだ、騙され……」
「でもお父様!」
目の前の自分のかつての姿に嵯峨は苦笑いを浮かべる。
「あの、法術暴走の……」
「気にすんなよ。禿るぞ。それと俺等は司法官吏だ。証拠にならねえものはすべてデマ。そう考えるようにしておくもんだ」
誠に取り合うつもりも無いというようにそれだけ言い残すと、嵯峨はいつの間にか開いていたドアに向かう。そこにはアイシャとシャムの心配そうな顔がある。
「ああ、そうだ。茜よ。その報告書のことで秀美さんが重要な話があるんだそうな。冷蔵庫が空いてるからそこを使え」
冷蔵庫。司法局実働部隊の隊舎で一番セキュリティーのしっかりしたコンピュータルーム。そこを使うと言うことはそれなりの機密性の求められる会合であることを示していた
「分かりましたわ。ラーナ、行きましょう」
そう言うと茜は目の前の画像を消して立ち上がる。
「ずいぶんと中途半端な話になっちまったな」
かなめの言葉に出口で立っていた嵯峨が目を向ける。
「要は気合だぜ。意識が勝ってれば暴走は起こらねえよ。俺の経験則だ、それなりに信用できるだろ?」
そう言ってそのまま嵯峨は隊長室へと向かう。
「ちょっと吉田さんが時間をくれってことだから今日の撮影はさっきので終わりよ」
入れ違いにアイシャが顔を出してきた。その顔を見てかなめは握りこぶしを固める。
「殴って良いか?カウラ、あいつ殴って良いか?」
アイシャをにらむかなめ。そして立ち上がろうとするかなめをカウラは目で制する。誠もなんだかいつもの日常に率い戻されたように苦笑いを浮かべる。
「捜査官!早くしろ」
アイシャを押しのけて顔を出した安城の言葉で茜が手を早める。
「あのう、西園寺さん……」
「分かったよ!とっとと寮に戻るぞ」
そう言ってかなめは後頭部に手を当てながら立ち上がってそのままアイシャ達のところへ向かう。
「隊長のお墨付きだ。さっきのことは気にするな」
自分の言葉が何の慰めにもなっていないことを分かりながらカウラは言葉の無い誠の肩を叩いた。
かなめはあごを引いて上目遣いに茜を見つめる。
「いつかは私《わたくし》から伝えろとは言われていますけど……」
「なるほどねえ、まあ一番ああなる可能性の高いのは自分だしな」
「それってどういうことですか?」
誠はようやく落ち着いてかなめの言葉に口を挟んだ。
「なあに、言ったまんまの意味だよ。暴走の起きる可能性は叔父貴が一番高い。そう言うこった」
そう言ってかなめは再びひざの上に腕を乗せて起き上がった。
「オメエから話せよ。実の親父のことだろ?」
そう言って上体を上げて茜を見た後はかなめは目をつぶってソファーに体を落ち着ける。その声を聞くと茜は神妙な表情で誠を見つめながら語りだした。
「お父様、いえムジャンタ・ラスコーは遼南王族なのはご存知ですわよね」
「そこから話すか?ぱっぱと言えよ」
天井を見上げてかなめが声を張り上げる。仕方が無いと言うような表情をして茜は再び口を開く。
「遼南王家にはこんな言い伝えがありますの。遼州の民の頂上に立つ人物、皇帝に即位する地位にある者が法術の素養に恵まれていれば国が乱れると。そのため当時の女帝、お父様の祖母に当たるラスバ帝はお父様の力を封印されたんです」
「まあ先日のスポーツ選手の法術発動が不公平になるとか言うことで公開された法術封印技術と言う奴だ。急にいくら地球の親切な人達がいるからってすぐに見付かる方法じゃねえのはわかるだろ?臨床心理学的方法と生理学的方法を駆使して法術の発生の元である大脳旧皮質に刺激を与えて機能を低下させると言うあれだ」
そう言って胸のポケットのタバコに手をやったかなめを茜は非難する調子で見つめる。
「そしてそのような先進技術ではありませんが、能力の発動そのものを抑えてしまう外科的技術が遼南王家には有るんですの」
「外科的技術?」
茜の言葉にカウラが怪訝な顔をする。
「そう、脳内に何本か針を打ち込む方法です」
「おい、大丈夫なのかよそんな民間療法……ってあの叔父貴がそんなもんで死ぬわけも無いか」
やけになったようなかなめの声。無視して茜は話を続ける。
「本来はそれにより成長過程で次第に法術の発動が阻害されて力を使えないようになるはずだったのですが……」
「普通の法術適正者だったらな」
ポツリとかなめがつぶやく。『普通』とは明らかに違う行動パターンの嵯峨を思い出し笑いそうになる誠だが、かなめと茜の顔には笑顔など無かった。
「ご存知ですよね、『エターナルチルドレン』の存在は?」
突然、茜の口から出た言葉、ランやシャムを指す言葉に誠は静かにうなづいた。
。
「お父様は意識がある限り体細胞が再生してしまう体質なんです」
その言葉に誠は一瞬思考が止まるのを感じた。
「再生?だったら法術の封印も……」
「不完全だったんですの。それで法術の多くは封印されましたが再生能力だけが突出して発動する体質になってしまったんです」
茜の言葉が暗いことが誠に不審に思えた。
「再生能力が早いってことは便利じゃないですか。怪我をしてもすぐに直るんですよね?」
そう言った誠の言葉にかなめと茜は目を合わせる。そして少し悲しげな面持ちで茜が話を続ける。
「その能力の制御ができればと言う前提がつきますわね、再生能力が役に立つ状況であるには」
そしてラーナが運んできた紅茶がテーブルに置かれる。先ほど拒否したはずだと言うのにかなめはラーナからカップを受け取る。
「取りあえず叔父貴はそう簡単に怪我するほど鈍くは無いけどな。けどあのボケは、前の戦争の遼南戦線で法術について非常に高い関心を持っている組織に投降をするという失態を犯した。結果、不完全で制御ができないまま法術能力の増幅がその組織で行われたってわけだ」
静かに語るかなめ。誠もラーナが置いたカップを静かに手に取った。
「アメリカ陸軍第423実験大隊」
うつむき加減のカウラが吐いた言葉。その意味を誠は理解できなかった。そんな誠を仕方ないと言う顔をしたかなめが眺めている。
「んなこと言ってもこいつに分かるわけねえだろ?アメリカさんの法術関連の実験部隊の名称だ。生きたまま法術適正者を使って人体実験……」
「推測でものを言うのは感心できることではなくてよ。そのような部隊の存在は地球の国連も否定しているのですから」
紅茶を一口飲んで落ち着いたというように茜が口を開く。
「ともかく言える事は遼南における捕虜虐待、民間人虐殺容疑で逮捕された嵯峨惟基憲兵少佐をネバダ砂漠の実験施設内に収監していたと言うことは記録で残ってますわね」
茜は優雅に紅茶を口にしながら誠に目をやる。実際雛人形のように見える彼女に見られると誠はいつものようにただ頭を掻いて愛想笑いを浮かべるしかなかった。
「そしてその実験大隊の施設があると目されていた基地が収監394日目に蒸発した。このことは隣接していた核兵器の封印作業をしていたロシアの技術部隊の証言から裏がとれていますわ。そしてその98日後に胡州のお屋敷にお父様が帰ってこられた。このことも嵯峨家の監視をしていた胡州陸軍憲兵隊の記録に残っていますから」
それだけ言うと茜は再び紅茶に手を伸ばした。
「蒸発?」
誠の言葉にかなめと茜がうなづく。隣に座っているカウラもあいまいな笑みを浮かべるだけだった。
「現在でも空間のゆがみが見られるということで跡地は周囲半径30kmにわたって立ち入り禁止になっているそうだ」
カウラの一言に誠は唖然とする。
「それは……凄いですね」
「そうね、それが制御できる力ならと言う限定がつきますけど。そしてようやく先ほどのミイラに話が戻るわけです」
紅茶のカップを置く茜。彼女はラーナから携帯端末を受け取った。
「これを見ていただけます?」
そう言って茜は3Dモニターを展開した。そこには鎖につながれ、頭に袋をかけられた半裸の男が立っていた。良く見ればその男の後頭部から太いコードが延びている。さらに体中に電極のようなものが部屋の四方へと伸びていた。
「一瞬ですから、見逃さないように」
緊張感のある茜の声。しばらくぐったりと吊り下げられていた男が痙攣を起こす。そしてすぐに周囲が赤く染まり、次の瞬間には男が釣り下がっていた場所には細いなにかがぶら下がっていた。
「人工的に法術暴走を起こさせたか……」
カウラの一言に誠は動くことができなかった。目の前にあるのは作り物だと思いたかった。だが、目の前の画像では顔を見れないように加工された白衣の人影が中央の何かを触りながらお互い手元の計測機器をいじっている様子が映る。
「こんな実験が……」
「映像は吉田少佐の提供ですが、あの方も元傭兵ですから入手先は秘匿するということで……」
「馬鹿、これに映ってるのはオメエの親父じゃねえか」
そのかなめの言葉に誠は呆然とした。目の前の3D画像の中の白衣の人々が何かに握られているとでも言うようにもがき始める。腕は不自然に曲がり、首がポロリと落ち、胴がちぎれて鮮血が画面を覆う。
そしてそこには黒い煙を上げながら次第に立ち上がろうとする先ほどの男、その顔は嵯峨惟基以外の誰でもなかった。
「吉田からってことは証拠性はゼロってことか。でもまあそれを知った上でもこれをマスコミにでも見せたらそれなりに大変なことになりそうだな」
停止した画像に映る嵯峨の表情にかなめは苦笑いを浮かべてつぶやく。
「でもこれは人工的に暴走を引き起こしたわけで……」
「同じ条件が日常生活や任務中などに発生しないと言う保障はおありになるの?」
茜の言葉に誠は黙り込む。
「おい、なにやってんの?」
誠が振り向くとそこにいつの間にか嵯峨がいた。茜が厳しい視線をラーナに投げるが、きっちり鍵を閉めたと言うようにラーナが首を振る。そんなラーナの肩を叩くと嵯峨は歩み寄ってきた。
「なんだこれ?……吉田か。あいつからの情報は証拠に使えねえよ。司法関係者にとっては証拠性の無い情報は単なるデマだ、騙され……」
「でもお父様!」
目の前の自分のかつての姿に嵯峨は苦笑いを浮かべる。
「あの、法術暴走の……」
「気にすんなよ。禿るぞ。それと俺等は司法官吏だ。証拠にならねえものはすべてデマ。そう考えるようにしておくもんだ」
誠に取り合うつもりも無いというようにそれだけ言い残すと、嵯峨はいつの間にか開いていたドアに向かう。そこにはアイシャとシャムの心配そうな顔がある。
「ああ、そうだ。茜よ。その報告書のことで秀美さんが重要な話があるんだそうな。冷蔵庫が空いてるからそこを使え」
冷蔵庫。司法局実働部隊の隊舎で一番セキュリティーのしっかりしたコンピュータルーム。そこを使うと言うことはそれなりの機密性の求められる会合であることを示していた
「分かりましたわ。ラーナ、行きましょう」
そう言うと茜は目の前の画像を消して立ち上がる。
「ずいぶんと中途半端な話になっちまったな」
かなめの言葉に出口で立っていた嵯峨が目を向ける。
「要は気合だぜ。意識が勝ってれば暴走は起こらねえよ。俺の経験則だ、それなりに信用できるだろ?」
そう言ってそのまま嵯峨は隊長室へと向かう。
「ちょっと吉田さんが時間をくれってことだから今日の撮影はさっきので終わりよ」
入れ違いにアイシャが顔を出してきた。その顔を見てかなめは握りこぶしを固める。
「殴って良いか?カウラ、あいつ殴って良いか?」
アイシャをにらむかなめ。そして立ち上がろうとするかなめをカウラは目で制する。誠もなんだかいつもの日常に率い戻されたように苦笑いを浮かべる。
「捜査官!早くしろ」
アイシャを押しのけて顔を出した安城の言葉で茜が手を早める。
「あのう、西園寺さん……」
「分かったよ!とっとと寮に戻るぞ」
そう言ってかなめは後頭部に手を当てながら立ち上がってそのままアイシャ達のところへ向かう。
「隊長のお墨付きだ。さっきのことは気にするな」
自分の言葉が何の慰めにもなっていないことを分かりながらカウラは言葉の無い誠の肩を叩いた。
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